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加賀恭一郎に学ぶ「患者の本音」を引き出す質問力 — 『新参者』の観察眼と傾聴術から考える医療面接の極意【リーフェ医学情報】


内容の要約

加賀恭一郎の捜査手法は、優秀な臨床医の医療面接そのもの。
『新参者』などの作品から、患者が隠す「本音」や「病の背景(バイオサイコソーシャル)」を引き出す観察力・傾聴術・雑談力を解説。
OSCEや実習で使えるコミュニケーション技法を伝授します。


「問診票通りに質問しているのに、なんだか患者さんが心を開いてくれない…」

「OSCEの医療面接で、共感のタイミングやオープンクエスチョンの使い方がぎこちなくなってしまう…」


そんな悩みを抱える医学生・看護学生の皆さん、毎日の勉強や実習、本当にお疲れ様です!

医療面接(問診)は、単に「病名」を当てるためのデータ収集ではありません。
患者さんが抱える不安や生活背景、そして「言葉にできない本音」に光を当てる、極めて人間的なプロセスです。
しかし、教科書通りのマニュアルに縛られると、どこか機械的な対話になってしまいがちですよね。


実は、この「相手の心を開き、隠された真実と背景を丁寧に解き明かす技法」の最高の手本が、ミステリー小説の中にあります。
それが、東野圭吾氏の大人気作品『加賀恭一郎シリーズ』(講談社)です。

特に舞台となった日本橋・人形町で巻き起こるドラマを描いた『新参者』において、加賀刑事が見せるアプローチは、まさに「究極の医療面接」。
詰問することなく、小さな雑談と鋭い観察眼で相手の警戒心を解き、その裏にある悲しみや優しさに寄り添っていく姿は、目指すべき医療者像と見事に重なります。


今回は、加賀恭一郎の捜査プロセスを医療面接の理論(ICEやバイオサイコソーシャルモデル)と結びつけながら、OSCEや臨床現場で明日から使える「質問力」と「傾聴術」を徹底的に解説します。


本記事のポイント


  • 加賀恭一郎の「雑談と観察」から学ぶ、OSCEでも活きる信頼関係(ラポール)形成のコツ

  • 「症状」ではなく「人」を診る!ICE(患者の解釈・不安・期待)を引き出す問診アプローチ

  • 詰問にならない寄り添い方:患者が隠したい「都合の悪い事実」や背景を優しく汲み取る技術


著者:原田
所属:株式会社リーフェホールディングス 経営企画室 部長
資格・経歴:
法学部卒|政治学研究科 修士・博士|政治学者、政治学教員、学生指導歴20年以上 
医学生に特化した個別指導塾「医学生道場」のファウンダー

自己紹介:
幼少期より病気がちで、こんにち無事に生活できているのは、医療とそれに関わる人たちのお陰です。将来の医療者として、社会に貢献できる医療系学生の方を積極的にサポートしていきます。


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はじめに


1. 医療面接の壁とOSCEのプレッシャー

医学生や看護学生にとって、最初の大きな関門となるのがOSCE(客観的臨床能力試験)の「医療面接」です。

模擬患者(SP)を前にして、「主訴」「現病歴」「既往歴」「家族歴」「生活歴」といった項目を制限時間内に漏れなく聴取しなければならない。
その焦りから、つい「いつから痛みますか?」「吐き気はありますか?」「お酒は飲みますか?」と、一問一答の“尋問”になってしまった経験はありませんか?

実際の臨床現場でも、患者さんは必ずしも「自分の症状や困りごと」を整理して話してくれるわけではありません。


  • 「先生にこんなこと言ったら怒られるかも…」

  • 「大したことないと思われたらどうしよう」

  • 「薬をちゃんと飲んでいないなんて言えない…」


こうした不安や恥ずかしさから、患者さんはしばしば「本当の困りごと」や「服薬の不徹底」「生活上の問題」を隠してしまいます。
データだけを追いかける問診では、病気の真相(根本的な原因)に辿り着くことはできません。


2. なぜ「加賀恭一郎」が最高のロールモデルなのか?

刑事と医療者。一見すると全く異なる職種に見えるかもしれません。
刑事は「事件の容疑者」を追い、医療者は「患者の病」を治す。

しかし、東野圭吾氏が描く刑事・加賀恭一郎のスタンスは、従来の「犯人を追い詰める刑事」とは一線を画します。
彼の代表作『新参者』の冒頭近くで、加賀はこのような趣旨の言葉を口にします。

「当事者にとって、事件によって傷ついた心は、事件が解決したからといってすぐに癒えるものではない。捜査によって救われる心もあるはずだ」

『新参者』(2009)


加賀恭一郎の目的は、単に「アリバイを崩して犯人を逮捕すること」ではありません。
「なぜその人がその嘘をついたのか」「その行動の裏にどんな想いや人間関係があったのか」という『人の心の解明』にあります。

これは、現代医療において極めて重要視されている「バイオサイコソーシャルモデル(生物・心理・社会的モデル)」および「患者中心の医療面接」の思想そのものです。


加賀刑事は、いきなり事件の核心を尋ねたりしません。
形町の街を歩き、煎餅屋の焼き加減、人形焼きの数、時計のズレといった「一見どうでもいいこと」から対話を始めます。
そして、相手が自分で気づいていない、あるいは隠そうとしている「本音」を、傷つけることなくそっと引き出していくのです。


この加賀恭一郎のアプローチこそ、私たちが医療面接で患者さんと向き合う際に最も必要なスキルなのです。


第1章:『新参者』に見るラポール形成 — 雑談と小さな観察が心を開く


医療面接において、技術的な質問テクニック以上に大切なのが「ラポール(信頼関係)の形成」です。
どんなに素晴らしい質問を用意していても、患者さんが「この人には安心して話せる」と感じていなければ、深い本音は出てきません。


1. 加賀恭一郎のアイスブレイクと環境観察

『新参者』の第一章「煎餅屋の娘」や第二章「料亭の小僧」において、加賀恭一郎は事件の聞き込みで訪れた際、
開口一番に「犯人は誰ですか?」「死亡推定時刻のアリバイは?」などとは聞きません。

彼が最初に行うのは、相手の様子や周囲の環境へのさりげない観察と、自然な雑談(アイスブレイク)です。


  • 煎餅屋の店頭で、煎餅が焼き上がる香ばしい匂いに触れる

  • 相手の表情のわずかな翳りや、手元の落ち着かない動きを目ざとく見抜く

  • 相手が大切にしている趣味や仕事、家族の話題から会話をスタートさせる


医療現場に置き換えてみましょう。

診察室に入ってきた患者さんに対して、パソコンの画面(カルテ)を見つめたまま「今日はどうされましたか?」と尋ねていないでしょうか。

加賀恭一郎風のラポール形成アプローチは、患者さんが診察室のドアを開けた瞬間から始まっています。


  • 非言語情報の観察(NVC):

    • 歩き方(足を引きずっていないか、腰をかばっているか)

    • 表情と視線(不安そうに目を泳がせているか、疲れ果てているか)

    • 服装や持ち物(季節に合っているか、丁寧に整えられているか)

  • 自然な第一声とアイスブレイク:

    • 「〜さん、どうぞお掛けください。今日は外、かなり雨が強かったでしょう。濡れませんでしたか?」

    • 「少し顔色が優れないようですが、ここまで歩いてくるのは大変でしたね」


このように、「あなたという存在そのものを気遣い、観察しています」というメッセージを言葉と姿勢で伝えることで、患者さんの緊張の鎧(よろい)がふっと緩みます。


2. 「問診票」に縛られないオープンクエスチョンの入り口

OSCEでは「オープンクエスチョン(開かれた質問)」から始めることが推奨されますが、「具体的にどう始めればいいかわからない」と悩む学生は多いです。

加賀恭一郎の真骨頂は、「相手が自由に語れる広い問いかけ」からスタートし、相手の反応を見ながら徐々に焦点を絞っていく点にあります。

医療面接でもいきなり「胸の痛みがいつから始まって、どんな性質の痛みですか?」と絞り込むのではなく、

「今日はどのようなことでお困りですか?  差し支えのないところから教えていただけますか」

というように、「相手のペースで話し始めてよい」という許可を与えるオープンクエスチョンが効果的です。
患者さんが自分の言葉で話し始めることで、単なる医学的症状だけでなく、その症状が生活にどのような影響を与えているかという「ストーリー(物語)」が見えてくるのです。


第2章:患者のICE(解釈・不安・期待)に届く問診アプローチ 


現代の医療面接において欠かせない枠組みが「ICE(アイス)」です。

  • I(Ideas:解釈モデル): 患者自身が自分の病気や症状についてどう考えているか

  • C(Concerns:不安・懸念): 患者が何に対して最も不安や恐怖を感じているか

  • E(Expectations:期待): 患者が今日の受診や治療に何を望んでいるか


医師や看護師が「単なる風邪だろう」「よくある腰痛だ」と医学的な判断(Diagnosis)だけを下しても、患者さんのICEにアプローチできていなければ、
患者さんは
「私の話をちゃんと聞いてくれなかった」
「全然不安が解消しなかった」
と不満を抱いて帰ることになります。


1. 加賀恭一郎は「行動の裏にある解釈(Ideas)」を探る

『新参者』の第三章「瀬戸物屋の嫁」では、姑と嫁の不仲が囁かれる瀬戸物屋で、誰がハサミを購入したのかという小さな疑問が浮上します。
普通の刑事なら「誰がいつ買ったか」という事実(Fact)だけで満足するかもしれません。

しかし加賀恭一郎は、「なぜわざわざ店を分けてハサミを買ったのか」「その行動に至った二人の心情(Ideas)は何か」を突き詰めます。
結果として、そこには嫁姑がお互いを不器用に思いやる温かい真実が隠されていました。


これを医療面にアプライしてみましょう。

例えば、「胸の違和感」を訴えて来院した50代の男性患者さん。


  • 医学的アプローチ(事実の確認):

「痛みの部位は? 放散痛はありますか? 心電図をとります」


  • 加賀式・ICE引き出しアプローチ:

「胸のあたりがスッキリしないのはおつらいですね。ご自身では、この症状について『もしかしたらこんな病気ではないか』と思い当たることや、ご心配されていることはありますか?」

こう尋ねることで、患者さんから「実は先月、同い年の友人が心筋梗塞で突然亡くなりまして…もしかして自分も同じじゃないかと怖くて」という【I: 解釈】【C: 不安】が引き出せます。


この背景(友人の突然死)を知ることで、医療者は単に検査結果の正常・異常を伝えるだけでなく、「心電図も血液検査も異常ありませんよ。ご友人のことがあってとてもご不安でしたね」と、患者さんの心に真に届く言葉掛けができるようになります。


2. 「何に一番困っているか(Concerns)」を拾い上げる

加賀恭一郎は、どんなに複雑に入り組んだ事件であっても「いま、誰が一番困っていて、何を助けるべきか」を見失いません。

OSCEの評価シートにも「患者の懸念(Concerns)を把握しているか」という項目があります。
しかし、患者さんは「何が不安か」を自分から論理的に語れるとは限りません。


「仕事は休めない」

「小さな子どもがいる」

「入院費が払えるか心配」


患者さんがポロッと漏らす「明日からの生活への不安」こそが、Concernsの核心です。
加賀恭一郎のように、相手の発言の「語尾のトーン」や「言い淀み」を見逃さず、「何か気になることがおありですか?」と優しくすくい上げる姿勢を持ちましょう。


第3章:言葉の裏にある「言えない本音」を汲み取る洞察力


臨床現場において、患者さんは時として「嘘」をつきます。
あるいは「本当のことを言わない」選択をします。


  • 「お酒は付き合い程度で、たまにしか飲みません」(実際は毎日大量飲酒)

  • 「処方された薬は毎日ちゃんと飲んでいます」(実際は副作用が嫌で半分以上飲み残している)

  • 「痛みの原因に心当たりはありません」(実際は家族との喧嘩で転倒した)


医療者がこれを「嘘をつかれた!」「アドヒアランス(治療への積極的参加)が悪い不良患者だ!」と責めてしまっては、良好な医療関係は崩壊します。


ここで思い出すべきは、加賀恭一郎の刑事としての哲学です。


1. 『赤い指』に見る「嘘」の背景と沈黙の理由

加賀恭一郎シリーズの傑作『赤い指』では、ある家庭内で起きた悲しい事件と、それを隠蔽しようとする家族の凄惨な「嘘」が描かれます。
加賀恭一郎は、容疑者が重ねる愚かな嘘に対して、怒りをぶつけたり詰問したりはしません。

彼は「なぜこの人は、こんな無理のある嘘をつき続けなければならないのか」「その嘘の影で、誰を守ろうとし、何を恐れているのか」をじっと観察し続けます。


医療の現場でも全く同じことが言えます。
患者さんが嘘をつくとき、そこには必ず「嘘をつかざるを得ない理由(恥ずかしさ、恐怖、家族への気遣い、プライド)」が存在します。


  • ダメな問診例(詰問型):

「血圧が全然下がっていませんね。薬、本当に毎日飲んでいますか? 正直に言わないと困りますよ」

  • 加賀式・寄り添い型問診例:

「お薬を毎日決まった時間に飲むのって、実はすごく大変ですよね。忙しかったり、飲むと体調が変わったりして、飲みづらいことってありませんでしたか?」


「飲んでいないこと」を責めるのではなく、「飲みづらい環境があること」に共感し、患者さんが正直に打ち明けられる「逃げ道(安心感)」を作ってあげること。
これが、患者さんの隠された本音を引き出す高レベルなコミュニケーションテクニックです。


2. 「言わないこと」も重要なメッセージ(沈黙の意味)

加賀恭一郎は、相手が雄弁に語る言葉以上に「相手が口をつぐんだ瞬間」を逃しません。

医療面接においても、こちらが問いかけた後に患者さんがふっと黙り込んだり、視線を落としたりする場面があります。
OSCEで焦っている学生は、この「沈黙」に耐えかねて、すぐに次の質問を畳みかけてしまいがちです。

しかし、沈黙は患者さんの頭の中で「どう話せばいいか」「自分の気持ちをどう整理するか」という激しい葛藤が起きている証拠です。


加賀恭一郎のように、あえて数秒間の沈黙を恐れずに待ち、静かに見守る。そして、

「急がなくて大丈夫ですよ。話せる範囲で結構ですからね」

と声をかけることで、患者さんは初めて重い口を開き、「実は…」と真の悩み(精神的ストレスや家庭問題など)を打ち明けてくれるのです。


第4章:OSCE・臨床実習で明日から使える「加賀式」コミュニケーションテクニック


ここからは、加賀恭一郎のスタイルを具体的な医療面接のスキルとして体系化し、OSCEや日々の臨床実習ですぐに実践できる4つのステップとして解説します。

【加賀式・医療面接の4ステップ】
[Step 1: 観察とラポール]
相手の全身症状・非言語情報(NVC)を観察し、安心感のある挨拶で迎える

[Step 2: オープンから始める]
患者のストーリー(病歴・生活)を自由に語らせ、ICE(解釈・不安・期待)を探る

[Step 3: 共感とリフレクション]
オウム返し+感情の言い換えで、「あなたの言葉を聞いている」ことを示す

[Step 4: 焦点を絞るクローズド]
必要な医学的データを絞り込みつつ、バイオサイコソーシャルな解決策へ導く


1.「オープン→クローズド」の滑らかなスイッチング

OSCEの評価項目にある「オープンクエスチョンからクローズドクエスチョンヘの段階的アプローチ」。
これがうまくできない人は、加賀恭一郎の会話パターンを模倣してみましょう。


  • オープン(広げる):

「お腹の具合がお悪いとのことですが、どんな感じか詳しく教えていただけますか?」

(患者:ここ数日、キリキリ痛んで、なんだか食欲もなくて…仕事のストレスもあるかもしれないですが)


  • 共感とリフレクション(受け止める):

「仕事のストレスも重なって、お腹がキリキリ痛むのは本当におつらいですね」


  • クローズド(絞り込む):

「では少し詳しく確認させてくださいね。その痛みは、ご飯を食べた後に強くなりますか? それとも空腹時ですか?」


このように、「受け止め」を挟むことで、オープンからクローズドへの移行が非常に自然になり、患者さんに「取り調べられている」という感覚を与えません。


2.「オウム返し+言い換え(リフレクション)」で共感を可視化する

OSCEでよくある不自然な共感として、
「それは大変ですね」「お気持ちお察しします」
をロボットのように繰り返すケースがあります。

これは逆効果です。


加賀恭一郎は、相手の使ったキーワードを自然に反復し、自分の言葉で言い換えながら会話を深めます。


  • 患者:「夜、息苦しくて何度も目が覚めてしまって、もうどうしたらいいか…」

  • 医療者(オウム返し+リフレクション):「夜間に息苦しさで目が覚めてしまうのですね。ぐっすり眠れない日が続くと、お体も心も休まらず、本当にお不安でしたね」


患者さんの「事実(息苦しさ)」と「感情(不安・不眠のつらさ)」の両方を言葉にして返すことで、「この先生・看護師さんは私の苦しみを正しく理解してくれている」という深い安心感が生まれます。


3. 姿勢・目線・間(マ)の使い方(非言語コミュニケーション)

加賀恭一郎を演じた阿部寛さんのドラマ版(『新参者』)を思い出してみてください。
加賀刑事は決して相手を上から見下ろしたり、腕組みをして話を聞いたりしません。

相手の目線の高さに腰を落とし、少し首をかしげながら、相手の発言を一つひとつ噛みしめるように深く頷きます。


  • 視線の配慮: カルテ(PC)を見る時間と、患者の目を見る時間の比率を「3 : 7」に保つ。重要な訴えを聞くときは、完全にPCから手を離して身体を患者に向ける(ソーラーの法則:SOLER)。

  • 頷き(うなずき)と相槌: 単なる作業的な頷きではなく、話の感情の波に合わせて強弱をつける。

  • 適切な距離感: 相手のパーソナルスペースを脅かさない、適切な車椅子・椅子の配置(90度の角度で座る L字型配置がベスト)。


4.バイオサイコソーシャル(生物・心理・社会的)モデルの実践

病気(Disease)だけでなく、病人(Illness)を診る。

加賀恭一郎が事件に関わるすべての人々の「家庭環境」「職場の人間関係」「経済的事情」まで考慮に入れて真相に迫るように、医療者も患者さんのバックグラウンドに思いを馳せる必要があります。


評価軸医療面接での質問例加賀恭一郎的アプローチBio(生物学的側面)

「痛みはいつからですか? 熱はありますか?」事件の「日時・場所・状況」という客観的事実の確認 Psycho(心理的側面)

「この症状について、どんなお気持ちですか?」「なぜその時、嘘をついたのか」という心理の深掘り Social(社会的側面)

「ご家族のサポートや、お仕事の影響はどうですか?」人間関係、家庭の事情、街のコミュニティの背景観察


OSCEの医療面接の最後には、必ず「生活歴(職業、同居家族、飲酒・喫煙、住環境)」を聞く項目があります。
これを「チェックリストを埋める作業」として消化するのではなく、「患者さんが退院した後にどんな生活に戻っていくのか」をイメージしながら尋ねることが、加賀式アプローチの真髄です。


結論&むすびに代えて


1. 優秀な医療者は「優れた物語の読み手(探偵)」である

医学の父と呼ばれるウィリアム・オスラー博士は、かつてこのような名言を残しました。

「患者の話に耳を傾けなさい。彼らはあなたに診断を伝えているのだから」

医療面接とは、単にバイタルサインや検査データという「記号」を集める作業ではありません。
患者さんがこれまでの人生で紡いできた「病の物語(Narrative)」を丁寧に聞き取り、患者さんと共に新しい治療のストーリーを構築していくプロセスです。

東野圭吾氏が描く加賀恭一郎は、まさに登場人物たちの複雑に絡み合った物語を解きほぐす「極上の探偵」であり、同時に「傷ついた心を救うヒーロー」でした。

臨床医や看護師、薬剤師などの医療者もまた、患者さんが抱える「病気というミステリー」を解き明かし、その背景にある「不安や生きづらさ」にそっと寄り添う存在であるべきではないでしょうか。


2. 実習や試験に臨む医学生・看護学生の皆さんへ

OSCEや臨床実習は、評価される立場にあるため、どうしても「失敗できない」「完璧に質問項目を網羅しなければ」と強いストレスを感じるものです。

しかし、もし面接中に会話が詰まったり、予定していた質問の順番が狂ってしまったりしたときは、どうか『新参者』の加賀恭一郎の姿を思い出してください。

完璧なマニュアルどおりのセリフよりも、目の前の患者さん(模擬患者さん)の表情を見つめ、その一言に耳を傾け、「この人は何に一番困っているんだろう?」と真摯に想いを巡らせる姿勢。

それこそが、OSCEの評価者(指導医)の心を打ち、そして将来、患者さんから「あなたに会えてよかった」と感謝される医療者になるための原動力です。

教科書を開くのに疲れた夜は、ぜひ東野圭吾氏の『新参者』を手に取ってみてください。
加賀恭一郎が人形町の街で見せる温かい観察眼と問診術が、きっとあなたのこれからの医療面接を、より味わい深く、人間味あふれるものに変えてくれるはずです。


応援しています!


FAQ(よくある質問と回答)


Q1: OSCEの緊張で頭が真っ白になり、オープンクエスチョンがうまく言葉に出てきません。どう練習すればいいですか?

A1: 「万能フレーズ」を1つだけ体で覚えておき、あとは相手の言葉を待つ練習をしましょう。

緊張しているときに複雑な質問を作ろうとするとフリーズします。
「今日はどのような症状でお困りでしたか?  差し支えないところから教えてください」という決まり文句(導入フレーズ)だけを、口をついて出るまで声に出して練習しておきましょう。
加賀恭一郎のように「相手が話し始めるのをゆっくり待つ(数秒の沈黙を恐れない)」心構えを持つと、自然と次の言葉が出てくるようになります。


Q2: 患者さんが雑談や昔話ばかりしてしまい、問診が制限時間内に終わりません。加賀刑事のように上手に軌道修正するにはどうすればいいですか?

A2: 否定せずに一度「受け止め(共感)」を入れてから、共通のキーワードを使って軌道修正(サマライズ)します。

「お話の途中ですが時間がないので…」と遮るのはNGです。

「お孫さんのお世話で毎日お忙しくされているのですね(共感)。お孫さんを抱っこするときに、先ほどおっしゃっていた『腰の痛み』が強くなるのでしょうか?(軌道修正)」というように、患者さんの話したキーワード(お孫さん)と医学的症状(腰痛)を繋ぎ合わせながら、自然に主訴へ戻すテクニックが効果的です。


Q3: 患者さんが機嫌が悪そうだったり、話したくない雰囲気を出している時、どこまで踏み込んで聞いて良いでしょうか?

A3: 無理に踏み込まず、「話したくないという気持ち」そのものを尊重し、安心感を与えましょう。

加賀恭一郎も、相手が強く拒絶している時は無理に追及せず、「聞き方やタイミング」を変えます。

「今はお話しするのがおつらい状況ですね。無理にお話しにならなくても大丈夫ですよ。ただ、ご気分の悪いところや痛みが強くなったときは、いつでも教えてくださいね」と声をかけ、「いつでもあなたの味方です」という態度(アヴェイラビリティ)を示すことが、結果的に患者さんの心を開く近道になります。


参考文献の一覧・出典リスト


  1. 東野圭吾(2009)『新参者』講談社

(※日本橋・人形町を舞台に、加賀恭一郎が人々の嘘と本音を解き明かしていくミステリーの傑作。医療面接における傾聴・観察の描写として参照)

  1. 東野圭吾(2006)『赤い指』講談社

(※家族の葛藤と嘘の心理を描いた作品。相手の嘘の裏にある背景を洞察するプロセスの参考として参照)

  1. 日本医学教育学会(2022)『OSCE(客観的臨床能力試験)実施と評価のためのガイドライン』

(※医療面接における基本的な評価項目、オープンクエスチョン、ICE、ラポール形成等の基準として参照)

日野原重明(2002)『医療面接の理論と実際』医学書院

(※患者中心の医療面接、バイオサイコソーシャルモデルの基礎理論として参照)

  1. Kurzt, A., Silverman, J., & Draper, J. (2016) Teaching and Learning Communication Skills in Medicine (3rd ed.), CRC Press.

(※カルガリー・ケンブリッジ観察ガイドラインに基づく医療コミュニケーション技法の参照)



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