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ありがとうが降ってくる #シロクマ文芸部

ありがとうが降ってきます。月子さんは雨を眺めながら微笑んでいます。

「夜な夜な相談室」はオンライン相談室です。料金はメール一通に対して100円、どんなに短くてもどんなに長くても100円です。何度もやりとりする人もいれば、一度だけ利用する人もいます。ひと月1000円という定額料金もあります。運営しているのは、星野小夜子さんです。お気づきだと思いますが、この料金ですからほぼボランティアです。

「無料だと利用しにくい人もいるから」

という小夜子さんの配慮で料金は設けられました。小夜子さん一人では対応するのに限界がありますから、収入はマカフィー代程度です。それはさておき、あんなことやこんなことがあって、月子さんは三ヶ月ほど前から小夜子さんのお手伝いをすることになりました。

最初に担当したのは、21歳の女性です。幼い頃から母の虐待を受けていて、とても傷ついていました。相談メールには何度も何度も「ごめんなさい」と書いてあります。生きていること、お金がないこと、一生懸命やっているのにうまくいかないこと、どんなことも自分が悪いからだと思っているようです。ごめんなさい、と繰り返すたびに、彼女は自分の心を削り取って、新しい自分になれる、そんな気持ちが見え隠れしていました。月子さんはとても悲しくなりました。今一番輝いている時間を「ごめんなさい」で埋めようとしている彼女の悲しみが、しんしんと月子さんを取り巻いていきました。

一日に何度もやりとりをしました。時には10通以上のメールが往復しました。月子さんは「ごめんなさい」を受け取り続けました。「謝らなくっていいんだよ」とは書かずに、「大丈夫だよ」と何度も送りました。

そして二週間が経ったころ、月子さんもつい頬をつねってしまうくらい、とても素晴らしいことが起こりました。現実の世界で彼女を取り巻いている人たちが次々に手を差し伸べ始め、あっという間に奇跡のように、彼女の夢が叶っていったのです。狐につままれているのかな、とか、サクラだったのかな、なんて思うこともあったほどです。そして、相談は終了しました。

はずでしたが、つい先週のことです。突然また相談メールが届いたのです。月子さんは何があったのだろうとドキドキしながら恐る恐るメールを開きました。

 月子さん、お久しぶりです。
私は毎日いろんな人にありがとうっていいながら
暮らしています。
ありがとうっていうたびに、
心が温かくなります。
ありがとうっていいですね。
気づいたんです。
ごめんなさいの代わりに
ありがとうって言えば良かったんだって。
月子さんにもたくさんのありがとうを送ります。
雨が降ったら、それは私からのありがとうです。
風が吹いても、それは私からのありがとうです。

月子さんはこのメッセージのことを一生忘れないだろうと思いました。

同時に、月子さんは知っていました。彼女はこれからも苦しみを抱えていくだろうと。それでもきっと気づくはずです。お母さんの力ではなくもう自分の力で立てるのだと。

そしてほんの短い期間、触れ合った月子さんのことを、きっといつか彼女は忘れてしまうだろうと。それでいいのです。忘れてしまっても、雨が降ったり風が吹くとき月子さんはありがとうを受け取り続けます。それでいいのです。忘れてくれたら、それで。

🎄

小牧部長、今週もありがとうございました。
うっかりしそうになりました。
良かった、思い出せて。