新規事業のつくり方⑧-2|(最終回)事業立ち上げ後のカベ<後編>
後編では、引き続き、新規事業に立ちはだかる「リソース不足」と「販促不全」といった2つのカベの対処方法を解説してまいります。
【5】リソース不足への対応策
新規事業で「リソース不足」のカベにぶち当たったときは、まず気合いや根性で乗り切ろうとしないことが大切です。
多くの場合、問題は努力不足ではなく、売上に直結しない業務が多すぎることと、事業検証の順番がずれていることにあります。
したがって対処の基本は、足りないリソースを無理に増やそうとすることではなく、既存リソースの使い方を変えることです。
■続けるための対策
対策① 業務の可視化と分解
現場では「忙しい」という言葉で片付けられがちですが、その中身を分解すると、売上に直結しない業務が大量に含まれています。
ここを整理せずに単に人を増やすと、非効率が増幅するだけです。
なので、まずやるべきことは、現状業務を売上や教育に直結するものだけに絞ることです。
実務としては、まず全タスクを書き出し、[A]…売上直結、[B]…間接貢献、[C]…不要の3つに分類します。
[C]は即削除です。次に[B]は簡略化または外注とし、[A]にすべてのリソースを集中させます。この作業だけで体感的に20〜40%程度の余力が生まれます。
対策② 「不足」を曖昧にしない
リソース不足といっても、不足しているものが資金なのか、人手なのか、時間なのか、ノウハウなのか、によって打ち手は変わります。
資金なら…固定費化している支出を止め、変動費化できるものは外部委託やスポット活用に切り替えます。
人手不なら…兼務メンバーを増やすより、タスクを減らす方が先です。
時間なら…定例会議や承認フローを短くし、責任者が即断できる状態を作る必要があります。
専門知識なら…社内で抱え込まず、短期間だけ外部の専門家を入れて判断精度を上げる方が安く済むことも多いです。
新規事業の初期段階では「全部を自前でやらない」ことが重要です。システム、デザイン、法務、マーケティングなどを最初からすべて内製しようとすると、中小企業はほぼ確実に詰まります。
市場競争の優位につながらない部分には極力リソースを使わず、顧客理解と提供価値の検証に集中するという考え方です。
対策③ KPIの見直し
忙しいのに成果が出ないときは、活動量ばかり見て検証の視点が測れていないことが多いです。
本来、新規事業でのKPIは売上を構成する係数であるべきです。
たとえば新規事業の売上が、「A.アプローチ数」×「B.問い合わせ率」×「C.商談率」×「D.成約率」×「E.単価」というロジックで構成されているとしたら、A.〜E.のどの係数に注力し、どの程度の数値目標を設定し、そのために具体的に何をするのかといった、事業成立に直結する指標だけに絞り込んで管理して下さい。
見る数字が増えるほど、現場は迷いやすくなります。
対策④ 意思決定ルールの簡略化
意思決定のルールを簡単にしましょう。
新規事業では、本業と同基準で稟議や合意形成をしていては遅すぎます。
一定金額以下の支出、簡易な仕様変更、営業提案の修正などは、担当責任者がその場で決められるようにするべきです。
リソース不足のときに最も無駄なのは、少ない人員が「待つこと」に時間を使うことです。
■やめるための判断
事新規事業は続けようと思えばいくらでも続けられるため、「苦しいけれどまだ可能性がある」という状態が最も危険です。
判断① 採算の見込みが立たない
小さく回した状態でも粗利構造が一向に改善せず、「今は赤字でも将来黒字化する」という見立てに、具体的な改善シナリオが伴っていない場合は危険です。
さらなる施策として、値上げできるのか、工数を下げられるのか、再現性ある集客ができるのか、などの問いに答えられないなら撤退を検討すべきです。
判断② 本業への影響
たとえば、キャッシュ流出が本業の運転資金を圧迫している、キーパーソンの負荷が高すぎて本業にも支障が出ている、経営判断が先送りされ続けているなど、本業にじわじわ悪影響が出始めているなら撤退を検討すべきです。
新規事業は未来への投資ですが、本業を壊してまで守るものではありません。
結論として、リソース不足の壁にぶつかったときは、頑張り方を強めるのではなく、戦い方を変えるべきです。
新規事業では「何をやるか」以上に「何をやらないか」が成否を分けます。
【6】販促不全への対応策
この壁に当たったときは、「商品が悪い」と即断せず、まず売り方のどこが詰まっているかを分解することが先です。販促はセンスでも流行のツールはなく設計です。
■続けるための対策
対策① 売れない工程を数値で切り分ける
まず最初に行うべきは、売れない原因を感覚で語らず、工程ごとに分解して把握することです。
広告を出しているなら、表示数/クリック率/LP到達数/問い合わせ率/商談化率/成約率/継続率までを一覧化しどこで課題があるかを見ます。
たとえば、クリックはされるのに問い合わせが少ないなら、広告の訴求とLP内容がずれている可能性が高いです。
問い合わせはあるのに成約しないなら、ターゲットの質や提案内容、価格説明、営業対応に問題があると考えられます。
成約後に継続しないなら、提供価値や導入後支援の見直しが必要です。
重要なのは、「全部悪い」と捉えないことです。数値を工程別に見える化し、最も詰まっている1か所を特定して、そこから改善をはじめてください。
対策② 反応している顧客に絞って狙い直す
新規事業で成果が出ない最大の理由の一つは、「できるだけ多くの人に売ろう」として対象を広げすぎることです。
まず行うべきは、すでに問い合わせした顧客、商談化した顧客、成約した顧客を並べてその共通点を探すことです。
業種、企業規模、担当者の役職、抱えていた課題、問い合わせ時の言葉、競合ではなく自社に反応した理由を確認し、「今いちばん刺さっている顧客像」を定義します。
そして、この作業は理想像を机上で作るのではなく、実際に反応した顧客の事実を基に絞ることが重要です。
対象を絞ると市場が小さく見えて不安になりますが、新規事業の初期段階は広く浅くより、狭く深くの方が勝ち筋が見えます。
まずは最も困りごとが強く、導入理由が明確な層に集中してください。
対策③ 顧客の検討段階ごとに訴求を変える
販促が機能しないときは、商品が悪いのではなく、顧客の検討段階に合わないメッセージを出している場合が多くあります。
一般的に、顧客は最初から導入を決めるわけではなく、1.認知 →2.課題認識→3.情報収集→4.比較検討→5.導入判断という順に進みます。
そしてその段階毎に最適な打ち手が異なります。
1. 認知→ターゲットに存在を知ってもらう段階。「誰のどんな課題に関係するか」を一目で分かる形で発信し、興味の入口を作る。
2. 課題認識→顧客に「自分ごと化」させる段階。よくある失敗例や放置リスクを提示し、「自分にも起きている問題だ」と気づかせるコンテンツを出す。
3. 情報収集→解決策を探し始めた顧客に対し、選び方・種類・比較ポイントを整理して提供し、検討候補の一つとして認識させる。
4. 比較検討→他社と並べて検討される段階。事例、実績、差別化ポイント、導入効果を具体的に示し、選ぶ理由を明確にする。
5. 導入判断→最終意思決定の段階。価格、導入手順、サポート体制、リスク対策を提示し、不安を解消して意思決定を後押しする。
広告、LP、営業資料、FAQ、セミナー内容まで含めて、各段階に合う訴求へ整理してください。
売り込みを強めるより、顧客の頭の中の段階に合わせる方が成果は上がります。
対策④ 刺さる訴求を検証して当たり軸を見つける
「何を言えば響くのか」が曖昧なまま販促を続けると、改善は進みません。そこで必要なのが、訴求軸を絞った検証です。
たとえば「コスト削減」「売上向上」「工数削減」「担当者負担の軽減」「導入の速さ」「安心感」「他社事例」といった候補を並べ、1回の検証で1テーマだけを試します。
このとき、広告文だけ変えてLPや商談トークが別内容だと、何が効いたか分からなくなります。
広告の見出し、LPの冒頭、営業の最初の説明を同じ訴求軸でそろえ、反応率や商談化率を比較してください。
重要なのは、一度に多くを変えないことです。訴求、対象、オファー、価格を同時に変えると原因が追えません。
小さく単純に試し、数字と顧客の反応を見ながら、勝てるメッセージを絞り込んでいくことが実務の基本です。
対策⑤ 問い合わせ後の営業導線を見直す
問い合わせがあるのに売れない場合、問題は販促ではなく営業導線にあることが少なくありません。まず確認すべきは問い合わせから初回接触までの速度です。
特にBtoBでは、初動が遅いだけで失注率が上がります。
次に、商談で顧客課題を十分に深掘りできているかを確認します。商品説明ばかりで終わり、相手の現状、困りごと、導入判断条件、比較対象、社内稟議の流れを聞けていないと、提案は刺さりません。
また、提案書、比較表、導入スケジュール、費用対効果、想定リスクへの回答資料が不足していると検討段階で止まります。
さらに、失注した案件について理由を必ず記録してください。「価格が高い」だけで終わらせず、「誰と比較されたのか」「何が判断材料だったのか」まで取ることが重要です。
販促改善と営業改善は必ずセットで進めてください。
対策⑥ 小さい販路に集中し再現性を作ってから広げる
販促不全の状態で大きな広告投資を増やすのは危険です。
新規事業の初期に優先すべきは、拡大性よりも小さくても勝てる販路を見つけることです。
候補としては、既存顧客へのクロスセル、既存取引先からの紹介、業界団体やコミュニティ、セミナー、展示会、代理店連携、限定業種へのピンポイント営業などがあります。
これらの販路で成果が出るかを見ながら、どの顧客に、どの訴求で、どう接点を作ると受注しやすいかを型にしてください。
重要なのは、広く試すことではなく、勝ち筋が見える販路に資源を寄せることです。
1件でも2件でも再現して取れる状態になれば、その後に広告や紹介制度、営業人員の追加といった拡大策を検討しやすくなります。
最初から大勝ちを狙うのではなく、小勝ちの再現を作ることが先です。
対策⑦ 定性情報を集めて顧客の言葉に置き換える
数値だけでは原因が見えないときは、顧客の生の声を集めることが必要です。
特に確認すべきは、「なぜ問い合わせたのか」「何を期待していたのか」「どこで不安になったのか」「他社と比べて何が足りなかったか」「なぜ今すぐ導入しなかったのか」の5点です。
対象は、成約顧客だけでなく、失注顧客、検討停止顧客、問い合わせのみで終わった顧客まで含めてください。
ここで得た言葉は、販促改善の材料として非常に強力です。企業側が使う抽象的な表現ではなく、顧客が実際に口にした悩みや期待を、そのまま広告、LP、営業資料、FAQに反映させることで反応は大きく変わります。
■やめるための判断
撤退基準は感情ではなく、検証可能な条件で先に決めるべきです。ポイントは「売れないから撤退」ではなく、「必要な検証をやっても仮説が前進しないから撤退」と定義することです。
基準① 顧客課題が弱いと判明した場合
以下なら撤退を強く検討します。
・課題はあるが緊急性が低い
・今のやり方で十分だと顧客が感じている
・お金を払ってでも解決したい痛みが弱い
・ヒアリングしても欲しい理由より、いらない理由が一貫して強い
これの反応は、販促の問題ではなく市場課題の強度不足が問題であり、売り方の改善では限界があります。
基準② ターゲットを絞っても成約再現性が出ない場合
たとえば、具体的ターゲットを絞った、訴求も変えた、営業導線も改善したのに成約率がほぼ改善しないとしたら、プロモーションではなく提供価値か市場適合性に問題がある可能性が高いです。
一定期間内に、有望セグメントを複数検証しても勝ち筋が見えなかったり、成約率改善がほぼ起きなかったり、顧客獲得単価(CAC)が粗利回収可能ラインに収まらないなら、継続投資は危険です。
基準③ 収益体制が成立しない
売れても儲からないなら、事業として続ける意味は薄いです。ここで見るべきはポイント下記の4点です。
・顧客獲得コストが高すぎないか?
・粗利で回収できるか?
・回収期間が長すぎないか?
・継続率やLTV(=1人の顧客が取引期間を通じて企業にもたらす利益総額)が想定を満たすか?
たとえ成約しても、広告費を乗せると赤字、営業工数を含めると赤字、解約が多くLTVが伸びない、といった現象が常態化しているのであれば、もはや販促改善でなく事業モデル自体の見直しが必要です。
以上、要するに、販促不全は、もっと頑張って売ることで解決するものではなく、「誰に どの段階で 何を どう伝えるか」の再設計に立ち返ることです。
それでも改善しないなら、販促ではなく事業仮説そのものを疑うべきなのです。
【7】コンサルという選択肢
ここまでの内容を見ていただくと、多くの経営者が感じるのは「ここまで分解して判断し続けるのを、自社だけでやり切れるだろうか」という不安だと思います。
実際、ニーズの見極めひとつ取ってみても、ヒアリングの設計や解釈を誤れば簡単に方向がズレますし、リソースの再設計も既存業務との兼ね合いで判断が鈍りがちです。
販促においても、顧客理解が浅い状態で方法論に走ってしまうと、何が原因で成果が出ていないのか分からなくなります。
そんなわけで、もしここまで読んで「やるべきことは理解できたが、判断の精度や実行のスピードに不安がある」と感じているのであれば、そうした部分を補完する存在としてコンサルの活用も一つの選択肢になるかと思います。
中小企業の新規事業におけるコンサルの役割は「やるべきこと」をただアドバイスしたり、代行するだけではなく、自社で回せる状態になるようにアシストすることです。
中小企業側の立場からいえば、外部に任せ続けるのではなく、ノウハウを社内に蓄積し、既存事業や次の新規事業にも活かせる状態にすることです。
経営者がこの視点を持てるかどうかで、新規事業が単発で終わるか、継続的に生まれ続けるかが決まると思います。
最後に… 全8回にわたりお届けした「新規事業のつくり方」。永らくお付き合いいただきましてありがとうございました。
