姉はベランダから帰ってきた
姉は家に帰ってこなくなった。
中学生になった姉が、
どこで何をして、
どう生きていたのか。
私は知らない。
たまにフッと帰ってくる。
派手な見た目で、
エタニティ香水の匂いをさせながら。
「次からベランダ開けといて」
そう言って、
また居なくなる。
それから姉は、
ベランダから帰ってくるようになった。
ある日、
姉が言った。
「ちょっとベランダで話せる?」
私は黙って頷いた。
「あんた、お父さん殺そうと思ったことある?」
私は迷わず答えた。
「毎日考える。」
お父さんを殺すか。
自分が死ぬか。
殺されるまで待つか。
毎日その三つしか思いつかなかった。
姉は静かに言った。
「どれもあかん。」
「外に出たら楽しいこと、いっぱいあるから。」
「自分の人生を壊したらあかん。」
その言葉は、
今でも忘れられない。
私はその日から、
父をどうするかではなく、
この家からどう逃げるかを考えるようになった。
