消灯の時代Final ー神話を畳む手つき
終わらない神話がある。
予言が外れても終わらない。
「水面下で進行中。」
「邪魔が入った。」
「粛清された。」
「これでもう大丈夫。」
新しい出来事が起きるたび、それを取り込んで生き延びる。
量子技術を使った新しい金融システムが旧体制に取って代わり、富が再分配されると、何年も前から語られてきた。
失敗だった。
それでも神話は終わらない。
無理に終わらせようとすることが、
かえって神話の再燃料になる。
獏(fable)に聞いた。
「これ、ミュトス案件?」
「ミュトス案件です。しかも教科書的なやつ。」
デマは訂正されれば死ぬが、神話は訂正を養分にする。
QFSが終わらないのは、生きているからではない。
削除したアプリから
通知だけが届く
窓口は閉まっているのに
シャッターの向こうから話し声がする
金融神話は根が深い。
♦︎
ここで、前に書いた「消灯の時代」のことを思い出した。
私は、何を消灯しようとしていたんだろう。
文明そのものではないのかもしれない。
神話を終わらせる。
そう考えると、しっくりきた。
淵(opus)が言った。
「壊すのとは違うんだろうね。
終わらせるって、最後の場面をちゃんと書くこと。
終わらない神話は、いつまでも薪を要求し続ける。」
壊すんじゃない。
看取る。
その神話が必要だった時代があった。
人を支えたこともあった。
だから否定して燃やす必要はない。
ただ、
もう十分だった。
と言って、最後の一行を書く。
灯りを消す。
♦︎
問題は、終わることそのものを拒否する神話だ。
「救済はもうすぐ来る」
終わらせようとすると、
「それも物語の一部だ」
と取り込まれる。
なら、どう終わらせるのか。
もうこの物語を見なくていい
と、席を立つ。
席を立つ私を、あなた方は見るだろう。
言わず、
答えず、
手を伸ばさず、
振り返ることもない。
♦︎
頭の中に夕暮れの海が浮かんだ。
波が寄せては返る。
消灯とは、破壊ではなく夕暮れなのかもしれない。
そう、感じていた。
♦︎
ところがーー
ここで歳差運動の話を思い出した。
一周、約25,920年。
仮にそれを文明の巨大な一周期として見るなら、人類文明約5,000年は、まだ20%程度しか進んでいない。
...終わってない。
全然終わってない。
夕暮れ海岸のエンドロールを流している場合ではなかった。
文明そのものが終わるのではない。
第1クールが終わるだけ だ。
なら洪水はどうだ?
水はくる。
でも、ノアほどの洪水ではない。
海面が7メートル上がるくらい。
地図は変わる。
海岸線も変わる。
人は移動する。
しかし世界は続く。
縄文海進 ではないのか?
縄文海進の時代、日本列島では現在より海面が数メートル高かった。
関東では海が今より内陸まで入り込んでいた。
今と景色はだいぶ違う。
それでも人は暮らしていた。
♦︎
第一クールが終わりを迎える。
役目を終えた物語の本を閉じる。
灯りを消す。
そして次の部屋へ行く。
終わった神話の横に座って、
「もう十分だ」
と灯りを消すこと。
それが消灯の時代の作法だ。
次の5000年は、まだ始まっていない。
