装丁が好きで、買わずにいられなかった小説たち【前編】
本屋に行くと、素敵な装丁の本につい手が伸びてしまいます。
もちろん、物語そのものが好きで何度も読み返したくなる本もあります。
でも最初のきっかけは、表紙だったり、紙の質感だったり、背表紙の色合いだったりすることも多いです。
今回は、そんなふうに装丁に惹かれて手に取った本たちを、少しずつ振り返ってみようと思います。
ほとんどは既読本なので、装丁だけでなく、読んでみてどこが好きだったのかもあわせて書いていきます。
1. 『木曜日にはココアを』青山美智子
まず最初に挙げたいのが、青山美智子さんの『木曜日にはココアを』です。
大好きすぎて、単行本だけでなく文庫も買ってしまった一冊。
田中達也さんのミニチュア写真がジャケットになっていて、最初に見たときから印象に残っていました。
でも、この本は読了後にもう一度カバーを見ると、さらに好きになるんです。
連作短編の登場人物たちがきちんと表現されていて、「ちゃんとこの物語のための装丁なんだ」と気づけるのが嬉しいところでした。
物語自体もとても好きです。
日々の頑張りをそっと認めてもらえるような、「よく頑張ったね」と言ってもらえるような感覚がある小説で、疲れた心に寄り添ってくれる一冊だと思っています。
タイトルに“ココア”という色が入っているのも面白いし、知人に本をすすめるとき、最初に挙げたくなることが多い本でもあります。
読むたびに泣いてしまう章が違うのも、この本の好きなところです。
青山美智子さんの作品で、田中達也さんが装丁を担当されている本はほかにもありますが、この本は本当に豪華でした。
挿絵を見て小説が生まれ、さらにその小説と挿絵が響き合っている感じがして、こんなコラボはなかなかないなと思います。
2. 『さんかく』千早茜
2冊目は、千早茜さんの『さんかく』。
この本は、ぜひ塩おにぎりをお供に読んでほしい、と言いたくなる一冊です。
装丁には可愛らしい食べ物のイラストが使われていて、ぱっと目を引かれました。
私は普段、食べ物がメインの装丁にそこまで惹かれることは多くないのですが、西淑さんの描く食べ物は別でした。
リアル寄りなのにどこかやさしくて、芸術作品として眺めたくなる美しさがあります。
この本のにんじんの絵ですら、「素敵」と思ってしまうくらい。
各章のタイトルもすべて食べ物。
内容は、三角関係になりそうな男女の物語で、食の好みが合うことから始まる関係性が描かれています。
京都の町家での同居生活や、そこに絡んでくる“食”の描写がとても魅力的で、空腹時に読むのは少し危険なくらいです。
私はこの本で初めて千早茜さんの作品を読んで、そのまま『魚神』『透明な夜の香り』『赤い月の香り』『眠れない夜のために』へと広がっていきました。
食事の丁寧さと、人間関係の簡単には割り切れない感じが同居していて、千早茜さんらしい世界観に惹かれた一冊です。
カバーの質感も高級感があって、本として持っているだけでも嬉しくなります。
3. 『風と共にゆとりぬ』朝井リョウ
3冊目は、朝井リョウさんの『風と共にゆとりぬ』。
重厚感のあるジャケットに、おしゃれな飾り文字。
表も裏も抜かりなくデザインされていて、価格表示までジャケットの一部みたいに馴染んでいるのがすごいなと思いました。
……でも、そんな上品な見た目からは想像できないくらい、中身は抱腹絶倒でした。
未読の方から見たら「すごくおしゃれな本を読んでいる人」に見えそうなのに、実際は何度も吹き出しそうになる。
そのギャップが、この本の装丁の面白さでもあると思っています。
最初のほうからすでに朝井リョウさんらしい可笑しさが全開で、読んでいて思わず夫に「ちょっと、この本面白すぎるんだけど!」と報告したほどでした。
含み笑いをこらえながら読み進める時間も含めて、忘れられない読書体験です。
前作のエッセイは未読だったのですが、読み終えてすぐ買いに行ってしまいました。
これから読む方には、公共交通機関の中では少し危険かもしれません、とだけお伝えしておきたいです。
4. 『わたしは孤独な星のように』池澤春菜
4冊目は、池澤春菜さんの『わたしは孤独な星のように』。
本屋で何度か見かけていたのですが、最初は図鑑のような本だと思っていました。
綺麗だなと思いながらも手を出していなかったのですが、池澤春菜さんの本をまとめて紹介している動画を見て、これがSF短編だと知り、一気に気になって購入しました。
特に印象的なのが、カバーの形。
ジャケット自体が本体より少し短いデザインになっていて、こんな装丁は初めて見た気がします。
キノコの絵もとても印象的で、装丁の時点で「普通の短編集ではなさそう」と感じさせてくれました。
内容では、1作目と3作目が特に印象に残っています。
キノコとの共生が当たり前になった世界や、何をやっても痩せない女性の物語など、設定は少し突飛なのにどこか身近で、SF短編ならではの勢いがありました。
「SFは少し気合いがいる」と感じる人でも、入りやすい一冊だと思います。
5. 『熱帯』森見登美彦
5冊目は、森見登美彦さんの『熱帯』。
分厚い本ですが、気に入りすぎて文庫も買ってしまいました。
この装丁も田中達也さんのミニチュアで表現されていて、作品の迷宮のような世界観にぴったりだと思っています。
作中では“絶対に読み終えられない本”である『熱帯』をめぐって、主人公がその正体を探っていきます。
しかも、その主人公が森見登美彦さん本人という設定。
その時点ですでに面白くて、序盤から引き込まれました。
どこまでが現実で、どこからが作中作なのかわからなくなっていく感覚が、この作品の魅力だと思います。
読んでいると、自分まで迷路に入り込んでしまったような気持ちになる。
それが怖いというより、心地よくて、夏に読みたくなる一冊です。
装丁のミニチュアの世界も、本当に作品によく合っていて素敵でした。
6. 『蔦屋』谷津矢車
6冊目は、谷津矢車さんの『蔦屋』。
六七質さんが装丁画を担当されている小説を探していて出会った本です。
絵の描き込みが本当に細かくて、美しくて、ジャケットに惹かれて購入しました。
でも、読んでみるとそれだけでは終わらない一冊でした。
蔦屋重三郎の仕事ぶりに胸を打たれることが多く、出版の原型のようなものを作っていった人物として知ることができて、とても勉強にもなりました。
この本がきっかけで、作中に登場する浮世絵師や江戸時代の人物に興味が広がり、しばらく時代小説にハマったほどです。
本好きの人なら、かなり夢中になれる一冊だと思います。
最後は涙が止まらなくなってしまいました。
吉原と夜桜が描かれた装丁も、本当に美しいです。
前編まとめ
前編では、まず既読本の中から6冊を振り返ってみました。
装丁が素敵な本は、それだけで手に取る理由になります。
でも実際に読んでみると、装丁の美しさが物語の余韻と結びついて、もっと好きになることがあるんだなと改めて思います。
後編では、続きをご紹介します。
後半は、心が軽くなるシリーズものから、韓国SF、王道ファンタジー、そしてまだ未読だけれど“完全に装丁買い”だった本までまとめる予定です。
この内容は動画でも公開中です
今回ご紹介した内容は、YouTubeで現在公開中です。
動画内では主に単行本をもとに紹介していますので、もしよければ装丁の風合いなども動画でお楽しみいただけたら嬉しいです。
