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「化かされナイトヒル」第24話(完)

その夜、タクヤとざくろはいつもの山頂の駐車場にいた。
二人が初めて出会ったあの場所に。
ざくろが言った。
「準備はいい?」
「ああ。ざくろに勝ってみせる。ざくろに恩を返すためにも」
「そう思っていたのね。うれしいわ。でもやるからにはわたしも本気で行くわよ。覚悟してね」
「望むところだ」

タクヤが先行で道路に出ることになった。
山頂の駐車場からそろそろと出発し、最初のコーナーを抜けたところでシビックが先行で全開走行になった。
エンジン換装前とはシビックのフィーリングはだいぶ変わった。
バランスの良い軽量化も行ったおかげで戦闘力もだいぶ高くなっている。
だがざくろのマークⅡもなかなか離れてくれない。
当然だ。
あやめが最高傑作と評するクルマにこの山で敵なしのざくろの腕が加われば最強の戦闘機となる。
タクヤにアドバンテージがあるようで後ろからざくろがプレッシャーをかけてくるので実はかなり余裕がない。
この戦いは精神力の勝負でもあるとタクヤは考えていた。

山の前半セクションのストレート、パワーにものを言わせざくろの山吹色のマークⅡが一気に抜いていった。
ざくろは思い切りがいいのだ。
だからどんどん攻めていける。
だが一度抜かれるのはタクヤにとっては想定の範囲だった。
後半のテクニカルセクションで抜くためにもまずは離れないようにしよう。
そう考えタクヤはコーナー幅を目いっぱい使いスピードをなるべく落とさず加速もできるようコーナーを抜けていった。
峠で効果はあるかはわからないが、スリップストリームに入れるようざくろの真後ろにつけている。
あの時は抜かれた後コーナーを抜けるたびブレーキランプが遠ざかっていった。
だが今は違う。
運転席から見えるブレーキランプの光の大きさは変わらない。
隙があれば飛び込みたい。
だがざくろは隙を見せない。
揺さぶりに動じる相手でもない。
タクヤは仕掛けるポイントをじっくりと待つことにした。

タクヤはざくろを追いかけながら初めて出会った時から今までのことを思い出していた。
ざくろに初めて出会ったあの時までは名実ともにこの峠で最速だった。
ざくろに負けたあの日、ショックは受けたがざくろの不思議な魅力に惹かれていった。
ざくろが妖狐だと知ったときは醸し出す不思議なオーラの理由がわかったような気がした。
だがざくろは妖狐とはいえ普通の女子と変わらないところはあった。
嬉しいことがあれば笑い、悲しいことがあれば落ち込み、むかつくときがあれば怒る。
本当にたまに不思議な術を使う以外は普通の女の子なのだ。
タクヤはざくろの笑っている顔を見るのが好きだった。
目を細めて満面の笑みで笑う彼女はまるで太陽のようだった。
こっちまで元気をもらえるような気がした。
これまで一人で走ってきたタクヤにとってざくろはかけがえのない人になった。
学んだことも多かった。
さすがに初めて横に乗せたときはどぎまぎしてしまったが。
今日はあの時より成長した姿を見せて恩返ししたい。
そんな気分だった。

山の中腹、ざくろのマークⅡの挙動が怪しくなってきた。
実は最初にバトルしたときより双方かなりのハイペースになっていた。
ざくろもタイヤに負担をかけないよう気遣ってはいたのだろうがマークⅡは割と重い車である。
タイヤにもブレーキにもタクヤのシビックよりは負担がかかっているはずだ。
そこでタクヤが揺さぶりをかけてみる。
コーナー進入時に鼻先を突っ込んでみたりしたのだ。
なかなか焦ってはくれないのだが、少しは効果があるはずだ。
マークⅡはシビックより大きな車だ。
かなりブロックはできる。
だが隙があれば飛び込めそうにはなってきた。
あとはそれを見極めるだけだと思いながらタクヤはステアリングを握っていた。

山の後半、テクニカルセクションに入った。
あいかわらずタクヤのシビックはざくろのマークⅡの真後ろにぴったりとつけている。
そして短いストレート、タクヤは勝負に出ることにした。
シフトダウンし一気にアクセルを踏み込む。
ざくろのマークⅡとはサイドバイサイドになった。
そのままコーナーへ突っ込んでいく。
なかなかお互いブレーキをかけない。
ここで引くか、崖下へ落ちるかといった感じだった。
ぎりぎりまでブレーキを遅らせる。
そこでざくろがブレーキをかけた。
ワンテンポ遅れてタクヤがブレーキをかける。
そして加速勝負、重量で勝るタクヤのシビックが一歩前に出た。
エンジンのパワーを路面に最大限伝えられるよう繊細にアクセルを踏み込んでいく。
そしてタクヤのシビックが前に出た。
だがざくろもあきらめてはいない。
隙があれば飛び込んで来ようとしてくる。
何度も並びかけた。
そのたびに走行ラインをブロックせねばならずタクヤとしてもそれはしんどかった。
そして最終コーナー、これを抜けて頭を取っていた方が勝利は確実である。
タクヤがインを取った。
ざくろはやや後ろにつける。
そしてタクヤは道路幅を目いっぱい使い加速した。
最終コーナーから最初に飛び出てきたのはタクヤのシビックだった。
そのままゴールまで全力で駆け抜ける。
勝者はタクヤだった。

いつもそうしていたように、二人は三叉路わきの駐車場に車を停めた。
車から降りてきたざくろが言った。
「これでこの峠で最速になれたわね。おめでとうタクヤ」
「最速とか関係なくざくろがくれたものを返したかったんだ。俺、ざくろにお返しできたかな?」
「そんなの、いつも返してもらっているわよ」
「え?」
「楽しそうにしてるタクヤを見てるとこっちまで満たされた気持ちになるの。だからわたしはそれで返してもらったと思っているわ」
「そうだったのか」
自分もざくろも同じ気持ちだったのかとタクヤは気づいた。
ざくろが楽しそうにしていればじぶんも楽しくなるし、自分が楽しそうにしていればざくろも楽しくなる。
もう、自分がもらっていたものは返し終わっていたのだ。
でも、ひとつの区切りとしてバトルができたのはタクヤにとっては良かったことだった。
ざくろにあの時の自分とは違うと見せられたのだから。
そんなことを考えていたらざくろが口を開いた。
「ねぇタクヤ、バトルの勝者には記念品が必要だと思わない?」
「いや、俺は勝てたという事実だけでいいけど」
「いいから目を閉じて・・・」
タクヤは目を閉じた。
すると、唇に何か柔らかいものが触れた。
最初は軽く、だんだん長く触れてくる。
「・・・好きよ。タクヤ」
「俺も好きだ。ざくろ」
そうタクヤが言うとざくろは微笑んで言った。
「不束者だけどよろしくね、タクヤ」
二人は抱き合いながら満月の下で口づけを交し合った。

誰にも知られない、最速伝説の誕生だった。

おわり

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