《エッセイ》天才の証左 芥川龍之介 ⑴
「あの人を殺して下さいッ」
この言葉は嵐のように、
今でも遠い闇の底へ、
真っ逆さまに俺を吹き落とそうとする。
一度でもこの位、憎むべき言葉が人間の口を出た事があろうか?
一度でもこの位、呪わしい言葉が人間の耳に触れた事があろうか?
日本文学史上、一番の小説家を推薦するとしたら、真っ先に「芥川龍之介」が思い浮かびます。(自薦)

「切れ味鋭い刀剣」のような文章
《胸に突き刺さるセリフ》と《目に浮かぶシーン》
芥川を「料理人」に喩えるなら、どのお店にもある「酒の肴」なんだけど、
「どのお店でも巡り合えない味」だと感じます。
数多の著名小説家が「喜劇」「悲劇」「哀愁」「歴史物」「事件物」…様々なジャンルで「人間の業」を描いていますが、「読後感凄まじい」のが彼の作品の特徴かと。
今の私たちは「Netflix」「Disney」「Hulu」「Amazon Prime」……いくらでも「感動の映像ドラマ」に出会えます。
地上波TVでは、「VIVANT」だの「VIVANT」だの、TBS番宣がかまびすしい😁、しかし「筆1本」で上記と遜色ないシーンを芥川は提供してくれます。
『事実は1つだけど、真実は語る人によって全然違ってくる』
昭和25年、タイトル画像の「羅生門」で、黒澤明監督は小説「藪の中」を見事に映画化、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞しました。

「私は屏風の唯中に、枇榔毛の車が一輌空から落ちてくるところを描こうと思っておりまする」
「その中には、一人の艶やかな上臈が猛火の中に黒髪を乱しながら、悶え苦しんでいるのでございまする。顔は煙に咽びながら眉を顰めて、空ざまに車蓋を仰いでおりましょう。手は下簾を引きちぎって、降りかかる火の粉を防ごうとしているのかも知れませぬ」
「そうしてその周りには怪しげな鷲鳥が十羽となく、二十羽となく、嘴を鳴らして紛々と飛び廻っているのでございまする……ああ、それが、その牛車の中の上臈が、どうしても私には描けませぬ」
「枇榔毛の車を一輌、私の見ている前で火をかけて頂きとうございまする」
※「地獄変」より
いやあ、映像が目に浮かびますね!
天下随一と言われた絵師「良秀」が、大殿様から「地獄変」と題した屏風絵を描けと言われて返すセリフ。
文章は「二次元」のはずなのに、迫力ある「三次元映像」のように立体的に読者に襲い掛かってきますね!
良秀のリクエストに大殿様はあろうことか、「彼の一人娘」を牛車に入れて火を点けます!
悶え苦しむ自分の娘を見つめる良秀、牛車もろとも燃え朽ちて……
「その時の良秀には、何故か人間とは思われない、夢に見る獅子王の怒りに似た、怪しげな厳かさがございました」
「でございますから不意の火の手に驚いて、啼き騒ぎながら飛び回る数知れない夜鳥でさえ、気のせいか良秀の揉烏帽子の周りへは、近づかなかったようでございます」
「恐らくは無心の鳥の眼にも、あの男の頭の上に、円光の如く懸っている、不可思議な威厳が見えたのでございましょう」
※「地獄変」より
「傑作」を描くため妥協を許さないことで、娘を焼死させてしまった良秀。
ドラマに必要な「究極の選択」「選択後の葛藤」を、「夢に見る獅子王の怒り」麗しい修飾語や、夜鳥の動きで良秀の威厳を伝える「小道具の使い方」など、本当に勉強になります。
1916年(大正5年)、短編「鼻」が夏目漱石に絶賛されデビューた芥川。
当時の文壇を彗星の如く疾走し、昭和2年、彼は36歳で自死しました。
明日は「天才の証左 芥川龍之介 ⑵」をお届けします。 お楽しみに!
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