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【紅蓮館の殺人】阿津川辰海|読了

正直に言うと、読む前は少し身構えていた。

事前にあまり良くない評判を目にしていたからだ。

けれど、読み進めるうちにその不安はすぐに消えた。

山火事に追われながら逃げ込んだ館。

迫る炎。

閉ざされた空間。

その中で起きる殺人事件。

設定だけでもかなり強い。

しかも本作は、山火事という派手な舞台装置だけで押すのではなく、探偵とは何なのか、人は何を背負いながら真実を追うのか、というところまで踏み込んでいく。

想像していた以上に面白く、中盤以降はかなり引き込まれた一冊だった。


山火事に追われて辿り着く館

物語は、ミステリ作家のファンである高校生二人が、勉強合宿を抜け出し、山奥の館を訪れようとするところから始まる。

ところが登山中、突如として山火事に巻き込まれる。

必死に逃げ込んだ先が、偶然にも目的地だった「紅蓮館」。

この入り方が良かった。

本来なら、自分たちの意思で向かっていたはずの場所。

けれど実際には、炎に追われた末の避難先になる。

憧れの場所だった館が、逃げ場になり、同時に外へ出られない場所にも変わっていく。

この時点で、普通の館ミステリとは少し違う。

館の内側では事件が起きる。

外側からは火が迫ってくる。

内にも外にも危険がある。

その状況が、最初から強い緊張感を作っていた。


山火事が「時間」を奪っていく

本作で特に面白かったのは、山火事が単なる背景になっていないことだった。

火は、少しずつ近づいてくる。

だから、事件をじっくり調べている余裕はない。

犯人は誰なのか。

なぜ殺人が起きたのか。

そう考えたい一方で、まず生き延びなければならない。

真相を追うことと、脱出することが同時に迫られる。

この構図がかなり良かった。

普通のクローズドサークルでは、閉じ込められていること自体が事件を成立させる条件になる。

『紅蓮館の殺人』では、それに加えて時間まで奪われていく。

いつまでも館に留まってはいられない。

でも、真相を放置して逃げることも簡単ではない。

火災、密室、過去の因縁、タイムリミット。

いくつもの要素が重なっているのに、山火事が中心にあることで全体がまとまっていた。


「かつて探偵だった者」と「いま探偵である者」

さらに印象に残ったのが、探偵という存在そのものを描いているところだった。

本作には、「かつて探偵だった者」と「いま探偵である者」がいる。

この対比が面白い。

探偵とは何なのか。

真実を明らかにすることには、どこまで価値があるのか。

人命がかかった状況で、それでも謎を解くべきなのか。

本格ミステリでは、探偵が事件を解くことそのものが一つの快感になる。

でも本作は、その前提を少し揺らしてくる。

謎を解くことが、必ずしも誰かを救うとは限らない。

真実へ近づくことで、背負うものが増えることもある。

それでも探偵は、真相を求めるのか。

ただ格好よく推理する人物としてではなく、探偵であり続けることの重さまで描いているところが印象的だった。


人間の弱さがあるから、事件に重さが出る

本作では、登場人物たちがいつでも冷静に行動できるわけではない。

過去に縛られる。

後悔する。

判断を誤る。

追い詰められれば、感情にも左右される。

その弱さが丁寧に描かれていた。

だから、人物たちが単に事件を成立させるための駒には見えない。

誰もが何かを抱えていて、それが現在の選択へ影を落としている。

探偵であることの苦しさも、その一つ。

過去に起きたことをどう受け止めるのか。

失ったものを抱えながら、それでも前へ進めるのか。

ミステリとして謎を追いながら、人物たちの感情も一緒に動いていく。

そこが本作の厚みになっていたと思う。


真相のあとに残るエピローグ

そして、特に好きだったのがエピローグ。

事件が解決すれば、それで物語が終わるわけではない。

何が失われたのか。

何を選んだのか。

そのあと、人はどう生きていくのか。

そうしたものが静かに残る。

真相の驚きや論理の快感とは別に、最後に人の感情へ戻ってくる。

その終わり方がとても良かった。

派手に感動させるのではなく、少し距離を置いたまま余韻を残す。

事件の緊張感が強かったぶん、その静けさも印象に残った。


読後に残ったもの

『紅蓮館の殺人』は、読む前に抱いていた不安を良い意味で裏切ってくれた作品だった。

山火事に追われて辿り着く館。

迫る炎。

逃げられない状況。

その中で起きる殺人。

設定だけでもかなり魅力的だけれど、本作の良さはそれだけではなかった。

火災によって生まれるタイムリミット。

真相を追うべきか、生き延びるべきかという選択。

「かつて探偵だった者」と「いま探偵である者」の対比。

そして、探偵であることの重さや、人間の弱さ。

本格ミステリとしての仕掛けに、人の感情がしっかり重なっている。

だから、事件が終わったあとにも物語が残る。

特にエピローグの静かな余韻が良かった。

真相を知った満足感だけではなく、登場人物たちのその後を少し考えたくなる終わり方だった。

想像以上に面白かった。

そして、この先このシリーズがどう続いていくのかも、かなり気になる。

☃️ここまで読んでくださってありがとうございました。
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