見出し画像

半神の少女 第10話「日本に集まる半神たち」

第10話「日本に集まる半神たち」

神宮寺家・リビング

佳織はタブレットを使い、仲間たちとテレビ電話を繋いでいた。
佳織の隣には、少し緊張した様子の冬子 。さらにその横では、祥雲が興味津々で画面を覗き込んでいる。

佳織
「みんな〜」

佳織は嬉しそうに言う。

佳織
「この子が雪村冬子ちゃんです」

冬子は慌てて頭を下げる。

冬子
「み、皆さん……よろしくお願いします」

画面の向こうで、
海斗が感心したような顔をする。

海斗
「へえ〜」

海斗はにやりと笑う。

海斗
「可愛いね〜冬子ちゃん」

冬子
「えっ」

突然の直球に、
冬子が赤くなる。

冬子
「あ……ありがとう……」

その様子を見て、
蓮が呆れた顔になる。


「お前、佳織以外の女子にもそういうこと言うのかよ」

海斗
「だって可愛いし」

海斗は悪びれもなく答える。
すると祥雲まで大きく頷く。

祥雲
「そーそー。可愛いもんは可愛い!」

冬子
「え、えっと……」

さらに困る冬子。

月菜が頭を押さえる。

月菜
「2人とも……」

月菜はため息をつく。

月菜
「やっぱり変……」

祥雲
「なんで!?」

海斗
「普通だろ!?」

愛梨が冷静にツッコむ。

愛梨
「普通の男子高校生は、初対面でそこまで言わないと思うわ」

海斗と祥雲が同時に固まる。

海斗
「そうなのか?」

祥雲
「日本難しいな……」


「日本関係ねえ」

佳織は思わず吹き出す。

佳織
「あはははっ!」

冬子もつられて笑う。

冬子
「ふふっ……」

さっきまで緊張していた空気が、
少しずつ和らいでいく。

佳織はそんな様子を見ながら微笑む。

佳織
「よかった。みんな仲良くなれそう」

冬子も小さく頷く。

冬子
「うん」

そして画面の向こうでは――

海斗
「ところで冬子ちゃん!」


「嫌な予感しかしない……」

海斗
「好きな食べ物は!?」

祥雲
「俺はラーメン!」

愛梨
「誰も聞いてないわよ」

再び賑やかな声が響き、冬子は初めて、“新しい仲間たち”の温かさを感じるのだった。
テレビ電話はまだ続いていた。
冬子も少しずつ緊張が解け、みんなとの会話に参加し始めている。

その時――タブレットの画面が切り替わる。
画面の向こうから、息を切らした大悟が現れた。

大悟
「ぜぇ……ぜぇ……」

大悟は肩で息をしている。

大悟
「親父に遊ばれてて遅れちまった……」

佳織は苦笑する。

佳織
「またハデス叔父さんに殴りかかったの?」

大悟が顔をしかめる。

大悟
「あのクソ親父……殴ろうとするたびに消えやがって……ぜぇ……ぜぇ……」

蓮が呆れた顔になる。


「何やってんだよお前ら……」

愛梨もため息。

愛梨
「親子喧嘩の規模じゃないわね……」

すると祥雲が笑う。

祥雲
「冥界の王と喧嘩できる高校生なんて世界でも大悟君くらいでしょ!」

大悟
「笑い事じゃねぇ!」

その後。

大悟が画面越しに冬子を見る。

大悟
「ん?こいつか?」

大悟は冬子を指差す。

大悟
「俺の叔母御ってのは?」

冬子は少し笑う。

冬子
「雪村冬子です」

冬子は軽く頭を下げる。

冬子
「よろしくね」

大悟も頷く。

大悟
「よろしく」

そこまでは普通だった。
しかし海斗が突然吹き出す。

橋本海斗
「ハハハハハ!!」

大悟
「?」

海斗
「変だよな!」

海斗は腹を抱えて笑う。

海斗
「叔母さんと甥っ子なのに同い年って!!」

一瞬沈黙。

そして祥雲が吹き出す。

祥雲
「確かに!!高校2年生同士だ!!」

佳織も思わず笑う。

佳織
「あははっ!」

冬子も困ったように笑う。

冬子
「言われてみれば……」

大悟は顔をしかめる。

大悟
「たまたま同じ年に生まれたんだから仕方ねぇだろ」

海斗
「いや面白すぎるって!」

蓮が冷静に補足する。


「しかも大悟の母親はペルセポネで、冬子さんの異父姉だしな」

愛梨
「整理しないと頭が混乱するわ……」

月菜も苦笑する。

月菜
「神様の親戚関係って本当に複雑ですね……」

大悟は腕を組む。

大悟
「俺だってよく分かってねぇ」

海斗
「本人も分かってないのかよ!」

再び全員が笑い出す。
冬子はそんな賑やかなやり取りを見ながら、小さく微笑む。

冬子(心の声)
(……よかった)

東京へ来るまでは不安だった。でも今は違う。ここには、自分を家族として迎えてくれる仲間たちがいた。
そんな温かな時間が、テレビ電話の向こうにも広がっていた。

その頃――世界の至るところで、新たな半神たちが動き始めていた。

名古屋

午後の授業。教師が黒板に数式を書いている。

教師
「この公式を使えば――」

しかし後ろの席では、野間ユチカ が頬杖をついていた。

ユチカ(心の声)
(暇だな〜……)

教師
「野間」

ユチカ
「はい?」

教師
「今どこまで聞いてた?」

ユチカ
「え〜っと……最初から最後まで?」

教室中が笑う。

教師
「聞いてないな?」

ユチカ
「バレました?」

再び笑いが起きる。ユチカは人懐っこく笑う。

放課後 野間家

住宅街にある一軒家。ユチカは制服姿のまま庭へ出る。
そこには1本の木が立っていた。
ユチカはその幹に手を触れる。すると――淡い紫色の光が広がる。葉が揺れ始める。枝が変化し、無数の蔓が伸びる。
次の瞬間――木いっぱいに、瑞々しい葡萄が実る。

ユチカ
「おお〜」

ユチカは一粒摘まんで口へ運ぶ。

ユチカ
「今日もおいしそうなブドウができた」

その時――背後から穏やかな声が聞こえる。

???
「むやみに力を使ってはいけませんよ」

ユチカ
「え?」

ユチカが振り返る。目の前にいたのは、ディオニュソスだった。
ユチカの目が大きく見開かれる。

ユチカ
「え!?お父さん!?」

ディオニュソスは微笑む。

ディオニュソス
「お久しぶりです、ユチカ」

ユチカ
「帰ってきてたの!?」

ディオニュソス
「ええ」

ディオニュソスはゆっくり頷く。

ディオニュソス
「つい先ほど日本に来ました」

ユチカ
「いつも急なんだから……」

ディオニュソスは葡萄を一粒取り、口に入れる。

ディオニュソス
「うん。相変わらず見事な出来ですね」

ユチカ
「でしょ?」

ユチカは得意げに胸を張る。
するとディオニュソスの表情が少し真面目になる。

ディオニュソス
「ですが……」

ユチカ
「?」

ディオニュソス
「そろそろ、あなたにも知ってもらう時が来ました」

ユチカ
「何を?」

ディオニュソス
「とある半神のお嬢さんが東京にいます」

風が吹く。
葡萄の葉が揺れる。

ディオニュソス
「今――そのお嬢さんを中心に、多くの半神が集まり始めているのです」

ユチカ
「半神が……?」

ディオニュソス
「ええ」

ディオニュソスは意味深に微笑む。

ディオニュソス
「面白い子たちですよ」

ユチカ
「へえ……」

ユチカの瞳に、少しだけ興味の色が宿る。
そして遠く離れた東京では、佳織たちが新たな仲間との出会いを迎えようとしていた。

アメリカ合衆国・ワシントンD.C.

大手ファッションスタジオ。
眩しい照明、大型カメラ、そして多くのスタッフたち。
撮影の中心には――ジョン・ガルシアが立っていた。長身に整った顔立ち。モデル顔負けではなく、現役トップモデルそのもの。
カメラマンが興奮気味に声を上げる。

カメラマン
「素晴らしい!」

カシャッ!

カシャッ!

ジョンは自然な笑顔を見せる。

スタッフA
「完璧だ……」

スタッフB
「本当に高校生か?」

ジョンは少し照れくさそうに笑う。

ジョン
「そんな大げさな」

撮影は続く。
ポーズを変えるたびに、スタッフたちから感嘆の声が漏れる。

そして――撮影終了。

カメラマン
「オッケー!今日の撮影は以上です!」

スタジオに拍手が起こる。
ジョンは深々と頭を下げる。

ジョン
「ありがとうございました〜」

スタッフたち
「お疲れ様!」

「またよろしく!」

ジョンは笑顔で手を振る。

スタジオの外

夕日が街を照らしている。
ジョンは待っていた女性へ駆け寄る。

ジョン
「ママ!」

女性が振り返る。
世間的には彼のマネージャー。しかし――その正体は違う。

ジョン
「どうだった?俺の今日の撮影は!」

女性が微笑む。
その瞬間――身体が淡い黄金色の光に包まれる。
長い金髪。神々しい美貌。圧倒的な存在感。
現れたのは――アフロディーテ 。

アフロディーテ
「とても良かったわよ」

アフロディーテは息子の頬にそっと触れる。

アフロディーテ
「さすが私の息子」

ジョンは苦笑する。

ジョン
「それ毎回言うよね」

アフロディーテ
「だって事実だもの」

ジョン
「はいはい」

アフロディーテは楽しそうに笑う。

アフロディーテ
「でも外見だけじゃなくて、人への気遣いも完璧だったわ」

ジョン
「そっちの方が嬉しいかな」

アフロディーテの表情が少し柔らかくなる。

アフロディーテ
「あなたは優しい子ね」

ジョン
「ママ譲り?」

アフロディーテ
「もちろん」

ジョン
「そこは否定しないんだ」

2人は笑う。

すると――アフロディーテの表情が少しだけ真面目になる。

ジョン
「?」

アフロディーテ
「ジョン」

ジョン
「何?」

アフロディーテ
「もし世界中に、あなたと同じ半神がいると言ったら?」

ジョンは少し驚く。

ジョン
「半神?」

アフロディーテ
「ええ」

ジョン
「俺みたいなのが他にもいるのか」

アフロディーテは頷く。

アフロディーテ
「そしてもうすぐ――」

アフロディーテは遠く東の空を見る。

アフロディーテ
「その子たちが、1つの場所に集まり始める」

ジョン
「どこに?」

アフロディーテ
「日本よ」

ジョン
「日本?」

ジョンは少し興味を示す。
アフロディーテは意味深に微笑む。

アフロディーテ
「会ってみたくない?」

ジョン
「……」

ジョンは少し考える。そして笑った。

ジョン
「面白そうだね」

夕日が沈む。
遠く離れた日本へ向けてまた1人、新たな半神が動き始めようとしていた。

ドイツ・ベルリン

住宅街の一角にあるシュミット家。
フリック・シュミットが帰宅する。

フリック
「ただいま」

しかし返事を待つこともなく、まっすぐ自室へ向かう。
部屋の扉を開くとそこはほとんど工房だった。机の上には工具。壁には設計図。棚には自作の機械や金属部品が並んでいる。

フリックは制服の上着を脱ぐと、すぐに作業を始めた。

フリック
「ここをこうして……」

工具を動かす。歯車を組み込む。配線を接続する。

数十分後――

カチッ。

フリック
「……できた」

目の前には、小型の多機能機械。
フリックがスイッチを押す。

ウィーン

綺麗に動作する。
フリックの顔がぱっと明るくなる。

フリック
「成功だ!」

フリックは思わず立ち上がる。

フリック
「ねえ!これ俺の最高傑作なんだけど出来はどう?父ちゃん!」

その瞬間――部屋の壁から炎が現れる。

ゴォォォッ!

真っ赤な炎が燃え上がる。しかし部屋は燃えない。神の炎だからだ。
炎の中から、大柄な男が姿を現す。炎と鍛冶の神、ヘパイストスであった。

ヘパイストス
「ん〜どれどれ……」

ヘパイストスは機械を手に取り、じっくり観察。裏側も確認。配線も見る。
フリックは少し緊張している。

ヘパイストス
「うん。いいじゃねえか!」

フリックの顔が明るくなる。
ヘパイストスは豪快に笑う。

ヘパイストス
「さすがはおいらの倅だ!」

フリック
「本当か!?」

ヘパイストス
「おう!」

ヘパイストスはフリックの肩を叩く。

ヘパイストス
「この年齢でここまで作れる奴はそういねえ!」

フリック
「やった!」

普段は無表情気味のフリックも、思わず笑顔になる。

ヘパイストス
「特にこの機構がいい」

ヘパイストスは設計の一部を指差す。

ヘパイストス
「発想が柔軟だ」

フリック
「そこ一番苦労したんだ」

ヘパイストス
「苦労した甲斐があったな」

しばらく親子で機械談義が続く。
するとヘパイストスがふと真面目な顔になる。

フリック
「?」

ヘパイストス
「フリック」

フリック
「何?」

ヘパイストス
「もうすぐ、世界中の半神が動き始める」

フリックは眉をひそめる。

フリック
「半神……」

ヘパイストス
「ああ。日本に向けてな」

フリックは少し考える。
ヘパイストスは息子の表情を見る。そして少しだけ笑う。

ヘパイストス
「興味あるなら行ってみろ」

フリック
「日本に?」

ヘパイストス
「おう。お前と同じ半神たちがいる」

炎が揺れる。
ヘパイストスの目は、どこか未来を見ているようだった。

ヘパイストス
「これから世界は大きく動く」

フリックは窓の外を見る。ベルリンの夜空。そして遥か東の彼方――日本へと視線を向けるのだった。

神宮寺家・リビング

テレビではバラエティ番組が流れている。
ソファに座った佳織は、冬子と一緒にくつろいでいた。その横では、祥雲がスマホをいじっている。

祥雲
「なあ佳織ちゃん?」

佳織
「?」

祥雲
「今日パパに会ったんだけどさ〜……」

佳織
「うん」

祥雲は意味ありげに笑う。

祥雲
「めっちゃすごいこと言ってた」

佳織
「なんて?」

祥雲はスマホを置く。

祥雲
「他の半神達も東京に来てるって」

佳織
「ええっ!?」

佳織が勢いよく立ち上がる。

冬子も驚く。

冬子
「東京に……?」

祥雲は大きく頷く。

祥雲
「間違いないよ。パパが世界まわって見たんだもん」

佳織
「ヘルメスさんが……」

佳織は思わず息を呑む。

祥雲
「しかも結構な人数らしい」

佳織はゴクリと唾を飲む。

佳織
「それじゃあ……残りはあと4人だけど、4人一気に来るってこと!?」

祥雲
「じゃね?」

佳織
「そんな軽く言う!?」

祥雲
「だって実際そうかもしれないし」

冬子は少し考え込む。

冬子
「世界中の半神が集まるなんて……」

佳織も窓の外を見る。

佳織
「何だか急に現実味が出てきた……」

誰も知らない場所で、運命の歯車がさらに動いていた。

ロシア・モスクワ

高層マンション。
部屋にはトロフィーや賞状、映画のポスターが飾られている。
その部屋で、ベロニカ・スミルノフが一通の手紙を手にしていた。

ベロニカ
「フリックから手紙?」

差出人はドイツ・ベルリンのフリックから 。
ベロニカは封を開き、読み始める。

ベロニカ
「……」

しばらく読んだ後、ベロニカは思わず声を漏らす。

ベロニカ
「日本に半神がいっぱいいるらしいから、日本に行って会いに行ってくる……?」

ベロニカは読み進める。

ベロニカ
「日本に……私と同じ半神が?」

ベロニカは少し考える。
すると机の上のスケジュール帳を開く。数日先まで確認。

ベロニカ
「そういえば……」

ベロニカは呟く。

ベロニカ
「しばらく仕事ないんだった」

沈黙。

そして、ベロニカは小さく笑った。

ベロニカ
「面白そうじゃない」

彼女はスマホを手に取る。

ベロニカ
「日本か。行ってみようかな」

その瞳には、好奇心が宿っていた。
そして――世界中から、半神たちが集まり始める。

東京・公園

佳織は先日、祥雲から聞いた話を蓮と月菜に説明していた。

佳織
「――っていう話なんだけど」

蓮は腕を組む。


「世界中から半神がな〜……」

佳織
「うん」

月菜は少し驚いた表情。

月菜
「一気に4人が揃うんですか?」

佳織
「可能性は高いね」

佳織は少し緊張したように笑う。

佳織
「祥雲くんのお父さんが言うなら、多分本当なんだと思う」


「ヘルメスだからな」

月菜も頷く。

月菜
「世界中を旅している神様ですからね」

佳織は空を見上げる。

佳織
「どんな子たちなんだろう……?」


「まともな奴だといいけどな」

佳織
「祥雲くん基準で考えるのやめて?」

月菜が小さく笑う。

月菜
「確かに」

3人が話している頃――既に東京では、新たな半神たちが動き始めていた。

東京駅

人で溢れる巨大ターミナル。
そこにキャリーケースを引くユチカ の姿があった。

ユチカ
「うわぁ……」

ユチカは周囲を見回す。

ユチカ
「名古屋も大きいと思ってたけど……東京でかっ!!」

人の波に押される。

ユチカ
「わっ!」

危うく流されそうになる。

ユチカ
「人多すぎでしょー!!」

品川

高層ビル群。
駅前でジョンがサングラス姿で周囲を見ていた。

ジョン
「Wow……」

ジョンは思わず笑う。

ジョン
「これは想像以上だ」

英語混じりに呟く。

ジョン
「ニューヨークとはまた違うな」

通行人たちが振り返る。ジョンの美貌が目立ちすぎるのだ。
ジョンは苦笑する。

ジョン
「やっぱり目立つか」

新宿

巨大な駅前。
ネオンに人混み。そこにフリックが立っていた。

フリック
「……」

無言。

しばらく見上げる。さらに見上げる。

フリック
「高いな」

ドイツでも大都市は見慣れている。
しかし東京の規模は想像以上だった。

フリック
「父ちゃんが驚くのも分かる」

彼はバッグの中の工具箱を確認する。

フリック
「……まずは宿だな」

渋谷

巨大スクランブル交差点。
信号が変わり、人の流れが一斉に動く。
その光景を見ている少女がいた。ベロニカだった 。

ベロニカ
「何これ……?」

ベロニカは呆然とする。

ベロニカ
「人が軍隊みたいに歩いてる……」

ロシアの人気女優である彼女も、思わず圧倒される。
ベロニカはスマホを取り出す。

ベロニカ
「まずは今日の宿探しか……」

同じ半神たちが、そして――佳織たちが知らないところで、世界各地から集まった4人の半神は、既に東京へ到着していたのだった。

オリンポス ― 神殿・玉座の間

巨大な円卓の玉座に十二神が勢揃いしている。
主神の玉座に座るのはゼウス 。その表情は険しい。

ゼウス
「……半神達が日本に集まっている」

その隣でヘラ が腕を組む。

ヘラ
「そのようね。あのような島国に、半神が集まるなんて」

神々の間にもざわめきが広がる。
すると、ヘルメスが遠慮がちに手を挙げた。

ヘルメス
「あの〜……父上?」

ゼウス
「何だ?ヘルメス」

ヘルメスは少し困った顔をする。

ヘルメス
「つかぬことをお聞きしますが……本当にヘスティアの娘を殺すので……?」

空気が一瞬で重くなる。

ゼウスは即答した。

ゼウス
「今更何を言う?この玉座にいない処女神が子を成したのだ。消すほかあるまい」

神々の表情が微妙に曇る。
ヘルメスは苦笑する。

ヘルメス(心の声)
(よく言うぜ……自分は浮気しまくってるくせに……)

しかし口には出さない。出したら雷が飛んでくる。
その時会議場の反対側から声が上がった。ヘパイストスである。

ヘパイストス
「あ〜。ばっかばかしい」

会議場が凍る。

ヘルメス(心の声)
(言ったぁぁぁ!?)

ゼウスの額に青筋が浮かぶ。

ゼウス
「……おい、ヘパイストス。お前はどこまで私の神経を逆撫でするのだ?」

しかしヘパイストスは全く動じない。

ヘパイストス
「だってさ〜、自分は浮気して山盛り子供作ってるくせに」

ゼウス
「…………」

ヘパイストス
「な〜にが掟だよ」

さらに追撃。
ヘパイストスは隣を見る。

ヘパイストス
「母上だってそう思うでしょ?」

突然振られたヘラは無言の状態。

ヘラ
「…………」

会議場の全神がヘラを見る。
ヘラのこめかみに血管が浮く。しかし反論できない。完全に図星だからである。
ヘルメスは必死に笑いを堪える。

ヘルメス(心の声)
(やべぇ……笑うな……笑うな俺……)

肩が震えている。
その一方で、アレスはヘパイストスを睨んでいた。
しかし――何も言えない。ベロニカのこと、佳織のこと、ヘパイストスの言葉、様々な感情が頭の中でぶつかり合っていた。

アレス
「……」

ただ黙るしかない。
ポセイドンは肘をつきながら、静かに成り行きを見守っていた。

ポセイドン(心の声)
(これは……)

ポセイドンの口元が少しだけ緩む。

ポセイドン(心の声)
(面白いことになりそうだな)

やがて神々の会議は終了し、広大な神殿には静寂が戻っていた。
その場に残っているのは、ヘラとアレスのみ。
アレスは片膝をつき、頭を下げる。

アレス
「……申し訳ありません、母上」

ヘラは静かに息を吐く。

アレス
「あの場でヘパイストスのやつを始末できれば、どんなに良かったか……」

ヘラは首を横に振る。

ヘラ
「いいのよ……」

しばらく沈黙。

そしてヘラはアレスの顔を見る。

ヘラ
「それよりアレス」

アレス
「……はい」

ヘラ
「あなたも複雑そうね」

アレスの肩がわずかに揺れる。
ヘラはさらに続ける。

ヘラ
「ベロニカもその半神達の中にいるから?」

アレス
「!?」

アレスは思わず目を見開く。図星だった。
戦神としての自分とゼウスへの忠誠。そして――娘。その全てがぶつかり合っている。

アレス
「それは……」

言葉が続かない。
ヘラは何も責めない。ただ静かに見つめている。
アレスはやがて視線を落とした。

アレス
「……」

アレスはうなだれる。
戦神アレス。数え切れない戦を経験した神。しかし今、最も答えを出せない戦いに直面していた。

ヘラは小さく呟く。

ヘラ
「親になるというのは、面倒なものね……」

アレスは何も答えなかった。
ただ静かに拳を握るだけだった。

冥界 ― ハデスの宮殿

青白い炎が灯る広間。その中央でハデスが水晶玉を覗いていた。
水晶玉には、先ほどのアレスとヘラの様子が映っている。

ハデス
「……アレスは複雑そうだな」

ハデスは静かに目を細める。
そして水晶玉の映像が変わる。
佳織、蓮、月菜、大悟、海斗、愛梨、祥雲、冬子。そして東京へ向かう新たな半神達。

ハデス
「しかし……いよいよ半神が十二人揃うか……」

その声には、どこか期待が混じっていた。

ハデスはゆっくり立ち上がる。するとペルセポネが声をかける。

ペルセポネ
「どこに行くの?」

ハデスが振り返る。

ハデス
「ヘスティアの宮殿だ」

ペルセポネ
「今から?」

ハデス
「ああ」

ハデスは珍しく少しだけ微笑む。

ハデス
「ついでに大悟にも会ってくる」

ペルセポネは思わず笑う。

ペルセポネ
「素直じゃないんだから」

ハデス
「……何のことだ?」

ペルセポネ
「最近ずっと気にしてるじゃない」

ハデスは咳払いをする。

ハデス
「気のせいだ」

ペルセポネ
「はいはい」

夫婦の穏やかなやり取り。
そして次の瞬間――

ゴォォォォッ――

ハデスの身体が黒い炎に包まれる。
冥界の王は最後に一言だけ残す。

ハデス
「……では行ってくる」

ペルセポネ
「いってらっしゃい」

黒い炎が揺らめく。
そして――ハデスの姿は消えた。

佳織たちは何かを察していた。
世界中から半神達が集まり、運命の日が近づいていることを。

第10話 完

いいなと思ったら応援しよう!