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宮廷賢者アルトリア 第21話「毒薬の開発者」

第21話「毒薬の開発者」

アルトリアの屋敷 書斎

静まり返った室内。
窓の外では風が木々を揺らしている。

アルトリアは机に肘をつき、深く思考に沈んでいる。

アルトリア(心の声)
(毒の構成は明らかに異常……自然界のものではない……誰かが“作った”……)

回想 王宮・一室

リリアが不安そうに座っている。
アルトリアは静かに問いかける。

アルトリア
「ユリナ姫様の意識を奪ったその毒薬……差出人は誰だったんですか?」

リリアは一瞬目を伏せる。

リリア
「……それが……わからないのです……」

アルトリア
「わからない……?」

リリア
「はい……ある日、家のポストに入っていて……」

アルトリアの目がわずかに鋭くなる。

アルトリア
「ポストに……?」

リリア
「はい……差出人は書かれておらず……一緒に手紙が入っていました」

アルトリア
「……その内容は?」

リリアは少し苦しそうに記憶を辿る。

リリア
「燃やしてしまったので、正確には……ですが……確か――」

リリアが低く、震える声で言う。

リリア(低く、震える声)
「“お前の父と母を死に追いやったレオニス王が憎いだろう?”」

アルトリアの表情が固まる。

リリア
「“その薬をユリナ姫に飲ませろ。そうすれば姫は、ゆっくりと寝たきりになる”……と……」

沈黙。

リリア
「……あの時は……両親のこともあって……陛下を恨んでいましたから……」

リリアは拳を握る。

リリア
「疑いもしませんでした……」

アルトリアは静かに目を閉じる。

アルトリア
「……その薬、誰が作ったのか……心当たりは?」

リリアは首を横に振る。

リリア
「……いいえ……まったく……今思えば……あの手紙も、あの薬も……誰が……何のために……」

アルトリアの屋敷 書斎

アルトリアがゆっくりと目を開く。

アルトリア(心の声)
(差出人不明……毒の精度……そして今回の大規模拡散……)

アルトリアは立ち上がる。

アルトリア
「……偶然ではない」

机の上にある資料に目を落とす。

アルトリア
「同一人物……あるいは同じ思想の者……“毒を武器とする者”がいる……」

風が強く吹き、窓がわずかに揺れる。
アルトリアは窓の外を見つめる。

アルトリア(心の声)
(誰なんだ……?この毒を作り……人を操る者は……)

王都・牢獄(地下)

石造りの通路。
水滴の音が静かに響く。

衛兵の足音とともに、アルトリアが奥へと進む。

衛兵
「こちらです、アルトリア様」

鉄格子の向こうにはやつれた男――ヴァレンツ・グラディウス元公爵が壁にもたれ、座っている。

アルトリア
「……お久しぶりです、ヴァレンツ公爵」

ヴァレンツはゆっくりと顔を上げる。
その目はどこか虚ろだが、まだ知性の光を残している。

ヴァレンツ
「公爵……か……今の私は、ただの囚人だ……」

アルトリアは淡々と言い放つ。

アルトリア
「人の別荘を燃やした報いです」

短い沈黙。

アルトリアは一歩踏み出す。

アルトリア
「本題に入りましょう。僕の兄たちを殺した毒――あれはヘルマンバの毒を使いましたね?」

ヴァレンツの目がわずかに見開かれる。

ヴァレンツ
「……そこまで見抜いたか……」

アルトリア
「ヘルマンバは極めて攻撃的な毒蛇。素人が扱える代物ではありません」

アルトリアの視線が鋭くなる。

アルトリア
「つまり――アントニウス様の背後には、“毒の専門家”がいる」

沈黙。

やがてヴァレンツが小さく笑う。

ヴァレンツ
「……さすがは宮廷賢者だ……いいだろう」

ヴァレンツはゆっくりと姿勢を正す。

ヴァレンツ
「私は国を裏切った罪人……だが、せめて最後くらいは……役に立ってやろう」

アルトリアは無言で頷く。

ヴァレンツ
「……私や弟のウラドも、直接会ったことはない」

アルトリア
「会ったことがない……?」

ヴァレンツ
「ああ。だが確かに存在する……アントニウス様の側に、“毒物研究の学者”がいる」

アルトリアの瞳が鋭く光る。

アルトリア
「やはり……」

ヴァレンツは続ける。

ヴァレンツ
「その男は……とうに100を超えている」

アルトリア
「……!」

ヴァレンツ
「かつてはイルカンに仕えていた宮廷学者……だが、研究が度を越し……王により追放された」

アルトリア(小さく)
「イルカンを追放……」

ヴァレンツ
「その後、諸国を放浪……そして、まだ国務長官だったアントニウス様に拾われた」

ヴァレンツの声が低くなる。

ヴァレンツ
「それ以来、奴は影で毒を作り続けている……ヘルマンバの毒の採取、調整、使用――すべてが“完璧”だった」

アルトリア
「……その学者の名前は?」

わずかな間。

ヴァレンツは首を横に振る。

ヴァレンツ
「……知らぬ」

アルトリア
「……知らない?」

ヴァレンツ
「アントニウス様は決して明かさなかった。我々ですら、“名前”は知らされていない」

静寂。

アルトリアの表情がわずかに曇る。

ヴァレンツ
「……あの男はな……存在そのものが“秘匿されている”」

ヴァレンツは不気味に笑う。

ヴァレンツ
「だからこそ……恐ろしいのだ」

牢獄外・通路

アルトリアがゆっくりと歩いている。足音だけが響く。
アルトリアは足を止める。

アルトリア(心の声)
(同じ派閥の人間ですら、名前を知らない……?)

アルトリアは頭を押さえる。

アルトリア(低く)
「……クソッ……厄介だ……あまりにも……完全に“影”に潜んでいる……」

アルトリアの目が鋭くなる。

アルトリア
「だが……必ず痕跡はあるはずだ……毒は嘘をつかない……」

アルトリアは再び歩き出す。

アルトリア
「必ず……突き止める」

レオニスの部屋

重厚な扉の内側。
壁には地図と各国の紋章が掲げられている。

レオニスは机に座り、静かに思考している。その前にアルトリアが立つ。

レオニス
「……ヴァレンツでも、その学者の名を知らぬ……か」

アルトリア
「はい」

レオニスは鋭い視線を向ける。

レオニス
「……嘘をついている可能性は?」

アルトリアは即座に首を振る。

アルトリア
「ほぼあり得ません。視線、呼吸、言葉の間……いずれも“虚偽”の兆候はありませんでした。彼は本当に“知らない”ようです」

レオニスは軽く目を閉じる。

レオニス
「同じ派閥の公爵ですら知らされぬ存在……か」

短い沈黙。

レオニス
「……厄介だな」

アルトリア
「ええ」

レオニスはゆっくりと椅子から立ち上がる。

レオニス
「その学者は、イルカン出身だったな?」

アルトリア
「はい。宮廷に仕えていた毒物学者……しかし当時の王により追放されたと」

レオニスの目がわずかに鋭くなる。

レオニス
「……ならば」

レオニスは机に向かい、羽ペンを取る。アルトリアはその様子を静かに見守る。

レオニス(書きながら)
「イルカン側に記録が残っている可能性がある。追放されたとはいえ、王宮に仕えていた者だ。完全に痕跡を消すことはできまい」

レオニスは書状を書き終え、封をする。

レオニス
「テイラル」

扉が開き、外務長官テイラルが入室する。

テイラル
「はっ」

レオニスは書状を差し出す。

レオニス
「この書状を、イルカン国王ジョルジュに届けよ。例の学者について、情報を引き出す」

テイラル
「ははっ」

テイラルは書状を受け取り、すぐに退出する。
扉が閉まる。

静寂。

レオニスはアルトリアを見る。

レオニス
「これで何か掴めればよいが……」

アルトリア
「ええ……ですが――」

アルトリアの目が鋭く光る。

アルトリア
「敵は“待ってはくれない”でしょう」

レオニス
「……だろうな」

レオニスは腕を組む。

レオニス
「アントニウスが動いている以上、次の一手はすでに準備されているはずだ」

アルトリア
「はい。毒の開発者……内通者……そして次の計画……時間との勝負になります」

レオニスは静かに頷く。

レオニス
「ならば急げ、アルトリア。この国の未来は、そなたにかかっている」

アルトリアは一礼する。

アルトリア
「……必ず……必ず、突き止めてみせます」

回廊

アルトリアが1人、ゆっくりと歩いている。
手には資料。しかし視線はどこか宙をさまよっている。

アルトリア(心の声)
(……とは言ったものの……外務長官がイルカンから情報を持ち帰らなければ……これ以上は進めない……)

アルトリアは立ち止まる。

アルトリア
「……はぁ……」

軽く頭を押さえる。

アルトリア(心の声)
(毒の開発者……内通者……アントニウスの次の一手……)

アルトリア
「……八方塞がりじゃないか……」

そのとき――

セリア(少し遠くから)
「アルトリア?」

アルトリアが顔を上げる。

アルトリア
「……?姫様」

回廊の向こうからセリアが歩いてくる。白銀の髪が光を受けて揺れる。
アルトリアはすぐに姿勢を正し、一礼する。

アルトリア
「お疲れ様です、姫様」

セリアはじっとアルトリアの顔を見つめる。

セリア
「……さっきから難しい顔してたわね」

アルトリアは一瞬だけ言葉に詰まる。

アルトリア
「……いえ、少し考え事を」

セリア
「少し、ねぇ……」

セリアは小さくため息をつく。

セリア
「あなた、自分では気づいてないでしょうけど……今、ものすごく追い詰められてる顔してるわよ?」

アルトリアはわずかに目を逸らす。

アルトリア
「……そう見えますか?」

セリア
「ええ。見てるこっちが疲れるくらいには」

一瞬の沈黙。

セリアは少しだけ柔らかい表情になる。

セリア
「ねえ?気分転換しない?」

アルトリア
「……気分転換、ですか?」

セリアは軽く頷く。

セリア
「ずっと考えてても、答えが出ないときもあるわ。そういう時は、一度頭を空っぽにするのも大事よ」

アルトリアは少し驚いたような顔をする。

アルトリア
「姫様が……そういうことを仰るとは」

セリアは少しムッとする。

セリア
「何よそれ?私だって、それくらい分かるわよ」

アルトリア
「いえ、失礼しました」

セリアはふいにそっぽを向く。

セリア
「……別に……あなたが倒れられたら困るだけよ」

小さな間。

セリア(小さく)
「……私が」

アルトリアはわずかに目を細める。

アルトリア
「……姫様……」

セリアはすぐにいつもの調子に戻る。

セリア
「で、どうするの?少し外でも歩く?」

アルトリアは一瞬だけ考える。

アルトリア(心の声)
(……確かに……このままでは視野が狭くなる……)

アルトリアはゆっくりと顔を上げる。

アルトリア
「……そうですね。少しだけ、お付き合いいただけますか?」

セリアは微かに微笑む。

セリア
「ええ、もちろん」

2人は並んで歩き出す。

中庭

青空の下、手入れされた庭園。
花々が咲き、噴水の音が静かに響く。

木陰のベンチ付近でアリサが落ち着きなく歩き回っている。

アリサ
「あ~どうしようどうしようどうしよう~~~!?」

両手で頭を抱え、ぐるぐる回る。リーナが腕を組みながら見ている。

リーナ
「……落ち着け、アリサ」

アリサ
「無理です無理です無理です~~~!!」

リーナ
「弱気になるな……!今日はダイム殿との食事なのだろう!?」

アリサはビシッと止まり、振り向く。

アリサ
「そ、そうなんですが……!ど、どのような服で行けばいいのか……!」

アリサは両手を胸の前で握りしめる。

アリサ
「ああああああどうしましょう……!」

リーナは目を逸らす。

リーナ
「……私に聞くな」

アリサ
「え?」

リーナ
「わわわわ私に聞かれても分かるわけないだろう!?い、今まで恋愛など……一度も……!」

アリサ
「ええっ!?」

リーナは顔を赤くしながら腕を組み直す。

リーナ
「な、何だその反応は!」

アリサ
「いえ……なんとなく経験豊富そうな雰囲気が……」

リーナ
「どこをどう見たらそうなる!?」

アリサ
「だって隊長、普段あんなに堂々としているのに……」

リーナ
「戦場と恋愛は別だ!!」

アリサ
「ですよねええええ!!」

2人は同時に頭を抱える。

アリサ
「うぅ……どうしよう……」

リーナ
「……ぐぬぬ……」

そのとき――

アリサ
「あ……」

リーナ
「ん?」

中庭の入口から、アルトリアとセリアが並んで歩いてくる。
アルトリアは穏やかな表情。セリアもどこか柔らかい雰囲気をまとっている。

アリサ
「……あっ」

リーナ
「……あれは……」

アリサ
「アルトリア様と……セリア姫様……」

リーナ
「……2人で……?」

アリサはじっと見つめる。

アリサ(小声)
「……なんだか……いい雰囲気……?」

リーナは一瞬だけ固まる。

リーナ
「……そ、そうか?」

アリサ
「はい……なんというか……自然に並んで歩いているというか……」

リーナは少しだけ視線を逸らす。

リーナ(小声)
「……ああいうのが……普通なのか……?」

アリサ
「え?」

リーナ
「な、なんでもない!」

再び2人はアルトリアたちを見る。アルトリアとセリアは会話しながら、ゆっくりと中庭へ入ってくる。

セリアがふと足を止める。

セリア
「……ねえ」

アルトリアも立ち止まる。

アルトリア
「はい?」

セリアは少し遠くを見るようにして、静かに言う。

セリア
「……あなたがここに来てから……もう1年になるのね」

アルトリアは一瞬だけ驚き、すぐに穏やかな表情になる。

アルトリア
「……はい。エルメア平原の枯渇問題を解決したら……なぜか宮殿に呼ばれました」

セリアは小さく笑う。

セリア
「“なぜか”って……父上が見逃すわけないでしょ、そんな人材」

アルトリア
「はは……そうですね」

一瞬、穏やかな空気が流れる。
セリアは少しだけ真剣な表情になる。

セリア
「……ここに来たこと、今でも後悔してる?」

アルトリアはセリアを見る。その問いの意味を理解するように、少しだけ間を置く。

アルトリア
「……いいえ」

セリアの目がわずかに揺れる。

アルトリア
「あの頃の僕は……孤独でした」

アルトリアの視線が少し遠くを見る。

アルトリア
「家族も……仲間も……何もないと思っていた」

セリアは黙って聞いている。

アルトリア
「ですが今は違います」

アルトリアの声が少しだけ柔らかくなる。

アルトリア
「父も……叔父もいます……イルハレムも、ジェームズも、ダイムも……他にも、多くの協力者がいます」

一瞬の間。

アルトリア
「……そして」

アルトリアはセリアの方を見る。

アルトリア
「陛下や……姫様も」

セリアの瞳がわずかに見開かれる。

セリア
「……っ」

ほんの一瞬、言葉を失う。
セリアはすぐに視線を逸らす。

セリア
「……そ、そう」

セリアは少しだけ頬が赤い。

セリア(小さく)
「……当然よ」

アルトリアはその変化に気づかず、穏やかに続ける。

アルトリア
「だから……ここに来たことを後悔したことはありません」

セリアは小さく息を吐く。

セリア(心の声)
(……ほんとに……)

セリアは再びアルトリアを見る。

セリア(心の声)
(……ずるいわね、あなたは……)

風が吹き、セリアの髪が揺れる。

少しだけ間。

セリアは表情を整える。

セリア
「……なら、よかったわ」

そして軽く微笑む。

セリア
「これからも……ちゃんとこの国にいてもらわないと困るもの」

アルトリア
「ええ、もちろんです」

アルトリア(心の声)
(……守るべきものがある。だからこそ……負けるわけにはいかない)

穏やかな空気……のはずだった。
セリアがふと立ち止まり、アルトリアを見る。

セリア
「……ねえ」

アルトリア
「はい?」

セリアはにっこり微笑む。

セリア
「でも……先日どうしてイルーシャ王女がこの国に来たのかしら?」

アルトリア
「……え?」

一瞬、空気が変わる。

セリア(にこにこ)
「教えて♡」

アルトリアの背筋に冷たいものが走る。

アルトリア(心の声)
(……この笑顔……危険だ……)

アルトリア
「そ、それは……!」

セリア
「それは?」

一歩近づく。

アルトリア
「……え、えっと……その……」

セリア
「どうして来たの?」

アルトリア
「……あ、あの……!」

セリアはさらに距離を詰める。

セリア
「“どうして”?」

アルトリア(完全に追い詰められる)
「ひぃっ……!そ、それは……神経質で攻撃的なヘルマンバを落ち着かせるために……!ど、どうしてもイルーシャ王女の魔法が必要で……!」

セリア
「へぇ?」

セリアの目から光が消える。

セリア
「“どうしても必要”だったの?」

アルトリア
「は、はい……!」

セリア
「ふぅん……」

セリアがじわじわと詰め寄る。

セリア
「それで?」

アルトリア
「そ、それで……って……?」

セリア
「それだけ?」

アルトリア
「そ、それだけです!!」

セリア
「本当に?」

アルトリア
「ほ、本当です!!!」

セリア
「……ふぅん」

セリアの圧がさらに強くなる。

アルトリア(心の声)
(こ、これは……まずい……完全に尋問だ……!)

そのとき――中庭の入口付近をレオニスが通りかかる。

レオニス
「……む?」

視線の先では、セリアが無表情でアルトリアを追い詰めている。
アルトリアは完全に壁際に追い込まれている。

セリア
「アルトリア?」

アルトリア
「ひぃぃぃっ!!」

レオニスがわずかに引く。

レオニス(小声)
「……あれは……」

アルトリア
「姫様!近いです!近いです!!」

セリア
「逃げるの?」

アルトリア
「逃げません!!逃げませんから!!」

レオニスは静かに視線を逸らす。

レオニス(引き気味に)
「……見なかったことにしよう」

レオニスはそのまま静かに踵を返す。

アルトリア
「た、助けてえええええええぇぇぇぇ!!!」

セリア
「まだ終わってないわよ?」

アルトリア
「ひぃぃぃぃ!!!」

遠くでアリサとリーナがその様子を見ている。

アリサ(小声)
「……あれ、食事の参考になりますかね……?」

リーナ(即答)
「ならん」

アルトリアの屋敷 庭

夜。月明かりが庭を照らしている。
アルトリアがゆっくりと歩いてくる。

アルトリア
「はあ〜……」

アルトリアはその場で大きく息を吐く。

アルトリア
「姫様にこっぴどく詰め寄られた……」

アルトリアは頭を押さえる。

アルトリア
「……なぜか女性と親しくしていると、ああいうことになるんだよな〜……理由が分からない……」

少し考え込むが、すぐに首を振る。

アルトリア
「……まあいいか……」

ふと、視線を遠くに向ける。門の外の通りを2組の人影が歩いている。

アルトリア
「……?」

アルトリアが目を細める。

アルトリア
「ジェームズが……リーナ隊長と……ダイムが……アリサ殿と……歩いている……」

アルトリアは小さく笑う。

アルトリア
「……そういえば、食事がどうのって話していたな」

アルトリアは腕を組む。

アルトリア(心の声)
(……あの2人も……なんだかんだで、いい相手を見つけたものだ)

アルトリアは少しだけ柔らかい表情になる。

アルトリア
「……悪くない」

風が静かに吹く。
アルトリアは空を見上げる。

アルトリア(心の声)
(……守るべきものは、確かに増えている)

一瞬、真剣な表情になる。

アルトリア
「……だからこそ……負けるわけにはいかない……か」

しかしすぐに力を抜く。

アルトリア
「……とはいえ……」

アルトリアは軽く肩を回す。

アルトリア
「今日はもう……頭が回らないな……もう寝るか」

アルトリアが寝室に行き、ベッドに横になる。

アルトリア
「……少し休めば……何か見えるかもしれない……」

目を閉じる。

アルトリア(心の声)
(毒の開発者……内通者……アントニウスの狙い……)

アルトリア
「……必ず……暴く……」

ゆっくりと呼吸が落ち着いていく。

静寂。

月明かりが窓から差し込む。
アルトリアは眠りにつく。

レオニスの部屋

重厚な空気。窓から差し込む光もどこか鈍い。
机の上には一通の書状。

扉が開く。

アルトリア
「失礼いたします」

レオニスは椅子に座り、静かに頷く。

レオニス
「来たか、アルトリア」

アルトリアは一礼し、机の前に立つ。

アルトリア
「お呼びと聞き、参りました」

レオニスは机の上の書状に視線を落とす。

レオニス
「……イルカンより返答が来た」

アルトリアの表情が引き締まる。

アルトリア
「……!本当に……外務長官からそのような報告があったのですか?」

レオニス
「ああ」

レオニスは静かに続ける。

レオニス
「確かにイルカンの先王の時代……宮廷から追放された学者が存在する」

アルトリアの目が鋭くなる。

アルトリア
「……やはり……」

レオニスはゆっくりと書状を手に取る。

レオニス
「その学者は、毒物研究において異常な才能を持っていた。だが……」

一瞬、言葉を切る。

レオニス
「倫理を完全に逸脱していた」

アルトリア(小さく)
「人体実験……ですか」

レオニスは静かに頷く。

レオニス
「結果、王の逆鱗に触れ……国を追放された」

重い沈黙。

レオニスはゆっくりと顔を上げる。

レオニス
「……そしてその学者の名は――」

一瞬、空気が張り詰める。

レオニス
「ホゴン・ジャロム」

沈黙。

アルトリアの瞳がわずかに揺れる。

アルトリア
「……ホゴン……ジャロム……?」

その名を反芻する。

アルトリア(心の声)
(……間違いない……その男が……毒の開発者……!ついに……辿り着いた……)

レオニス
「だが……」

レオニスの一言で空気が変わる。

アルトリア
「……?」

レオニス
「イルカンの記録でも、その後の足取りは一切不明」

アルトリアの表情が険しくなる。

レオニス
「消息不明……死亡記録もなし。つまり――」

アルトリア
「……どこにいるか分からない」

レオニス
「ああ」

レオニスはアルトリアを見据える。

レオニス
「だが1つだけ、確かなことがある」

アルトリア
「……何でしょうか?」

レオニス
「その男は――」

レオニスの声が低くなる。

レオニス
「今も生きている」

沈黙。

アルトリアの目が鋭く光る。

アルトリア
「……アントニウス様のもとで」

レオニス
「そう考えるのが自然だ」

アルトリアは拳を握る。

アルトリア(心の声)
(ホゴン・ジャロム……この男が……すべての元凶……!)

アルトリア
「……必ず見つけ出します」

レオニス
「頼む。この国の命運がかかっている」

アルトリアは深く一礼する。

アルトリア
「……お任せください」

とある地下研究施設

薄暗い通路。
壁には古びた石と金属の装置が混在している。

どこかから液体の滴る音が響く。

奥の扉がゆっくりと開き、アントニウスが静かに中へ入る。

部屋の中央には無数の試験管、薬品、奇妙な器具。
その中で、1人の老人が背を向けて立っている。老人はゆっくりと振り返る。

ホゴン
「……これはこれは……アントニウス様」

濁った目が、不気味に光る。

アントニウス
「わざわざ来てすまぬな」

ホゴンは軽く頭を下げる。

ホゴン
「いえ……本来ならば私の方から伺うべきでした」

アントニウスは周囲を見渡す。

アントニウス
「良い。お主の存在は、旧貴族派の連中にも伏せてある」

ホゴンの口元がわずかに歪む。

ホゴン
「……そうでしたな。影にこそ、価値がある」

一瞬の静寂。

アントニウス
「……計画が失敗に終わったことは、聞いたか?」

ホゴンはゆっくりと歩き、机の上の試験管を手に取る。

ホゴン
「はい。報告は受けております」

試験管の中には黒く濁った液体が、ゆらりと揺れる。

ホゴン
「ですが……問題ありません」

ホゴンは静かに笑う。

ホゴン
「それを踏まえ……新たな毒を開発中です」

アントニウスの目が細まる。

アントニウス
「……どのようなものだ?」

ホゴンは試験管を光にかざす。

ホゴン
「“遅れて発現する毒”。摂取した瞬間には、何も起こらない。ですが……一定時間後、確実に崩壊します」

アントニウス
「その薬はロウラル卿の領内で試したではないか」

ホゴン
「はい。今回はさらに――」

ホゴンの声が低くなる。

ホゴン
「接触により拡がる性質も付加しました」

アントニウス
「……ほう」

ホゴン
「解毒は極めて困難。仮に対処されても、すでに“次”へと広がっています」

ホゴンの口元が吊り上がる。

ホゴン
「実に……美しい現象です」

沈黙。

アントニウス
「……相変わらずだな」

ホゴン
「毒は嘘をつきません。人間よりも、よほど正直です」

アントニウスはゆっくりと背を向ける。

アントニウス
「頼んだぞ」

ホゴン
「お任せを」

アントニウスが去る。扉が閉まる。

静寂。

ホゴンは試験管をじっと見つめる。

ホゴン(小さく)
「……アルトリア・フィリア……わしの毒を見抜いた男……か」

ホゴンの目が妖しく光る。

ホゴン
「ぜひ……観察したいものだ」

ホゴンは試験管の液体をゆっくりと混ぜる。

ホゴン
「どのように壊れるのか……」

第21話 完

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