半神の少女 第6話「知恵の女神の血縁」
第6話「知恵の女神の血縁」
神宮寺家・佳織の部屋(夜)
夜。静かな部屋。
佳織はベッドに寝転び、スマホを見ている。
スマホ画面
【グループチャット】
海斗:
「こっちもそれっぽい奴見当たらねえな〜」
大悟:
「気配はある気もするけどな。確信持てねえ」
佳織
「うーん……2人とも収穫なしか〜」
スマホを胸の上に置く。
天井を見上げる佳織。静かな時間。
佳織
「後7人……」
小さくつぶやく。
佳織
「どうやって見つければいいんだろう?」
佳織はハデスの言葉を思い出す。
ハデス(回想)
「半神は基本的に、強い神力を持つ者同士が自然と引き寄せられる」
佳織
「……って言われてもなあ~……全然“自然”じゃないよこれ……」
佳織の中に不安がよぎる……
佳織
「もし……集まらなかったら」
少しだけ声が弱くなる。
佳織
「ママに会えない……?」
佳織はぶんぶん首を振る。
佳織
「ダメダメ!そんなの絶対イヤ!」
少し考えて……
佳織(心の中)
(……待ってるだけじゃダメだ。自分から会いに行く)
オリンポス ― 神殿・玉座の間
静寂に包まれた神殿。
高くそびえる柱。
左右に並ぶ玉座。
アテナとアルテミスがそれぞれ座っている。
アテナ
「……ねえ?アルテミス」
アルテミス
「何?アテナ」
アテナ
「例の半神の子が、他の半神を集めていると聞いたけれど、本当なの?」
アルテミスは淡々と答える。
アルテミス
「ええ。私の娘やアポロンの息子も一緒よ」
アテナ
「……そう」
アテナがわずかに目を伏せる。
神殿に静かな空気が流れる。
アルテミス
「……そういえば、あなたにも日本に娘がいたわよね?」
アテナ
「ええ……」
アテナは遠くを見る。
アテナ
「もう17歳……でも赤ん坊の時以来……会ったことがないの……」
アルテミス
「私やアポロンは定期的に我が子に会いに行ってるのに」
軽く肩をすくめる。
アテナはわずかに目を閉じて感情を抑えている。
アテナ(心の声)
(……愛梨……どんな子に育ったのかしら……?知恵は……ちゃんと宿っている?それとも……)
少しだけ微笑む。
アテナ
「私以上に、強くなっているのかしら」
アルテミス
「そのうち会うことになるわよ。半神は引き寄せられるもの」
アテナ
「……ええ。きっと、もう近くまで来ている」
神殿に光が差し込む。
下校中
夕焼けの道。
佳織が1人、とぼとぼ歩いている。
佳織
「うーん……どうすれば、ほかの半神も見つかるのかな~?」
佳織は空を見上げる。
佳織
「あと7人もいるのに……」
すると突然誰かに声を掛けられる。
男(遠くから)
「ヘイそこの彼女!」
佳織
「!?」
佳織がビクッとして振り返る。
男(サングラスをあげながら)
「俺と遊んでかな~い?」
佳織
「遊びません!ていうかいきなりナンパしないでください!」
男は一瞬、表情を変える。
男
「……まあ。こんな姿じゃそう思われても仕方ねえか」
男が光に包まれる。
次の瞬間――姿が変わる。
ヘルメス
「俺の名はヘルメス。伝令、そして旅人や商人の守り神」
佳織
「ヘ……ヘルメスって……オリンポスの神様……?」
ヘルメス
「そーそー」
ヘルメスが軽く笑う。
ヘルメス
「んで俺は主神ゼウスの息子。まあわかりやすく言えば――君の従兄ってわけ」
佳織
「ええええ!?」
佳織(心の声)
(……オリンポスっていろんな神様がいるんだ……)
ヘルメスは少しだけ真面目な顔になる。
ヘルメス
「でさ、君んち連れてってくんない?」
佳織
「え?」
ヘルメス
「話したいことがあんの」
軽く笑うが目は真剣。
ヘルメス
「君たちにとって――かなり重要な話」
佳織
「……わかった。じゃあ、来て」
ヘルメス
「サンキュー」
ヘルメスがニヤッと笑う。
神宮寺家・リビング
テーブルいっぱいに観光ガイドブック。
ヘルメスが夢中でページをめくっている。
ヘルメス
「お~札幌雪祭りじゃん!1回行ってみたかったんだよね~!」
ヘルメスがページをめくる。
ヘルメス
「お~清水寺!この前行った!」
さらにページをめくる。
ヘルメス
「これは大阪の道頓堀……!ここも賑やかでいいよな~!」
康弘は腕を組み、完全に引いている。
康弘
「……本当にあのヘルメスなのか?」
佳織(苦笑い)
「……みたい……」
ヘルメスは顔を上げ、キラキラした目で康弘を見る。
ヘルメス
「なあなあ!俺、最近日本の観光名所めぐるの好きでさ~!まだどっかおすすめの場所ない!?」
康弘
「そ……そうだな……」
康弘が少し考える。
康弘
「……こことかどうだ?」
康弘が別のガイドブックを差し出す。
ヘルメス
「おお!富士山!日本でここは外せねえな!しかもオリンポス山よりでけえし!」
康弘
「あと、この温泉地もいいぞ」
ヘルメス
「温泉か~最高じゃん!」
佳織(心の声)
(……なんでこんな盛り上がってるの……)
しばらくして――ヘルメスがふっと深呼吸する。
空気が少し変わる。
ヘルメス
「……んじゃ、そろそろ本題っと」
佳織
「先にその本題に行ってほしかったんだけど……」
ヘルメス
「細かいことは気にしな〜い」
ヘルメスがニヤッと笑う。
ヘルメスの表情が少しだけ真剣になる。
康弘と佳織も自然と姿勢を正す。空気が引き締まる。
ヘルメスは軽く指を鳴らし、話し始める。
ヘルメス
「佳織ちゃん、半神探してたよね?なら――ビッグなニュースだ」
佳織
「……?」
佳織が首をかしげる。
ヘルメス
「アテナの娘が――君の身近にいる」
佳織
「えっ!?」
思わず立ち上がる。
佳織
「アテナって確か……」
康弘
「オリンポス十二神の一柱、知恵と戦争を司る女神だ」
康弘が少し眉をひそめる。
康弘
「だが……アテナもヘスティアと同じで処女神のはずだが?」
ヘルメスは肩をすくめる。
ヘルメス
「オリンポスの玉座にいる処女神はな、“結婚”はできなくても“子供を作る”ことは許されてるのさ」
ヘルメスは少しだけ真面目な顔になる。
ヘルメス
「逆に――君のママはその玉座を下りたのに子供を産んだ。だからゼウスは君を“例外”として排除しようとしてる」
佳織
「……そんな理由で……」
佳織は拳を握る。
佳織
「……ふざけてる」
ヘルメス
「ま、神様ってのはそういうもんさ」
ヘルメスは軽く流す。
ヘルメス
「で、話を戻すか。その子の名前は確か……宇保方愛梨だったかな?」
佳織
「え?」
一瞬フリーズする。
佳織
「えええええ!?あの隣のクラスで!生徒会にいるかっちりメガネちゃんが!?」
ヘルメス
「お〜なら話は早いじゃん!」
ヘルメスはニヤニヤする。
佳織
「いやいやいや!そもそも私、あの子と話したこともない!」
ヘルメス
「じゃあ話せばいいじゃん」
佳織
「いやそれが一番難しいんだけど!?」
康弘(小声)
「……頑張れ」
佳織
「他人事!?」
生徒会室
静かな室内。生徒会役員たちが作業をしている。
愛梨は黙々と書類を処理している。
生徒会長
「宇保方さん、それ終わったらこっちもお願いできる?」
愛梨
「はい」
愛里は迷いなく即答する。そして手を止めずに処理を続ける。
学校屋上
風が吹く屋上。
佳織と蓮が話している。
蓮
「マジ?あの宇保方さんも半神だったの?」
佳織
「……みたい」
佳織が少し不安そうに言う。
蓮
「確かにあの子……父さんと2人暮らしってのは聞いたけど……」
風が吹く。
蓮
「でもあの子……普通じゃないよな?」
佳織
「うん……なんていうか……近づきにくいっていうか……」
蓮
「正直、俺も話したことない……話しかけづらいオーラあるし……」
佳織
「でも……仲間になってもらわないと……」
佳織は何かを決意する。
佳織
「よし!話しかける!」
蓮
「お、おう……」
蓮はちょっと引き気味。
佳織
「……でもどう話しかけよう……」
蓮
「そこから!?」
廊下(放課後)
放課後の静かな廊下に窓から夕日が差し込む。人の気配は少ない。
壁の近くに立つ佳織。少しそわそわしている。
佳織
「宇保方さん……来るかな~……?」
佳織(心の声)
(どうしよう……いきなり“あなた半神ですよね?”とか言ったら絶対引かれるよね……)
佳織がイメトレをする。
佳織(創造)
「宇保方さん!あなた実は神の血を――」
愛梨(想像)
「……意味がわからない」
佳織(心の声)
(うわ絶対こうなる!!)
佳織
「じゃあ普通に……」
佳織は後ろを向く。
佳織(小声で練習)
「こんにちは、ちょっとお話いいですか……?」
何かおかしい。
佳織
「硬い!怪しい!」
足音が遠くから聞こえる。
コツ……コツ……
佳織
「……え?」
廊下の奥から愛梨が歩いてくる。
静かで無駄のない足取り。
佳織の鼓動が速くなる。
ドクン……ドクン……
佳織(心の声)
(きた……!)
佳織
「よし……!」
佳織が拳を軽く握る。
佳織
「行くしかない……!」
愛梨の前に、佳織が一歩踏み出す。
佳織
「あ……あの宇保方さん!」
少し声が裏返る。
愛梨は立ち止まり、ゆっくりと佳織を見る。
無駄のない視線。
愛梨
「あなた……」
愛梨がわずかに考える。
愛梨
「確かA組の神宮寺さん?」
佳織(心の声)
(うわ、覚えられてた!?)
佳織
「え〜っと……」
佳織の目が泳ぐ。
佳織
「ちょっとお話したいな〜って……一緒に帰らない?」
一瞬の沈黙。
愛梨はじっと佳織を見る。ほんの一瞬だけ、何かを“読む”ように。
愛梨
「……?……まあ一緒に帰るぐらいなら……」
淡々と答える。
佳織
「ほ、ほんと!?」
佳織の表情が少し明るくなる。
2人は並んで歩き出す。少し距離のある並び方。
愛梨(心の声)
(……妙ね。この人から感じる“気配”……)
愛梨がわずかに目を細める。
愛梨(心の声)
(……普通じゃない)
佳織(心の声)
(どうしようどうしよう……何から話せばいいの……!?)
帰り道(夕方)
夕焼けの帰り道。
佳織と愛梨が並んで歩いている。少し距離のあるまま、沈黙。
佳織(心の声)
(どうしよう……何話せばいいの……!?)
愛梨
「あなた――」
愛梨が歩きながら、前を向いたまま切り出す。
愛梨
「“普通の人間”じゃないわよね?」
佳織
「えっ!?」
立ち止まりそうになる。
佳織は一瞬迷う。しかし――
佳織
「……うん」
愛梨をまっすぐ見つめる。
佳織
「私……炉の女神、ヘスティアの娘なの。半神で……ママに会うために、半神を集めてる」
愛梨は驚かない。ただ、淡々と聞いている。
佳織
「宇保方さん……」
少し勇気を出して切り出す。
佳織
「あなた……知恵の女神アテナの娘でしょ?」
愛梨
「ええ」
愛梨が迷いなく答える。
佳織
「だったら私と――!」
愛梨
「勘違いしないで」
愛梨が冷たく遮る。
愛梨
「私は協力する気はない」
佳織
「なんで!?」
愛梨の表情が変わる。冷静さの奥に――感情。
愛梨
「……あんな母親……大嫌い」
愛梨は淡々と語りだす。
愛梨
「母は私を見捨てた……17年間……一度だって会いに来てくれなかった……だから母には会いたくない」
佳織は何も言えない。
佳織(心の声)
(……会いたくない……?)
愛梨
「あなたもお母さんに会ったことがないなら……わかるでしょ?」
少し離れた場所――ヘルメスが壁にもたれて見ている。
ヘルメス
「母親に会いたくないか……佳織ちゃんとは対照的ってか~……」
神宮寺家・佳織の部屋(夜)
佳織はベッドに座り、スマホでテレビ電話をしている。
画面には――蓮・月菜・海斗・大悟の4人。
佳織
「……っていう感じで、断られちゃった」
蓮
「……母親に会いたくないか~」
蓮が月菜に目を向ける。
月菜
「簡単にはいかなさそうですね」
月菜が冷静に答える。
海斗
「前途多難だな~」
大悟は少し視線を上げる。
大悟
「……俺は、その気持ち……よくわかるぜ」
上を見ながら答える。
大悟
「俺も親父に会った時――うれしいって気持ちよりも、怒りが込み上げてきた」
佳織は黙って聞いている。
佳織
「……そっか」
佳織は腕を組む。
佳織
「……どうしたらいいんだろう」
海斗
「おいおい」
海斗がニヤッと笑う。
海斗
「佳織ちゃん、そんな難しい顔は似合わないぜ?」
蓮が嫉妬する。
蓮
「お前、表出ろゴラ」
海斗
「はあ!?なんでだよ!」
蓮
「余計なこと言ってんじゃねえ!」
月菜
「もう……2人とも」
月菜が少し呆れながら微笑む。
大悟
「はは……相変わらずだな」
佳織もつられて笑う。
佳織
「……ふふっ」
佳織の表情が少し明るくなる。
佳織
「ありがとうみんな。もうちょっと頑張ってみる。無理にじゃなくて……ちゃんと向き合ってみる」
オリンポス ― 神殿・玉座の間
アポロン、アルテミス、アテナがそれぞれの玉座にいる。
そこへ――軽い足取りでヘルメスが戻ってくる。
ヘルメス
「お~ただいま~」
手をひらひらさせる。
アポロン
「おかえり、ヘルメス」
ヘルメス
「お前ら、自分の子にまた会ってきたんだろ?」
ヘルメスがニヤニヤしながら尋ねる。
アポロンは苦笑する。
アポロン
「ああ。だが、うちの蓮には“しばらく来るな”と言われてしまったがな」
アルテミスもため息混じりに言う。
アルテミス
「うちの月菜もよ。“勝手に部屋まで来ないで~”って」
肩をすくめる。
アルテミス
「本当に思春期の子は……」
ヘルメス
「そういや~アルテミスの子、いくつだっけ?」
アルテミス
「16よ」
ヘルメス
「へえ~。うちの子と一緒じゃねえか」
(どこか楽しそう)
少し離れた玉座にいるアテナは、静かにそのやり取りを見ている。
アテナ
「……こうやって」
(静かに)
アテナ
「子供に会えるあなたたちがうらやましいわ」
一瞬、空気が止まる。
アポロンとアルテミスがわずかに視線を向ける。
ヘルメスは少しだけ真面目な顔になる。
ヘルメス
「……」
ヘルメスが軽く頭をかく。
ヘルメス
「まあ……そのうち会えるんじゃねえの?」
あえて軽く言う。
アテナ(心の声)
(……愛梨……あなたは……17年も会いに来なかったこんなひどい母をどう思っているの?)
アレスの宮殿
重苦しい空間。壁一面に並ぶ武器。
赤い光に包まれた宮殿。
アレスが玉座に座っている。
その前に跪くポボス、デイモス、レムス。
ポボス
「アテナの娘が……ヘスティアの娘の近くにいました」
アレス
「……何だと?」
アレスが低く唸る。
ポボス
「ですが……幸いにも、ヘスティアの娘に協力する気はないようで……」
アレスの目が見開く。
アレス
「バカ者!」
宮殿内に怒号が響く。
アレス
「今はその気がなくとも、いずれ気が変わったらどうする!」
アレスは立ち上がってゆっくりと剣を手に取る。
アレス
「……ヘスティアの娘よ……次は必ず――俺の手で仕留める……!」
アレスは振り返る。
アレス
「行くぞ」
ポボス
「はっ」
デイモス
「ははっ!」
レムス
「……楽しみだな」
皆不敵な笑みを浮かべる。
扉が開く。
暗い空へ――彼らが進み出す。
ヘパイストスの宮殿
激しく火花が散る。
ヘパイストスが鉄を打っている。
ガンッ!ガンッ!
その手が――止まる。
ヘパイストス
「……」
ヘパイストスがわずかに眉をひそめる。
ヘパイストス
「……アレスの野郎がまた動いたのか」
炉の炎が揺れる。
第6話 完
