宮廷賢者アルトリア 第12話「賢者学校に幽霊出没!?」
第12話「賢者学校に幽霊出没!?」
軍事演習場
宮殿の南に広がる広大な軍事演習場。
朝の空気の中、騎士団や兵士たちが剣術訓練や隊列訓練を行っている。
剣がぶつかる音。
号令。
兵士たちの掛け声。
騎士たちの中心に立つのは――白銀の鎧をまとい、赤いマントを着たセリア。
彼女は剣を手に、訓練を指揮している。
セリア
「隊列を崩さないで!前列は盾を上げて!」
騎士達
「はっ!!」
騎士団が一斉に盾を構える。セリアは鋭い視線で全体を見渡す。
セリア
「次は剣術訓練。二人一組!」
騎士たちが組み合い、剣を構える。
金属音が演習場に響く。
その中で一人の騎士がセリアに挑む。
若い騎士が剣を振るう。
騎士
「はあああっ!」
しかし――
カンッ!!
一瞬で剣を弾き飛ばされる。
次の瞬間、セリアの剣が騎士の喉元に突きつけられていた。
騎士
「……!」
騎士は息を呑む。
セリア
「これが戦ならあなたの命はもうないわ」
騎士
「……はい」
セリアは剣を下ろす。
セリア
「剣は力で振るうものじゃない。相手の動きを見て、隙を読むの」
騎士
「はい!」
セリアは周囲の騎士たちを見渡す。
セリア
「あなた達は王国を守る騎士よ。自分の命だけじゃない」
一瞬の沈黙。
セリア
「国民の命も背負っているの」
騎士たちの背筋が伸びる。
騎士団
「はっ!!」
セリアは満足そうに頷く。
セリア
「よろしい。もう一度!」
騎士団
「はっ!!」
騎士たちが再び剣を構え、訓練を再開する。
その様子を少し離れた場所で見つめる
若い女性騎士、アリサ・フォルズが目を輝かせながらセリアを見ている。
アリサ(心の声)
(やっぱりすごい……セリア姫様……私も、あんな騎士になりたい……!)
剣の音が再び響く演習場。
王国最強の姫騎士、セリアの訓練は続いていた――。
軍事演習場 休憩時間
激しい訓練が終わり、騎士たちは休憩を取っている。
水を飲む者、地面に座る者。
セリアも水を一気に飲む。
セリア
「ふう~」
少し肩の力を抜く。
セリア
「生き返る~」
普段の凛々しい姿から少しだけ砕けた表情。周囲の騎士たちはその様子を見て少し和む。
宮殿の庭
そのころ――宮殿の庭を歩いているアルトリア。
アルトリアは周囲を見回す。
アルトリア
「ここって……」
少し考える。
アルトリア
「確か軍事演習場の近くだったよな?」
遠くから剣の音が聞こえる。
アルトリア
「なるほど……」
庭の通路に数人の侍女たちが歩いている。その侍女たちがアルトリアを見つける。
侍女A
「まあ……」
侍女B
「あの方……」
侍女C
「宮廷賢者の……」
侍女たちはひそひそ話す。
アルトリアはそれに気づく。
アルトリア
「え……?」
侍女たちは恥ずかしそうに頭を下げる。
侍女達
「お疲れ様でございます、アルトリア様」
アルトリア
「あ……どうも……」
少し戸惑う。
だが――少しだけ嬉しそう。
アルトリア(心の声)
(……悪くないな)
ちょっとだけ口元がにやける。
軍事演習場 遠く
休憩していたセリアが、水袋を持ったまま遠くを見ている。
その視線の先には――侍女たちに囲まれているアルトリアの姿。
アルトリアがちょっと嬉しそうにしているのが見える。
セリア
「……」
無言。
宮殿の庭
侍女たちは去っていく。アルトリアは1人になる。
アルトリア
「いや~……」
少し照れながら笑う。
アルトリア
「こういうのも悪くないな~――」
その時――後ろから冷たい感触。
アルトリアの首筋にそっと剣が当てられる。
アルトリア
「……」
ゆっくり固まる。
アルトリア
「……え?」
アルトリアは恐る恐る振り向く。
そこには――笑顔のセリア。
しかしその手には剣。アルトリアの首に向けられている。
セリア
「こんにちは♪」
一歩近づく。
セリア
「ア、ル、ト、リ、ア❤」
アルトリア
「ひ……姫様……」
アルトリアは慌てて両手を上げて後ろへ下がる。
セリアは笑顔のまま剣を向けて近づいてくる。
一歩、また一歩。
セリア
「最近……」
にこやかな笑顔。
セリア
「ずいぶん人気者みたいね?」
アルトリア
「い、いえそんな……!」
さらに後退。
セリア
「あとで……」
少し声が低くなる。
セリア
「ゆっくり……」
さらに近づく。
セリア
「話しましょうか?」
アルトリア
「ひぃぃぃぃ!!」
アルトリアは慌てて逃げ出す。
遠くで見ていた騎士たち。
騎士A
「……あれって」
騎士B
「宮廷賢者ですよね」
騎士C
「……頑張れ」
アルトリアの悲鳴が軍事演習場の空に響いた。
セリアの部屋
豪華でありながらも整然とした王族の私室。
壁には剣や甲冑が飾られ、どこか騎士らしい雰囲気の部屋。
アルトリアは少し落ち着かない様子で周囲を見ている。
アルトリア(心の声)
(……というわけで。姫様のお部屋に来てしまった……)
アルトリアは椅子に座りながら背筋を伸ばす。
落ち着こうとしているが、明らかに緊張している。
セリアが鎧を外しながら言う。
セリア
「シャワー浴びるから覗いちゃだめよ~」
アルトリアが即座に反応。
アルトリア
「のののの覗きません!!!!」
顔が真っ赤。
セリアはくすっと笑う。
セリア
「ふふ」
セリアは部屋の奥の浴室へ入っていく。
浴室
シャワーの水音が響く。セリアは長い白銀の髪を濡らしながら軍事演習の汗を流している。水が流れ落ちる。
セリアは少し頬を膨らませる。
セリア
「アルトリアったら」
シャワーを浴びながら思い出す。庭で――侍女たちに囲まれて、少し嬉しそうにしていたアルトリアの姿。
セリア
「侍女たちにモテモテだからって……」
少し不機嫌そうな顔。
セリア
「デレデレ……」
髪を洗いながら小さくつぶやく。
セリア
「デレデレ……」
少し声が強くなる。
セリア
「デレデレデレデレ……!」
セリアの部屋
アルトリアはシャワーの音を聞きながら固まっている。
アルトリア
「……落ち着け……何も考えるな。絶対に変な想像をするな」
しかし――シャワーの音。
アルトリア
「……」
顔が真っ赤。
アルトリア
「無理だあああああ!!」
慌てて頭を抱える。
浴室
セリアはシャワーを止める。
セリア(心の声)
(……まあいいわ)
少し微笑む。
セリア
「あとでゆっくり……」
少し意味深な笑顔。
セリア
「聞いてあげるから」
浴室の扉の向こうでは――まだアルトリアが一人で悶えていた。
浴室の扉が開く。
そこから現れたのは――先ほどまで鎧姿だった騎士ではなく、王女としての姿のセリア。白と蒼を基調とした美しいドレス。長い白銀の髪が整えられ、気品に満ちた姿。まさに王族の姫。
アルトリア
「……」
一瞬見とれてしまう。
アルトリア(心の声)
(き、きれいだ……)
しかし次の瞬間、アルトリアは慌てて視線を逸らす。
アルトリア
「ひ、姫様……お、お疲れ様です……」
セリアは微笑む。
セリア
「お待たせ」
そして――アルトリアの隣に座る。
距離が近い。
アルトリア
「……」
固まる。
セリアはそっと手を伸ばす。アルトリアの手の上に――自分の手を重ねる。
アルトリア
「!」
アルトリアの肩が跳ねる。
セリアは優しい笑顔。
セリア
「ねえ、アルトリア」
静かな声。しかし逃げ場はない。
アルトリア
「は、はい……」
セリア
「さっきのこと、詳しく聞かせてくれる?」
アルトリア
「え……?」
セリアの指がゆっくり動く。アルトリアの手を包み込む。
セリア
「侍女たちに囲まれて」
にこやかな笑顔。
セリア
「随分人気者じゃない?」
アルトリア
「い、いえそんな……!」
セリアの握る力が――少し強くなる。
アルトリア
「いっ……」
セリア
「ねえ」
さらに少し強くなる。
セリア
「何を話していたの?」
アルトリア
「ふ、普通の挨拶です!」
セリアの笑顔は変わらない。しかし――握る力は徐々に強くなる。
アルトリア
「い、痛い……!」
アルトリア(心の声)
(何で……!?何でこんなに力が強いんだ……!?どこにそんな力があるんだ!?)
セリア
「ふーん」
さらに少し力が入る。
アルトリア
「ひ、姫様……!」
セリア
「侍女たちに囲まれて……嬉しそうだったけど?」
アルトリア
「ち、違います!」
アルトリアは必死。
アルトリア
「ただ挨拶されただけで……!」
セリアは少しアルトリアに顔を近づける。
セリア
「本当に?」
アルトリア
「ほ、本当です!!」
数秒の沈黙。
セリアの目がアルトリアをじっと見つめる。アルトリアは逃げられない。
やがてセリアは手の力をゆるめる。
セリア
「……まあいいわ」
アルトリア
「はぁ……」
やっと解放される。アルトリアはぐったり。
しかしセリアは微笑みながら言う。
セリア
「でもね、アルトリア」
アルトリア
「……?」
セリアはアルトリアの耳元に顔を近づける。
セリア
「あなたは宮廷賢者なんだから、変な女に捕まったら困るの」
アルトリア
「え?」
セリアは椅子から立ち上がる。そして振り返る。
セリア
「……私が困るから」
アルトリア
「……?」
アルトリアはまだ状況を理解していない。その様子を見てセリアは小さくため息をつく。
セリア(小声)
「……ほんと鈍いんだから」
アルトリアはまだ首をかしげていた。
アルトリアの家・夜
書棚にびっしりと本が並ぶアルトリアの家。
机の上には書物と資料が山のように積まれている。
その部屋にいるのはアルトリア、そして泊まりに来ている甥のピーターとリオン。
アルトリアは本棚から数冊の本を取り出す。
アルトリア
「これ、読む?」
本を差し出す。
ピーターとリオンは同時に目を輝かせる。
ピーター
「はい叔父上!」
リオン
「ありがとうございます、叔父上」
アルトリアは少し苦笑する。
アルトリア(心の声)
(……なんかそう呼ばれると変な感じするんだよな~)
アルトリアは2人を見る。ピーターは元気で好奇心旺盛で、リオンは落ち着いた雰囲気。
アルトリア(心の声)
(ピーターはシャルル兄上の息子、リオンはハンス兄上の息子)
2人を見つめる。
アルトリア(心の声)
(2人とも……兄上たちが亡くなった時は母親のお腹の中だった。だから父親の顔を知らない)
少し静かな空気。
しかしピーターが元気に口を開く。
ピーター
「そうだ叔父上!」
アルトリア
「ん?」
ピーター
「最近、学校で変な噂があるんです!」
リオンも静かに頷く。
リオン
「賢者学校で……幽霊が出ると」
アルトリア
「幽霊?」
ピーターは身振り手振りで話す。
ピーター
「そうなんです!夜になると校舎で白い影が出るって!」
リオン
「図書塔の廊下で見たという学生がいます」
ピーター
「あと、誰もいない教室から足音がしたとか!」
リオン
「魔導灯が突然消えたという証言もあります」
アルトリアは興味深そうに聞いている。
アルトリア
「ふーん……」
ピーター
「みんな怖がってて、夜の勉強会がなくなったんです!」
リオン
「先生たちも調査しているようですが、原因は不明です」
アルトリアは腕を組む。
アルトリア
「……なるほど」
少し考える。
アルトリア
「幽霊ねえ……」
アルトリアは少し笑う。
アルトリア
「本当に幽霊だったら面白いけど」
ピーター
「叔父上、幽霊信じるんですか?」
アルトリア
「いや」
少し真剣な顔。
アルトリア
「でも、幽霊の噂っていうのは大抵――誰かが作ったものだ」
ピーター
「誰かが?」
リオン
「……何かを隠すため」
アルトリアはリオンを見て微笑む。
アルトリア
「いいところに気づいたね」
アルトリアは椅子から立ち上がる。
アルトリア
「……面白い」
少し目が輝く。
アルトリア
「今度確かめに行こう」
ピーター
「えっ!?」
リオン
「どこへ?」
アルトリアはにやりと笑う。
アルトリア
「賢者学校に」
宮殿 廊下
宮殿の長い石造りの廊下。
窓から朝の光が差し込み、衛兵や侍女たちが行き交っている。
その廊下を歩きながら話しているイルハレム、ジェームズ、ダイム。
イルハレム
「聞きましたか?」
ジェームズ
「何をだ?」
イルハレム
「最近、賢者学校に幽霊が出るって話」
ジェームズは少し眉を上げる。
ジェームズ
「幽霊?そんなのがいるのか?」
ダイムは腕を組む。
ダイム
「俺も聞いたぞ。なんでもそれがきっかけで夜の勉強会がなくなったとか」
イルハレム
「はい。僕の親戚が2人そこに通ってるんですけど」
ジェームズ
「へえ」
イルハレム
「夜になると校舎に白い影が出るとか、誰もいない教室から足音がしたとか、魔導灯が突然消えたという証言もあるらしいです」
ジェームズ
「……それは確かに不気味だな」
ダイム
「誰かのいたずらじゃないのか?」
イルハレム
「どうでしょう?」
3人は廊下を歩きながら話を続ける。
その少し離れた場所。
柱の陰から――1人の女性騎士がそっと覗いている。
アリサはダイムを見つめている。顔がほんのり赤い。
アリサ(心の声)
(ダイム殿……)
ダイムが歩く姿を見つめる。
アリサ(心の声)
(今日もかっこいい……)
目を輝かせている。
その時、ダイムがふと後ろを振り向く。
ダイム
「?」
アリサ
「!!」
アリサは慌てて柱の陰に隠れる。
アリサ(小声)
「きゃっ!」
ダイム
「……?」
少し首をかしげる。
ジェームズ
「どうした?」
ダイム
「いや、気のせいか」
3人は再び歩き出す。
アリサは胸に手を当てている。
アリサ(心の声)
(びっくりした……)
少し照れながらつぶやく。
アリサ
「やっぱりダイム殿……」
少し嬉しそうに笑う。
アリサ
「かっこいい……」
廊下の向こうでは3人の話がまだ続いていた。
レオニスの部屋
重厚な王の私室。
壁には地図と軍旗、書棚が並び、王族たちが集まっている。
レオニスの前に立つのはアルトリア。その周囲にはガイナス、アグニス、ドルゴン、セリア、エリス、ユリナがいる。
アルトリア
「……ということで、もう一つご報告があります」
レオニス
「何だ?」
アルトリア
「賢者学校で最近噂になっている幽霊の件です」
レオニス
「賢者学校に出てくる幽霊だと?」
ガイナスが思い出したように言う。
ガイナス
「ああ、あれですよ。最近夜になると出てくるという噂の」
アルトリアは軽くうなずく。
アルトリア
「はい。甥っ子達が賢者学校で聞いた話なのですが……」
アルトリアはピーターとリオンから聞いた話を説明する。
夜になると校舎に白い影が出る、誰もいない教室から足音がする、魔導灯が突然消えるというところまで。
話を聞く王族たち。
セリア
「……」
エリス
「……」
ユリナ
「……」
3人の顔がだんだん青くなる。
セリア
「そ、そんなこと……」
エリス
「ほ、本当に……?」
ユリナ
「ゆ、幽霊……?」
3人とも小さく震えている。
アグニスは腕を組みながら笑う。
アグニス
「何だよお前ら?怖ぇのか?」
セリアが慌てて立ち上がる。
セリア
「ま、ままままさか!きききき騎士が幽霊なんて恐れるはずありません!そうよね!?」
エリスとユリナが必死にうなずく。
エリス
「は、ははははい!」
ユリナ
「そ、そうですとも!」
ドルゴンはその様子を見て小さくつぶやく。
ドルゴン(小声)
「……怖いんだな」
レオニスは腕を組み、少し考える。
レオニス
「……とはいえ、気になるのは確かだ。賢者学校は王国の中枢教育機関。噂が広がれば学生にも影響が出る」
レオニスはアルトリアを見る。
レオニス
「校長には私から話しておこう」
アルトリア
「ありがとうございます」
セリアが不安そうにアルトリアを見る。
セリア
「ア、アアアアルトリア……?」
アルトリア
「?」
セリア
「ほ、本当に行くの……?」
アルトリアは平然と答える。
アルトリア
「はい」
セリア
「……」
セリアの顔がさらに青くなる。
ドルゴンが小さく笑う。
ドルゴン
「姉上も行きますか?」
セリア
「い、行くに決まってるでしょう!騎士として当然よ!」
だが小さくつぶやく。
セリア(小声)
「……本当に幽霊だったらどうしよう……」
アルトリアはそれを聞いて少し苦笑した。
夜 賢者学校
月明かりに照らされる巨大な石造りの校舎。
昼間とは違い、人の気配はほとんどない。
静まり返った校庭にアルトリア、イルハレム、ジェームズ、ダイムの4人が到着する。
アルトリア
「ここが賢者学校か」
イルハレム
「夜に来ると雰囲気が違いますね」
ジェームズ
「確かに……少し不気味だ」
ダイム
「幽霊なんて本当に出るんですかね」
その時、後ろから足音。
振り向くと――セリアが歩いてくる。
その隣には若い女性騎士。
セリア
「待たせたわ。この子はアリサ。私と同い年で騎士団でも有望な若手なの」
アリサが一歩前に出て敬礼する。
アリサ
「アリサ・フォルズです!」
その瞬間、アリサの視線が――ダイムに向く。
ダイムを見た瞬間、アリサの顔がほんのり赤くなる。
ダイム
「?どうしたんですか?」
アリサ
「い!いえ何でも!」
慌てて視線をそらす。
アルトリアは周囲を見回す。
アルトリア
「……にしてもあいつら遅いな」
すると、遠くからピーターとリオン走ってくる。
ピーター
「叔父上!」
2人が合流する。
ピーターはイルハレムを見る。
ピーター
「イルハレム叔父上もご一緒でしたか」
イルハレム
「うん。君たちの話を聞いてね」
ピーターとリオンは皆に向かって頭を下げる。
ピーター
「こんばんは」
リオン
「よろしくお願いします」
セリアは2人の顔をじっと見る。
セリア
「……やっぱり」
アルトリア
「?」
セリア
「本当にアルトリアにそっくりね」
ピーター
「そうですか?」
リオン
「よく言われます」
アルトリアは少し照れる。
アルトリア
「そんなに似てるかな……」
しかし辺りは静まり返っている。
虫の声と風の音だけ。
セリアが周囲を見回す。
セリア
「……にしても、本当に幽霊なんて出ないわよね?」
アリサが無理に胸を張る。
アリサ
「そそそそそんなもの!いるはずああああありません!」
アルトリアが冷静に言う。
アルトリア
「わかりません」
セリア
「え?」
アリサ
「え?」
アルトリア
「まだ調べていませんから」
セリアとアリサの顔が一瞬で青くなる。
セリア、アリサ
「ひいぃいいいっっ!!!」
夜 賢者学校 校門
重厚な鉄の門をくぐり――
一行は静まり返った校庭へ足を踏み入れる。
夜の賢者学校は昼とはまるで別の場所のようだった。
風が校舎の窓を鳴らし、
木々がざわざわと揺れている。
アルトリア
「……」
アルトリアは校舎を見上げる。
アルトリア(心の声)
(夜の学校って……思ったより不気味だな……)
その瞬間、アルトリアの背中に――
ぴたっ
何かがくっつく。
アルトリア
「!?」
アルトリアが振り返ろうとする。
しかし背後から腕が伸びてきて――アルトリアの服をぎゅっと掴む。
セリア
「……」
アルトリア
「姫様?」
セリアはアルトリアの背中にぴったりくっついている。
セリア
「……」
アルトリア
「姫様?」
セリアは小声で言う。
セリア
「べ、別に怖いわけじゃないわ!夜道は危険だから警護してあげてるの!」
アルトリア
「……」
アルトリア(心の声)
(めちゃくちゃ怖がってる……)
セリアはアルトリアの背中にくっついたまま。
セリア
「さ、さっさと行きましょう!」
アルトリア
「は、はい……」
アルトリアは少し緊張しながら歩き出す。
アルトリア(心の声)
(ち、近い……!姫様が背中に……)
顔が少し赤い。
その後ろにも同じような光景。
ダイムの背中に――アリサがぴったりくっついている。
アリサ
「……」
ダイム
「……?フォルズ殿?」
アリサ
「き、騎士として!後方警戒をしているだけです!」
ダイム
「え?」
アリサ
「決して怖いとかそういうのではありません!」
ダイム
「……」
ダイムは少し困った顔。
後ろからそれを見ているイルハレム、ジェームズ、ピーター、リオン
イルハレム(小声)
「似たような状況ですね」
ジェームズ(小声)
「確かに」
ピーター(小声)
「叔父上、人気者ですね」
リオン(小声)
「ダイム殿も」
アルトリアとダイムは気づいていないが――2人の背中にはそれぞれ完全にくっついた女性がいた。
一行はゆっくりと暗い校舎の中へ進んでいく。
その時、校舎の奥から――
コツ……
コツ……
誰かの足音が聞こえた。
セリア
「……!」
セリアがアルトリアの服をぎゅっと掴む。
セリア
「き、聞いた?」
アルトリア
「……はい」
アリサも震えながらダイムの背中にしがみつく。
アリサ
「だだだだ誰かいます!!」
ダイム
「落ち着いてください!」
コツ……
コツ……
足音はゆっくり近づいてくる。
ピーター
「……叔父上」
リオン
「本当に……誰かいます」
ジェームズは周囲を見渡す。
ジェームズ
「この時間に学生がいるとは思えないが……」
イルハレム
「警備兵でしょうか?」
アルトリアは静かに考える。
アルトリア
「いや。この時間に警備は外周だけのはず」
足音が止まる。
静寂。
その時廊下の奥に――白い影が現れる。
セリア
「ひっ……!」
アリサ
「でででで出ましたあああ!!」
白い影はゆっくり動く。長い布のようなものが揺れている。
セリアはアルトリアの背中に完全にしがみつく。
セリア
「アルトリア!」
アルトリア
「姫様落ち着いて!」
アリサもダイムの腕を掴む。
アリサ
「騎士として戦います!」
ダイム
「震えてますよ!?」
影はさらに近づく。
ジェームズ
「……誰だ?」
ジェームズが声をかける。
ジェームズ
「姿を見せろ」
白い影が止まる。ゆっくり振り向く。
その正体は――長い白い寝巻きを着た老人だった。
老人
「……何じゃお前たちは?」
全員
「…………」
アルトリア
「……この人は確か……」
ピーター、リオン
「校長先生です」
セリア
「……」
アリサ
「……」
セリアとアリサの顔が真っ赤になる。
校長
「夜中にぞろぞろと何をしておるのだ?」
アルトリア
「実は、幽霊の噂を調べに来まして」
校長はため息をつく。
校長
「まったく。学生たちが怖がって眠れんと言うから、わしが見回りをしておるのだ」
ジェームズ
「では幽霊は……」
校長
「見ておらん」
セリア
「……」
アリサ
「……」
セリア(小声)
「よ、よかった……」
その瞬間、校舎の奥から――
バタン!!!
扉が勢いよく閉まる。
全員
「!!」
魔導灯が――
パチン……
消える。
廊下が真っ暗になる。
セリア、アリサ
「きゃあああああ!!」
アルトリア
「……」
アルトリアは静かに呟く。
アルトリア
「……これは」
アルトリアの目が鋭くなる。
アルトリア
「今のは“幽霊”じゃない」
ジェームズ
「どういうことです?」
アルトリア
「扉が閉まる音がはっきりしていた。魔導灯も同時に消えた。偶然とは思えない」
イルハレム
「つまり……」
イルハレム
「誰かが意図的に?」
アルトリア
「その可能性が高い」
ダイム
「誰がこんなことを?」
アルトリアは床を見る。
アルトリア
「……静かに」
全員が黙る。
アルトリアは廊下の床にしゃがむ。
アルトリア
「やっぱりだ」
ジェームズ
「何があるんですか?」
アルトリア
「足跡。ついさっきできたものだ」
ピーター
「本当だ……!」
リオン
「こちらの奥へ続いています」
アルトリア
「追おう」
セリア
「ええええ!?本当に行くの!?」
アルトリア
「はい。幽霊じゃないなら、人間です」
アリサ
「……」
アリサは震えながらダイムの後ろに隠れる。
アリサ
「で、でも……」
ダイム
「大丈夫ですよ。俺がいますから」
アリサの顔が真っ赤になる。
アリサ
「は、はい!」
一行は足跡を追い、廊下の奥へ進む。
古い木の扉の前で足跡が止まる。
ジェームズ
「ここだ」
扉には古いプレート。
「資料保管室」
アルトリア
「賢者学校の資料室か」
イルハレム
「夜にここへ?」
アルトリアはゆっくり扉を押す。
ギィ……
扉が開く。
その瞬間、部屋の奥で何かが動く。
ダイム
「誰だ!!」
影が慌てて逃げ出す。
アルトリア
「待て!」
影は窓へ走る。
ジェームズ
「逃がすか!」
ジェームズが飛び出す。
窓から外へ飛び出す影。その正体が一瞬見える。
イルハレム
「……人だ」
アルトリア
「やはり」
アルトリアの目が鋭くなる。
アルトリア
「幽霊騒ぎの正体は――誰かが作った“偽の幽霊”だ」
夜 賢者学校 資料保管室前
窓から外へ飛び出した影。
ジェームズ
「逃がすか!」
ジェームズがすぐに窓から飛び出す。
ダイム
「俺も行く!」
ダイムも続く。
外 校庭
影は校庭を走っている。
ジェームズ
「止まれ!」
ダイム
「逃げても無駄だ!」
2人が左右から回り込む。影は焦って立ち止まる。
影の正体は――賢者学校の学生。まだ十代半ばの少年。
少年
「ひっ……!」
ジェームズ
「動くな」
ダイム
「大人しくしろ」
少年は観念して膝をつく。
校舎内 資料保管室
アルトリアたちも外へ出てくる。
セリア
「捕まえたの?」
ジェームズ
「はい」
ダイム
「学生のようです」
アルトリアは少年の前に立つ。
アルトリア
「君、名前は?」
少年
「……ルークです」
アルトリア
「賢者学校の学生だね?」
ルーク
「……はい」
アルトリア
「幽霊騒ぎを起こしていたのは君か?」
ルークは黙る。
ピーター
「やっぱり人だったんだ」
リオン
「しかもルークだったのか」
アルトリアは静かに言う。
アルトリア
「魔導灯を消し、白い布を着て校舎を歩いた。そして足音をわざと響かせる。違うか?」
ルーク
「……」
少し震える。
ルーク
「……そうです」
セリア
「どうしてそんなことを?」
ルーク
「……」
ルークは下を向く。
ルーク
「夜の勉強会を……なくしたかったんです」
ジェームズ
「なぜだ?」
ルーク
「……資料室に入りたかった」
アルトリア
「資料室?」
ルーク
「賢者学校の古い研究記録がここにある。それを調べたかった」
イルハレム
「なら許可を取ればよかったんじゃ?」
ルーク
「学生は入れないんです。教師しか入れない」
アルトリア
「だから幽霊騒ぎで人を遠ざけた」
ルーク
「……はい」
アルトリア
「何を調べていたんだい?」
ルークは少し迷う。
ルーク
「……魔導理論の古文書です」
アルトリアの目が少し変わる。
アルトリア
「魔導理論?」
ルーク
「古代魔導の研究記録です」
セリア
「古代魔導?」
ルーク
「……王国の禁書に近いものです」
その場が少し静かになる。
アルトリア
「なるほど」
アルトリアは少し笑う。
アルトリア
「幽霊騒ぎを起こすほど研究がしたかったのか」
ルーク
「……はい」
アルトリアは校長を見る。
アルトリア
「校長先生」
校長
「うむ」
アルトリア
「この学生、罰は必要ですが……才能はあります」
校長
「……そうだな」
校長はルークを見る。
校長
「次からは正規の手続きを取れ。分かったか?」
ルーク
「はい……!」
セリアはほっとする。
セリア
「つまり……幽霊はいなかったのね?」
アルトリア
「はい。ただの人間でした」
アリサは大きく息を吐く。
アリサ
「よ、よかった……」
その時、校舎の屋根の上で――
コツ……
小さな足音。
全員が顔を上げる。
リオン
「……今の」
ピーター
「屋根?」
アルトリア
「……」
アルトリアは少し目を細める。
アルトリア(小声)
「……本当に人間かな?」
セリア
「え?」
その瞬間、屋根の上を白い影が横切った。
セリア
「きゃあああああ!!」
アリサ
「幽霊ぃぃぃ!!」
アルトリアは空を見上げながら呟く。
アルトリア
「……今度こそ本物かもしれない」
夜 賢者学校 校庭
屋根の上を――白い影が横切る。
セリア
「きゃあああああ!!」
アリサ
「幽霊ぃぃぃ!!」
セリアはアルトリアの腕にしがみつき、
アリサはダイムの背中に隠れる。
ジェームズ
「……!」
ジェームズは屋根を睨む。
ジェームズ
「今のは確かに何かいた」
ダイム
「人影だったな」
イルハレム
「でも屋根ですよ?どうやってあんなところを……」
ピーター
「……」
リオン
「……」
2人も屋根を見上げる。
アルトリアは少し考え込む。
アルトリア
「……いや。幽霊ではありません」
セリア
「本当に!?」
アルトリア
「屋根瓦が音を立てていました。つまり“重さ”がある」
ジェームズ
「つまり人間か」
アルトリア
「もしくは――動物」
その時、屋根の端から白い影がゆっくり姿を現す。全員が固まる。
影がぴょんと飛び降りて着地。そこにいたのは――大きな白猫。
全員
「…………」
猫
「にゃあ」
ピーター
「あ」
リオン
「猫だ」
セリア
「……」
アリサ
「……」
ダイム
「なるほど」
イルハレム
「これが白い影の正体だったんですね」
アルトリア
「おそらく夜に屋根を歩いていた。それを誰かが幽霊と勘違いした」
ジェームズ
「そこに学生の幽霊騒ぎも重なった」
アルトリア
「噂が広がったわけです」
セリアは膝から崩れ落ちる。
セリア
「……猫……?」
アリサも同じようにへたり込む。
アリサ
「猫……」
セリア
「猫で……」
セリア、アリサ
「ここまで怖がってたの!?」
ピーター
「お2人とも、すごく叫んでました」
リオン
「騎士が幽霊を恐れるはずないって」
セリア、アリサ
「言うなあああ!!」
アルトリアとダイムは苦笑する。
アルトリア
「これで幽霊騒ぎは解決ですね」
校長
「まったく。賢者学校始まって以来の騒動じゃ」
猫はのんびり尻尾を振る。
猫
「にゃあ」
セリアは猫を睨む。
セリア
「……あなたのせいで!」
猫は全く気にしていない。
アルトリアは空を見上げる。
アルトリア
「……まあ、平和な事件でよかった」
遠くで夜の鐘が鳴る。
賢者学校 校庭
事件の翌日。
校庭の花壇では――ルークがじょうろを持って水やりをしている。
幽霊騒ぎを起こした罰として、1週間花壇の水やりをすることとなったのだ。
ルーク
「はぁ……なんで幽霊騒ぎなんて起こしたんだろ……」
花壇の花に水をかける。
後ろから声。
校長
「反省しておるか?」
ルーク
「は、はい!」
校長
「しっかりやれよ?」
ルーク
「はい!」
その近くで学生たちが何かを囲んでいる。
学生A
「かわいい!」
学生B
「白い猫だ!」
中心には――昨日屋根を走っていた猫。
猫
「にゃあ」
校長
「この猫は学校で飼うことにした。学生のマスコットというやつじゃな」
学生たち
「やったー!」
少し離れた場所アルトリア、セリア、イルハレム、ジェームズ、ダイム、ピーター、リオンがその様子を見ている。
アルトリア
「……猫がマスコットか」
ジェームズ
「平和な結末ですね」
ピーター
「名前も決まったんですよ!」
アルトリア
「名前?」
リオン
「はい。“セルト”です」
アルトリア
「……セルト?」
ピーター
「セリア姫の“セ”と」
リオン
「アルトリア叔父上の“ルト”を取って」
ピーター、リオン
「セルトです!」
アルトリア
「えっ?」
セリア
「えっ?」
周囲
「…………」
イルハレム
「なるほど。仲の良いお2人ですね」
ダイム
「確かに」
セリアの顔が真っ赤になる。
セリア
「なななな何言ってるの!?」
アルトリア
「ぼぼぼ僕は関係ないよ!?」
ピーター
「でも似合います!」
リオン
「いい名前です」
猫(セルト)が近づく。
セルト
「にゃあ」
セルトは――アルトリアの足にすり寄る。
アルトリア
「うわっ!」
次にセリアの足にもすり寄る。
イルハレム
「完全に認めてますね」
セリア
「ちょっと!!」
アルトリア
「なんで僕まで!」
セルト
「にゃあ」
学生たちは笑っている。
セリアは顔を赤くしてそっぽを向く。
セリア(小声)
「……別に、悪くない名前じゃない」
アルトリアはそれを聞いて少し笑う。
空には青空。賢者学校には今日も平和な時間が流れていた。
第12話 完
