説得力のなさ
説得力のない違憲主張
違憲と言えばいいわけ?
議論している中で、説得力を持たせようとしてなのかはわかりませんが、違憲主張以外の解決方法があるのに憲法に違反する、と主張する方がいます。
しかし、これには説得力がないことがほとんどです。
日本では、具体的な事件の解決に必要な限りで違憲審査を行う付随的審査制が採用されているため、憲法判断は、憲法判断をしないと具体的事件を解決することができない場合に限られるからです。
違法申請と営業の自由
「違法申請」をめぐる議論の中で、営業の自由を侵害して違憲だ、と主張する“みー”という匿名アカウントがありましたが、誰の営業の自由を侵害しているのかを一切答えられないで違憲だと主張する杜撰さに“やらかしたねぇ”と思ったものです。
そもそも、
自由を侵害される営業主体がいない以上、誰の権利侵害も起こりえない。
営業の自由侵害を主張しなくても、違法な行政指導などの理由から事案を解決する道がある。
わけですから二重の意味で間違っています。
法の仕組みと違憲審査制を理解していないことが明白になった発言でした。
違憲主張の重み
違憲と言えば説得力がある、と思ってしまうのは素人の発想です。
違憲の主張が重みを持つのは、付随的審査制の下で、憲法判断をしないと具体的事案を解決することができない場合です。
その具体例として分かりやすいのは、尊属殺重罰規定違憲判決です。
尊属殺重罰規定違憲判決
あの悲惨な事件では、被告人である娘に執行猶予をつけられなかったので、被告人に執行猶予を付すべく尊属殺重罰規定を裁判所は違憲無効と判断しました。
事案の概要
被告人の女性は、14歳のときから実の父親による性的虐待を受け続けていました。父親は近親相姦を強要し、被告人はその父親との間に5人の子を産まされ、事実上の夫婦のような生活を強いられていました。
逃げ出そうとしても連れ戻されたこと、同居する妹にも同じ被害が及ぶことを恐れたこともあり、次第に逃げることを諦めていったとされています。
転機になったのは、職場で知り合った男性との恋愛でした。被告人がこの男性との結婚を父親に打ち明けたところ、父親は激しく怒り、彼女を自宅に監禁したうえで性交渉を強要し、罵倒を続けました。
そして監禁10日目に父親が「家を出るなら殺す」と叫んで襲いかかってきたため、被告人は絶望的な状況の中、そばにあった腰紐で父親を絞殺した、というのがこの事件の概要です。
尊属殺重罰規定での量刑は?
現在は削除されましたが、尊属殺重罰規定は、次のようになっていました。
自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス
(違憲判決により削除済み)
最高刑が死刑で、軽くても無期懲役(現在は無期拘禁刑)でした。
無期懲役を減軽する際は、刑法上、次のようになります。
無期拘禁刑の軽減は最大7年まで減軽可能(法律上の減軽。刑法68条二号)
酌量減軽により3年6か月まで減軽可能(刑法71条、68条三号)
そして、執行猶予を付けるには、3年以下の拘禁刑であることが必要です。
次に掲げる者が三年以下の拘禁刑…を受けたときは、情状により、…一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
(太字は眞榮里)
そうすると、上記被告人は、法律上の減軽、酌量減軽を経ても3年6か月までしか刑を軽減できないため、3年以下の拘禁刑に付けられる執行猶予を付けることができないわけです。
最高裁の判断過程
最高裁判所は、被告人が、15年もの間、父親から性的虐待を受けていた被害者でもあったことを考慮し、なんとか被告人に執行猶予を付して救いたかった(結論が先にあります)。
しかし、
いくら減軽をしても執行猶予を付すことができない。
刑法200条を前提とすると被告人である娘に執行猶予を付すことができないので、刑法200条を排除するしか娘を救う道がなかったわけです(刑法199条の殺人罪であれば執行猶予を付すことができます)。
そこで、
最高裁判所は、刑法200条を排除すべく、刑法200条が違憲(憲法14条違反)であるとの大英断を下しました。
民主主義を基本とする日本において、国会が定めた条文を違憲とするのは非民主的な国家機関である裁判所にとってハードルが極めて高いのですが、そのハードルをあえて超えて違憲と判断したのです。
それだけ被告人である娘を救うべきだと裁判所は判断したということです。
付随的審査制からの帰結
鬼検察
今となっては、あの当時(1973年)、検察側はよくもまぁ娘を起訴したよなぁ、人間なのか、鬼だな、と思いますが、尊属卑属の上下関係が今では想像できないくらい強固だった時代だったのでしょう。
画一性の罠
法の画一的適用はとても重要なことですが、なんでもかんでも画一的に考えて、具体の事情から目を逸らすことは単なる責任逃れです。
誰をどの程度保護するのかという価値判断は常にしていかないといけない。
他に道がない
その価値判断を導くために憲法判断をするしか道がない場合に初めて憲法判断をする、これが付随的審査制からの帰結です。
軽々しく違憲と主張しない!
具体的事案の分析を!
具体的事件の解決に必要ではないのに違憲と主張するのは、具体的事件をしっかりと分析していない証拠です。
具体的事件の分析を十分にしていないから地に足を着けた議論ができていないのです。
机上の空論
机上の空論だと言われるのはそういうことです。
具体的事件を見ずに空想の事案(杞憂)で議論をしようとするから安易に違憲と主張してしまうのです。
地に足を着ける
実務家であれば、具体的事実から出発して、最後は具体的事実に戻ってこないといけません。
具体的事実を押さえて初めて法解釈論も意味を持ちます。
地に足を着けていきましょう!
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