後悔と楽しみ
朝七時過ぎ、一台のバスが物流センターに向かって進んでいる。その中の一番後ろの席に私は友人の吉岡さんと並んで座っていた。
「遠藤ちゃん…。俺さ、正直この職場に入って後悔しているんだ…!」
不図吉岡さんが私に話を持ち出して来た。
「そうですよね。仕事のミスを注意されたという訳でなく「馬鹿」とか「頭悪いんじゃないの?」っていう言葉の暴力を振るわれた訳ですからね…。」
私は、この様に返事をした。尚、吉岡さんがやられたのはこれだけではなく、派遣先の(私達が指示を仰ぐ)正社員に言われた通り配置を移動しただけなのに、パートの女性から「何であんたこっち来てんのよ⁉︎」と絡んでこられたりしたのである。
「かつて職人で厳格な親父とお袋からは、人間関係なんかで仕事辞めんじゃねぇーって、厳しく言われちまって。
それはそうだよな…。生活する金を稼ぐ為に働いてんだから。それに、何処でも理不尽な事は有るし、攻撃的な奴は必ずいるからな。
春から俺は、友達が開く自転車屋で働けるのは決まっているけど、まだちょっと先だから…。
遠藤ちゃん。本当にごめんね。こんな環境悪い職場紹介なんかしたりして…。」
「いいえ。」と返しながら私は、自分も吉岡さんの父母から言われている様な心地を覚えた…! 勿論、私だって「何処の職場にも、嫌な上司、嫌な同僚はいるからね!」と、母から幾度も聞かされて来ている。改めて、何処の親も子に言う台詞は変わらないのだと思った。
今日も、吉岡さんと私はコンベヤーで流れて来た商品を、ラックという車輪付きの棚に移し置きをする作業に臨んでいる。この作業は、商品の重さと量、コンベヤーの速さとの闘いだ。身体の負担はかなり有るから、正直私は仕事に行くのが辛いな…と思う事も少なくない…。
軈て、昼食休みから戻って来た私は、八番の配置に行く様に言われる。そこには、吉岡さんが商品をコンベヤーから持ち上げて脇に積み重ねている姿があった。
「お疲れ様。僕はこの配置に行く様に言われました。ところで、吉岡さん昼飯は?」
「俺はまだなんだよ。」
次の瞬間、吉岡さんは表情を変えて言った。
「それと、凄え頭に来る事が有ったんだ! さっき、いつもなら正社員から昼休みに行ってって言われる時間なのに、それが無いから。無断で行く訳にもいかないから、自分で聞いて見ると「忘れてたわ。」って、申し訳無いっていう態度でない言い方されたんだ! ざけんじゃねー! 俺は物じゃねーんだよ!」
吉岡さんの怒りはもっともである。彼の怒りに満ちた顔は「こんな職場とっとと辞めて、大好きな自転車の仕事してーよ!」という気持ちも浮かび上がって来た事だろう…。
確かに、吉岡さんの言う様に、正社員は管理が役目なのに、それを果たせていない。だから、パートの中に好き勝手に振る舞う奴も出て、気に入らない人を執拗に苛め辞めさせるいう事も生じて了うのだろう…!
軈て、仕事が終わる時間が近付いて来た頃、私の配置を通り掛かった吉岡さんが声を掛けて来た。
「おっ! 遠藤ちゃん。沢山溜めたね。」
私は、商品が載ったラックを十三台程作っていたのだ。これは、商品を決められたロケーションに置いていく作業を担う部署に引き渡す為の物である。六台ラックが有れば、良しとされている。
「はい。これでちゃんと仕事をしていると示せますよね?」
「そうだね! バンバン溜めまくって見せつけてやろうぜ!」
この台詞から吉岡さんは、後悔や怒りを結果に転化しようとしているのかもしれない。
吉岡さんの顔を見ると、
「残りの人生は、大好きな自転車っていう趣味を、仕事と融合しなけりゃなって俺は思っている!」
と、先日職場と駅を結ぶバスの中で言っていた事を私は思い出す。 完
