求められたなら助けないと
私は、神奈川県に在る私鉄の駅で降りた。これから、職場の物流センターに向かう送迎バスに乗るのだ。
バスの中は、既に他の人達で席が埋まってる。仕方無く目を左右に向けて空いている所はないかと進むと、
「おはよう。藤田君!」
と、最後尾の席に座る増岡さんが挨拶をしてくれた。私は、彼女を目にするや否や、丁度良かったと思いながら、
「おはようございます。約束通りお誕生日プレゼントですよ。」
と言って、肩に掛けているショルダーバッグから、封筒を差し出した。
「んまあ! こんな大勢の人達の前で渡すなんて、賄賂の受け渡しみたいな場面ね。」
増岡さんは、笑いながら封筒を破いて開けた。
「あら、凄い嬉しいわ! スターバックスのスティックコーヒーじゃない。」
私は、増岡さんが想像以上の良い笑顔を見せてくれたから、選んだ手間が報われたと思った。
「スタバといえば、女神"様"を連想しません? 増岡さんにピッタリだと思ったんですよ。」
と私は発した。
「もー。彼は、最近そうやって、ご機嫌を取ってくんのよ。 でもね。山田ちゃん。口だけでなく、行いも素晴らしいの。」
増岡さんは、彼女と私の間に座る山田さんに話を振った。私が、バスに乗り込む前に、増岡さんは山田さんと会話をしていた様である。それにしても、誰とでも絡める増岡さんの社交的能力は、実に羨ましいと私は思った。
早速、増岡さんは山田さんに説明を始める。
「私が、堀越って男に散々セクハラをされて。そのせいで、怒りだけじゃなくて、そいつを目にしただけで、吐き気を催す様になっちゃって…。
上に、セクハラされてトラウマも有るから、堀越と一緒にしないでって、お願いを出したんだけど、中には、事情を知らない人もいるのよ。だから、私が仕事をしている所へ、アイツが現れた事が有って。そこで、近くにいた藤田君の袖を掴んで訳を話したのよ。そしたら、何て言ったと思う?」
山田さんに尋ねた。しかし、見当が付かないみたいで、
「うーん…。何て言ったのですか?」
と、困ったとも迷ったとも見受けられる顔をした。
「間髪入れずに、力強く「それなら僕がちゃんと守ります! 敵なんか視界に入れていけませんから、僕の身体を盾にして下さいよ。もっと奥に行って離れましょう。」って、言ってくれたのよ。」
「えー、ホントに凄い!」
「山田ちゃん。くれぐれも、藤田君みたいなアクションの出来る男を彼氏にしなさいよ。
ところで、藤田君と一緒に、商材の仕分けの仕事した事有るんだっけ?」
「ハイ。私が、これから無線機を持たされて、時間までに仕分けが完了したという報告をする事になった際に、藤田さん親切に教えてくれました。」
「今はもう、仕分けじゃない部署に移ったけど、また、藤田君が戻る事が有れば、一緒に無線機持ちたいですって上に言いなさいよ。周りの干渉したりする奴が少なくない中、彼は、そんな事しないからやり易いわよ。」
増岡さんの台詞に、山田さんはくすくす笑った。
「まあ、これは冗談よ! そんな、あの人とやりたい、この人とやりたいなんて、希望を受け入れないから。」
「判ってますよ。」
山田さんは、まだ笑っていた。
私も、ユーモアと社交性を持つ増岡さんや、奥ゆかしさを醸す山田さんは、一緒に仕事したいと思える女性である。
今はもう、ずっと一人で仕事をする部署に移ってしまい、これからその仕事をするが、彼女達のお陰で、寂しさを消して、テンションを上げる事が出来た。
私の言動で助かった人がいるなら何よりだと思う。
完
