【いつもの昼休み】 #せりふ三題噺様 投稿作品
▼今週のお題
■セリフ
「ずるいね」
■三題
・屋上
・春一番
・ローファー
【いつもの昼休み】
仕事場が入る殺風景なビルの屋上。
私はいつもそこで一人、昼休みを過ごす。
空が好きなのと、あまり職場の空気に馴染めていない私。誰もいない屋上が落ち着く。
人と話すのが苦手で笑顔がかたい私は一人でいるほうが楽だった。
いつも私だけの屋上。
なぜか、そんな静かな屋上に向かうコツコツ弾むような音が響いてきた。
(ガシャン!!)重たい扉が開いた
『み〜つけたぁ〜!』
振り返ると、この春に入社したばかりの河原さんがにっこり笑って立っている。
『ずるいねぇ〜先輩、屋上独り占めですかぁ〜?
誘って欲しかったなぁ〜。』
私は驚きのほうが強くて、頷くのも忘れていた。
もちろんこんな屋上にベンチなんて置かれていない。コンクリートの高くなった所に腰掛けて座っている私。その隣に河原さんはちょこんと座った。
ローファーの踵でコンクリートの壁を軽く蹴った後に鞄から何かを取り出して、ぐっとこちらに手を伸ばした。
『先輩っ、春一番どうぞ。』
私の手のひらに置かれた個包装の揚げ煎餅。
私は河原さんがボケで言ったのか、それとも天然で間違えているのか、しばらく迷った。
そして、私の口から出た言葉。
『これって…、揚げ一番…やろ?』
人生初のツッコミはこの静かな屋上ですら届かないような小さな囁き声だった。
『花がふわ〜っと咲いた形に甘辛いカリカリ!
そりゃ〜、一番だ!』
私の隣でこんなに笑う人を見たのは初めてだった。まるで異空間にいるような気さえしていた。
ずっと一人で過ごす屋上に、香りなんてなかった。
『千夏先輩、優しそうだから仲良くなりたいなぁ〜って。いつもお昼休みに探してたんですよ!』
河原さんの膨れっ面の可愛さに、私も少しだけ笑顔になる。
この揚げ一番を見つめて私はふと思った。
硬い甲羅に身を縮めて、人を避けて隠れるように生きてた私はまるで亀だ。
ぼ〜っとする私に河原さんが
『先輩、もしかして…春一番嫌いですか?』
『えっ…あ、これ…好きよ』
私は少し慌てた
小さく甲羅の中だけで生きる私に、春一番のように強く吹き抜けた、河原さんの笑い声。
つられて心から笑えてた私。
甘辛さが香る屋上は
珍しく賑やかだった。
【終】
こちらの企画に
参加させていただきました
❈ずっと揚げ一番の商品名を春一番だと最近まで思い込んでいました。そりゃ伝わらないなぁ〜。
