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内部監査人が見たマンション管理組合ガバナンス論第8話〜監査は「指摘して終わり」ではない


内部監査人が見たマンション管理組合ガバナンス論第8話〜監査は「指摘して終わり」ではない
― 改善を実行し、追い続け、次へ引き継ぐところまでがガバナンスである ―

監査というと、

問題を見つける。

指摘する。

報告書を書く。

そこで終わる仕事だと思われることがある。

しかし、公認内部監査人として私は、そうは考えていない。

むしろ重要なのは、

指摘した後である。

問題を見つけても、

改善されなければ何も変わらない。

改善すると決めても、

途中で止まれば同じである。

担当者が退任した瞬間に忘れられれば、

組織としては改善していない。

だから監査には、

フォローアップ

という考え方が必要になる。



指摘することが監査の目的ではない

監査人は、指摘件数を増やすために監査するのではない。

私が監事を務めていたときも、

「何件問題を見つけたか」

を成果だとは考えていなかった。

重要なのは、

問題が認識され、

理事会が判断し、

必要な改善が行われ、

その状態が継続することだった。

監査報告書では、法令・規約への適合性だけではなく、透明性・効率性・有効性の向上を重視し、理事会の意思決定を支える制度整備と判断材料の明確化を、監査の基本的な考え方としていた。

つまり監査は、

過去を評価するだけの仕事ではなく、将来の運営を改善するための仕事

でもある。



改善するかどうかを決めるのは監事ではない

ここは非常に重要である。

監事が、

「こう改善すべきだ」

と考えたとしても、

監事自身が業務執行を決定するわけではない。

監査対象は理事会である。

そして、

改善策を採用するかどうかを決めるのも理事会である。

だから私は、監査所見を出す際に、

単に、

改善してください。

とはしなかった。

理事会に判断を求める構造にした。

監査所見の通知にあたっては、

提案どおり実施する、

内容を変更して実施する、

別の方法を検討する、

今後の検討課題とする、

現状維持とする、

その他、

といった選択肢を設け、理事会自身に対応方針を決めてもらう形にしていた。

ここには、一つの考え方がある。

監査人が正解を決めるのではない。

監査人は、

問題とリスクを示す。

改善案を示す。

そして、

理事会が判断する。

これが役割分担である。



「改善しない」という判断もあり得る

監査で改善事項を示すと、

「必ず改善しなければならない」

と思われるかもしれない。

しかし、そうとは限らない。

改善には、

費用がかかる。

手間がかかる。

別のリスクが生じることもある。

マンション管理組合には人的資源の制約もある。

だから、

すべての監査所見を直ちに実施することが最適とは限らない。

重要なのは、

何もしないことと、検討した結果として実施しないことを区別すること

である。

監査人から指摘された。

理事会で検討した。

リスクを理解した。

その上で、

現状維持と判断した。

それなら、

その判断理由を残せばよい。

問題なのは、

判断そのものが行われないこと

である。



「保留」が最も危ない

実務では、

「今後検討します」

という結論がよくある。

それ自体は悪くない。

今すぐ判断できない問題もある。

追加資料が必要な場合もある。

予算措置が必要な場合もある。

しかし、

「今後検討する」

という言葉には大きなリスクがある。

いつ検討するのか。

誰が検討するのか。

何を確認するのか。

次の理事会で扱うのか。

次年度へ持ち越すのか。

これが決まっていなければ、

「検討する」は、実質的な放置

になり得る。

だから私は、

保留事項ほど進捗管理が必要だと考えている。



監査所見と進捗管理はつながっている

第7話で、

「理事が替わっても、課題をリセットさせない」

ためには進捗管理が必要だと書いた。

監査所見も同じである。

監査で改善事項が出た。

理事会が対応すると決めた。

ならば、

その後、

誰が担当するのか。

期限はいつか。

現在どこまで進んでいるのか。

何が障害になっているのか。

完了したのか。

が分からなければならない。

継続性の課題に対しては、制度文書化・台帳化・進捗管理表の整備によって、業務の可視化、記録の体系化、ノウハウの蓄積、引継ぎの円滑化を図るという構造が有効だと私は考えている。

つまり、

監査所見を進捗管理に載せる。

この接続が重要なのである。



フォローアップとは「もう一度監査すること」だけではない

フォローアップというと、

監査人が半年後にもう一度確認する。

そんなイメージがあるかもしれない。

もちろん、それも一つの方法である。

しかし、管理組合では監事自身も任期で交代する。

したがって、

フォローアップを監事個人に依存させてはいけない。

必要なのは、

組織としてフォローアップできる仕組み

である。

例えば、

監査所見。

理事会の対応方針。

担当。

期限。

進捗状況。

完了確認。

未完了の場合の次期引継ぎ。

これらが一覧で残っていれば、

監事が交代しても、

理事会が交代しても、

次の人が続きを確認できる。

つまり、

フォローアップも組織の記憶に組み込む

のである。



監事が退任したら、監査所見まで消えてよいのか

私は監事在任中、この点を強く意識していた。

監査人がいる間だけ改善活動が進む。

監査人が退任したら止まる。

それでは、

組織としての改善ではない。

監査所見は、

監事個人の宿題ではない。

理事会が対応すると決めた時点で、

管理組合の課題

になる。

だから、

未完了なら次期へ引き継ぐ。

次期理事会は、

「前の監事が言っていたこと」

として扱うのではなく、

前期理事会から引き継いだ管理課題

として扱う。

ここまで変換できて初めて、

監査所見が組織に残る。



改善事項と推奨事項は同じではない

ここでも優先順位が必要になる。

監査で発見されるものには、

重大な問題もあれば、

中程度のリスクもある。

さらに、

業務をより良くするための改善提案もある。

私は監査所見を重要度に応じて、

重大な法令・規約違反や高リスクの事項、

制度整合性・文書記録の不備など中程度のリスクの事項、

業務効率・透明性などに関する改善・推奨事項、

という形で区分して整理していた。

この区分には意味がある。

すべてを同じ緊急度で追えば、

理事会が疲弊する。

一方、

「推奨だから放置してよい」

ということでもない。

優先順位を付ける。

しかし、

未解決事項は見える状態にしておく。

これが重要である。



推奨事項も「消してはいけない」

例えば、

文書管理を改善する。

押印記録を整備する。

会計フローを見える化する。

進捗管理表を導入する。

これらは、直ちに重大事故を防ぐ事項ではないかもしれない。

だから、

他の重要業務より優先順位が低くなることはある。

しかし、

優先順位が低いことと、不要であることは違う。

実施しないなら理由を残す。

後で検討するなら課題として残す。

次年度へ送るなら明確に引き継ぐ。

こうすることで、

「そのうちやる」

が、

「いつの間にか消えた」

になるのを防ぐ。



説明責任は「改善したか」だけではない

理事会には、

監査所見にどう対応したかを説明できることも重要である。

改善した。

改善しなかった。

保留した。

別案を採用した。

どの判断でもよい。

しかし、

なぜそう判断したのか。

を説明できる必要がある。

監査とは、

理事会の判断を奪う活動ではない。

むしろ、

理事会が説明可能な判断を行うための材料を提供する活動

である。

だから監査所見の対応結果も、

理事会の説明責任の一部になる。



監査は「発見」から「改善の閉ループ」へ

私が理想とする流れはこうである。

問題を発見する

リスクを評価する

監査所見として示す

理事会が対応方針を決める

担当と期限を決める

進捗を見える化する

実施結果を確認する

未完了なら次期へ引き継ぐ

改めてフォローする

ここまで回って、

初めて監査が改善につながる。

監査報告書を提出したところで終われば、

これは開いたループである。

対応結果まで追って、

初めて閉じたループになる。

私は、管理組合の監査にも、この閉ループが必要だと考えている。



おわりに

監査は、

問題を見つけて終わる仕事ではない。

改善を強制する仕事でもない。

監査人が行うのは、

問題を明らかにし、

リスクを示し、

改善の選択肢を提示すること。

その上で、

理事会が判断する。

そして、

決めたことを実行し、

進捗を追い、

必要なら次へ引き継ぐ。

監査と理事会の意思決定がつながり、さらに進捗管理と引継ぎにつながる。

この一連の仕組みこそが、

改善を組織に定着させるガバナンスである。

私は監事を務めた経験から、

良い監査とは、良い指摘を書くことではなく、組織が改善を続けられる状態を残すこと

だと考えるようになった。

次回は、その改善を支えるもう一つの重要な要素を取り上げたい。

第9話 議事録は「記録」ではなく、意思決定の証拠である

理事会で議論した。

採決した。

決めた。

しかし、

後から「なぜそう決めたのか」が分からなければ、説明責任は果たせない。

議事録、採決記録、関連資料をどこまで残すべきなのか。

透明性と証拠性という視点から考えていく。



HI(Human Intelligence)
上場企業の公認内部監査人(CIA)|公認不正検査士(CFE)

企業で培ったガバナンス・リスクマネジメント・内部統制の知見と、マンション管理組合法人の監事として得た実務経験をもとに、「マンション管理組合にふさわしいガバナンス」を研究・発信している。

連載
『内部監査人が見たマンション管理組合ガバナンス論』

本稿の「監査所見を出した後、理事会自身が対応方針を判断し、その結果を記録する」という考え方は、監事としての実務経験に基づく一般的な運用の考え方として整理したものである。

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