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内部監査人が見たマンション管理組合ガバナンス論第1話〜それぞれの役割

上場企業の内部監査人が見たマンション管理組合ガバナンス論第1話〜理事会の意思決定を支える監事・管理会社・マンション管理士の役割
― 理事会の意思決定を支える監事・管理会社・マンション管理士の役割 ―


私は何を監査しているのか

こんにちは、HIです。

私は、公認内部監査人(Certified Internal Auditor:CIA)として、企業の内部監査に携わっている。

「監査」と聞くと、多くの人は監査法人や公認会計士による会計監査を思い浮かべるのではないだろうか。

決算書は適正に作成されているか。

財務諸表に重要な誤りはないか。

そのような監査である。

一方、私が専門としてきた内部監査は少し役割が違う。

もちろん会計も見る。

しかし、それだけではない。

組織は適切に運営されているか。

意思決定は適切なプロセスを経ているか。

リスクは適切に管理されているか。

内部統制は機能しているか。

そして、組織は継続的に改善されているか。

企業では、これらを総称してガバナンス・リスクマネジメント・内部統制と呼ぶ。

私は仕事として、その視点で企業を見てきた。



マンションの監事になって気付いたこと

縁あって、自分が住むマンション管理組合法人の監事を務めることになった。

当初、監事とは、

「決算書や会計資料を確認する仕事」

という程度の認識だった。

しかし、理事会へ出席し、議案書や議事録、契約書、管理規約を読み返すうちに、一つの疑問が生まれた。

私は、本当に会計だけを監査しているのだろうか。

答えは違った。

会計は監査対象の一部に過ぎない。

理事会は何を考え、

どのような情報を基に意思決定し、

その決定をどのように執行しているのか。

そこにこそ、監事が見るべき本質がある。

このことについては、次回、「独立性と客観性」という視点から詳しく述べたい。



管理組合最大の課題は「人的資源」である

企業には、

経理部がある。

法務部がある。

情報システム部がある。

内部監査部門がある。

それぞれが専門性を持ち、互いに補完し、牽制しながら組織を支えている。

しかし、マンション管理組合には、そのような専門部署は存在しない。

理事も監事も、多くは本業を持つ区分所有者である。

限られた時間と専門知識の中で、数千万円から数億円規模の資産や契約について意思決定を行っている。

さらに言えば、これは単なる「時間不足」や「知識不足」の問題ではない。

理事は区分所有者の中から輪番や抽選によって選任されることが多く、経営能力や専門性が選任条件になるわけではない。

任期も2年前後と短く、十分な引き継ぎが行われないことも少なくない。

企業で言えば、人材の採用、配置、育成、評価、承継という人的資源マネジメント(HR)が、ほぼ存在しない組織なのである。

私は、この人的資源の不在こそが、マンション管理組合の本質的な課題だと考えている。



専門家を活用する。しかし、任せきりにはしない

人的資源の不足を補うため、管理組合は外部の専門家を活用する。

その代表がマンション管理会社である。

管理会社は管理組合運営を支える重要なパートナーである。

一方で、管理委託契約の相手方でもある。

つまり、

支援する立場であると同時に、理事会から監督を受ける立場

でもある。

だからこそ、

信頼と牽制は両立しなければならない。

これは管理会社を疑うという意味ではない。

健全なガバナンスとは、信頼を前提としながらも、適切な監督と検証の仕組みを持つことである。



マンション管理士という第三者の専門性

私は、これからのマンション管理では、マンション管理士の役割はさらに重要になると考えている。

管理会社は業務執行を支援する専門家である。

一方、マンション管理士は理事会の意思決定を支援する第三者の専門家である。

その価値は法律知識だけではない。

理事会の意思決定品質を高めること。

そこにこそ、本当の価値がある。

管理会社が日常業務を支え、

マンション管理士が専門性を補い、

監事が独立した立場から理事会を監査する。

この三者が互いを補完し、互いに牽制することで、管理組合のガバナンスは成熟していく。



理事は交代する。しかし、組織は続いていく

理事は任期ごとに入れ替わる。

しかし、管理組合という組織は続いていく。

だからこそ必要なのは、

人ではなく、仕組みである。

議事録。

契約書。

管理台帳。

引継書。

そして、管理会社やマンション管理士が持つ専門的な知見。

これらを活用しながら、組織として知識や経験を次の理事会へ引き継いでいかなければならない。

重要なのは、管理会社へ任せることではない。

管理組合自身が継続性を持ち、その継続性を専門家が支えることである。

そして、その運用を監事が客観的に確認する。

私は、この「記録」「引き継ぎ」「牽制」の三つが、管理組合ガバナンスの土台になると考えている。



この連載で伝えたいこと

この連載は、管理会社を批判するものではない。

マンション管理士を礼賛するものでもない。

また、企業の仕組みをそのままマンション管理組合へ持ち込もうというものでもない。

私が伝えたいのは、

マンション管理組合には、限られた人的資源の中で、専門家を適切に活用し、互いに牽制しながら、より良い意思決定を行うガバナンスが必要である。

企業で培われたガバナンス、リスクマネジメント、内部統制の考え方を、マンション管理組合という小さな組織へ翻訳する。

それが、この連載のテーマである。

なお、本連載は回数をあらかじめ決めていない。

必要なテーマを、必要な深さで、一つひとつ積み重ねていきたい。

監査は目的ではない。

住民から信頼される管理組合をつくるための手段である。

この連載では、公認内部監査人として、そして一人の監事として、その実践と考察を共有していきたい。



HI(Human Intelligence)
公認内部監査人(CIA)|公認不正検査士(CFE)

企業で培ったガバナンス・リスクマネジメント・内部統制の知見を、マンション管理組合の現場へ翻訳し、「小さな組織にふさわしいガバナンス」を研究・発信。

連載
『公認内部監査人がマンションの監事になって見えたもの ― マンション管理組合ガバナンス論』



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