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内部監査人が見たマンション管理組合ガバナンス論第2話〜監事の価値は「独立性」と「客観性」

上場企業の内部監査人が見たマンション管理組合ガバナンス論第2話〜監事の価値は「独立性」と「客観性」にある



監査人に最も必要なものは何だろうか。

会計知識だろうか。

法律知識だろうか。

それとも豊富な経験だろうか。

もちろん、それらは重要である。

しかし、公認内部監査人(CIA)として私が最も重要だと考えるのは、

独立性と客観性

である。

この二つを失えば、どれほど豊富な知識や経験があっても、監査は信頼されない。

監査とは、組織から信頼を得るための活動だからである。



監事は「役員」だが、「理事会メンバー」ではない

ここはマンション管理組合で最も誤解されやすい点の一つである。

監事は管理組合の役員である。

しかし、

理事会の構成員ではない。

理事は理事会を構成し、議決権を持ち、意思決定に参加する。

一方、監事は理事会へ出席し、必要に応じて質問し、意見を述べることができる。

しかし、

議決権は持たない。

つまり、意思決定には参加しない。

これは監事の権限が弱いからではない。

独立性を守るためである。



なぜ意思決定に参加しないのか

もし監事が理事会の議決に参加したとしたら、どうなるだろうか。

自ら賛成した議案を、

後になって自ら監査することになる。

これでは客観的な監査は成り立たない。

だから監事は、

理事会の外から理事会を見る。

これが監査制度の基本的な考え方である。

監事は理事会と対立する存在ではない。

理事会から一定の距離を保ちながら、

独立した立場で理事会を支える役員

なのである。



独立性があるから、監査対象が定まる

独立性が保たれているからこそ、監事は明確な立場から監査対象を見定めることができる。

私は監査をするとき、

管理会社を監査しているという意識はない。

理事長個人を評価しているわけでもない。

監査対象は、

理事会による業務執行

である。

例えば、

* 総会決議は適切に執行されているか。
* 管理会社を適切に監督しているか。
* 契約締結の手続は適切か。
* 十分な資料と議論を経て意思決定しているか。
* 改善事項は継続的にフォローアップされているか。

これらを確認することが監事の役割である。

つまり、

監査対象は業務執行そのものであり、その業務執行の主体が理事会なのである。



管理会社を監査するのではない

ここも誤解されやすい点である。

管理会社は管理組合にとって重要なパートナーである。

一方で、管理委託契約の相手方でもある。

そのため、

管理会社を監督する責任は、

理事会

にある。

そして監事は、

理事会が管理会社を適切に監督しているか

を監査する。

つまり、

監査対象は管理会社ではなく、

理事会による管理会社への監督

なのである。

この視点は、マンション管理組合のガバナンスを考える上で極めて重要である。

前回述べたように、理事会はおおむね2年ごとに入れ替わる。

そのため、管理組合は組織としての知識や経験を蓄積しにくい。

だからこそ、

管理会社やマンション管理士は、管理組合の継続性を支える重要な役割を担う。

そして監事は、

その仕組み全体が適切に機能しているか

を独立した立場から監査するのである。



客観性とは「証拠で判断すること」

監査は感想を書く仕事ではない。

「私はこう思う。」

ではなく、

「事実はどうか。」

を確認する仕事である。

議事録は残っているか。

理事会で十分な議論が行われたか。

資料は意思決定に足りていたか。

利益相反は整理されていたか。

区分所有者に十分説明できる内容になっているか。

こうした証拠を積み重ねて判断する。

これが監査における客観性である。



監事が見ているもの

私は会計だけを見ているのではない。

見ているのは、

理事会の意思決定プロセス

である。

さらに言えば、

その意思決定が、

区分所有者に対して説明できるものになっているか。

透明性は確保されているか。

手続は妥当だったか。

説明責任を果たせる状態になっているか。

これらを確認している。

私が見ているのは理事個人ではない。

理事会という組織が、区分所有者から託された責任を果たせる状態になっているか。

その一点である。



おわりに

監査とは、

理事会の失敗を探す仕事ではない。

理事会を困らせる仕事でもない。

理事会が区分所有者から信頼され続ける仕組みを支える仕事である。

そのために、

監事は理事会の一員ではなく、

独立した立場から理事会を観察し、

レビューし、

監査する。

独立性があるから客観性が保たれる。

客観性があるから説明責任を支えられる。

そして、その説明責任が管理組合への信頼につながる。

私は、この「独立性」と「客観性」こそが、監事制度の存在意義そのものだと考えている。

次回は、

「管理組合最大の課題は人的資源である」

という視点をさらに掘り下げ、なぜ管理会社やマンション管理士という専門家が必要なのか、そして専門家をどのように活用し、牽制しながら理事会の意思決定品質を高めていくべきかを考えていきたい。



HI(Human Intelligence)
公認内部監査人(CIA)|公認不正検査士(CFE)

企業で培ったガバナンス・リスクマネジメント・内部統制の知見を、マンション管理組合の現場へ翻訳し、「小さな自治組織にふさわしいガバナンス」を研究・発信している。

連載
『マンション管理組合ガバナンス論 ― 公認内部監査人が見た理事会の意思決定 ―』



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