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【短編】線香花火の、

 恋に似たきらめきを、線香花火のなかに見つけた。その弱い光が壊れないようにそっと花火を摘まむ宇衣さんの指先と、夏の終わりのような焦げたにおい。もしそれを恋と呼ぶのなら、僕らは夏に恋をしているのだろうか。

 線香花火の弾ける音と、僕にしか聞こえないはずの鼓動が混じり合う。宇衣さんがちらりとこちらを見た瞬間、夢と恋と現実が攪拌されていくような心地になる。川辺の夜風は、もう冷たい。それでも、僕はまだ恋に微睡んでいる。

 線香花火が地面に落ちた。宇衣さんが微笑んだ。僕は新しい花火に火をつける。それを宇衣さんに手渡したとき、ほんの僅か指先が触れる。目と目が合えば、また僕は渦に飲み込まれていく。
「……楽しい?」
 そう訊いた僕に、宇衣さんは首を傾げてみせた。「敦は?」そう訊き返す宇衣さんの瞳に、花火がおぼろげにきらめいていた。
「楽しい」
「私も」
 宇衣さんが微笑む。夜風が頬を冷やす。僕らはふわりと夏の夜に浮かび上がり、宵闇に弾ける線香花火の一部になっていく。ああ、僕らは夏になるのだ。人は恋の果てに、夏になる。それはあらかじめ世界に定められた絶対的な制約かもしれないし、僕らが二人だけで結んだ約束かもしれなかった。

 とにかく、僕らは線香花火になって、夏になった。それは決して比喩でもなければ、眠りに落ちて見た夢でもない。僕らはひとときだけ、夏の一部になった。それを人は恋と呼ぶのだと、気付かないままに。

「……夏だね」
 宇衣さんが呟いた。僕らは夏の夜空から引き戻されて、一人と一人になった。線香花火が弾けて落ちる。月明かりが宇衣さんの白い頬を仄かに照らす。
「夏、だね」
「ねぇ、敦」
「うん」
「このまま、夏でいようね」
「……うん」
 新しい一本の花火に、二人で火をつける。触れ合う指先が、仄かに熱を持つ。指先だけが、触れている。指先が触れ合うだけで、僕らは夏に飲まれていく。瞬きの間にまた、僕らは夏になっていく。一人と一人は二人になって、火花になった。火花は次第にきらめきになって、僕らは夏という概念になっていく。入道雲、向日葵、蝉時雨、夕立。それらはすべて恋で、僕らそのものだった。

 弾けて、消える。その度に僕らは夏に火を灯した。二人で、夏になって。



あとがき
 『宇衣』という名前は、櫻坂46の山川宇衣さんよりお借りしました。ういたんかわいい。天使。

 読んでいただいた方はわかるでしょうが、超実験作です。恋愛小説というより幻想小説のような気もする、わかんないけど。酒無しでは書けない(冗談)

それではまた。TALESにも載せてるから、他の作品とあわせてよろしくね。


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