【短編】山神
住田は揺れる笹薮に銃口を向けた。
相手はおそらく、手負いの人喰いだ。しかも、熟練者の田上がやられるほどの熊だとすれば、相当の猛者に違いない。
そう考えていると、笹薮に向けた銃口が微かにぶれるのがわかった。
山菜採りの町民が食われたのは、一週間前のことだった。
滅茶苦茶になった遺体を見つけたのは、田上だった。ヨシ婆と呼ばれていたその女性と田上は、家族ぐるみで長年の付き合いがあった。
田上は激怒し、猟友会としてではなく、単独で山に入った。
そうして、彼は山へと消えたのだ。
住田は少し余所へ行っていた意識を引き戻した。笹薮の揺れは大きくなる。いよいよ、そのときだ。
獲物が出てきた瞬間、住田は引き鉄に触れた指先を離した。
――人?
笹薮から出てきたのは、一組の男女のようだった。彼らは裸で抱き合っているようで、女と思われる方は後ろ姿であった。丁度、歓喜天の仏像のように、彼らはぴったりと抱き合っている。女の髪は尻のあたりまで伸びていて、髪というより獣の体毛のようだった。その髪に隠れて、男の表情が見えない。
――こんなところで、お盛んなこって。
阿呆の命などどうでもいいが、件の熊にやられてしまうと色々面倒だ。そう思い声をかけようとした住田は、彼らの足を見て息を呑んだ。
髪の長い方の足が、男の足に絡みついている。「足を絡める」などという生やさしいものではない。獲物を締め上げる蛇のように、ぎりぎりと音でもしそうなほど、男の足に絡み付いているのだ。男の足は赤黒く変色している。
そのとき、横風が吹いて長い髪がなびいた。髪の隙間から男の顔を見て、住田は絶句した。
――田上さんでねえか。
住田は自分の身体が震えるのがわかった。
田上に纏わりついているあれは、どう考えても人間ではない。もしかしたら、この山の神かもしれない。
ただ、今のままでは田上が生存しているかさえわからない。
――どのみち、撃つしかねがべな。
住田は銃を構えた。散弾銃ではなく、ライフル銃でよかった。あの女の頭を撃ち抜けば、田上は逃げられるはずだ。
そのとき、風の向きが変わった。
背中を撫でた風を感じた瞬間、「まずい」と思った。風はまっすぐ、田上の方へ向かっていく。
風が女の髪を撫でた瞬間、その首が古い玩具のようにきりきりと回った。
こちらを向いた女には、目や鼻はなかった。ただ、顔一面に広がった大きな口が、にちゃりと音を立て笑ったように見えた。
だが、住田は「その瞬間」を見逃さなかった。
こちらに向かおうとした女の身体が、田上の身体から完全に離れたその瞬間、住田は引き鉄を引いた。
銃弾は女の頭に直撃した。それにもかかわらず、化け物はけたたましい叫びと共にこちらに向かってくる。
――装填が間に合わねえ。
住田は死を覚悟した。
そのとき、横から大きな黒い塊が現れ、化け物を弾き飛ばした。
住田は銃弾を装填しながら、黒い塊を確認する。
通常より二回りは大きい、ツキノワグマだった。月輪が二重にかかっている。長年猟師をしている住田が、始めて見る個体だった。
熊はばきばきと音を立てながら、化け物を喰らっている。化け物の断末魔が数度山に響いて、その後で静寂が訪れた。
住田は熊に警戒しながら、田上に駆け寄る。既に、絶命していた。
熊は化け物の遺骸を咥え住田たちを一瞥すると、二人から遠ざかっていった。
住田はただ呆然として、それを見ていた。
田上の遺体を抱え下山してから間もなく、住田は猟師を辞めた。
今でも山の方から、獣とは違う声が聞こえてくることがあるという。
住田はその話を聞くたびに、あの恐ろしい日のことと二重の月輪を思い出している。
了(1467字)
あとがき
「#ホラー」にしたけど、ホラー…?
作者的には怖いんだけどな、熊(そっちかい)。
久しぶりにちょっと長いの書いたわ(少し前に書いた)。めっちゃ疲れた。最近もう駄目。小説書けない。
車移動しながら思いついて、帰ってきてから一気に書いた。
余談だけどさ、あまりにもモテないもんで、この際愛してくれるなら化け物でもいいです(冗談)。
…いや、やっぱりあの人がいいな。ほとんど諦めてるけど。
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
恋バナつまみに3時間飲みたーい!!!
#なんのはなしですか
#作品とあとがきの温度差
#作者はこれでも男
今度、あの人を花見に誘ってみる。忙しそうなので無理だとは思う。
万が一があったらご報告します。
…こんな変態鬱野郎と行きたくないかな…
※誘ったけど、駄目でした。
あ、誰か否定してくれてもいいんですよ?
「ナルは爽やか好青年だ」とか「スタイリッシュなイケメンだ」とか「忙しくなくてもナルと花見には行かないよ」だとか…
いかん、自分でとどめを刺してしまった。
※結果本当にとどめを刺されています。
そろそろやめないと、あとがきの長さがえらいことになる。
それじゃ、またね。
みんな今日も、自分を一番に考えて生きようね。
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