【短編】カマキリ
カマキリみたいな女と、夜道で出会った。
勘違いしないでくれ。俺は容姿で人を判断するような阿呆じゃないし、その女の皮膚が緑だったとか、そういうわけじゃない。顔がきっちり逆三角とか、交尾中にオスを喰い殺しそうとか、そういうのも関係ない。
ファッションは、あれだ。Y2Kっていうのか? 2DKみたいな。とにかく、今流行りっぽい感じだよ。顔も、美人の部類だろう。長い黒髪がとても綺麗だ。
まあ、30代にきっちり両足を突っ込んで、40代にどっちの足から入っていこうか悩む年頃の俺からすると、娘みたいな年齢の子。
……え、「何がカマキリみたいなんだ?」って?
両手に鎌を持っていることだよ。
死神みたいなやつじゃない。ホームセンターで売っている、園芸用のあれだ。それを両手に持っている。一目見て「やばい」より先に「カマキリみたいだ」って思った俺も変だとは思うけど。
たぶん、通り魔。
「……ほしいの」
その女がぽつりと呟く。思ったよりクール系の声。いや、それどころじゃない。
何が欲しいっていうんだ? 命か、金か?
……金がほしいのなら、通り魔じゃなくて強盗か。いや、どの道危ない。
でも、待てよ。もしかしたら「ほしいの」じゃなくて「干芋」だったかもしれない。それなら鞄に入っている。命の危機を脱せる。俺は鞄から、茨城産の干芋を取り出す。
「……やるよ」
「わあ、おじさんありがと〜。これが食べたかったんだよね……って違う!」
女は干芋を地面に叩きつけた。若い女の子もノリツッコミするんだな。呑気にそんなことを思った。
「私がほしいのは、知名度!」
女は叫ぶ。鎌を地面に置いて、スマホを取り出す。
「見て! 私のインスタ、フォロワー少ないの! だから、都市伝説ネタでフォロワー増やそうと思って……」
「……それで、自らが都市伝説になろうとした、と」
「そう、口裂き女。いいでしょ?」
女は胸を張って見せる。そうか、この子思ったよりずっとポンコツだ。とりあえず、命の危険はない。それはたしかだ。
「……あのな。『口裂き』じゃなくて、『口裂け』だよ」
「え?」
「人の口裂くんじゃなくて、自分のが裂けてるの。しかも、服装もそんなんじゃないし、武器はたしかハサミ」
「……そうなの? でも、この服いいと思うけどなあ」
女は自身の服装を確認する。俺はため息をつく。
「お洒落かもしれないけど、都市伝説ではないだろ」
「……たしかに」
「それに、そういうのって『都市伝説に出会った!』がバズるんじゃないのか? 『私、都市伝説です!』は、ただのイカれた子になるだろ」
「……ほんとだ」
女は愕然とする。そのとき、パトカーのサイレンが聞こえた。
女は銃刀法違反で現行犯逮捕された。
後々警察に聞いたところによると、誰かを傷つけたりはしていなかったようだ。ただ、自身のインスタをフォローするように伝えて、一緒に写真を撮っていたらしい。
女はパトカーで連行される前に、自身を”茉莉”と名乗った。
「また来るねー!」
茉莉はそう言って、手錠がされたままの手を振った。
「……もう来るなよ」
俺はため息をついた。ラーメンでも食って帰ろう。こういう日もあるさ、長く生きてると。
了

あとがき
ほんとになんのはなしでしょうね。
最近失恋しか書いてなかったので、ほんとこういうの久しぶり。腕が落ちている気がしないでもない。コメディは得意なジャンルだったんだけどな……。
まあ、『さよならの日々に』の連載も終了したし、コメディの実力も戻していこうと思います。頑張る。
※これを書き終えてから、連載を二つ始めました。
それじゃ、また後でね。
少し落ち込んでるから、頑張る。
いいなと思ったら応援しよう!
いただいたチップは、通院費と岩手紹介記事のための費用に使わせていただきます。すごく、すごーくありがたいので、よろしくお願いします。チップって名前にちょっとだけ違和感ありません…?