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物語の深淵をのぞき込む―斜線堂有紀が描く“痛みと美”

感情の輪郭があいまいになってしまいそうな日々の中で、
“これが言葉の力だ”と思わせてくれる作家がいる。斜線堂有紀。
1993年生まれ。大学在学中に発表した『キネマ探偵カレイドミステリー』で注目され、
以後はミステリー、ホラー、ライトノベル、SF、青春小説と、ジャンルを越境する物語世界を次々に構築。
そして、それらすべてに共通するのが――
「人間の本質に触れようとする真摯さ」です。

斜線堂の作品は一見、奇抜でトリッキーな設定に見えることが多い。
けれどページをめくるたびに、人間関係の機微、記憶の曖昧さ、言葉の残酷さといった、
“誰もが心のどこかに抱えている痛み”に読者自身が向き合わされていく構造になっている。

代表作のひとつ『楽園とは探偵の不在なり』では、
完璧な犯罪によって封じ込められた“楽園”で、探偵がいない世界の破綻と希望が描かれる。
タイトルの詩的な美しさと裏腹に、人の罪と赦しの可能性が静かに、そして激しく問いかけられる。

「楽園とは、疑う者のいない場所。だからこそ、誰も救えない。」
(『楽園とは探偵の不在なり』より)

また、『コールミー・バイ・ノーネーム』や『死体埋め部の悔恨と青春』といった
青春ミステリ・ダークファンタジー系の作品では、“生きる痛みを抱えた若者たち”の声なき叫びが濃密に描写される。
特筆すべきはその文体。瑞々しくも冷徹で、ユーモラスでありながら胸を抉る一行が差し込まれる。

さらに彼女は、『恋に至る病』『優等生以外は立ち入り禁止です。』のように、
現代社会やネット世代の人間関係のねじれを物語化する手腕にも長けており、
時代に対する感受性が鋭い“今を生きる作家”としての存在感も強まっている。

作家本人は、Twitterやインタビューでも明晰な言葉を発し続けており、
「小説とは、読者に“刺さる”ための刃物である」と語るほど、物語に対して誠実かつストイックな姿勢を貫いている。

その一方で、「登場人物たちに寄り添いたい」「救いのあるラストを諦めたくない」という、
物語を紡ぐ者としての“やさしさ”も絶対に忘れない人でもある。

読者として、時に癒され、時に痛みを感じ、
それでも読み終えたときには「また明日を迎えてみよう」と思わせてくれる――。
そんな“物語という対話”を体現する現代作家のひとり。
それが、斜線堂有紀です。

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