ウルトラマラソンにおけるカーボローディングの有用性と、当日の補給戦略のまとめ
はじめに
「レース前にパスタをたくさん食べる」「エイドでこまめに補給する」。
ウルトラランナーなら一度は聞いたことのある話だと思います。僕自身もなんとなく意識していました。
しかしなぜそれが必要なのか説明できませんでした。
この記事では、そもそも糖質を食べると体の中で何が起きるのか、なぜハンガーノックで足が止まるのか、そしてカーボローディングは本当に意味があるのか、最後に具体的な補給プランニングについて、論文ベースで調べてみたので解説します。
はじめに結論を
①ウルトラマラソンでカーボローディングは有用か?
カーボローディングは有用。
ただしフルマラソンのように「枯渇を防ぐ」ためというよりも、「前半の安定」と「レース中に不足しがちな糖質への備え」という意味合いが強い。
②レース中の補給戦略
LAKE BIWA2021の研究では、序盤にしっかり食べること、またレースを通して血糖の乱高下を起こさないことが大切という結果。
糖質の摂取量としては、現実的には30-40g/時で糖質を摂取するよう意識する。
以下で詳しく見ていきます!
できるだけ簡単な用語を使ったつもりですが、それでも小難しいところもあるので、目次から適宜興味がないところは飛ばして読んでみてください。
糖質を摂取すると体の中で何が起きるか
まず糖質を食べると、小腸でグルコース(ブドウ糖)に分解・吸収され、血糖値が上がります。これを感知した膵臓がインスリンを分泌します。
インスリンが作用すると、筋肉・肝臓・脂肪組織でそれぞれ異なる働きが起きます。
筋肉(GLUT4輸送体)
GLUT4という糖輸送体が細胞表面に移動し、グルコースを取り込みます。取り込まれたグルコースはグリコーゲンとして貯蔵されるか、ATPという物質に変換されてエネルギーになります。
ATPとは、「体が直接使えるエネルギーの単位」のことです。
糖質や脂肪はそのままではエネルギーとして使えず、必ずATPに変換されてから筋肉や脳の活動に使われます。糖質からのATP変換は速く、脂肪からの変換は遅い。
この速度の差が、ウルトラマラソン中の「糖質の重要性」に直結しています。
肝臓(GLUT2輸送体)
GLUT2は血糖濃度に比例して直接グルコースを取り込む、一種の「センサー付き輸送体」です。インスリンがなくても血糖を感知して反応できる点が筋肉と異なります。取り込んだグルコースをグリコーゲンとして貯蔵し、血糖が下がると逆に血液へ放出する「血糖の番人」です。
脂肪組織
インスリンが高い状態では、脂肪燃焼が抑制されます。これが「食後に脂肪が燃えにくい」理由です。
グリコーゲンの貯蔵量には上限がある
ここがウルトラマラソンにおけるハンガーノックの核心です。
筋グリコーゲンは約300〜400g(約1,200〜1,600 kcal)、肝グリコーゲンは約100g(約400 kcal)。合計で約400〜500g、カロリーに換算すると約1,600〜2,000 kcalがグリコーゲンとして体に蓄えられる上限です。
例えばフルマラソン(42km)で体重60kgのランナーが消費するカロリーは約2,500kcal、100kmのウルトラマラソンなら6000-7000kcal程度でしょうか。
つまり、どれだけカーボローディングをしても、消費量には絶対に届かない。これがウルトラの補給戦略の前提となります。
ハンガーノックはなぜ起きるか
3つのフェーズで理解する
フェーズ1(スタート〜1時間)
筋グリコーゲンが素早くATP(エネルギー)に変換されます。同時に肝グリコーゲンがグルコースとして血液に放出され、血糖値を維持します。この段階では体は安定しています。
フェーズ2(1〜2時間)
インスリンが低下して脂肪燃焼の比率が増え始めます。しかし先述のように脂肪はATPの産生が遅く、高強度運動の需要に追いつきません。そのため貯蔵されていた、肝臓のグリコーゲンも徐々に減り始めます。
フェーズ3(枯渇)
肝臓のグリコーゲンがゼロになり、血糖補給がストップします。結果血糖値が急落する。
これがハンガーノックの正体です。
なぜ脂肪では代替できないのか
でも脂肪が燃えてどうにかなるんじゃないの?という疑問もあるかと思います。
その理由は3つあります。
一つ目はフェーズ2で述べた速度の問題です。
二つ目は脳の問題です。
脂肪そのものは脳内に届くことが出来ない仕組みになっていて、脳はグルコースしかエネルギー源にできません。
そのため血糖が低下すると判断力低下・めまい・気力消失という症状が現れます。「足が止まる」だけでなく「頭が働かなくなる」のはこのためです。
三つ目の理由として、脂肪はそもそも糖質なしに完全には燃やせないという仕組みがあります。
脂肪をエネルギーに変換するためには、糖質の助けが必要なのです。そのため糖質が枯渇すると脂肪だけあっても、エネルギーへの変換が滞ります。
ウルトラマラソンにおいてカーボローディングは必要なのか
「カーボローディング」という言葉は2つの意味がある
マラソン大会に出る方などはカーボローディングという単語を耳にしたことがある方は多いかもしれません。
「カーボローディング」という言葉は、実は2つの異なる文脈で使われています。
① クラシカルな超補償(1960年代)
まずカーボローディングという概念は、1960年代のスウェーデンの研究に端を発します。
これは、激しい運動をして敢えてグリコーゲンを枯渇させた後に、テーパリングと高糖質食をとることで、「飢えた状況からの過補填」として通常の1.8倍以上のグリコーゲンが蓄積された、というものです。
実際に2025年ノルウェーのグループが発表したメタ解析でも、
サイクリングやランニング後の高糖質食によってグリコーゲンが統計学的に有意に補填されることが証明されています。
② 修正版テーパリング+高糖質食(現代の主流)
直前まで高強度トレーニングをしていた状態からレース1週間前に運動量を落とし(テーパリング)、同時に糖質摂取量を増やす方法です。
実際に僕たちが使うカーボローディングの文脈ですよね。「枯渇→過補填」ほどの劇的な変化はなく、「レース前に普段より多めに糖質を食べてタンクを満タンにする」というニュアンスです。
しかし実際にウルトラマラソンにおいてカーボローディングの有効性を検討したRCT(ランダム化比較試験)はありません。
なぜならウルトラマラソンという100kmのレース本番で「カーボローディングあり群 vs. なし群」を分けて研究を行うのは、倫理的にも実務的にも極めて困難だからだと思われます。
そのため「カーボローディングはウルトラマラソンに有効」というのは、現時点ではマラソン研究から推定した結果と言えると思います。
とはいえだからと言ってカーボローディングは無意味であるという証拠もありません。
グリコーゲンを可能な限り満タンにしてスタートすることが有害であるわけではなく、やるに越したことないという現実的な判断で皆さん行っているというのがリアルなとことかなと考えます。
レース中の補給について
LAKE BIWA 100研究(2024)が示したこと
龍谷大学の研究グループが、2021年のLAKE BIWA 100(100マイル・169km・標高差10,500m)参加者22名に対して、糖質摂取量と連続血糖モニタリング(CGM)を用いて走る速度との関係を調べました。
CGMというのはリブレという機械を用いるもので糖尿病の方などが普段の血糖測定をするのに使用されているものです。
(LAKE BIWAを研究題材にするなんて面白いですよね、ワクワクしてこの論文を読んでしまいました笑。)
結果として、上位完走者は下位完走者より糖質摂取量が有意に多く、特に前半での差が顕著でした。
さらに重要だったのが血糖の変動幅で、変動幅が少ないほど上位完走者が多い結果でした。
この研究が示した最も実践的な知見は「血糖を上げることより、乱高下させないことが速さにつながる」という点です。
推奨される糖質摂取量
ではどの程度糖質を摂取すればよいのでしょうか?
国際スポーツ栄養学会のポジションスタンドは、3時間を超える運動では最大90g/時の糖質摂取を推奨しています。
またViribayらの研究では、120g/時の摂取が90g/時や60g/時と比較して、筋ダメージを有意に低下させ、回復も早いことが示されています。
が、、120g/時も摂取するなんてまったくもって現実的ではありません。まして90g/時でさえ厳しいと思われます。
実際Arribalzaga らのシステマティックレビューでは、実際のランナーの摂取量は20〜40g/時(推奨の半分以下)に留まり、65〜82%のランナーが胃腸症状を経験したと報告されています。
LAKE BIWAの論文でも30~40g/時程度の摂取量となっていました。
つまり、
普通にウルトラマラソンに出場するにあたっては、40g/時も摂取出来れば万々歳と言えるでしょう。
なぜグルコース(ブドウ糖)+フルクトース(果糖)の混合が有効か
腸で糖質を吸収するために有利な方法があります。
それはグルコースだけでなくフルクトースも併せて摂取することです。
グルコースとフルクトースは両方腸で吸収される炭水化物ですが構造が異なります。
腸にはグルコース専用とフルクトース専用の吸収コースがあります。そのためグルコースだけとるのではなく、2つを組み合わせることで、1時間あたりの吸収量を引き上げることができます。
注意点としては、フルクトースは直接筋肉で吸収して燃料にできません。肝臓のグリコーゲンの補充と血糖の安定に貢献する形です。
つまりグルコースで筋肉に直接燃料を届け、フルクトースで血糖調整機能を維持するといった役割分担があります。
では実質的な補給手段はどうかというと、
市販のエネルギージェルやスポーツドリンクはすでにこの混合となっていることが多いです。
また米などは純粋なブドウ糖ですが、フルクトース(果糖)は文字通り果物にも多く含まれます。デーツなど多いですね。
なので、エイドでは米ばかり食べるのでなくフルーツも頂いたり、ジェルを携帯するという形がよいかなと思い
カーボローディングと補給プランの具体的な方法
カーボローディングの進め方

上記が摂取量の目安です。
体重60kgのランナーなら前日の糖質目標は600-720g。
白米1杯(150g)で糖質約55gなので、換算すると茶碗11〜13杯分になります。現実的には白米・うどん・パン・バナナ・スポーツドリンクを組み合わせていきます。
が正直僕はそんなに食べれたことはありません。。
上述のようにあくまで本番で血糖を下げすぎないことが大切であり、レース中に補給することを積極的に意識する方が良いかもしれません。
選ぶべき食材: 白米・うどん・食パン・バナナ・和菓子・スポーツドリンク
避けるべき食材: 豆類・玄米・ブロッコリー・高脂質の食品(消化が遅い)
カーボローディング後は体重が1〜2kg増えるのが正常です。
グリコーゲン1gに対して水分が約3g結合するためで、「脂肪で太った」わけではないのでご安心ください!
レース中の補給(チャレンジ富士五湖100kmを例に)
以下は実際にエイドで提供される食材を活用した補給プランの考え方です。
基本方針として毎エイド食べるようには意識します。
エイドは3~6km間隔程度では用意してくださっています。
僕の場合11-12時間くらいでゴール出来たらいいかなと思っているので、6.5-7分/kmくらいの計算になります。
すると、1時間に2~3エイドくらい立ち寄れそうです。
公式HPで発表されているエイドを見てみると、
どのエイドでも、主食とフルーツは大体用意してくださっています。
それに加えて給食として、ドーナツ、ドライフルーツ、カステラ、ワッフル、チョコ、干芋、エクレア、パウンドケーキ、アミノバイタルなどが用意されています。
目標とする炭水化物の摂取量は現実的に考えて、40g/時を最低ラインと設定してみます。
前半:固形を積極的に摂取する
スタート直後からエイドごとにちゃんと摂取します。
1時間で2エイドは寄れるとすると、1エイドで20g炭水化物を摂取できればよい計算になります。

20gって考えると「案外いけるんじゃ?」と思いませんか?
前半は元気なので無理ない範囲で食べれるだけ食べるのが良いんじゃないかなと思います。
上述のように前半しっかり食べる方がレースの結果が良かったというLAKE BIWAのデータもあるので、「まだ余裕があるから食べなくていい」ではなく、序盤からしっかり食べていきましょう。個人的な楽しみは、うどん、エクレアですね。
ちなみに僕が壱岐ウルトラマラソン100kmに出たときも前半から、うにおにぎりやバナナ、イチゴなどを食べまくっていました。そのおかげかハンガーノックにはならず、走り続けてゴールすることが出来たと思っています。
食べまくろう、とはいえ一気に食べるのは良くありません。
例えば、あるエイドでカステラを一切れ、次のエイドでデーツを少量、その次では飲み物だけというように、無理のない範囲で分散させていくことも大切です。
後半:ハンガーノック警戒ゾーン。血糖を乱高下させない
後半はやはりグリコーゲンが枯渇してきてハンガーノックになってしまうリスクはあがります。
固形もとれないし、ジェルもなんだか受け付けない、、みたいな状況になるかもしれません。
そのためジェルだけでなく、自分が好きで食べれそうなものを後半のために用意しておくのも良いかもしれませんね。
ちなみにジェルについては、僕は保険としての役割だと思っています。
なぜかというと、ジェルより普通の食べ物とかの方が単純に美味しいからです!
食べられる限りジェルは後に回していきたいと思っているので、実際持っていくジェルも5個以内になる予定です。
食べ続けるためにも、前半からしっかり食べていくことを意識したいと思います。
腸トレーニングについて
少し余談を。
本来90g/時の糖質の摂取が望ましいと言われているのは上述の通りです。それができない最大の理由は消化器症状(吐き気・腹痛・下痢)です。これを防ぐのが「腸トレーニング」とされています。
つまり、練習中から高糖質摂取に腸を慣らす習慣です。
腸管は高糖質の刺激を繰り返し与えることでより吸収能力がアップするとされています。そのため「練習中から補給する」こと自体がレース当日の吸収能力を高める訓練になります。
とはいえ練習でもそこまで出来る/やろうと思う人はあまりいないかもしれないので詳細は僕も調べていません。。
まとめ
以上まとめていたら長編になってしまいました。
呼んでくださりありがとうございます。
富士五湖ウルトラマラソンまで後一週間です。
体調に気を付けながら、カーボローディングして本番もしっかり楽しみたいと思います。
また今回調べてみて、ウルトラマラソンシリーズでほかにも調べてみたいことが出てきたのでそれもまた書いてみてもいいかなあと思ったりしています。
5月末には奈良ウルトラマラソンもありますし、今後はウルトラマラソンシーズンに入っていきますからね。
ウルトラマラソン前の練習メニューの組み方とか、腸管トレーニングのやり方などなどまた連載しようと思います!
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