🎄 【短編小説】『君の瞳に映るキャンドルライト』
「いい匂いだな」 カケルがリビングから声をかけると、キッチンでシチューをかき混ぜていたマイが振り返る。 「もうすぐできるよ。……ねえ、ワイン開けていい?」 かつて一人で飲んでいたヴィンテージワイン。今は二つのグラスが並んでいる。 外は雪が降り始めたようだが、この部屋の中はオーブンの熱と二人の体温で満たされている。
食事が並ぶ。カケルは建築家のこだわりを発揮し、部屋の明かりを全て落とした。 「暗くない?」と笑うマイ。 「これが一番、料理と君が綺麗に見える光だ」 テーブルにはキャンドルの揺らめきだけ。 その小さな炎が、マイのネックレスと、幸せそうな笑顔を柔らかく照らし出す。 乾杯のグラスが触れ合う澄んだ音が、部屋の空気を震わせた。
食後、二人は窓辺に立つ。 「覚えてる? 最初に出会った時のこと」 マイが窓ガラスに映る自分たちを見て言う。 「ああ。君がライターを忘れたせいで、俺の静かな夜が終わったんだ」 カケルが憎まれ口を叩くと、マイは嬉しそうに笑った。 カケルはポケットの中の箱を握りしめる。 あの時、ベランダ越しにライターを渡した手で、今度は一生の約束を渡すのだ。
「マイ」 名前を呼び、箱を開ける。キャンドルの光を受けて、指輪が星のように輝く。 言葉は多くいらない。マイの瞳から涙が溢れ、それが光を反射して宝石よりも美しく輝いた。 「……カケル、ありがとう」 抱き寄せた温もり。 孤独な広かったベッドは、二人には少し狭いけれど、そこには世界中のどこよりも深い安心があった。 雪が降り積もる街の片隅で、二人の夜は溶け合うように更けていく。
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