【創作大賞2025】#恋愛小説部門東西ボケツッコミ恋物語
あらすじ
大阪出身でボケとツッコミを愛するケンタと、東京出身で真面目なアヤカは、ひょんなことから知り合い、遠距離恋愛を始める。ケンタのユーモアはアヤカには通じず、アヤカの真面目さはケンタには物足りなく感じられる。すれ違う会話の中で、お互いを理解しようと努めながらも、時には喧嘩し、時には深く傷つけ合う。しかし、それぞれの価値観を尊重し、歩み寄ることで、二人の関係は少しずつ変化していく。文化や育った環境の違いを乗り越え、本当の「愛」とは何かを見つけていく、笑いあり涙ありの物語。
序章:東西のすれ違い、始まる恋の予感
「え、今、この人、真顔で何て言ったん?」
東京の片隅、とあるカフェで、アヤカは目の前の男――ケンタの言葉に、思わず心の中でツッコミを入れた。彼の口から出たのは、まさかの「今日、マジで緊張してパンツ3枚履いてきましたわ」という、意味不明な発言。しかも、爽やかな笑顔つきだ。
「……えっと、ケンタさん、何かあったんですか?大丈夫ですか?」
アヤカの脳内では、「パンツ3枚=異常事態=心配」というごくシンプルな方程式が成立している。だから、純粋に相手を気遣った。しかし、ケンタはパチクリと目を丸くする。
「いやいや、アヤカさん、そこは『何でやねん!』ってツッコんでくれな!ボケやん、今の!」
ケンタは、心底がっかりしたような顔で言った。まるで、とんでもない裏切りにあったかのように。アヤカはますます困惑する。ツッコミ?ボケ?いったい何の話だ。
ケンタは大阪出身。生粋の関西人である。会話とは、ボケてツッコんで、そこから生まれる化学反応を楽しむエンターテイメントだと思っている。一方、アヤカは東京生まれ東京育ち。会話とは、情報を正確に伝え、論理的に理解し合うものだと思っている。無駄な装飾や、ましてや意味不明な冗談など、ノイズでしかない。
「ご、ごめんなさい。えっと……面白かったです、ね?」
とりあえず、場を取り繕うべく、当たり障りのない感想を述べると、ケンタはさらにしょんぼりした顔になった。
「全然面白くなさそうやん!むしろ困惑してるやん!」
その指摘は、図星だった。アヤカは、正直なところ、この目の前の男性が何をしたいのか、さっぱり理解できなかった。こんなにも価値観の違う人間と、なぜ今、こうして向き合っているのか。
そもそもの始まりは、オンラインの趣味コミュニティだった。お互い、ちょっとマイナーなボードゲームが好きで、メッセージのやり取りから始まった。画面越しでは、ケンタの明るいノリも「勢いがあって面白い人だな」と好意的に受け止められたし、アヤカの真面目な受け答えも「落ち着いててしっかりした人だな」と好評だった。
だが、現実は違った。
カフェのテーブルに置かれたアヤカのバッグに、ケンタが目を留めた。 「おお、アヤカさん、そのカバン、めっちゃええやつやん!それ、〇〇円くらいしたやろ?」
アヤカはまたもや固まる。今度は、**「この人、私の持ち物の値段を勝手に予想して、それを口に出すって……どういう神経してるの?馬鹿じゃないの?」**という心の声が響く。
「……あの、ケンタさん、そういうことを、初対面の人に言うのは、ちょっと失礼だと思います」
真剣なトーンで告げると、ケンタはまたもや目を丸くした。そして、頭をガシガシと掻きながら、心底困り果てたような顔で言った。
「うわぁ、マジか!俺、褒めてるつもりやったんやけどな!関西では、ええもん持ってる人に、愛情込めてそう聞くこと、あるんやけどなぁ……」
褒めてるつもり?愛情?アヤカには、その言葉の羅列が、頭の中で一切繋がらなかった。まるで、互いの言語がまるで違うようだ。
この瞬間、二人の間には、東と西、ボケとツッコミ、そして「真面目」と「ユーモア」の、とてつもなく深い溝が横たわっていることを、アヤカは嫌というほど実感したのだった。この、会話のキャッチボールすらままならない関係が、まさか遠距離恋愛に発展し、様々なすれ違いを経て、かけがえのないものになっていくとは、この時のアヤカは知る由もなかった。
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