「青いままの果実」
↑ ↑ ↑これで作った原案を修正して本格的な小説に変えていきます。お
「青いままの果実」
部活が終わってジャージの袖を肘までまくり上げると、夕方の風が火照った肌に少しだけ冷たかった。まだ汗の匂いが残る体を揺らしながら廊下を歩いていると、開け放たれた窓の向こう、誰もいないはずの教室に人影が見えた。
夏美だった。最後列の席に座ったまま、じっと机の木目を指でなぞっている。窓枠に残った午後の光が、彼女の後ろの黒板の上端だけを白く削り落としていた。
私は窓枠に手をかけ、少し笑って顔を覗かせた。 「夏美、まだ残ってたんだ」
夏美は顔を上げ、どこか心ここに在らずといった風に答える。 「うん。ちょっと、帰るタイミング逃した」 「またぼーっとしてたでしょ。そういうの、夏美の悪い癖」
言いながら、私は教室の中に半分だけ体を入れた。近くの椅子が、私の動きに合わせて軽く軋んだ音を立てる。 夏美の机の上には、使い終わったノートと、飲みかけのペットボトル。キャップの縁に残った水滴を、彼女はただじっと眺めていた。
「今日さ、部活早く終わったんだよ。夏美待ってるかと思って来たのに」 「別に待ってないし」 「そういうこと言う」
私は笑いながら、夏美の前の席に勝手に座った。半分だけ引かれていた椅子が、さらに少しだけずれる。 誰もいないはずの教室。だけど、私が廊下から持ってきた空気だけが、まだ二人の間で動いている気がした。前の席の背もたれに掛けた私のジャージの袖が、床に触れそうで触れない位置で揺れている。時計の針が進むたびに、その影が少しずつ長くなっていく。黒板消しの跡は白と灰色の層になって、消えきらないまま残っていた。
私は沈黙を破るように、机を指でコツコツと叩いた。 「ねえ夏美、今日さ、帰りにアイス食べない?」 「急だね」 「急じゃないよ。いつもでしょ」
その言い方が少しだけ可笑しかったのか、夏美が小さく息を吐く。 彼女が鞄からシャープペンを取り出すと、芯が一本だけ折れていた。それを机の端に置くと、金属が乾いた音を立てる。その音が収まったあと、また教室の奥で回る換気扇の回転音だけが戻ってきた。 夏美はノートの端に何かを書こうとして、やめる。インクの出かかったペン先が、紙に触れないまま止まっていた。
「夏美ってさ、たまにここにいないよね」 私は、窓の外の変わりゆく景色を見つめながら、ずっと思っていたことを口にした。 「どこにもいないわけじゃないよ」 「そういうのがいちばん分かんない」
窓の向こうの空が、一段だけ色を変えている。校舎の影が廊下の床に伸びて、ドアの隙間を細く横切っていた。 椅子の脚を引く音が廊下から一度だけ響き、すぐに消える。 夏美は立ち上がらないまま、机に置いた手の位置だけを少しずらした。指先に残るチョークの粉が、薄く擦れて机の色と混ざっていく。
「行くなら、アイス食べに行く」 夏美がそう言うと、私は少しだけ嬉しくなって笑った。
窓の外の光は、少しずつ低くなっていく。青いままの時間だけが、まだ教室の中に残っていた。
いつの間にか合流した俊も含めて、三人で笑って、そのあと、そのまま少しだけ黙る。 通りを吹き抜ける風の音だけが、私たちの間に残っていた。
私は買ってもらったアイスをかじりながら、ふとした調子で、ずっと胸の中にあった問いを投げかけようとした。
「ねえ俊」 「ん?」 「猛さ」 そこで一回だけ、息を止める。 私の視線に気づいた俊が、アイスをくわえたまま、不思議そうにこちらを見た。
喉の奥まで出かかった言葉が、急に冷たくなって胸の底へ落ちていく。 それを言ったら、今のこの関係が変わってしまうかもしれない。 私は慌てて視線を逸らし、小さく首を振った。
「……いや、なんでもない」 「なんだよそれ」 俊が少しだけ笑う。 「気になんだろ」 「本当に何でもないの。忘れて」
そう言って私はもう一口、アイスを大きくかじった。冷たさがこめかみにキーンと響いて、言葉にできなかった熱を無理やり冷ましていく。 俊はそれ以上追及せず、「そっか」とだけ言って、自分の小豆のアイスに視線を戻した。納得したわけじゃなさそうだけど、あえて踏い込ん frontal(踏み込んで)こない。そういう俊の優しさが、今は少しだけもどかしかった。
「でもさ」 私は、アイスの棒を見つめながら少しだけ続けた。 「そういうのって、言葉にしちゃうと、なんか違う気がしてこない?」
俊が他人事のように肩をすくめる。 「知らねえよ」 「無責任」 「何も聞いてねえだろ」
少しだけ、いつもの笑いが戻ってくる。でも、さっき教室で夏美と二人でいたときと同じ空気じゃない。 私は今度は、隣を静かに歩く夏美のほうを見た。 「夏美は?」 「何が」 「……ううん、なんでもない」
間が空いた。 ほんの一瞬だけ、夏美は私を見て、それからアスファルトに伸びる自分の影を見つめた。 「どうでもいい」 夏美は、私が何を言おうとしたのか分かっているのか、いないのか、ただ低くそう言った。 「やっぱ興味ないよね」 「ない」 夏美は即答する。
俊がそれを横で聞いていて、少しだけ視線を下に落とした。 「まあ、関係ないしな」 ぼそっと言う。
その一言で、少しだけ空気が変わった。私の肌が、その微かな温度の変化を察知する。 言葉を引っ込めたはずなのに、三人の間の空気は、目に見えないほど僅かに変質していく。
私は二人の顔を覗き込むように見た。 「あんたたちさ」 「……?」 「仲いいのか悪いのかわかんないね」
俊が少しだけ、私の顔を見て笑う。 「どっちだと思う」
「どうでもいい」
さっき夏美に言われた言葉を、そのままそっくり投げ返してやった。 少しだけ意地悪な響きになってしまった自覚はあるけれど、そうでもしないと、胸の奥のモヤモヤが収まらなかった。
夏美は一瞬だけ目を見開いたけれど、すぐにいつもの涼しい顔に戻って、 「普通だよ」 と答えた。
「またそれ」 私は笑う。 でも今度は、少しだけ長く、夏美の横顔を見ていた。
風が二人の間を通り抜けていく。 言わなかった言葉と、お互いに投げ合いっこした「どうでもいい」のあとに残る沈黙が、夕暮れの光の中で少しだけ重い。 それでも、私を含めて誰も、その重さの正体には触れようとしなかった。


これに公募に向けて執筆していこうかと思っています。

LaLaLa | 創作AIエンジニア × 小説家
【自己紹介文】
note開始1年3ヶ月で、圧倒的な熱量とともに【2,700記事】を投稿。小説・エッセイの執筆から、生成AI(LLM)を活用した創作支援プログラムの開発、リアルなハンドメイドアクセサリー制作までを手がける「多角経営」のクリエイターです。
■ 主な実績・活動(ファクトデータ)実績: note総投稿数2,700記事超(毎日継続更新中)。
文芸: 【創作大賞2026】恋愛小説部門(TALESランキング)現在1位『怪獣の腹の中で』/ホラー小説部門『夢を読む頁』応募中。
開発: 心理診断&AIプロンプト自動生成アプリ『Psyche × Code』開発・運営。
運営: note共同マガジン『出版への道』主宰。
リアル: 2026年6月より、Webアプリの世界観を具現化した「概念ハンドメイドアクセサリー」のオンライン販売を開始。
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AIに解説をさせず「主観描写に没入させる」ための実践的プロンプト、未経験から1ヶ月でアクセサリーを作って売る制作ドキュメント、独自の競馬・カルチャー回顧録。
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