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ハンチバック -ルサンチマンを昇華する-

こんにちは、ララです。
今日のおすすめ本は『ハンチバック』です。

本の基本情報

タイトル:ハンチバック
著者:市川沙央
発売日:2025.10.10(文庫)
出版社:文藝春秋

第169回芥川賞受賞作。

あらすじ

井沢釈華の背骨は極度に湾曲している。グループホームの一室から彼女は大学の通信課程で学び、18禁TL小説をサイトに投稿、SNSの零細アカウントで「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」と呟く。ある日男性ヘルパーの田中に、呟きを見られていたことが発覚する。圧倒的迫力で話題を席巻した、デビュー作にして芥川賞受賞作。

裏表紙より

感想・おすすめポイント

両親が遺してくれたグループホームの一室で、コタツ記事を書いたり、18禁TL小説を書いたりして暮らしている井沢釈華。彼女の背骨は、右肺を押しつぶす形で極度に湾曲している。

そんな彼女はSNSで「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」と呟く。

ある日、グループホームの男性ヘルパー・田中さんに、SNSのアカウントが知られていることが発覚する。そこから物語は大きく動いていく。

物語はずっと釈華の視点で語られるのだけど、最後だけ、彼女以外の女性視点で語られる物語がある。この物語の意味は人によって解釈が違うと思う。

わたしは、釈華が叶えたかったけど叶えられなかった自分の夢を、昇華するために書いた物語だと思った。そう考えると、

――使わないうちに壊れていた。
(中略)
そう。この憐みこそが正しい距離感。
私はモナ・リザにはなれない。
私はハンチバックの怪物だから。

『ハンチバック』P69

この文章が余計に胸に迫ってくる。
――使わないうちに壊れていた。は、子宮と膣を使うことなく人生が終わってしまった、と読めてとてつもない苦しさを感じる。

この作品は、内面描写も情景描写もどっちもリアル。だから胸に深く刺さるのに、それが重すぎないのは、ユーモアのある文章のおかげだと思う。

高齢処女重度障害者の書いた意味のないひらがなが画面の向うの読者の「蜜壺」をひくつかせて小銭が回るエコシステム。

『ハンチバック』P34

自虐とユーモアが混ざり合った文章。

田中さんのルサンチマンが私の肺の中で炎症を起こしている。

『ハンチバック』P60

田中さんの「あるもの」を「ルサンチマン」と表現したあとでのこの文章。

このように物語の中に「ルサンチマン」という言葉が出てくる。ルサンチマンとは、弱者が強者に対して抱く、叶わないことへの「恨み」「嫉妬」「憎悪」のこと。わたしはこの物語自体が、釈華のルサンチマンを吐露したものだと思った。

〈普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢です〉

『ハンチバック』P18

「普通の人間の女」であれば経験するような、性的欲望を向けられる、性行為をする、妊娠する、中絶する、出産する……のようなことを、釈華はしたくてもできない。できないことを望むのは無謀すぎるから、できることまで、つまり妊娠と中絶までを望んでいる。妊娠して中絶することを望むなんて、なんて悲しいことだろうと、「普通の人間の女」であるわたしは思ったわけだけど、それこそ「普通の人間の女」の感覚なのだろうなと思った。

この作品を読むまで、わたしの中では「障害者」というカテゴリーと「性」というカテゴリーは交わるところには存在していなかった。考えたこともなかった。だからこそこの作品は衝撃的で、殴られたような感じがした。

当たり前にできていることが、いかに当たり前でないか、この本を読むと痛切に感じる。

「私の身体は生きるために壊れてきた」という文章が心に残った。

この作品がおすすめな人

・価値観をぶち壊して欲しい人
・考えさせられる作品が好きな人
・健常者

読んでみると、なぜこの作品が「衝撃作」と言われているのかがよく分かる。読みやすくて面白いので純文学初心者の方にもおすすめ。


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