企業予算を幅広く侵食するAI(来るべきAIエージェント・エコノミーの姿)
セコイア・キャピタルのAI年次カンファレンス・イベントである「AI Ascend 2025」より、3人のパートナーによるキーノート・セッションを紹介します。
パット・グレイディ氏:現在のAI市場の現状と将来性、そしてその中でスタートアップが成功するための戦略について。AIはこれまでの技術の波と異なり、より速いスピードで、サービス市場とソフトウェア市場の両方を脅かすほど巨大な市場となる可能性を指摘。成功のためには、顧客視点を持ち、独自のデータフライホイールを構築し、採用率やエンゲージメントといった具体的な指標に注目することの重要性を強調しています。
ソニヤ・ホァン氏:過去1年のAIアプリケーションの著しい進化を振り返り、AIと人間のエンゲージメントに劇的な進歩が見られた他、音声生成技術やコーディング分野で目覚まく進歩し、AIの活用が急速に進んでいる。技術的には、事前学習のペースは鈍化しているものの、推論、合成データ、ツール活用といった新しい分野でブレーク・スルーが起きており、アプリケーションレイヤーでの価値創出が進み、多様なキラーアプリや、特定のタスクに特化したバーティカル・エージェントの台頭が予測されています。
コンスタンティン・ビューラー氏:AIが単なるアシスタントから、相互に連携し、リソースの移動や取引を行うエージェント・エコノミーを構成して発展していくという見通しが示されており、その実現には、エージェントの持続的なアイデンティティ、シームレスな通信プロトコル、そして強固なセキュリティという3つの主要な技術的課題を解決する必要があることを強調。これらの変化は人々のマインドセットや企業構造、経済全体に大きな変革をもたらし、個人がより大きなレバレッジを得られるようになる一方で、不確実性の管理が重要になることが主張されています。

1. パット・グレイディ氏

[パット・グレイディ](Sequoia Capital)
こんにちは、パット・グレイディと申します。私はセコイアのパートナーを務めています。本日は、ソニヤとコンスタンティン、そしてセコイアの全てのパートナーが皆さまをお迎えいたします。これから本題に入る前に、私とソニヤ、そしてコンスタンティンが、この1年間で学んだことについて少しお話ししたいと思います。正直なところ、私たちは前菜であってメインディッシュではないことを自覚しています。昨日、一緒に働いている創業者の一人からメールが来て、「少し遅れて参加します。多分9時35分くらいに到着すると思います」と言われました。私は、「それ、随分と具体的な時間ですね。ちょうどジェンスン(フアン)が登壇するタイミングです」と答えました。なので、私たちも理解しています。でも、いくつかの考えを共有した後で、いよいよ本題に移りたいと思います。


さて、まずは少し調整をしたいと思います。私たちは、AIの世界で今何が起きていると考えているのかについてお話しします。

私たちが市場を見るときに使っているシンプルなフレームワークがあります。それは、ドン・バレンタイン(Sequoia創業者)の質問です。
「それで?」「なぜ重要なのか?」「なぜ今なのか?」「それは必然かもしれないが、今すぐ起こるのか?」そして最後に「では、今どうするべきか?」「どうやってこれを活用し、成功を手にするのか?」
これらの問いについては、これまでの年次でもお話ししてきましたが、ここで少し最新の考えを共有したいと思います。実は「What(何が起きているか)」の部分で素晴らしい話を用意していたのですが、コンスタンティンから「AIの専門家が集まっている場で、AIが何かを説明するのは少し場違いかもしれないね」と言われまして…。なので、今回は「So What(それで何が重要なのか)」から始めたいと思います。

さて、少し遊び心を交えて質問です。昨年のこのスライドを覚えている方はいらっしゃいますか?
ありがとうございます。素晴らしいですね。
上の列がクラウドの移行、下の列がAIの移行です。スライドの左側が「昨日」、中央が「今日」、右側が「明日」を表しています。何を示しているかというと、クラウドは売上が4,000億ドルに達し、クラウド移行が始まった当時の世界のソフトウェア市場全体よりも大きくなっているということです。これを類推すると、AIサービスの市場規模は、そのスタート地点ですでに桁違いに大きいのです。そして10年、20年後にはさらに巨大な市場になる可能性があります。
重要なポイントです。そして、私たちは考えをアップデートしました。AIが狙っているのはサービス市場だけではありません。

それは、サービス市場だけでなくソフトウェア市場も含まれるのです。

これによって、これら二つの利益プールが脅かされているということです。多くの企業がまずソフトウェアとしてスタートし、少し賢くなって「コパイロット」のような存在になり、さらに進化して「オートパイロット」のようになっていく過程を目にしてきました。そして最終的には、ツールとしてソフトウェアの予算で購入されていたものが、結果を提供するサービスとして労働の予算で購入されるようになるのです。つまり、これら両方の市場規模(TAM)は狙えるチャンスがあるということです。

さて、昨年のこのスライドを覚えている方はいらっしゃいますか?
ああ、少し寂しいですね。手を挙げたのは3、4人だけですか。あ、もう一人いらっしゃいましたね。ありがとうございます。恥ずかしがらずに手を挙げてくださいね。
このレイヤーケーキのスライドは、ここ数十年間に積み重なってきた技術の波を表しています。そして現在の状況に至るまでの流れを示しています。
ここで伝えたいポイントは二つあります。まず一つ目は、AIは「必然」であるだけでなく「差し迫っている」ということです。必要な前提条件はすでに整っています。コンピューティングパワー、ネットワーク、データ、ディストリビューション、そしてタレント。必要な要素は全て揃っています。つまり、いつでもスタートできる状態にあるのです。
二つ目のポイントは、これらの技術の波は積み重なっていくものであり、その結果として、今回の機会は過去の波よりもはるかに大きなものになるということです。

さらに言えば、今回はこれまでよりもはるかに速いスピードで進んでいます。正直、このスライドはあまり好きではありません。横軸が時間、縦軸が自己満足的なメトリクスになっています。これを使って、いろいろな誤解が正当化されることが多いからです。ですが、観察自体は正しいです。物事が以前よりもどんどん速く進んでいるのは事実です。しかし、なぜそうなっているのかを深掘りしている人は多くありません。

ここで少し立ち止まって考えてみたいと思います。ディストリビューションの物理法則を考えると、必要なものは三つだけです。人々があなたの製品を知っていること、欲しいと思うこと、そして実際に購入できること。この三つが揃えば十分です。
このロゴ(ソフトウェアを否定する赤と白のマーク)を覚えている方はいらっしゃいますか?クラウド移行が始まった頃、誰も注目していませんでした。(マーク)ベニオフは誰かに気づいてもらうために、ゲリラ的なマーケティングをしなければなりませんでした。
でもAIは全く違います。2022年11月30日にChatGPTが登場した瞬間、世界中の人々がAIに注目しました。
真ん中の列を見てください。これはRedditと、以前はTwitterと呼ばれていたプラットフォームの月間アクティブユーザー数を合計したものです。クラウド移行の始まりには存在すらしていなかったし、モバイル移行の頃にもほとんど存在していませんでした。でも今では、12億から18億人がこれらのプラットフォームを利用しています。もちろん、これだけが新しい情報を知る方法ではありませんが、非常に有効な手段であることは間違いありません。
右側の列を見てください。当時インターネットに接続している人はたった2億人でした。でも今では56億人です。これは事実上、世界中の家庭やビジネスがインターネットに接続しているということです。では、これが何を意味するのか。

それは、すでに「線路」が敷かれていて、スタートの号砲が鳴った瞬間に利用する際の障壁がなかったということです。これはAIに特有の現象ではなく、テクノロジーのディストリビューションの新たな現実です。物理法則が変わったのです。線路はもう整っています。

さて、昨年のスライドをもう一度見てみましょう。ここから何をすべきか。どこで勝つべきか。このスライドには二つのポイントがあります。まず一つ目、まだまだ「白地」がたくさん残っているということです。これは昨年のスライドですが、今では少しずつその白地も埋まり始めています。それでも、依然として大きなチャンスが広がっています。
二つ目のポイントは、このロゴは過去の移行期に売上が10億ドル以上に到達した企業を示しています。私たちは、ユニコーン企業には興味がありません。興味があるのは売上とフリーキャッシュフローです。これらの企業の多くはスライドの上部、つまり、アプリケーションレイヤーに位置しています。私たちは、AIにおいても同じことが起こると確信しています。価値はアプリケーションレイヤーにあるのです。

ですが、皆さん、当然競争相手もいるわけです。ここで、第二のスケーリング則が登場します。それは、推論時の計算能力、そして、ツールの活用やエージェント間のコミュニケーションによって、基盤モデルがアプリケーションレイヤーのかなり深いところまで進出できるようになっているということです。
では、もしあなたがスタートアップで、垂直統合されたビジネスモデルを構築していない場合、どうすればいいでしょうか?
答えは、顧客から逆算するのです。特定の業界に特化する、特定の機能に特化する。そして、場合によっては人間の介入が必要な複雑な問題に取り組むことです。これがレースです。価値が生まれるのはここです。これは誰もが最優先で考えるべきことです。

さて、どうやって勝ちに行くか。
皆さん、ここで笑っていただいてもいいんですよ。これは良い話ですからね。どうやって勝つのか?昨年もこの話をしたので、笑わなかったのはもう知っているからだと思います。
実は、AIの会社を立ち上げる際の95%は、従来の会社作りと変わりません。重要な問題をユニークかつ魅力的な方法で解決することです。優秀な人材を引き寄せ、一緒に挑戦してもらうこと。これは、昔から変わらない基本です。

残りの5%がAI特有の部分です。そして、この「アプリケーションレイヤー」の競争において、考慮すべきポイントがいくつかあります。
これは「レオーネのマーチャンダイジング・サイクル」です。私たちのパートナーであるダグ・レオーネが、40年かけて大切に磨き上げたフレームワークです。これは、頭の中のアイデアを実際の製品にし、それを顧客の手元に届けるための全てのプロセスを示しています。
アイデアは製品になり、それをエンジニアリングチームが作り、市場に出して販売し、サポートする必要があります。これが価値の連鎖です。
スライドの下部が「テックアウト(技術主導)」の視点、上部が「カスタマーバック(顧客視点)」の視点です。これを組み合わせることで、バリューチェーン全体に強力な参入障壁(モート)を構築することができるのです。多くの顧客は、AIに何を求めているかまだはっきりとは分かっていません。だからこそ、こちら側が意見を持ち、単なるツールを提供するのではなく、問題を解決するエンド・トゥ・エンドのソリューションを提供することが重要です。
さらに、自社製品の利用データを活用して「データのフライホイール」を構築することもできます。これこそ、他社には真似できない資産です。また、特定の業界の専門性を持ち、その業界の言語で話すことも大切です。例えば、Open Evidenceは医療業界に特化し、Harveyは法律事務所に法律専門家を送り込んでいます。
正直に言うと、フォードがエンジニアを現場に派遣するのはあまりお勧めしませんが、やろうと思えばできます。大変なやり方ですが、可能です。そして、基盤モデルには難しいような、大きな「ベアハグ」で顧客を囲い込むこともできます。もちろん、私たちも基盤モデルは大好きです。しかし、ほとんどの方は基盤モデルを作っているわけではなく、アプリケーションを作っていると思っています。

では、あと二枚のスライドを紹介したら次にバトンタッチしたいと思います。よく聞かれる質問があります。「AI企業で何を重視していますか?」と。そして繰り返しになりますが、95%は他の企業と同じ要素です。
さて、残りの5%がAI特有のものです。まず一つ目は、売上です。いわゆるバイブ売上に注意してください。皆さん、バイブ・リベニュー(Vibe Revenue※)って好きですよね。雰囲気が良くて、売上がすごく伸びていると感じられるものです。でも、しっかり確認してください。それは本当に持続可能な行動変容を生み出しているのか、それとも単なる冷やかしなのか。
それを測定する指標がないと思う方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。採用率、エンゲージメント、リテンションを確認してください。実際に顧客があなたのプロダクトをどのように使っているかを見てください。もしバイブ・リベニューを本当の売上だと思い込んでしまうと、後で痛い目に遭います。
もちろん、雰囲気が良いことも重要です。実はここで少し確認したいのですが、アンドリュー・リードさん、いらっしゃいますか? バイブチェックしましょう。皆さんどうですか?
「完璧なバイブスだ」と聞こえましたね。良いですね。顧客との良い関係、信頼感が必要です。
今のこの時期では、信頼はプロダクトそのものよりも重要です。プロダクトはこれからもっと良くなります。顧客があなたを信頼し、もっと良くなると思ってもらえれば、それは素晴らしい状態です。逆に信頼がなければ、先に進むのは難しいです。
次に二つ目は、マージンです。今のグロスマージンの水準はそれほど重要ではありません。なぜなら、原価はこれからどんどん下がるからです。過去12~18か月で、トークン単価は99%も減少しました。このコストの低下はこれからも続きます。もちろん、推論時の計算コストが一時的に増えることはありますが、それも最終的には下がっていくでしょう。
価格の面でも、ツールの販売から成果の提供へと価値の階段を上がっていけば、より多くの価値をキャプチャできるようになります。その結果、価格も上がっていくでしょう。だからこそ、今のグロスマージンが良くなくても、将来的には健全なマージンへ向かう道筋が見えていることが重要です。
三つ目は、データフライホイールです。データフライホイールを持っている人、手を挙げてください。では、そのデータフライホイールはどのビジネス指標に影響していますか?…少し自信がなさそうですね。
良いニュースと悪いニュースがあります。良いニュースは、もし答えられなくても、まだ応援しています。悪いニュースは、答えられない場合、それはデータフライホイールが「ない」か、あっても「意味がない」かのどちらかです。ビジネス指標に結びついていないデータフライホイールは意味がありません。ここは重要なポイントです。なぜなら、データフライホイールは競争優位を築く最強のモートだからです。
※バイブ・レベニュー(Vibe Revenue)とは、表面的には、売上が上がっているように見えるものの、実際には持続的・実質的な価値創出や顧客行動の定着を伴わない“見せかけの売上”を指す言葉。
以下は具体例。
一時的な利用や試用料:無料トライアルやデモ、割引キャンペーンでの一過性の申し込み。定着せずにすぐ離脱してしまうユーザーからの収益。
タイヤ蹴り:製品を軽く試しただけで、本格的な導入や継続利用にはつながらないケース。
バニティメトリクス的な数値:投資家や社内を盛り上げるには都合がいいが、真の成長エンジンとなっていないKPI(例:サインアップ数だけ伸びて、アクティブユーザーや解約率が全く改善しない状態)。

最後のスライドです。誰か、この二つの要素がどう関係しているか説明できる方はいらっしゃいますか?もしできたら、私はかなり感動します。正直、論理的には全く関係ないのですけれど。
さて、「自然は真空を嫌う」(Nature hates a vacuum)と言いますよね。市場では今、AIに対してものすごい吸引力が生まれています。マクロ経済の問題や関税、金利の変動などのノイズは関係ありません。テクノロジーの普及という大きな波は、市場のボラティリティなど簡単に飲み込んでしまうのです。そこは無視してください。市場には大きな吸引力があり、もしあなたがその流れに乗らなければ、誰か他の人が必ずそこに入り込みます。なぜなら、自然は真空を嫌うからです。
ここまでお話しした「モート」や「指標」の重要性はもちろん理解していると思いますが、それを踏まえた上で、今は全力で走るべきときです。常に最大のスピードで進んでください。
2. ソニヤ・ホァン氏

[ソニヤ・ホァン](Sequoia Capital)
ありがとうございます、パット。それでは、私のセクションでは、現在AIの世界で何が起きているのかに焦点を当ててお話ししたいと思います。まずは、この1年間を「顧客視点」と「技術視点」の両方から振り返っていきましょう。


まず、1年間の振り返りです。2023年には、AIネイティブのアプリケーションと従来のモバイルアプリのデイリー・アクティブ・ユーザー(DAU)とマンスリー・アクティブユーザー(MAU)の比率を示したこのチャートをお見せしました。その時の結論は、AIアプリのエンゲージメント比率が非常に低いというものでした。データ上では、期待値が実態を大きく上回っていたのです。

しかし、嬉しいことに、その結論は劇的に変わりました。特に驚くべきなのは、ChatGPTのDAUとMAUの比率がどんどん上昇し、現在ではRedditのレベルに近づいていることです。これは素晴らしいニュースです。
AIから価値を引き出せる人が増えており、私たち全員が日常生活の中にAIをうまく取り入れる方法を一歩ずつ学んでいる証拠です。

そして、この利用が楽しく有意義なものであることもあります。正直に言いますと、私は個人的に「ジブリファイ(Jiblify)」をあれこれ試して、恥ずかしいほど多くのGPUを溶かしてしまいました(笑)。

ジブリファイのような瞬間は確かに楽しく、バイラルにもなりましたが、さらに興奮するのは、私たちがまだほんの表面しか触れていない、もっと深い可能性の部分です。例えば、広告では、驚くほど正確で美しい広告文を瞬時に作成できるようになりました。教育分野では、新しい概念を瞬時にビジュアル化できるようになっています。医療分野では、Open Evidenceのようなアプリが患者の診断をより正確に行えるようになっています。
私たちはまだ、その可能性の入り口に立ったばかりです。そして、AIモデルがますます高度になるにつれて、このフロントドアを通じてできることは、どんどん深く、意味のあるものになっていくでしょう。

さて、映画『Her』を観たことがある方はいらっしゃいますか?
ありがとうございます。そして今日はブレンダンも会場に来ていますね。まだ「AI版のスカーレット・ヨハンソン」は登場していませんが、2024年は音声における『Her』の瞬間が訪れた年だったと思っています。音声生成技術が、ほぼ完成の状態から、完全に不気味の谷を超えた瞬間でした。

「何人かの方には言われたことがありますが、慎重に構えてください。本当に驚かせられるか試してみましょう。」
「映画『Her』を観たことありますか?」
「ええ、『Her』。名作ですよね。ホアキン・フェニックスがOSに恋する姿、見事に演じていましたよね。未来がどうなっていくのか考えさせられますよ。」
セサミの音声デモは本当に素晴らしかったですね、ブレンダン。これからあなたが何を作るのか、とても楽しみです。そして、SFと現実の間のギャップが驚くほど早く縮まっているのを感じます。まるでチューリングテストが不意に目の前に現れたような感覚です。
実は、この表現はジム・ファンがツイートしていたのを拝借しました。このプレゼンのために少し借りたんです。ジム、ありがとう。


さて、今年ブレイクアウトしたアプリケーション・カテゴリは「コーディング」でした。これは、まさに製品と市場の適合が劇的に進んだ分野です。昨年の秋にAnthropicが「Claude 3.5 Sonnet」をリリースしたことで、コーディングの世界に急速なバイブシフト(価値観の転換)が起こりました。
実際に、ある人はこの技術を使って、自分専用のDocSendをバイブコーディング(AIとの対話でコーディング)したのです。つまり、10倍の生産性を持つベテランエンジニアであれ、全くコーディングを知らない人であれ、AIはソフトウェア開発のアクセスのしやすさ、スピード、経済性を根本的に変えているということです。


技術視点から見ると、悪いニュースもあります。事前学習(Pre-training)の進展がやや鈍化しているように見えることです。AlexNetの時代から比べて、私たちは事前学習を9桁から10桁のスケールで拡大してきました。その結果、収穫しやすい低い果実(Low-hanging fruit)はほとんど収穫し尽くしたと言えます。しかし、研究のエコシステムは、新たな突破口を見つけようとしています。

最も重要なブレイクスルーは、OpenAIによる推論(Reasoning)の進展でした。昨年のAI Ascentでは、ストロベリーチームのノアム・ブラウン氏から、推論がどのように進化するかのプレビューをいただく機会に恵まれました。今年は、ダン・ロバーツ氏が会場にいらっしゃっており、o3と推論の最前線についての講演を行ってくださる予定です。
しかし、進化しているのは推論だけではありません。合成データ、ツール活用、AIの足場作りも含まれます。これらが組み合わさることで、知能のスケールアップに向けた新しい道筋が生まれています。

また、AnthropicのMCP(Model Context Protocol)は強力なエコシステムとネットワークを構築し、エージェント型のツール活用の加速にも貢献しています。これがどのように展開していくのか、私たちも非常に楽しみにしています。

このように、より大きな基盤モデル、推論時の計算、ツールの活用が一体となり、ますます洗練されたタスクをこなせるAIが誕生しています。メーターベンチマーク(Meter Benchmark)は、これを定量的に測る良い指標です。しかし、さらに強力なのは、皆さんと直接話し合い、o3やOperator、Deep Research、Sonnetによって、今だからこそ実現できることが何なのかを知ることだと思います。

そして最後に、現在AIの最もエキサイティングな技術革新の多くは、研究と製品の境界が曖昧になっている領域で起きています。昨年の二つの大きなブレイクスルーとしては、Deep ResearchとNotebook LMが挙げられるでしょう。

本日は、Deep ResearchとNotebook LMのクリエイターの方々も会場にいらっしゃっています。Notebookからは、現在「Huxe」という新しい会社を立ち上げているライザ・マーティンさんとジェイソン・シュピールマンさん、そしてOpenAIからはイッサ・ハルフォードさんが来てくださっています。


さて、ここからは「AIスタックのどこに価値が生まれるのか」についてお話ししたいと思います。私自身、セコイアの素晴らしいパートナーたちとこのテーマについて議論したのをよく覚えています。そのとき私は、正直に言うと、このチャートの真ん中あたりにいる「ミッドウィット」でした。「GPTのラッパーに価値があるのかどうか、正直わからないな」と感じていたのです。

その時、特にパットは、価値はアプリケーションレイヤーに蓄積されると強く主張していました。私は内心「まあ、パット、頑張ってね」と思っていましたが、ここ数年の動きを見ていると、どうやらパットが正しかったようです。パット、あなたはここに立つべき人です。お見事です。

実際、価値がどこで生まれているかを見れば一目瞭然です。例えば、HarveyやOpen Evidenceのような企業が「顧客視点」から確かな価値を創り出しています。私たちは、最終的な価値の蓄積がアプリケーションレイヤーで起こると強く信じています。そして、このレイヤーにおける競争は、基盤モデルがどんどん進出してきたことで、さらに激化しています。

ここで少し脱線しますが、実は私たち全員が笑われているようなものです。というのも、スタック全体で本当に圧倒的な収益を上げている真の王者は、まさに「GOAT(Greatest of All Time)」のジェンセン・ハン自身だからです。彼の話をこの後聞けるのを楽しみにしています。

それでは再びアプリケーションレイヤーに戻りましょう。私たちは今、AIのキラーアプリの最初の波が現れたと考えています。例えば、ChatGPT、Harvey、Glean、Sierra、Cursor、Abridgeなどがあります。そして、新たな企業も続々と登場しており、Listen LabsやOpen Evidenceをはじめ、非常に多様で豊かなエンドマーケットに広がっています。本日も多くの皆さんにご登場いただけることを楽しみにしています。

さらに、これから登場する多くの新しい企業は、エージェント・ファーストになるだろうと予測しています。これらの企業が提供するエージェントは、現在は試作品のような段階ですが、今後は非常に堅牢なものへと進化していくでしょう。私たちが見ているのは、エージェント構築における二つのアプローチです。
1つ目のアプローチは「オーケストレーションによる厳密なテストと評価」です。
2つ目のアプローチは「エンドツーエンドのタスクに特化したエージェントのチューニング」です。
本日は、LangChainのハリソンさんとOpenAIのイッサさんから、このテーマについて詳しい話が聞ける予定です。

次に、2025年のエージェント企業の形として予測しているのが、バーティカル・エージェント(Vertical Agents)です。バーティカル・エージェントは、特定の業界やワークフローに精通したスタートアップ創業者にとって大きなチャンスだと考えています。これらのエージェントは、強化学習を用いて、合成データやユーザーデータを活用し、特定のタスクに特化した高いパフォーマンスを発揮するように訓練されています。
私たちがこれまでに見てきた証拠は非常に楽観的なものです。例えば、セキュリティ分野ではExpoが人間のペネトレーションテスターを上回るエージェントを発表しています。DevOpsではTraversalが、人間の最高のトラブルシューティング担当者よりも優れたAIトラブルシューターを作り上げています。ネットワーキング分野ではMeterが、ネットワークエンジニアを凌駕するエージェントを開発しています。
これらはまだ初期のデータではありますが、特定の問題解決に特化した垂直型エージェントが、人間の専門家を超える成果を出す時代が近づいていると確信しています。

最後に、2025年のエージェントに関する予測です。私たちは「豊かな時代(Abundance Era)」に突入しようとしています。最初に大きな転換を見せたのは、コーディングの分野であり、これはこの新しい時代がどういうものかのプレビューを見せてくれています。
労働が安価で豊富になったとき、世の中には大量のAIの粗製乱造品(AI Slop)が生まれるのでしょうか?そして、そのときテイストが希少な資産になるのではないでしょうか?
私たちは、コーディングエージェントの進化が技術の地平をどう変えるのか、そして他の産業にもどのような影響を与えるのかを非常に楽しみにしています。
では、ここでコンスタンティンにバトンタッチしたいと思います。
3. コンスタンティン・ビューラー氏

[コンスタンティン・ビューラー](Sequoia Capital)
ありがとうございます、ソニヤ。素晴らしいプレゼンでした。
皆さん、おはようございます。そして、ソニヤ、パット、本当にありがとうございます。

先ほどは非常に重要なテーマについて話をしました。「So what?(それで何が重要なのか?)」、なぜこれがこんなにも大切なのか。そして「What now?(今、何が起きているのか?)」、AIの現状とその近い将来についてお話ししました。
ここからは少し視点を変えて、一歩引いたところから、これから中長期的に何が起こるのかを考えていきたいと思います。このセクションは三つのパートに分かれています。
まず、次に訪れる大きな波についてお話しします。次に、その波を実現するために必要な技術について触れます。そして最後に、それが私たちの日常にどのような意味を持つのかを考えていきたいと思います。

1年前のAI Ascentでは「エージェント」が主なテーマでした。私たちはエージェントについて話し、それが徐々にビジネスの形を取り始めている段階でした。当時の議論の焦点は、これらの機械のアシスタントが最終的にはマシン・ネットワークとして結びついていくという予測でした。

そして、これらのマシン・ネットワークは現在、エージェントスウォーム(Agent Swarms)と呼ばれています。皆さんの多くの会社で、すでに重要な役割を果たし始めていると思います。エージェント同士が協力し、時には競い合い、推論を行いながら情報をやり取りしています。

これから数年で、この流れはさらに成熟し、エージェント・エコノミー(Agent Economy)へと発展すると私たちは考えています。エージェント経済とは、単に情報を伝達するだけではなく、リソースを移動させ、取引を行い、お互いを追跡し、信頼性を理解し合う世界です。さらに、それらが独自の経済圏を持つようになるという構想です。
ただし、この経済が人間を排除するわけではありません。むしろ人間が中心です。エージェントは人と共に働き、人もエージェントと協力する。それがエージェント・エコノミーです。

しかし、この非常に大きな次の波に到達するためには、いくつか重要な技術的な課題を解決する必要があります。今日はその中でも三つの課題についてお話ししたいと思います。そして正直なところ、この会場にいらっしゃる皆さんが、これらの課題に取り組みながら未来を築いていくのだと確信しています。

まず一つ目の課題は、永続的なアイデンティティ(Persistent Identity)です。これには二つの意味があります。
一つ目は、エージェント自体が持続性を持つことです。ビジネスをする相手が毎日違う振る舞いや考え方を見せていたら、長く付き合うことは難しいでしょう。こうした大きな不安定さは、信頼関係を損ないます。エージェントは一貫した人格と理解を維持しなければならないのです。
二つ目は、ユーザーである「あなた」を理解し続けることです。例えば、ビジネスの相手があなたの名前すら覚えていなかったら、信頼を築くのは難しいでしょう。今のところ、RAG(Retrieval-Augmented Generation)やベクター・データベース、長いコンテキストウィンドウなど、様々な手法が試されていますが、皆さんもご存知の通り、真の記憶を持たせ、それを基に自己学習すること、そしてエージェントが重要な部分では一貫性を保ち、変化すべき部分だけが変化するようにすることには、まだ大きな課題が残っています。

二つ目の大きな技術的なシフトは、シームレスな通信プロトコル(Seamless Communication Protocols)の確立です。良いニュースとしては、今まさに多くの人々がこの問題に集中して取り組んでいるということです。個人用コンピューターがシームレスな通信プロトコルなしに存在できたでしょうか?TCP/IPもインターネットもなかったら、私たちは今のような情報のやり取りができなかったはずです。今まさに、私たちはそのプロトコルレイヤーを構築している最中です。特にMCP(Model Context Protocol)の開発は非常に注目されています。大手企業が協力して、このプロトコルを作り上げている姿を見るのは素晴らしいことです。そしてこれは、情報の伝達、価値の移動、信頼の共有を可能にする一連のプロトコルの一つに過ぎません。

最後に、三つ目の技術的な課題は、セキュリティ(Security)です。このテーマは今後さらに重要性を増していくでしょうし、皆さんの多くも強く意識しているのではないでしょうか。
実際に、取引相手と手を取り合ったり、顔を突き合わせて話すことができないエージェント経済では、セキュリティと信頼の重要性は今以上に高まります。目の前で確認できない相手だからこそ、より強固なセキュリティが求められるのです。
そのため、エージェント・エコノミーが広がるにつれて、信頼とセキュリティを担保するための産業が確立されるでしょう。そして、現行の経済以上にセキュリティの確保が重要になっていくと考えています。

ここまで、この大きな波、つまりエージェント経済に到達するために必要な技術についてお話ししました。それでは次に、これが私たち一人ひとりにどのような影響をもたらすのかを考えていきたいと思います。

まず最初に大きく変わるのは、マインドセットです。そして正直なところ、この会場にいる皆さんはすでにその方向に向かっていると思います。それを私たちは、確率的なマインドセット(Stochastic Mindset)と呼んでいます。
これは、従来の決定論(Determinism)からの脱却を意味します。多くの人がコンピューターサイエンスに魅了された理由の一つは、その決定論的な性質だったと思いますよね?プログラムを組めば、その通りに動く。たとえ、セグメンテーション・フォルトが起きたとしても、原因は明確です。
しかし、これからのコンピューティングは、確率的なものになります。例えば、コンピューターに「73」という数字を覚えさせたら、明日も来週も来月も確実に「73」を覚えています。でも、人間やAIに「73」を覚えさせた場合、明日覚えているのは「73」かもしれませんし、「37」や「72」、あるいは「74」、次の素数である「79」、もしくは何も覚えていないかもしれません。
重要なのは、これが従来の考え方とは根本的に異なるということです。過去数十年のコンピューティングとは全く違う思考が求められる時代に入っているのです。

二つ目の変化は、マネジメントのマインドセット(Management Mindset)です。このマインドセットは、自分のエージェントが「何ができて、何ができないのか」を正しく理解することに重点を置きます。
皆さんもご存知の通り、優れたエンジニアであることと、優れたエンジニアリング・マネージャーであることは全く違いますよね。この同じような変化が、経済全体で求められるようになります。エージェントの管理、プロセスのブロック、適切なフィードバックの提供など、より複雑な意思決定が求められるようになるのです。
ただ、正直なところ、年末レビューで「エージェントの評価」をするようなことにはならないでほしいですね。それは避けたいところです。

三つ目の大きな変化は、先ほどお話しした二つの要素の組み合わせです。それは、「より大きなレバレッジ」と「大きな不確実性」です。
これから私たちは、より多くのことができる世界に突入します。しかし同時に、その不確実性を管理し、リスクをコントロールする能力が求められます。そして、この会場にいる皆さんは、その変化に適応し、成功するための素質を十分に備えていると確信しています。

1年前のAI Ascentで、私たちはこのチャートを使って「レバレッジ」について話しました。具体的には、組織の個々の機能がAIエージェントを持ち始めるだろうと予測しました。そして、それらの機能が統合され、最終的にはAIエージェントが全てのプロセスを自動化するようになるだろうと話しました。
さらに、一人でユニコーン企業を作る時代が来るという大胆な予測もしました。まだそれは実現していませんが、これまで以上に少人数で急速にスケールする企業が確実に増えています。そして、私たちはこれから、これまで見たことのないほどの最大のレバレッジを経済の中で目の当たりにするだろうと考えています。
最終的には、これらのプロセスとエージェントが完全に融合し、非常に大規模で複雑なニューラルネットワークの中で、さらに小さなニューラルネットワークが連携して動くようになります。つまり、ニューラルネットワークのネットワークが生まれるのです。

これによって、全てが変わります。個人の働き方が再発明され、企業の構造が再構築され、経済そのものが生まれ変わるでしょう。
皆さん、本日はご参加いただきありがとうございます。素晴らしいAI Ascentの一日になることを心から願っています。そして、皆さんがここにいてくださることに感謝しています。


4. オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Sequoia Capitalより
(Original Published date : 2025/05/07 EST)
[出演]
Sequoia Capital
パット・グレイディ(Pat Grady)
ソニヤ・ホァン(Sonya Huang)
コンスタンティン・ビューラー(Konstantine Buhler)
御礼
最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。
役に立ちましたら、スキ、フォロー頂けると大変喜び、モチベーションにもつながりますので、是非よろしくお願いいたします。
だうじょん
免責事項
本執筆内容は、執筆者個人の備忘録を情報提供のみを目的として公開するものであり、いかなる金融商品や個別株への投資勧誘や投資手法を推奨するものではありません。また、本執筆によって提供される情報は、個々の読者の方々にとって適切であるとは限らず、またその真実性、完全性、正確性、いかなる特定の目的への適時性について保証されるものではありません。 投資を行う際は、株式への投資は大きなリスクを伴うものであることをご認識の上、読者の皆様ご自身の判断と責任で投資なされるようお願い申し上げます。
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