核融合エネルギー開発:中国の猛追に焦燥感を募らせる米国
米国は、過去数十年にわたって核融合エネルギー開発の分野でリーダーシップを取ってきましたが、近年の中国は、国家主導により、米国の開発したテクノロジー(技術流出)を使い、さらに米国連邦政府が投入する資金の約倍の資金を投入して、人材開発はもとより、核融合エネルギーの商業利用の実現に向けたプロジェクトを急速に進め、向こう数年のうちに米国を追い越す可能性があると指摘する向きもあります。
実現すれば、無尽蔵でほぼ無制限に近しいエネルギーを手にすることが期待される技術だけに、その商用化を果たした国家は、医療、食料や水へのアクセスといった生活の質を左右するあらゆる分野に影響を与えることができると言われています。
開発はいまだ過渡期にありますが、早ければあと数年先にも電力網に電力を供給できる程度まで開発が進むとされている核融合エネルギーですが、規模をともなった商用利用に至るまでには、様々な課題が横たわっています。
そのような核融合エネルギー開発の現状について、米国 vs. 中国という図式で説明され、2025年3月16日に公開されたCNBCのプログラムを紹介します。ご参考下さい。

(1)イントロダクション
核融合はクリーンエネルギーの究極の目標とされており、原子をぶつけ合わせることで、従来の核分裂の4倍、石炭の燃焼の400万倍のエネルギーを1キログラムあたりの燃料から生み出します。しかも、温室効果ガスや長期的な放射性廃棄物が発生しません。すべてが順調に進めば、少なくとも1兆ドル規模の市場になると言われています。問題は...


現時点で、宇宙で稼働している唯一の核融合発電所は星だけです。

現在、その状況を変えようと世界中で競争が繰り広げられています。最も成功に近づいたのは、2022年にカリフォルニア州の国立点火施設(NIF:National Ignition Facility)で達成された、短時間ながら重要な正味プラスの核融合エネルギーの瞬間でした。しかし、長年にわたる米国のリーダーシップにもかかわらず、中国が急速に追い上げており、彼らはより速いペースで設備を建設し、米国の2倍の資金を投入して追い越そうとしています。


AIに関心がある方、エネルギーのリーダーシップに関心がある方は、核融合への投資が不可欠です。もし米国がこの分野で主導権を握ることができないならば、中国がリードすることになるでしょう。

新たな衛星画像によると、中国はカリフォルニアの研究所の2倍の規模を誇る巨大なレーザー核融合施設を急ピッチで建設しています。さらに、今年には別の大規模な国家主導プロジェクトが始動し、2027年にはさらにもう一つのプロジェクトが予定されています。一方で、米国は30年以上前に導入された機器を含め、既存の設備をアップグレードするにとどまっています。このままでは、3~4年のうちに中国が米国を追い越すであろうという声も聞こえます。

私自身、レーザーに関わる者として、とても不安です。だからこそ、成功に向けて全力を尽くしたいと考えています。

上院議員と核融合の専門家が発表した新たな報告書では、核融合が電気自動車用バッテリーや太陽光発電と同じ道をたどらないよう、連邦政府が100億ドルの資金を投入するよう提言しています。現在、この分野は中国が国家主導するプロジェクトと米国に拠点を置くスタートアップ企業のプロジェクトによる競争が繰り広げられています。こうした企業の代表例がHelionで、OpenAIのサム・アルトマン氏らの投資家から10億ドルの資金を得ており、2028年までに核融合発電を電力網に供給するという非常に野心的な契約をマイクロソフトと結んでいます。

(2024年9月19日)



2028年までに米国で新たな核分裂発電所が稼働することはないでしょう。

グーグルが支援するTAE Technologiesは12億ドルの資金を調達しました。さらに、Commonwealth Fusion Systemsはビル・ゲイツ氏、ジェフ・ベゾス氏、グーグルといった著名な投資家から約20億ドルを調達し、最も多くの資金を集めています。


「核融合?どうなるのかわからない。」と言って後回しにして済む問題ではありません。実際に中国では着実に進められているのです。

私たちは、米国の主要な核融合スタートアップ3社と専門家に話を伺い、この競争において何が危機的なのか、そして中国の躍進に対してどのような対策を講じているのかを質問してみました。


(2)アメリカ生まれ(American born)
80年前、米国が初めて核反応のエネルギーを制御した歴史的瞬間は、真夜中の闇の中、6マイル離れた場所から陸軍のカメラが記録していました。そのエネルギーは、1945年に広島と長崎に投下された原子爆弾の開発に使用されました。これが、原子が分裂することでエネルギーを生み出す核分裂であり、その後、原子力発電所や、近年ではAIデータセンターの電力供給手段として注目される小型モジュール炉(SMR)に利用されています。アマゾンやグーグルといった企業がこの分野に積極的に資金を投じています。


AIの急速な成長が予想外のタイミングで起こり、必要となる膨大な電力の規模が明らかになったのです。
米国は依然として最も多くの原子力発電所を稼働させていますが、新規プロジェクトに関しては中国が圧倒的なリードを誇っています。米国が原子力技術を開発してから約40年後に中国は最初の原子炉を建設しましたが、現在では中国が世界で最も多くの核分裂発電所を建設しています。
核融合の競争に中国が参入したのは2000年代初頭で、米国に約50年遅れてのことでした。その際、中国は米国や他の32カ国とともに、フランスで進められている国際熱核融合実験炉(ITER)という大規模プロジェクトに参加しました。


しかしその後、中国は米国の大学よりも多くのプラズマ物理学者や核融合科学者を育成しています。中国の進捗は米国政府のプログラムよりも速いことがわかっています。

核融合の最初の大規模な活用は、1952年に米国が行った水素爆弾の実験でした。しかし、その後の70年間、科学者たちは核融合燃料の加熱と維持に必要なエネルギーを上回るエネルギーを得るために苦闘し続けています。

核融合は、太陽を含む星がエネルギーを生み出す仕組みです。燃料となるのは水素で、核分裂に使われる重く希少なウランに比べて軽く豊富に存在する元素です。水素原子が約2億7千万度という太陽の10倍もの超高温に達すると、圧力によって融合が起こり、プラズマと呼ばれる超高温のガスが形成されます。水素原子が融合するとヘリウムが生成され、その際に一部の質量がエネルギーへと変換され、莫大なエネルギーが生み出されます。しかし、このプラズマの制御は非常に困難なのでです。
プラズマは磁場に反応するため、「磁気閉じ込め核融合」(MCF:Magnetic Confinement Fusion)と呼ばれる手法では、トカマクと呼ばれるドーナツ型の装置内でプラズマを浮かせて制御します。一方、「慣性閉じ込め方式」(ICF:Inertial Confinement Fusion)では、高エネルギーレーザーを胡椒の粒ほどの燃料ペレットに照射し、急激に圧縮して内側へ爆縮させる方法が用いられます。米国が2022年、ローレンス・リバモア国立研究所の国立点火施設で歴史的な初の核融合点火を達成し、正味プラスのエネルギーを生み出したのがこの方法です。




この成功はごくわずかな時間、文字通りナノ秒単位の出来事でした。192本のレーザーがすべて、ボールベアリング弾ほどの小さな標的に向けて照射され、その燃料が点火し、標的に投入されたエネルギー以上のエネルギーを放出しました。次の課題は、これをコマーシャル・ベースで実現可能な方法として確立することです。
これまで核融合には、大規模な設備に多額の資金が必要でした。巨大なレーザー設備や大型のトカマク装置がその代表例です。こうした背景から、一部のスタートアップ企業は、プラズマの制御方法を工夫し、小型化を目指しています。Zap Energyはプラズマに電流を流し、ジェフ・ベゾス氏が支援するGeneral Fusionは蒸気ピストンを活用しています。Helionはトカマクの代わりにシリンダー内でプラズマ同士を時速100万マイル以上の速度で衝突させる磁気パルス方式を採用しています。TAE TECHNOLOGIESは異なる種類の燃料と粒子ビームを用いた手法に取り組んでいます。


無尽蔵でほぼ無制限のエネルギーを手にした国は、医療、食料や水へのアクセスといった生活の質を左右するあらゆる分野に影響を与えることができます。その力が特定の国だけの手に渡るというのは、非常に不安なことだと思います。


(3)資金、規模、そしてスピード(Money, size and speed)
しかしながら、公的支援に関しては中国が大きくリードしています。米エネルギー省によると、中国は年間約15億ドルを核融合開発に投じていると報告されています。一方、米国の核融合関連の連邦予算は、ここ数年で平均して年間約8億ドルにとどまっています。2023年には、中国の核融合への投資額は、他のすべての国を合わせた額を上回ったとエネルギー省は伝えています。


中国の核融合システムは外部からは非常に不透明で、その実態を把握するのが難しいことで知られています。
現時点でわかっているのは、リアクターは大きければ大きいほどプラズマの加熱と閉じ込めが効率的に行え、正味プラスのエネルギーを得られる可能性が高まるということです。中国の最新の核融合プロジェクトは非常に大規模です。衛星画像によると、2024年には4基のレーザー設備が、核融合反応が行われる格納ドームに向けて建設されている様子が確認されています。このドームだけでもサッカー場ほどの大きさがあり、米国の国立点火施設のおよそ2倍の規模です。核融合産業協会のアンドリュー・ホランド氏によれば、これは核融合と核分裂を組み合わせた「核融合/核分裂ハイブリッド型」である可能性が高いと見られています。


「核融合/核分裂ハイブリッド型」は、本質的には爆弾の仕組みを発電所に応用するようなものです。米国のように、安全性を厳しく規制する制度がある国では決して実現できないでしょう。しかし、中国のように、近隣住民の意見よりも政府の決定が優先される体制では、実行すると決めたら実行されるのです。
中国の既存の国家トカマクプロジェクト「EAST」は、ここ数カ月間、フランスの国家プロジェクト「WEST」と競い合い、リアクター内でのプラズマの最長閉じ込め記録を更新し続けています。ただし、これは正味プラスのエネルギー達成に比べると、それほど画期的な成果ではありません。それでは、なぜ中国は米国が先駆けた技術で新たな成果を出しているのでしょうか?


計画経済では、政府がこれを最優先課題とする、と決めたことは、確かに速く進みます。それが優れているかどうかは別の話です。ソ連が開発したものが、米国の技術より優れていたかと言えば、決してそうではありません。しかし、より速く、より多くのものを作っていたのは事実です。
中国が得意とする近道の一つは、米国の技術の模倣です。


米国は2020年、トランプ政権下で核融合に関する戦略を完成させました。しかし、議会はその戦略を実行するための予算を確保していません。その間に中国はその戦略をもとに、米国の計画とほぼ同様の技術を構築してしまったのです。

中国東部に建設中の核融合キャンパス「CRAFT」は、7億ドル規模、約100エーカーの広さを誇り、今年中に完成予定です。さらに、新たな国家主導のトカマク「BEST」は2027年に完成する見込みです。米国の核融合スタートアップHelionによると、中国のいくつかの小規模プロジェクトが同社の特許設計を模倣しているといいます。

実際に、Helionが特許を取得した設計と非常に似た手法を用いている中国のグループが3つあると言われており、特許の設計図や図面を利用して、そのままコピーしようとしているようです。


(4)人材と物資(Manpower and materials)
中国が急速に新しい施設を建設している一方で、米国の国家プロジェクトは、数十年前に導入された既存の機器を使い続けています。
新しい設備を作れば、それは多くの人を引きつけます。最先端の研究に関わるのは魅力的なことです。誰もが時代遅れの恐竜のような機械に関わりたいとは思わないものです。結果として、そうした状況が頭脳流出を引き起こしてしまうのです。
トランプ大統領は1期目の任期中、核融合を含む原子力関連の支援を強化し、その流れはバイデン政権にも引き継がれました。ただ、トランプ氏の2期目に向けた大規模な連邦政府の縮小計画の中では、核融合への資金提供がどうなるかは不透明です。2000年代初頭には、国内の核融合研究に対する予算削減が行われ、その結果、米国の大学は新しい装置の開発を断念し、研究者たちは他国、特に中国の設備で学ばざるを得なくなったのです。


私たちは新たな設備を作る代わりに中国へ行き、「彼らの施設を作るのを手伝えばいい。施設は中国にできるが、私たちはその知識を得て賢くなれる。それで自国の設備がなくても問題ない」と考えました。しかし、それは大きな誤算でした。
ある報告によると、中国は現在、核融合に関する特許数で世界最多を誇り、核融合科学と工学の博士号取得者は米国の10倍に達しています。

西側諸国には、限られた人材しかおらず、各企業がその人材を争っているのが現状です。これは根本的な課題です。
核融合プロジェクトの建設には膨大な量の材料が必要であり、しかも急速に調達する必要があります。中国はこの点でも、太陽光発電や電気自動車用バッテリーの分野と同様、サプライチェーンの独占を目指しています。

中国は、米国の10倍のペースで先進素材の開発に投資しています。これは我々が変えなければならない点です。具体的には、核融合装置の内壁や、核融合燃料やプラズマを閉じ込めるために使用される高性能磁石などの材料が重要な要素になります。
中国は、キャパシターやパワー半導体といった重要部品の市場確保にも力を入れています。
私たちのPolaris第7世代システムは、稼働までのスケジュールが完全に半導体の調達に左右されました。具体的には、海外から半導体を購入し、それを米国に持ち帰って組み込み、核融合システムを動かす必要があったのです。
上海に拠点を置くEnergy SingularityはCNBCの取材に対し、中国の効率的なサプライチェーンが大きな強みだと語っています。同社は、トカマクの設計開始からわずか2年でプラズマ生成に成功し、最短記録を達成したと発表しています。

(5)民間セクターの力(Private sector power)
それでも、米国が中国を上回っている分野が1つあります。それが、急成長を遂げている民間セクターです。核融合産業協会(FIA)に加盟する40の民間企業のうち、25社が米国の企業だとホランド氏は述べています。

FIAが2021年5月に設立された当初、世界中の民間企業への投資額は約12億ドルでした。しかし現在、その額は80億ドルを超えています。そのうち約60億ドルが米国の企業に投資されています。


2018年にMITからスピンアウトしたCommonwealth Fusion Systemsは、ホランド氏が最も早く商業核融合に到達する企業として注目している企業です。同社のSPARCトカマクは、2027年ごろに超電導磁石を用いて正味プラスのエネルギーを達成する計画です。

SPARCは、投入エネルギーの約10倍、約100メガワットの出力を目指しています。これはこれまでに誰も成し遂げたことのない成果です。こうした条件が、将来的な発電所の基盤となるのです。

Commonwealth Fusion Systemsの次のプロジェクトは、バージニア州に建設予定の400メガワット規模の核融合発電所「ARC」です。
こうした動きは米国に限りません。ジェフ・ベゾス氏やマイクロソフトは、カナダのGeneral Fusionを支援しています。ヨーロッパ、インド、日本にも核融合スタートアップが点在しています。
これらの国々の多くに加え、中国やロシアも、フランスで進められている国際熱核融合実験炉(ITER)に協力しています。しかし、このプロジェクトは大幅な遅延が続いており、最新の見積もりでは完成が2039年以降にずれ込む見通しです。これは、米国の核融合スタートアップ企業が目指す商業化の時期をはるかに超えています。

最初の電力供給は2028年を予定しています。

2030年代初頭には、電力網への本格的な供給が始まる見込みです。

おそらく、2020年の終わりごろ、もしくは2030年代の初めになるでしょう。

しかし、問題は、中国がそれよりも早く達成する可能性があるのか?という点です。現時点では、中国が最初に成功するとは思えませんが、私が懸念しているのは、100基目のことです。重要なのは、できるだけ早く普及させ、技術を進化させ、改良を重ねることです。
最初の商業核融合発電所が米国にできたとしても、それで安心すべきではありません。むしろ重要なのは、持続可能なシステムを確立することです。ゴールは、核融合産業が成熟し、世界中、特にAIデータセンターなどへ安定して電力を供給できる体制を築くことなのです。

核融合は必要不可欠です。これ以上議論を続けるのではなく、実際に行動に移し、設備を建設していくことが求められています。今、世界中が可能な限りのスピードで動いています。


2. オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
CNBC
(Original Published Data : 2025/03/16 EST)
[出演者]
MIT
デニス・ホワイト(Dennis Whyte)
原子力科学工学教授
フュージョン・インダストリー・アソシエーション
アンドリュー・ホランド(Andrew Holland)
CEO
TAEテクノロジーズ
ミヒル・ビンダーバウアー(Michl Binderbauer)
CEO
グローバルセキュリティパートナーシップ
ケン・ルオンゴ(Ken Luongo)
創設者兼会長
コモンウェルス・フュージョン・システムズ
ボブ・マムガード(Bob Mumgaard)
共同創設者兼CEO
ヘリオン
デイビッド・カートリー(David Kirtley)
創設者兼CEO
CNBC
ケイティ・タラソフ(Katie Tarasov)
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だうじょん
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