AIの脅威によって株価を下げている企業が 投資家の信頼を得るために求められていること
2026年3月10日に収録され、11日に公開されたゴールドマン・サックスのポッドキャスト・コンテンツを紹介します。
2026年2月から3月の市場は、AIの急速な進化によって既存のソフトウェア企業が駆逐されるのではないか?という投資家の不安に覆われ、多くのソフトウェア企業、SaaS企業の株価が大きく下落。既存プレイヤーに対する市場の評価は、具体的なコーディング支援ツールの登場や企業への導入本格化が進むにつれ、厳しい評価へと変化しました。
本コンテンツでは、ゴールドマン・サックス・リサーチのシニア・アナリスト、ガブリエラ・ボルジェス氏が、このAI破壊論の渦中にあるソフトウェア・セクターの現状と課題を分析。市場の評価軸がこれまでの単なるグロースからシフトし、投資家層が変化するなかで、これら投資家を納得させ、ソフトウェア・リーダー企業が生き残るために求められるその価値や能力についての見解が述べられています。以下、サブテーマです。
◆ 投資家心理の変化と市場の現状
かつてのAIに対する熱狂が、現在は既存ソフトウェア企業の破壊的リスクへの懸念へと変質している。Claude Code等のコーディングAIの進化や企業向けAI採用の本格化により、既存企業の優位性が揺らいで見える。
◆ 既存企業のモート(参入障壁)の再定義
新興AI企業に対し、既存企業は何をもって防御とするか。
◆ 生き残るためのソフトウェア・リーダー企業の条件
激動の時代にリーダーの地位を維持するために必要な戦略。3つの重要要素とは何か?
◆ 投資家層の交代と評価基準のシフト
ソフトウェア・セクターに投資するプレイヤーが変化し、企業に対する評価軸が変化している。
[オリジナルコンテンツ収録日:2026年3月10日]
1. インタビュー
[アリソン・ネイサン](Goldman Sachs Research)
AIはソフトウェア業界にとって、存亡に関わるリスクなのでしょうか。投資家はこの問いに直面しており、今年のソフトウェア銘柄の激しい売りにつながっています。しかし、その懸念は本当に妥当なものなのでしょうか。そして投資家は、どのようにして勝者と敗者を見分ければよいのでしょうか。
本日はゴールドマン・サックス・リサーチでソフトウェア・セクターを担当している、ガブリエラ・ボルヘスさんをお迎えしています。
ガブリエラさん、エクスチェンジへようこそ。

[ガブリエラ・ボルジェス](Goldman Sachs Research)
お招きいただきありがとうございます。とても光栄です。
[アリソン・ネイサン]
今回は初めてのご参加ですので、このお話ができることを楽しみにしています。ソフトウェア業界にとっては非常に波乱に満ちた時期ですので、お越しいただけて嬉しいです。
[ガブリエラ・ボルジェス]
はい、もちろんです。
[アリソン・ネイサン]
それではガブリエラさん、まずは状況を整理しましょう。生成AIが登場してから数年が経ちますが、AIをめぐる市場の論調は、熱狂から懸念へと大きく変化したように見えます。特にここ数ヶ月は、AIによる破壊的リスクへの懸念が高まっており、その焦点はまさにあなたの担当するソフトウェア・セクターに絞られています。
なぜそうなったのか、何が投資家にソフトウェア企業の先行きを再考させたのか、詳しく教えてください。

[ガブリエラ・ボルジェス]
承知いたしました。この3ヶ月間は本当に興味深い時期でした。投資家が特にソフトウェア、その中でもエンタープライズ・ソフトウェアに対して注意を払うようになったきっかけとなる節目をいくつか挙げるとすれば、まずはコーディング・アルゴリズムの劇的な進歩から始まったと言えるでしょう。例えばAnthropicのClaude Codeのような、開発者がより効果的にコーディングを行うためのツールが登場しました。1月には、AnthropicがClaude Codeにラッパーを被せることで、私たちのような一般的なナレッジワーカーでも利用できるようにしました。これによって、開発者でなくても生成AIの恩恵を受けられるようになったのです。またちょうど同じ時期に、この分野の新しい競合他社からも多くの発表があり、投資家は一歩引いて状況を見るようになりました。そして、二つのことが同時に起きていると考えるようになったのです。
一つは、ようやく企業によるAIの採用が始まったということです。2022年のチャットGPTの登場は、どちらかというと消費者向けの出来事でしたが、そこから実際に企業のエコシステムで利益が見え始めるまでには、通常は数年かかります。さらに、AnthropicやOpenAI、その他の競合他社からの発表によって、競争が激化することが示唆されました。こうした要素がすべて、この3ヶ月で一気に表面化したのです。

[アリソン・ネイサン]
なるほど、興味深いですね。つまり、実際の技術的な進展が、こうした懸念を本格的に引き起こしているわけですね。しかし、その中でソフトウェア企業がどのような位置にいるのかという話になると、先ほどお伝えしたように競争が激化していますが、一方で、モート、つまり参入障壁やその防衛可能性についてもよく耳にします。それらが一体何なのか、そしてこの分野においてどのような意味を持つのか、教えてください。
[ガブリエラ・ボルジェス]
投資家の方々の心に響いていると思われる例がいくつかあります。例えばサイバーセキュリティの分野では、CrowdStrikeのような企業があります。彼らは実際にエンドポイントでデータを収集しています。エンドポイントとは何かと言いますと、携帯電話やノートパソコン、サーバーのことです。データを収集する際、彼らは実際に人間を介在させて強化学習を行い、脅威インテリジェンスや脅威データ、そして独自の技能を注入して、サイバー攻撃のためのデータにラベルを付けています。CrowdStrikeはこれを10年以上続けています。そのため、彼らが持つデータセットやドメインの経験、そして文脈は、実は非常に重要になります。私たちが「ドメインの経験」や「文脈」という言葉を多用するのを耳にされると思いますが、それは既存企業が持つ、より興味深いモートの一つだと考えているからです。
そこで問題となるのは、CrowdStrikeや他の企業において、それだけのドメイン経験があるのなら、それによって実際に優れたAI体験を提供できることを、投資家コミュニティや顧客に対して証明しなければならないということです。つまり、非公開企業のエコシステムにおける次世代のスタートアップであるSierraをSalesforceの上で動かすのと、Salesforce独自のAI技術であるAgent Forceを使うのを比較した場合、SalesforceはAgent Forceを使ってより良い結果が得られることを示さなければなりません。同様に、MicrosoftのCopilotについても、AnthropicのClaudeのように外部から接続するツールを使うよりも、AIエージェントを搭載したMicrosoftのCopilotの方がエクセルの使用感をより向上させられることを証明する必要があります。そのため、私たちは経営陣に対して、自社のモートや既存の地位、ドメインの経験を実際に活用して、顧客により良い成果を届けられることを証明するように求めているのです。
[アリソン・ネイサン]
そうですね。しかしいながら、たとえ短期的、あるいは中期的にそれを証明できたとしても、状況は固定されたものではありません。技術の進化や企業のあり方という点では、ご存じの通り非常にダイナミックな動きがあります。
では、それらのモートが今後も防衛可能であるとか、あるいはAIを活用したネイティブ企業やツールが追いついてくると確信するためには、何が必要なのでしょうか。

[ガブリエラ・ボルジェス]
私たちがデューデリジェンスの中で始めていることがいくつかあります。正直なところ、これは以前から私たちのプロセスの一部でしたが、非公開のエコシステムで何が起きているかを知らなければ、優れた上場企業の投資家になるのは非常に難しいと感じています。そのため、私たちは非公開企業向けのカンファレンスを開催し、非公開企業のエコシステムに多くの時間を割いて、スタートアップ企業に同じ質問を投げかけています。あなたのモートは何ですか、それはどのように防衛可能ですか、ロードマップやカスタマーエクスペリエンスについて教えてください、といった内容です。
もう一方の側面としては、こうした企業の最高技術責任者であるCTOやエンジニアの方々と時間を共にし、先ほどのCrowdStrikeの例のような技術的なモートについて、より深く掘り下げることです。ファンダメンタルズ分析を行うアナリストとして、私たちはファンダメンタルズを重視しています。それは、ビジネスの先行指標が何であるかということです。具体的には、予約や請求といった項目や、AIの利用状況、収益化しているAI機能のライセンス数の割合などです。こうした統計やKPIは、ある企業がAIの導入をうまく進めていること、そしてそのAIの導入が十分に差別化されており、適切に価格を設定し、課金し、収益化できていることを示すのに、非常に役立ちます。

[アリソン・ネイサン]
おっしゃるとおりですね。でも、現在は非常に持続可能に見えるこれらのモートは、時間が経っても耐えられるものなのでしょうか。
[ガブリエラ・ボルジェス]
はい。私たちが選別した企業については、耐えられると考えています。今日のソフトウェア業界のリーダーが自社のモートを持続させるために必要なこととして、私たちは三つのチェックリストのような項目を持っています。
まず一つ目は、現在のテクノロジースタックを再構築することです。システムをモダナイズし、データフローを円滑にして、10年、15年、20年とアーキテクチャを構築する中で蓄積されがちなレガシーな技術的負債を最小限に抑える必要があります。
また二つ目にすべきことは、自社独自のロードマップを策定することです。生産性を向上させるために、適切なエンジニアリングの人材やコーディングツールを確保してください。もしロードマップに欠けている部分があっても、それは問題ありません。必ずしもその分野のリーダーである必要はなく、素早い追随者になればよいのです。非公開企業のエコシステムを調査し、既存のロードマップに対して非常に優れたプロダクトマーケットフィットを持つ企業を見つけ出せる、有能なM&Aチームが必要になります。
そして三つ目は、先ほど触れた収益化のポイントです。導入済みの顧客ベースでの利用状況を追跡および測定し、時間の経過とともに実際に収益化を有効にして価格を設定できる手法を持っているかどうかです。この価格決定権は、製品が実際に課金できるほど十分に差別化されているかどうかを判断するための、重要なリトマス試験紙となります。
ですので、いただいた質問への直接的な回答として、私たちはこうした点に注目して、選別したソフトウェアリーダーのモートが生き残り、3年後、5年後、あるいは7年後もリーダーであり続けられるかどうかを判断しているのです。
[アリソン・ネイサン]
判断を下し、企業が答えを見つけ出すには、しばらく時間がかかりそうですね。それでは、その間もこれらの企業や株式を保有している投資家にとって、セクターが実際に安定するためには何が必要なのでしょうか。
[ガブリエラ・ボルジェス]
はい。やはり数字が市場の論調を覆す必要があるという基本に戻ります。私たちはベンチマーキング・ソフトウェアという分析を行っており、そこで年間のリピート売上であるARRの成長率や、顧客獲得コストに対する顧客生涯価値を示すLTV対CACなどの指標を確認しています。これらはソフトウェア投資家がビジネスの健全性を評価するために使用する主要な指標です。
実は、これらの指標は4年間にわたって悪化し続けていました。2020年と2021年にはデジタル変革が加速した非常に刺激的な時期がありましたが、それ以降は消化期間に入り、多くの主要な指標が減速または悪化していました。
現在は指標の安定が見え始める段階にあると考えています。今回の決算シーズンで心強かったことの一つは、適切な決算結果を出した企業が、発表後に良好に取引されている状況が見られ始めたことです。ファンダメンタルズを重視する投資家として、投資家が個別の銘柄案に関心を持ち、決算報告のポジティブなデータポイントに対して市場が好意的に反応するような関わり方は、セクターが時間をかけて回復していく上で非常に良いダイナミクスとなります。
そのような中では、やはりセクター内の企業への注目が重要になります。それは、状況を理解して変革を進めている企業と、少し遅れをとっている企業との間では、明暗が分かれると考えているからです。
[アリソン・ネイサン]
今年の始まりは投資家の懸念が多くありましたが、それ以外の理由でも市場には多くの変動が見られました。現在の投資家の心理については、どのように感じていますか。状況は変化しているのでしょうか、それともまだ静観している状態なのでしょうか。

[ガブリエラ・ボルジェス]
ここ数週間の対話の中で特に興味深かったのは、バリュー志向のポートフォリオ・マネージャーたちとの会話です。彼らは長い間、価格の高いデータアセットやデータを中心とした無形資産に対して、過少保有や売り持ちの姿勢をとってきました。
これまでソフトウェア業界で一般的に使われてきた指標の多くは、企業価値をフリーキャッシュフローで割ったものでした。これは、株式報酬を現金支出ではないため費用として扱わない指標です。また、非GAAPの決算数値も同様で、そこには株式報酬に関連するGAAPと非GAAPの差が存在していますが、ようやくGAAPベースの収益力について、興味深い分析ができる段階に来ています。これが、これまでソフトウェア・セクターを割高だとして敬遠してきた投資家層を、この分野に惹きつけ始めていると考えています。
このことは、願わくば、より大きな心理的変化となるものの始まりです。第2段階、第3段階と進んでいくには、先ほどお話ししたように時間をかけて進んでいく必要があります。指標は改善しているか、あるいはこの分野における競争の激しさが実際に和らぎ始めている兆候があるか、といった点に注目するのです。
[アリソン・ネイサン]
そうですね。もしくは、競争が激化しているかですね。
[ガブリエラ・ボルジェス]
その通りです。
[アリソン・ネイサン]
こうした対話をふまえて、これらの企業やこのセクターにおける投資家層は変化していると思いますか。
[ガブリエラ・ボルジェス]
端的に言えば、そう思います。その理由の一部としては、成長の希少性にも関係しています。2020年や2021年には、この分野の平均的な企業は20パーセントを超える成長を遂げていましたが、しかし現在では、その数字は10パーセントにかなり近づいています。そのため、よりバリュー志向で、かつ妥当な価格での成長を重視する投資家、いわゆるGAAP投資家層がこれらの銘柄に参入してきています。これは新しい種類のカンバセーションです。
特筆すべきことに、2021年から2023年にかけて投資家が利益率の拡大を強く求めた際、これらの企業はそれに応えました。例えばOktaのようなアセットは、18ヶ月でフリーキャッシュフローのマージンを0パーセントから20パーセント近くまで引き上げました。
私たちは、企業が今回も同じような対応をすると考えています。投資家は、GAAPベースの決算を非常に重視しています。決算の質に影響を与える株式報酬による希薄化を好んでいません。
ここで素晴らしいのは、ソフトウェア企業もこれらのAIツールを活用することで、既存の従業員からより高い生産性を引き出せるようになっている点です。彼らは自社の製品を自ら使っているのです。つまり、今後の営業費用の伸びは、人材の採用や維持にかかるコストよりも、低下傾向にあることが分かっている計算コストにより密接に関係していく可能性があるということです。もちろん、人材は依然として企業の価値創出の大きな部分を占めますが、以前ほどではないかもしれません。これらを総合すると、これらの銘柄に対して非常に良好なバリュエーションの支えが得られ、これまでソフトウェアをセクターとして見ていなかった投資家層を惹きつけているのです。

[アリソン・ネイサン]
その点は、ガブリエラさんがレポートでも述べていたように、それは非常に重要な点ですね。
これらの企業は立ち止まっているわけではありません。ネイティブなAI企業がツールを活用しているのと同じように、既存の企業も対応し、これらのツールを取り入れています。企業自体の内部に多くのダイナミズムが存在しているのですね。
[ガブリエラ・ボルジェス]
その点は本当に重要だと思います。今日のソフトウェア業界のリーダーが、次々と登場する新しい刺激的な技術のすべてに、自社の研究開発費を投じて投資しようとするのは合理的ではありません。そのような投資は、ベンチャーキャピタルのコミュニティが行う方がずっと理にかなっています。そして今日のソフトウェアリーダーは、一歩引いて状況を見極め、どの技術が実際に生き残る力を持っているのかを確認すればよいのです。その後、非常に健全なバランスシートを活用して、その分野のトップ2、3社を買収すればよいのです。
Salesforceは実際に、過去12ヶ月で10件以上の買収を行い、それらをロードマップに組み込みました。一度ロードマップに組み込んだ後は、それらが技術的にしっかりと統合され、営業担当者が既存の顧客に対してクロスセルを行えるように訓練と準備を整える責任が企業にあります。しかし、これは長い時間をかけて非常に成功することが証明されている手法です。
ここでもう一つ、サイバーセキュリティの分野の例を挙げましょう。サイバーセキュリティでは、ハッキングコミュニティという能動的な敵対者と対峙しているため、10年以上にわたって革新のペースが上がっています。そのため、先を見通す力が必要になります。CrowdStrikeやPalo Alto Networksのような企業がM&Aに注力したことで、彼らのプラットフォームは実際に強化され、顧客獲得コストは下がりました。このことは、MicrosoftやSalesforce、Workday、Intuitといったアプリケーション・ソフトウェア分野の銘柄において、今後起こり得ることの非常に興味深い類似例になると考えています。彼らは過去10年における最高のアプリケーション・ソフトウェア企業の一部です。彼らがM&Aや自社でのイノベーションという観点から、今後どのような動きを見せるのか、非常に楽しみにしています。
[アリソン・ネイサン]
注目すべき点が多いですね。ガブリエラさん、ありがとうございました。
[ガブリエラ・ボルジェス]
こちらこそ。お招きいただきありがとうございました。
[アリソン・ネイサン]
2026年3月10日に収録されたエクスチェンジを、最後までお聞きいただきありがとうございました。
2. オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Goldman Sachsより
(Original Published date : 2026/03/11 EST)
[出演]
Goldman Sachs Exchanges
ガブリエラ・ボルジェス(Gabriela Borges)
Head, Derivatives Research
アリソン・ネイサン(Allison Nathan)
Senior Strategist
御礼
最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。
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だうじょん
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