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【深掘り!防災コラム#1】香港の高層マンション火災 日本では起こりえないって本当?

こんにちは、減災研究室ラボラトリー・フィードバックの永山政広です。
元消防官としての災害活動経験、そして学術研究者としての災害分析経験をもとに、火災や自然災害対策の支援活動を行っています。
その一端として、テレビの報道・情報番組で解説を担当しているんですが、いつも物足りなさを感じているんですね。
なぜかと言うと、時間も限られているから説明不足になりやすいし、録画番組だと一部だけを切り取られて、真意が伝わらないこともあったりします。
そもそも災害というものは、様々な要因が重なって起こることが多いので、
一部だけが強調され、それを聞いた人が分かったつもりになってしまうのは、とても危険なことなんです。
そこで企画したのが『深掘り防災コラム』です。
メディアで流されている防災情報の重要なところを深掘りし、少しでも役に立てていただこうと考えました。

その第1弾が『香港の高層マンション火災……日本では起こりえないって本当?』

実は、この火災に関して、私も報道番組でいくつかの問題点を指摘したんですが、どういうわけか「日本では起こりえない」とおっしゃる方が多いんですね。
確かに日本で行う工事の仕方とは、かなり違いますし、これほどの惨事になるとは考えにくいとも言えます。
しかし、「起こりえない」と断言してしまっていいのでしょうか。
「日本は大丈夫」と思考停止になってしまうよりも、日本にも共通する問題点をしっかりと検討した方が良いのではないでしょうか。


香港高層マンション火災の概要

まずは、間もなく1か月が経とうとしている、この火災を簡単に振り返ってみましょう。
現場は、香港北部の大埔区にあり、31階建ての高層マンション8棟が立ち並ぶ一角で、11月26日の午後に発生しました。
8棟のマンションは大規模補修工事が行われており、
竹製の足場と防護ネットで囲まれていました。
この足場伝いに燃え広がり、8棟のうち7棟まで延焼拡大し、多数の死傷者が発生したものです。

出火棟と延焼棟の配置

「日本では起こりえない」といわれる根拠として、こうした竹製の足場が日本では使われていないこと、そして、日本のマンションは防火設備が優れていることが挙げられています。
そこで、今回の深掘りポイントを次の3点に絞ってみました。

Point-1 金属製の足場なら大丈夫なのか?
Point-2 外周部の延焼は日本でも起きるのか?
Point-3 日本の防火設備は機能するのか?

では、順に深掘りしていきましょう。

Point-1 金属製の足場なら大丈夫なのか?

確かに金属製の足場なら燃えそうにありませんよね。
しかし、現実に金属製足場の工事現場で火災は発生しています。
代表的なものをご紹介しましょう。

2014年3月20日 首都高3号線補修工事現場火災 (Karita0606より)

これは、2014年3月20日に発生した、首都高3号線の補修工事現場での火災です。
首都高の高架部分を金属製足場が囲っていますが、その内部が激しく燃えたのです。

2014年3月20日 首都高3号線補修工事現場火災 (鎮火後の状況)

鎮火後の写真を見ると足場の板は、溶けて多くの穴が開いています。

2014年3月20日 首都高3号線補修工事現場火災 (鎮火後の状況)

延焼範囲からやや離れたところ見ると木製の板も使われています。
この火災、白熱電球に溶剤が付着して発火したものなんですが、その直近で使われていたシートは防炎製品ではなかったようです。
実は、こうした出火は、工事現場で時々見られるケースなんです。そして、ひとたび出火し、炎が一定の規模になると防炎シートでも燃えてしまいます。

最近の事例もご紹介しましょう。

2025年3月27日 東京都千代田区解体工事現場火災 (NHKニュースより)

これは、今年の3月27日、東京都千代田区の解体工事現場で発生したものです。
屋上の塔屋部を囲んだ足場が激しく燃えています。
この写真をご覧いただくと分かると思いますが、燃えているのは、足場を囲んだパネルです。

このパネル、防音パネルといわれるもので、合成樹脂の吸音材をアルミの板でサンドイッチしたような構造になっています。
表面はアルミなので、火であぶってもすぐには燃え出さず、防炎製品として認定されて出回っているものも多くあります。
しかし、中は合成樹脂ですから、一定以上の火力に晒されると燃えだしてしまいます。

このように、足場やシート以外にも工事現場では様々なものが使われており、その多くが燃えるものなのだ、ということを忘れてはならないんですね。
「竹の足場でなければ安心」とは、とても言えないんです。

Point-2 外周部の延焼は日本でも起きるのか?

香港の火災の特徴は、工事用足場という、建物外周部にあるものが延焼経路になってしまったという特徴があります。
こうしたことが日本で起きるのかどうか、という点を深掘りしていきたいと思います。

結論から申し上げると、日本でも起きています。
今年の8月18日、大阪市の道頓堀近くにあるビルで起きた火災が記憶に新しいと思います。

2025年8月18日 大阪市ビル火災 (MBSニュースより)

この火災は、ビルの壁面に取り付けられた大きな広告看板伝いに延焼し、隣のビル内へと火災が拡大していったことで知られています。
香港の場合と条件は異なりますが、外周部を延焼し、室内の火災へと移行していった点は、共通だと思います。
 
看板以外にも燃える要素は存在します。

2014年11月3日 東京都新宿区ビル火災 (視聴者投稿映像より)

これは、2014年11月3日、東京都新宿区にあるビルの壁面が激しく燃え上がった火災です。
耐火構造の壁が燃え出すとは、とても想像しがたいものですが、壁そのものではなく、表面の塗装剤が燃えたわけです。

2014年11月3日 東京都新宿区ビル火災 (翌日の現地調査より)

幸い、窓ガラスが熱に耐えてくれたことで、室内に大きな被害はありませんでした。しかし、一歩間違えればビル全体に燃え広がってしまったかもしれません。

建物本体だけを気にするのではなく、その外周部にあるものにも注意を払わねばなりません。
例えば、海外では、次のような高層ビルの火災が多発しています。

2015年12月31日 ドバイ高層ホテル火災 (SNS投稿より)
2017年6月14日 ロンドン高層マンション火災 (FoxNewsより)

いずれも建物の外装材が燃えました。
断熱用の外装材なんですね。
断熱材を金属板でサンドイッチしたもので、そう、先ほどご紹介した工事用防音パネルと似たような構造です。この断熱材に燃えやすいものが使われていたんです。

日本でも似たような断熱用の外装材を用いるケースはありますが、燃えにくい材質を用いるなど配慮されているので、今のところ、こうしたものが延焼経路になったケースは、ありません。ただし、何かの手違いで規格外の材料が混入するケースは否定できませんので、施工には十分注意が必要です。

外壁本体が耐火構造だと聞くと、燃えないと思いがちですが、その周囲にあるもの次第で延焼することがあるということを理解してください。

Point-3 日本の防火設備は機能するのか?

「日本では起こりえない」といわれる根拠として、日本の防火設備を挙げる方がいます。具体的にはスプリンクラーや避難階段です。
それが本当に機能するのかを深掘りしてみましょう。

まずはスプリンクラー。高層建物や一定規模の建物に設けられており、初期の火災対応に有効だとされています。
しかし、基本的にスプリンクラーは、室内の火災に対処するものです。外周部で燃えているものを消すことはできません。
また、能力には限界があり、特定の区画内だけなら消火できますが、建物全体で燃えているようなケースには歯が立ちません。

具体的に計算してみましょう。マンションに設けられている「共同住宅用スプリンクラー設備」の基準ですと、部屋の大きさにもよりますが、一つの住戸に12個くらいのヘッドが付いています。
そのうちの3分の1、つまり4個が作動したとすると、1個当たり毎分50リットル以上、放水しますので、合計で毎分200リットルの水が必要となります。
基準では、水源は4,000リットル以上と規定されています。もしこの最低基準だったとすると、200リットルで放水していると、20分くらいで水がなくなってしまいます。

スプリンクラーの能力限界

1箇所の窓から延焼してきただけのケースなら消火は出来そうですが、複数の階で次々に延焼してくるようになると、とても無理でしょう。
スプリンクラーがあるから大丈夫とは、とても言えません……。

次に避難について考えてみましょう。
この火災では多くの死傷者が発生しましたが、なぜ避難できなかったのかを解き明かしていく必要があります。
火災報知機が機能しなかったという情報もあり、これが事実だとすれば、大きな要因の一つとして挙げられるでしょう。
日本でも火災報知機が機能せず、多くの死傷者を出した火災は、いくつもあります。その多くが、火災報知機の重要性を理解せず、意図的に機能停止をさせていたわけで、とても許されることではありません。

火災報知機が機能せず大惨事になった火災

香港ではどのような状況だったのか、その結果を教訓に活かしていくべきです。

さらにもう一つ――。
次はマンションの平面図です。

平面図 (Hong Kong Housing Authorityより

中央にエレベーターと階段が配置されています。
そこを囲むように廊下が延び、各住戸へとつながっています。
避難にとって重要な経路である廊下と階段。
そこに早い段階で煙と炎が侵入した可能性があります。

「日本では起こりえない」といわれる一つの根拠として、避難階段が防火区画で守られていることを挙げる方がいます。

日本の避難階段の例

これは一般的な避難階段の平面図です。さらに15階以上になると、特別避難階段というものが義務付けられています。階段室の手前に付室やバルコニーを設けて、階段室に煙が入らないように配慮しているんですね。確かに日本の基準では、室内側の防火区画に厳重な措置が講じられており、室内側からの火災で階段室が危険にさらされる可能性は低いでしょう。
しかし、光を取り入れたり換気のための開口部が設けられていることが多く、もし、香港のように外周部が燃えると、煙や炎が入り込んでしまいます。

また、次の写真の様に屋外階段で避難するケースも多いはずです。

屋外階段の例

要するに外から燃えてくる場合には、避難路が断たれる恐れがあるんです。

まとめ

香港で起きた高層マンション火災が日本でも起こるのかどうかをテーマに、
3つのポイントから深掘りしてみました。
まったく同じ様にはならないとしても、共通する危険要因があることは、ご理解いただけたのではないでしょうか。
 
今回の火災のキーワードは「工事中」です。
工事の際は、様々な面で火災のリスクが増えてしまいます。

工事がもたらす火災リスクの例

これは日本でも共通する部分が多いはず。
だからこそ、工事には、十分な対策が求められるわけですし、
建物関係者の方も、人任せではなく、安全に対する関心を持つ必要があるでしょう。

そして、優れた防火基準といわれる日本でも、これは、主に室内での出火を想定して作られたものであること、
外周部から延焼してくる場合は、本来の機能が発揮されないこともあることを、理解しなければなりません。

大丈夫だと思考停止してしまうのではなく、身の回りにも存在する危険要因にしっかりと目を向けるのが大切ではないでしょうか。

最後までご覧いただきありがとうございました。
これからも、火災、地震、水害、など、様々な災害対策をテーマに深掘りしていきますので、ご期待ください。

なお、同内容の動画を下記のYouTubeでもご覧いただけます。

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