孤独をほどく長野ひとり旅。 (前編)
初めまして、mareveil(M)と申します。
この時期は学業以外にもやるべきことが幾重にも積み重なり、終わりの見えない多忙な日々が続いていました。
忙殺されて外に出る機会が減ると、当然ながら人と会うことも減っていきます。
何となくやる事に区切りが無く、永遠とタスクをこなす自室の中で、淀んだような孤独感だけがくっきりと浮き彫りになっていくのを感じていました。
それがどうしようもなく辛くて、誤魔化すように旅に出ることにしました。
孤独を満たすように無計画に飛び出した。
今回は、そんな長野のひとり旅の記録です。
(※これは、6月中旬に向かった旅の記録です)
冷たい孤独をあたたかく上書きする
1. 貸し切りのバス、寂れた温泉街
行き先は長野県
三連休前で人が少なそうだったことと、人が多いところが苦手なくせに、せっかくなら少しは観光地らしさも味わいたいという我儘な理由からです。
新幹線に乗り、サクッと見られる映画を流していると、あっという間に駅に着いていました。

乗り換えた上田駅には地元の学生たちがたくさんいて、その場の爽やかな空気感に少しだけ息を吹き返した感覚があります。
夕方前、落ち始めた日差しとローカル線の窓からの景色が美しく溶け合っていました。

戸倉駅に降り立ち、1日目の目的地である「戸倉上山田温泉」へ向かいます。
戸倉に着いてからの難所はバスでした。ネットで調べても、ローカルなこともあり時刻表があまり当てになりません。
試しに停まっていたバスに乗り込んで車掌さんに聞いてみると、やはり地元なだけあって気さくで親切に答えてくれる人でした。
しばらく出発しないので、貸し切りのようなバスの中から駅を眺めていました。
人の出入りは少なく、聞いていた通りあまり活気があるようには見えません。バブル崩壊後に衰退した観光地という噂は本当のようです。

バスを降りて宿へ向かう途中、日の落ちかけた街に夕方のチャイムが響いていました。新しく見える建物にも、節々に古さが滲んでいます。
そのうら寂しい雰囲気にすっかり当てられた私は、気づけば何枚も写真を撮っていました。


2. 広い部屋と夜の仕度
今夜の宿は「小石の湯 正明館」

実は予約サイトではすでに埋まっていたのですが、ダメ元で電話をかけたらたまたま取れた人情宿です。
人柄が良く、とても丁寧な女将さんが出迎えてくれました。
案内された部屋は古さがありつつも清潔で、一人で泊まるにはもったいないほど広かったです。

疲れていたので一息ついたあと、パンフレットを片手に外湯へ行くことにしました。
下駄と浴衣に着替えて身軽になり、夜に変わる温泉街を歩きます。とても静かで、人は見かけません。
日が沈んでも、まだ少し暑さが残っていました。
だんだんと周りの街が夜の仕度を始める中、目の前でちょうど射的屋がシャッターを開けました。

開いたばかりで申し訳ないと思いつつ足を踏み入れると、お店のおばちゃんがくどくない距離感で少し雑談をしてくれます。
あまりやる機会はないですが、やってみると案外当たるものでした。おばちゃん曰く、割と上手いらしいです。
景品の貯金箱を抱えて店を出ました。
少し汗ばんで腹が減ったものの、手頃な飯屋が見つかりません。
先に近くの外湯「かめ乃湯」に入ることにしました。

少し小さく、地元の人が使うような温泉です。
湯の種類は多くなかったけれど、自分はそれで良かったのかもしれません。
タマゴのような独特の硫黄の匂いが立ち込める中、熱すぎる内湯を避けて外の湯へ。
湯上がりに恒例の瓶牛乳を飲み干すと、あまり人がいなくてしっかりくつろげました。

3. ふたり用の机と温かい孤独
すっかり暗くなった道を歩き、ようやく「おやき七福」というお店を見つけました。
他は早めに閉まっていたり、高いお店だったりして入れるところがなかったのです。
道中は本当に店があるのか不安になるような道のりで、急にポツンと看板の光が浮いて見えました。
少し入りにくい扉を開けると、先客は一人だけ。店員さんは優しいおばちゃんで安心しました。
たまたま私が座った席は、昭和っぽい喫茶店によく見る、古いボードゲームの机でした。2人プレイ用のその机は、1人の私には遊ぶことができません。

メニューは少なめで、店内は温かみを感じる古き良き空間。
待ち時間は、テレビの音だけが響いていました。

注文した中華そばは、絶品ほどじゃないけれど深く染み渡る味でした。
初めて食べる名物のおやきは、あんこなどもある様ですがニラを選択。もちもちで美味い。
空腹だったので、餃子も追加しました。


おばちゃんとの雑談に熱が入りすぎる前に、心地よい距離感で店を出ます。
一人では遊べないゲーム机の横で、テレビの音を聞きながら麺をすする。
自室で感じていた人を遠ざける冷たい孤独が、この街の空気に触れて誰にも干渉されない温かな孤独へと少しずつすり替わっていくのを、確かに感じていました。
4. サウナの熱、名残惜しい朝
美味しく安い食事に満たされた後、さらに別の外湯「湯の華銭湯 瑞祥」へと足を伸ばします。

ここは先ほどの小さな銭湯とは打って変わって、800円もするだけあって広く充実した施設でした。
ただ、若い人が多く、どうも少しガラが悪そうな方が多数いて気後れしてしまいます。
少し岩が多く隠れて入れる感じの風呂で、また外でくつろぎました。
長く入るタイプではないのですが、サウナがあったので10分入り、水風呂に浸かってみました。
すると、止まっているはずの景色がぐらりと動く。本当に意識がトビかけました。
変な感じで景色が動き、ハマる人がいる理由が何となく分かる気がしました。感覚が戻るまでかなり時間がかかりました。
サウナに入ったせいなのか、風呂上がりはとても喉が渇き、やはり牛乳と、瓶コーラもお代わりしてしまいました。


外に出るとディープな街へと変わり、夕方とは別の街のよう。
涼しい夜風に吹かれながら宿に戻り、宿の風呂で〆たあと、休憩しながら日記を記します。
家より硬めの枕に不安もありましたが、疲れのせいかすぐに深く眠ってしまいました。
翌朝。
今日で宿が最後とのことで、名残惜しさを感じながら出る支度をします。部屋に差し込む朝日が、どうも寂しさを誘発しました。

今日着るものだけ残して朝風呂へ行き、着替えの途中に「この風呂も最後か」と思うとまた寂しくなります。
5分ほど遅れてしまった朝食会場も、やはり1人でした。テレビの音を背景に、温かみのある朝食を噛みしめます。
もう出発か……
すっかり腹が膨れた後に部屋のお茶と茶菓子をいただき、一息ついたところで出ました。


キャリーケースを持って受付へ行く時間は、一層長く感じます。
丁寧な女将さんの出迎え。
「また来ます」
と下手くそな笑みで鍵を返したけれど、一生に一度しか来ないんだろうと考えてしまって、そのままさよならを終わらせました。
宿を出ると、隣の軒下にツバメの巣がありました。初めて見たのでなかなかいい気分です。

朝の街もまた違う顔で、活気が同様になく、寂れています。それもまた悪くありません。


5. 予定外の余白と一期一会
駅まで行くためにバス停へ向かいますが、バスを待つには結構な時間がありました。
逃したわけではなく、本数がないのです。
近くに喫茶店があり、入って時間を潰すことにしました。
どうも外は暑いのでアイスコーヒーを飲みたかったのですが、勧められたソフトクリームを断れず食べます。
地元民が多く、こういう日常会話を背景にまったりするのも悪くないなと感じます。

普段はブラックでしか飲みませんが、出されたのであれば仕方ない。
出てきたコーヒーには相当な量のガムシロップがありました。

ほぼカフェオレみたいになったそれを飲み干します。
30分くらい時間を潰してから、まだ気温が上がりきっていないこともあり、バス停の前にある足湯でバスを待ちます。
そこまで汗をかくこともなく楽しめました。
そうして、定刻より遅れてきたバスに乗ります。
中には3人。遅延のせいで、私は乗るはずだった電車を逃してしまいました。
ですが、ホームで待っているとバスにいた1人が「待合室で待てば?」と声をかけてくれたのです。
こういう予期せぬ時間が、ある意味旅の醍醐味かもしれない。
勧められた待合室は古臭く、その雰囲気がまた悪くありません。

今までのことを記録しながら空気に浸っていたら、30分はあっという間でした。
電車には、正直あまり好きではない対面席がありましたが、座りたかったので座ります。すると、声を掛けてくれた先ほどの人が向かいに座りました。
気さくな人で、ここの出身らしいです。旅の経緯やどうだったかなど、他愛のない話をしました。
「意外と暑いから熱中症に気をつけてね」そう気にかけてくれた人は、名古屋にいる家族に会いに行くと言って、途中の駅で別れました。
名前くらい聞いてもよかったな、と少しだけ思います。
目の前の空いた席を眺めながら、静かに長野駅に着くのを待ちました。
