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「タワマン高層階は子育てに悪い」のか? | 本当に大事なのは『外に出る摩擦』」

最近、住宅系YouTubeなどで、「タワーマンションの高層階は子どもの発達や成績に悪い」といった趣旨の発信をいくつか見かけました。

内容としては、ざっくり言えばこうです。

  • 高層階に住むと、子どもが外に出にくくなる。

  • エレベーターを待つのが面倒になる。

  • 外遊びが減る。

  • 生活体験が減る。

  • その結果、自立や学習、非認知能力の発達に影響する可能性がある。

この話を聞いたとき、私は一理あるとは思いました。
たしかに、子どもの発達にとって、外遊びや身体活動、友達との偶発的な交流、自然や街の変化に触れる経験は大切です。

  • 公園で走る。

  • 友達と遊ぶ。

  • 喧嘩する。

  • 順番を待つ。

  • 転ぶ。

  • 危ないかどうかを自分で判断する。

  • 雨の匂いや風の強さを感じる。

  • 虫を見つける。

  • 近所の道を覚える。

こうした一つひとつは、机の上の勉強とは違いますが、子どもの成長にとっては非常に大きな意味を持ちます。

一方で、こうも思いました。

「高層階に住むと子どもの発達に悪い」と言い切るのは、かなり粗いのではないか。

問題は本当に「高層階」なのでしょうか。
それとも、「外に出にくい生活設計」なのでしょうか。

ここは分けて考える必要があります。


子どもが見ているのは、眺望ではなく「出やすさ」

わが家は現在、マンションの5階に住んでいます。

タワーマンションの高層階というほどではありません。
ただ、それでも子どもたちは「もっと下の階がいい」と言います。

理由を聞くと、とてもシンプルです。

エレベーターを待つ時間が嫌だから。

大人からすると、5階のエレベーター待ちなど大したことがないように思えます。
しかし、子どもにとっては違います。

外に出たい。
でも、玄関を出て、エレベーターを呼んで、待って、乗って、下りて、エントランスを抜ける。

この数分が、子どもにとっては意外と大きなハードルになります。

ちょっと外に行きたい。
忘れ物を取りに戻りたい。
友達が下にいるからすぐ行きたい。
少しだけ身体を動かしたい。

そういうときに、エレベーター待ちがあるだけで、「まあいいか」となりやすい。

これは、発達論として大げさに語る以前に、生活実感としてよくわかります。

大人は住宅を選ぶときに、眺望、資産価値、静けさ、防犯性、日当たり、ブランド性などを見がちです。

もちろん、それらも大切です。

しかし、子どもは違います。

子どもが見ているのは、

すぐ外に出られるか。
すぐ戻ってこられるか。
友達のところに行きやすいか。
公園に行きやすいか。
親にいちいち頼まなくても動けるか。

そういう身体感覚に近い部分です。

この点では、子どもの方が本質を突いているのかもしれません。

研究で言えること、言えないこと

この手の話では、「研究で示されています」という言い方がよく出てきます。

ただ、ここはかなり慎重に見る必要があります。

研究が示していることと、動画や記事で語られていることが、必ずしも同じとは限らないからです。

高層住宅と子どもの発達については、日本でも研究があります。

たとえば、東京の高層住宅地域で乳幼児1,045人を対象にした小田正明氏らの研究では、高層階に住む乳幼児ほど、基本的生活習慣の自立が遅れる傾向があるとされています。ここでいう基本的生活習慣とは、排便、手洗い、衣服や靴の着脱などです。つまり、この研究が見ているのは、学力や受験成績そのものではありません。高層階居住によって外出頻度が下がり、母子密着的な生活になりやすいことが、自立の遅れと関連している可能性を示したものです。

また、厚生労働科学研究のレビューでも、高層居住が乳幼児の発達・発育に与える影響について検討されています。ただし、そこで整理されている研究は数が限られ、古い横断研究も多く、社会経済的要因などを十分に調整できていないものもあります。したがって、「高層階に住むと子どもの発達が悪くなる」と強く断定できるほどのエビデンスとは言いにくいと考えた方がよいでしょう。

ここは非常に重要です。

研究から言えるのは、

高層居住では、外に出る頻度が下がる可能性がある。
外遊びや生活体験が減る可能性がある。
乳幼児期の生活習慣の自立と関連する可能性がある。

ということです。

一方で、

高層階に住むと成績が下がる。
高層階に住むと非認知能力が育たない。
タワマンは子育てに悪い。

とまで言い切るのは、かなり飛躍があります。

子どもの発達や学力には、さまざまな要因が絡みます。

親の関わり方。
家庭の経済状況。
学校環境。
友人関係。
睡眠。
運動。
読書。
スクリーン時間。
地域の治安。
公園や緑地へのアクセス。
親のメンタル。
家の広さ。
騒音。
通学時間。

これらをすべて無視して、「階数」だけで子どもの発達を語るのは無理があります。

住環境が子どもに影響すること自体は、かなり自然な話

ただし、「階数だけで語るのは粗い」ということと、「住環境は子どもに影響しない」ということは違います。

住環境が子どもの発達や学習に影響すること自体は、かなり自然な話です。

たとえば、航空機騒音と子どもの認知発達に関するRANCH studyでは、慢性的な航空機騒音が子どもの読解力に悪影響を与える可能性が示されています。学校周辺の騒音が高いほど、読解力にマイナスの関連が見られたという研究です。

また、バルセロナの小学生2,593人を対象にしたDadvandらの研究では、学校や住環境周辺の緑の多さと、ワーキングメモリや不注意の改善との関連が示されています。緑地そのものが魔法のように子どもを賢くするという話ではありませんが、空気の質、騒音、外遊び、ストレス回復などが複合的に関係している可能性があります。

さらに、Chetty、Hendren、KatzによるMoving to Opportunityの再分析では、低貧困地域への転居支援を受けた家庭の子どもについて、13歳未満でより良い地域に移った場合、大学進学率や成人後の所得にプラスの影響が見られたとされています。一方で、思春期以降の転居では効果が弱く、場合によってはマイナスの影響も示唆されています。

こうした研究を見ると、住環境が子どもに影響するという発想自体は、決しておかしなものではありません。

ただし、重要なのは「どの環境要因が、どの経路で、何に影響しているのか」を丁寧に見ることです。

騒音なら、集中や読解への影響。
緑地なら、外遊び、空気、ストレス、注意機能への影響。
地域環境なら、学校、治安、周囲の大人、友人関係への影響。
高層階なら、外出頻度や生活体験への影響。

このように分けて考えないと、「タワマンは悪い」「戸建てなら良い」という雑な話になってしまいます。

「高層階が悪い」ではなく、「外界との接続が弱くなる」のが問題

高層階に関する議論で気をつけたいのは、階数そのものを原因として扱いすぎることです。

高層階だから悪い。
タワマンだから悪い。
低層階なら良い。
戸建てなら良い。

このように単純化すると、本質を見誤ります。

たとえば、低層階や戸建てに住んでいても、子どもが外に出なければ同じです。

近くに公園がない。
車移動ばかり。
近所に友達がいない。
外遊びを親が嫌がる。
家の中で動画やゲームばかり。
親が子どもの遊びをすべて管理する。

こうした環境であれば、住まいが低層でも、子どもの経験は細ります。

逆に、高層階に住んでいても、日常的に外に出る習慣があり、近くに公園があり、学校や習い事、友達との関わりが豊かであれば、リスクはかなり下がるはずです。

つまり問題は、高層階そのものではありません。

問題は、外界との接続が弱くなることです。

子どもにとって、住まいは単に寝る場所ではありません。

外の世界に出ていくための基地です。

その基地から外に出るまでの摩擦が大きいと、子どもの行動範囲は狭くなります。

そして、行動範囲が狭くなると、経験の幅も狭くなります。

子どもに必要なのは、管理された刺激だけではない

わが家では、子どもたちの学習にかなり関心を持っています。

英語、算数、読書、探究、IB的な問いかけなど、家庭内でできることは意識して取り組んでいます。

ただ、それだけで十分だとは思っていません。

子どもには、親が設計しきれない経験も必要です。

予定通りにいかない遊び。
思い通りにならない友達関係。
自分で判断しなければならない場面。
退屈な時間。
身体を使って試す経験。
危なそうだけれど、完全には禁止されていない挑戦。

こうした経験は、家庭学習やオンライン教材だけでは補いにくいものです。

特に、IB的な学びを考えても、子どもは世界との関わりの中で問いを持ちます。

なぜ風が強いのか。
なぜエレベーターはこっちに来ないのか。
なぜ道路ではルールが必要なのか。
なぜ公園では順番を守る必要があるのか。
なぜ友達は自分と違う考え方をするのか。

こうした問いは、外に出るから生まれます。

住まいが快適すぎて、外に出る理由がなくなってしまうと、子どもの世界は意外と狭くなります。

住宅選びは、子どもの「自由度」をどう設計するかでもある

子育て世帯が住宅を選ぶとき、私は「何階か」だけで判断する必要はないと思います。

それよりも、子どもがどれだけ自然に外の世界へ出ていけるかを見た方がよいです。

外に出るまでの時間は短いか。
エレベーター待ちはストレスにならないか。
公園や広場が近いか。
子どもが安全に歩ける道があるか。
同じ建物や近所に子どもがいるか。
親が外遊びに連れて行きやすいか。
学校や習い事への移動が重すぎないか。
部屋の広さに無理がないか。
騒音や睡眠環境に問題がないか。
住宅ローンや家賃が親の精神的負担になりすぎないか。

結局、子どもにとって良い住環境とは、豪華な住環境とは限りません。

外に出やすい。
遊びやすい。
動きやすい。
戻りやすい。
親がピリピリしすぎない。
生活に余白がある。

こうした地味な条件の方が、子どもの発達には効くのではないかと思います。

大人にとっての快適性と、子どもにとっての成長環境は、必ずしも一致しません。

大人にとっては、静かで、眺めが良く、外に出なくても快適な住まいが魅力的に見えるかもしれません。

しかし、子どもにとっては、少し雑でも、すぐ外に出られて、友達に会えて、走れて、戻ってこられる環境の方が、結果的に豊かな場合もあります。

住宅選びとは、単に家の中の快適性を買うことではありません。

子どもにとっては、外の世界への自由度をどう設計するかでもあるのだと思います。

結論:子どもにとって住まいは、世界への入口である

タワマン高層階が子育てに悪いのか。

私の現時点での考えは、こうです。

高層階そのものを悪者にするのは粗い。
しかし、高層階によって外に出るハードルが上がるなら、子どもの経験が細るリスクはある。

つまり、問題は階数ではありません。

問題は、子どもが外の世界とつながりにくくなることです。

子どもの発達に必要なのは、きれいな部屋や眺望だけではありません。

外に出ること。
身体を使うこと。
友達と関わること。
自然や街の変化を感じること。
自分で判断すること。
親の管理から少しずつ離れていくこと。

そう考えると、住宅選びで本当に大事なのは、「何階に住むか」ではなく、「その家から子どもがどれだけ自然に世界へ出ていけるか」なのだと思います。

わが家の子どもたちが「下の階がいい」と言った理由は、エレベーターを待つのが嫌だから、というとても単純なものでした。

でも、子どもの発達を考えるうえでは、その単純な感覚こそ侮れません。

子どもにとって住まいとは、景色を眺める場所ではなく、世界へ出ていくための入口なのかもしれません。

参考にした研究・資料

高層居住と乳幼児の発達・発育に関するレビュー
厚生労働科学研究費補助金研究報告書。高層居住が乳幼児の発達・発育に与える影響について、既存研究を整理したものです。

航空機騒音と子どもの認知発達に関する研究
StansfeldらによるRANCH study。慢性的な航空機騒音と読解力などの関連を調べた研究です。

緑地と小学生の認知発達に関する研究
Dadvandらによるバルセロナの小学生2,593人を対象にした研究。周辺の緑とワーキングメモリ、不注意の発達との関連を調べています。

地域環境と将来所得・進学率に関する研究
Chetty、Hendren、KatzによるMoving to Opportunityの再分析。13歳未満で低貧困地域へ移った子どもに、大学進学率や成人後所得の改善が見られたとする研究です。

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