「核融合炉の現在地」ITERとJT-60SAの最新動向
ITER「ベースライン2024」による軌道修正
フランス南部のサン・ポール・レ・デュランスで建設が進む国際熱核融合実験炉(ITER)は、中国・EU・インド・日本・韓国・ロシア・米国の7つのメンバー(EU27か国を個別に数えると計35か国)が参画する、世界最大規模の核融合研究プロジェクトである。
2024年から2025年にかけて、ITER機構はピエトロ・バラバスキ機構長(2022年10月就任)の主導のもと、現実的で達成可能な計画として「ベースライン2024(Baseline 2024)」を採択した。
この見直しは、2024年6月に開催された第34回ITER理事会において提案され採択されたものである。トカマク組み立てフェーズの見直しと、プレアセンブリテストの強化により、リスクを低減するという方針を掲げている。
新スケジュールでは、2034年に研究運転開始(SRO: Start of Research Operation)、続いて重水素(D)プラズマで2035年から2036年にかけて完全磁気エネルギー・プラズマ電流運転を達成し、重水素-トリチウム(D-T)燃焼プラズマ運転の開始は2039年とされている。
「2035年にD-Dプラズマ運転開始」という表現はITER機構が公式に使用しているが、より正確にはSROが2034年に始まり、D-D完全運転は2035〜2036年にまたがる段階的なプロセスである点に注意が必要だ。
建設計画の進捗も著しい。
全18基のトロイダル磁場コイルはすでに完成しており、米国が製造するセントラルソレノイド(中心ソレノイド)の6モジュールは順次フランスへ輸送・搬入が進んでいる。
またベースライン2024には、ベリリウムからタングステン(W)への第一壁材料の変更と、プラズマ対向機器の設計の抜本的な見直しが含まれている。
これはコストと工程の増加を伴う一方、材料安全性と長期運転性能の観点から合理的な判断とされている。
ITERの存在は、民間核融合開発が加速するなかでも依然として不可欠である。
数十億ユーロ規模の統合システムとして、材料科学・プラズマ制御・トリチウム取扱技術といった産業スケールの「基礎的知見」を提供する唯一の実験プラットフォームとして位置づけられており、理事会はITERの研究的意義を改めて表明している。
JT-60SAのアップグレードと国際協力の深化
ITERのサテライトプロジェクトとして位置づけられる日欧共同実験炉「JT-60SA」(茨城県那珂市)は、日本側の実施機関であるQST(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構)と、欧州側の実施機関であるF4E(Fusion for Energy:ITERおよび核融合エネルギー開発のための欧州共同事業体)が共同で建設・運営している。
2023年10月23日のファーストプラズマ達成後、プラズマ体積160 m³が「世界最大のトカマク」としてギネス世界記録に認定され(認定日:2024年9月4日、認定式:同年10月19日)、その後装置は一旦停止された。
現在は2026年後半の本格的な実験開始に向けた大規模なアップグレードが進められている。
QSTおよびF4Eによるアップグレード作業は、ダイバータクライオポンプ、ペレット入射装置、中性粒子ビーム入射(NBI)加熱システム(23MW)、電子サイクロトロン共鳴加熱(ECRH)の追加(1.5MW)、そして多様なプラズマ診断装置の統合が中心となっている。
これらにより、より高温・高密度のプラズマを長時間にわたって維持・制御するための能力が大きく向上する見込みである。
このアップグレードで特筆すべきは、米国の関与が本格化した点だ。
米国エネルギー省のプリンストン・プラズマ物理研究所(PPPL)は、F4EおよびQSTと協定を締結し、JT-60SA向けに高性能のX線画像結晶分光器(XICS: X-ray Imaging Crystal Spectrometer)を提供することになった。
XICSはプラズマが放射するX線を検出し、プラズマ粒子の温度・流速・流れ方向、および不純物密度を高精度で測定する診断装置である。
約4トンに及ぶこのシステムは2026年冬季に設置され、同年夏からデータ収集を開始する予定となっている。
F4Eからは、プラズマ周縁部の電子温度・密度を精密測定するエッジ・トムソン散乱(ETS: Edge Thomson Scattering)システムと、プラズマ中の炭素・酸素等の軽元素不純物および金属不純物を検出するダイバータ真空紫外(VUV)分光器が提供される。
これらはいずれもF4EがEUROfusionとのコンソーシアムを通じて設計・製造を担っており、そこにはイタリアのConsorzio RFX、ENEAやルーマニアのICSIなどが参加している。
JT-60SAは、日欧の「ブロードアプローチ協定」に基づく二国間プロジェクトから、日・欧・米の三者による戦略的核融合連携の象徴へと発展しつつある。
ITERの前段として、将来の商用炉設計に不可欠な超高精度プラズマ診断技術の実証の場として、今後その役割はさらに重要性を増すことになる。
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