紅茶、琥珀のひかりの中で
―紅茶、琥珀のひかりの中で―
湯気の立つ紅茶の表面には、いつも小さな宇宙が揺れている。カップを傾けるたび、琥珀色の液面がやわらかく波立ち、光を含んであたたかくきらめく。その色を眺めていると、時間がほんの少しだけゆるみ、胸の奥の固くなった気配までも溶けていくように思える。
紅茶の香りは、どこか遠い季節の記憶をそっと撫でていく。午後のやわらかな陽射し、窓辺のカーテンの揺らぎ、ふいに差し込んだ風の匂い。忘れていた景色のかけらが、琥珀色のひかりに照らされて静かに浮かび上がる。ひと口含むと、甘さでも渋さでもない、落ち着いた深みが広がり、心がゆっくりと沈静していく。
琥珀の色は、古い樹が長い時間をかけて抱きしめた記憶の結晶だという。その静けさを思うと、紅茶の一杯にも、見えない時間が溶け込んでいるように感じられる。朝露をまとった葉が摘まれ、乾き、香りを宿すまでの長い道のり。そのすべてが、この琥珀の揺らぎの中に潜んでいる。
今日もまた、カップを両手で包み込み、琥珀色のひかりをそっと覗き込む。息をつくたび、胸の奥にあたたかさが満ちていく。紅茶はわたしにとって、一日の中の小さな休符のようなものだ。静かに寄り添い、そっと心をほどいてくれる、やさしい琥のひとしずく。
#11月の文学お題
