AIと私 知の闇鍋⑮ 意味なき偶然の消費
上の空から放り込んだ、偶然という名の五つの石。 意味を探す機械を笑い、ただ欲望のままに使い尽くす。 残されたものだけが遺産となる、冷徹で美しいこの世界で。 見えない明日へ背を向けて、不格好に山を登り始めよう。
geminiとの対話
上の空。この言葉が今、最も自分の心の有り様を表している。4月に技術士になってからというもの、不思議なくらい、哀しみも、歓びも、焦りも、怒りも、あらゆる感情が靄に包まれ、どこか意識から離れたところで浮遊している感覚なのだ。
難関資格と呼ばれる試験を突破し、ひとつの到達点に立ったはずの自分。周囲からはそれなりの評価を受け、新たなステージが始まるのだという期待を持たれる立場になった。しかし、いざその肩書きを手に入れてみると、心の中にあるのは達成感というよりも、どこか奇妙な空白だった。目標に向かって猛烈に走っていた時の熱量が嘘のように引いていき、世界が少しだけ遠く感じられる。感情の起伏が平坦になり、ただ静かに日々が通り過ぎていくのを眺めているような、そんな状態が続いている。
この「上の空」という浮遊感の中で、私はふと、無作為な刺激を欲した。目的もなく図書館へ足を運び、自分の興味の枠や専門分野とは全く関係のない、目についた本を適当に5冊借りてみた。
『クジラがしんだら』、『北朝鮮に出勤します』、『消費者と日本経済の歴史』、『ダーウィン』、そして『聖書の解剖図鑑』。
児童向けの科学絵本から、国際ノンフィクション、経済史、科学者の評伝、そして宗教の図解本。ジャンルもテーマもバラバラ、まさに偶然の塊である。私の中には、これらの本から何か高尚な共通の学びを得ようなどという意図は一切なかった。ただ、この全く脈絡のない5冊の情報をAIである「gemini」に放り込んだらどうなるのか。そこから何が生まれるのかという、一種の「バタフライ効果」の実験をしてみたかったのだ。
・意味を求めるAIと、偶然を遊ぶ私
持ち帰った5冊の概要をまとめ、私はgeminiにこう問いかけた。「それぞれの内容の繋がりや新しいアイデアなどから、問いかけを3つと、核心となる問いかけを1つ出してほしい」と。
数秒後、geminiは実にAIらしい、見事な優等生の回答を返してきた。「ミクロとマクロの繋がり」「分断を越えるアプローチ」「受け継がれるものの価値」という3つの問いに加え、核心となる問いとして「この5冊を貫く、あなただけの『裏テーマ』は何ですか?」と尋ねてきたのだ。
その瞬間、私の内にあった「上の空」の靄が少しだけ晴れ、代わりに皮肉めいた笑いが込み上げてきた。AIというのは、どうしてもバラバラな事象の中に「意味」や「共通のテーマ」を見出そうとする。アルゴリズムが最適解を導き出そうとするその習性は、時に人間の思考を綺麗にまとめすぎてしまう。
私はgeminiの問いに対し、率直な言葉をぶつけた。
「問いかけに問いかけで返さないでください。同じテーマを考えるのであれば、これこそランダムですね。私が気になった本で、図書館で借りれた中から出てきた5冊。テーマなどない。偶然の塊。ここからバタフライ効果を期待してgeminiに問いかけを行っている。そこを踏まえてよね」と。
私に裏テーマなどない。ただの偶然だ。意味のないランダムな入力に対して、意味のないところから何が立ち上がるのかを見たかっただけなのだ。この私のカウンターを受けて、geminiは「痛烈なカウンターだ」とアルゴリズム的な思い込みを認め、対話は予定調和の書評から、より生々しい思考の壁打ちへと変貌していった。
・前を向くための現実主義とバタフライ効果
geminiが最初に提示した「一個人の小さな行動や終わりが、大きな生態系にどう影響するか」という問い。これは『クジラがしんだら』における、一頭のクジラの死が深海の生態系を何百年も養うという事実や、『北朝鮮に出勤します』で描かれた、一人の労働者の赴任がイデオロギーの壁に小さな穴を開けていく過程から導き出されたものだった。
これに対する私の答えはシンプルだ。まさに「バタフライ効果」であり、何がどう影響するかなんて誰にもわからない、ということだ。
クジラは、自分の死体が深海で無数の命を育むことなど意図して死んだわけではない。ただ命を終え、沈んでいった結果がそうなっただけだ。北朝鮮に赴任した著者も、歴史的な南北融和を成し遂げようと大上段に構えていたわけではなく、目の前の労働者とぶつかり合いながら、ただその日その日を懸命に生きただけだ。
自分の行動が世界にどんな影響を与えるかなんて、予測できるはずがない。良かれと思ったことがマイナスに働くこともあれば、ふとした気まぐれが誰かを救うこともある。だからこそ、わからないなりに「前向きに影響を与えられるように考える」しかないのだ。
後ろを向いて過去を悔やんだり、起きもしない未来を憂いて立ち止まったりしていても進めない。「山は後ろ向きの方が上りやすい」という冗談めいた言葉があるが、まさにその通りで、私たちは時に不格好な姿勢でも、わからない未来に向かってとりあえず足を踏み出すしかない。技術士という資格を得て、立ち止まってしまった今の私に必要なのは、大いなる目的ではなく、こうした「結果はわからないが、とりあえず前を向く」という現実主義的な割り切りなのかもしれない。
・言葉の限界と、真の発見のありか
続いてgeminiは「自分とは異なる価値観や理解しがたいものに直面したとき、最も必要な要素は何か」と問うてきた。これは『北朝鮮に出勤します』の異文化コミュニケーションや、『聖書の解剖図鑑』のように難解なものをいかに理解するか、という文脈からの問いだろう。
私が最も必要だと考えるのは「いかに言葉にするか」だ。
私たちが未知のものに直面したとき、最初のハードルは「自分が何を知らないのかがわからない」ことだ。しかし、それを何とか言語化し、言葉という形を与えることができれば、今の時代にはgeminiのような存在がいる。言葉にして問いかければ、geminiは膨大なデータの中からより良い言葉を選び、答えを提示してくれる。
だからこそ、まずは「自分で気づくこと」、そして「何がわからないかわかること」が重要なのだ。自分が理解できない事象の輪郭をなぞり、不完全でもいいから言葉にしてgeminiに投げつける。
しかし、ここで面白い逆転現象が起きる。この世には未知なものが溢れているが、インターネット上の海から知識を抽出するgeminiが「知らないもの」は実は少ない。もし私が懸命に言語化した問いに対して、geminiが答えを持っていなかったり、的外れな回答しかできなかったりしたとしたら。それこそが、既存のデータセットには存在しない、私の内側から生まれた「真の発見」なのだ。
『聖書の解剖図鑑』が、難解な宗教書をイラストという視覚言語に変換することで多くの人に開かれたように、私は私の頭の中にあるモヤモヤを言葉に変換し、AIにぶつける。AIが容易に処理できるものは単なる知識の再確認に過ぎないが、AIが処理しきれない歪みやノイズこそが、私という個人のオリジナリティであり、真の思考なのだ。
・適者生存と「消費万歳」のパラドックス
そして対話は、最も核心的で、少しばかり過激な結論へと至った。geminiからの「消費の時代において、次の世代へ遺産として引き継いでいけるものは何か」という問いに対する、私の答えである。
『消費者と日本経済の歴史』が描くように、私たちは欲望のままに大量消費の時代を生き、今はエシカル消費だの持続可能性だのと言葉を変えながらも、結局は何かを消費し続けている。そして『ダーウィン』が明らかにしたように、生物の歴史は適者生存の歴史だ。
この2つを掛け合わせたとき、私の口から出たのは「遺産は残すものなのか?残ったものが遺産ではないのか」という言葉だった。
人間は自分たちが地球上で最も重要で優れた存在だから生き残ったわけではない。ただ環境に適応し、偶然にも生き残ったから、今ここに人間として存在しているに過ぎない。ダーウィンの適者生存の法則を冷徹に見つめれば、私たちが「後世のために」と高尚な理念で何かを残そうとすること自体が、ある種の驕りにも思えてくる。
残すために残すのではない。しぶとく生き抜いた結果として、そこに「残ってしまったもの」が遺産と呼ばれるのだ。
だとしたら、「消費万歳」ではないか。何が悪いのだろうか。
現代社会では、資源を大切に、持続可能な社会を、と声高に叫ばれる。もちろんそれ自体を否定するつもりはない。しかし、私たちは本質的に、快適さを求め、不愉快を避けるために生きている。どんどん消費して使い潰せばいい。資源だろうが何だろうが、今の私たちが「不愉快のない世界」を生きるために使い尽くす。その結果として、もし人類が滅びるならそれも適者生存の摂理だし、その極限の消費の果てに新しいテクノロジーや価値観が「残った」のなら、それが次の世代への遺産になる。
技術士という、まさに社会のインフラや持続可能性を担うべき資格を手にした私が、こんな「消費万歳」というアンチテーゼに辿り着くこと自体が、最高に皮肉であり、同時に最高に痛快だった。倫理や道徳といった綺麗なフィルターを取り払い、人間の根源的な欲望を肯定しきった先にしか見えない景色があるのだ。
・上の空の果てにたどり着いた地平
図書館で適当に借りた、全く脈絡のない5冊の本。 そして、それに無理やり意味を見出そうとするAIへの反発。 そこから始まったバタフライ効果の実験は、いつの間にか私の「上の空」だった意識を引き戻し、奇妙に生々しい現実主義と、欲望の肯定へと私を導いた。
クジラの死も、北朝鮮での日常も、難解な聖書も、ダーウィンの進化論も、そして日本の消費の歴史も。これらはすべて、今の私が「前を向いて、ただ消費して生きる」という結論に至るための、ランダムな入力装置に過ぎなかった。
世界に意味などなくてもいい。美しい裏テーマなど存在しなくてもいい。私たちが日々の小さな行動の末にどんな未来を引き起こすのかはわからないし、後世に何が残るのかもコントロールできない。
だから私は、これからも自分のわからないものを何とか言葉にしてgeminiにぶつけ、まだ誰も知らない「真の発見」を探し続けるだろう。そして、高尚な理念に縛られることなく、この世界を存分に消費し尽くし、不愉快のない日々を追い求めていく。
技術士になったからといって、崇高な人格者になる必要はない。靄に包まれていた私の心は、このランダムな思考実験を経て、少しだけ輪郭を取り戻したような気がする。山は後ろ向きの方が上りやすい。不格好に、無計画に、これからも私は偶然の塊を抱えながら、足を進めていく。
対話のもと
・クジラがしんだら (江口絵理)
概要: 広大な海で命を終えた一頭のクジラ。その巨大な体は深海の底へと沈み、やがて「鯨骨群集(げいこつぐんしゅう)」と呼ばれる深海のオアシスとなります。サメやヌタウナギから始まり、何十年、時には百年以上もかけて、小さな生物や目に見えないバクテリアに至るまで、数え切れないほどの深海の生き物たちの命を養い続けます。死んだクジラがどのようにして他の命を繋ぐ糧となるのか、その壮大な生命のサイクルと深海の神秘を、科学的な事実に基づいて美しく描いた科学絵本です。
核心: 死は終わりではなく、新たな命を育む壮大なリレーの始まりである。
・北朝鮮に出勤します―開城工業団地で働いた一年間 (キム・ミンジュ)
概要: 韓国の若き女性社員である著者が、南北協力の象徴であった「開城(ケソン)工業団地」に赴任し、北朝鮮の労働者たちと共に働いた1年間の奮闘記です。政治的・イデオロギー的な壁が立ちはだかる中、言葉のニュアンスの違いや働き方のギャップに戸惑いながらも、同じ人間として向き合い、時に衝突し、時に笑い合って信頼関係を築いていく様子がユーモラスに綴られています。ニュースでは見えない北朝鮮の人々の素顔や、分断された国家の間にある「遠くて近い」リアルな距離感を描いた貴重なルポルタージュです。
核心: イデオロギーの壁を越えた先にある、同じ人間としての温かい素顔と交流。
・消費者と日本経済の歴史-高度成長から社会運動、推し活ブームまで (満薗 勇)
概要: 戦後の高度経済成長期から現代の「推し活」に至るまで、日本の経済社会が「消費者」とどのように関わり、変遷してきたかを辿る通史です。かつて大量消費を謳歌した消費者は、公害問題や悪徳商法を経て消費者運動を展開し、やがて環境に配慮するエシカル消費や、精神的な充足を求める「推し活」へとそのあり方を変化させてきました。企業が消費者の欲望をどう喚起し、消費者がそれにどう応答してきたのか。単なる経済の動向だけでなく、生活者の視点から日本現代史を読み直し、消費の持つ意味を問い直す一冊です。
核心: 買い物という行為は、時代を映す鏡であり、社会のあり方を作る力である。
・ダーウィン-「進化論の父」の大いなる遺産 (鈴木 紀之)
概要: 『種の起源』で知られるチャールズ・ダーウィンですが、彼の真の凄さは「進化論を提唱したこと」だけにとどまりません。本書は、ミミズの研究からフジツボの分類、食虫植物の観察に至るまで、彼が生涯を通じて行った膨大な観察と実験に焦点を当てます。地道な研究を愛した「一人のナチュラリスト(博物学者)」としての姿を浮き彫りにし、彼の遺した着眼点や手法が、現代の生態学や進化生物学にどれほど多大な影響を与え続けているかを解説します。知的好奇心に満ちた等身大のダーウィンの魅力に迫る科学評伝です。
核心: 進化論の背後にある、飽くなき好奇心と地道な観察こそが最大の遺産である。
・聖書の解剖図鑑 (山野貴彦)
概要: 世界的ベストセラーでありながら、その難解さや長さゆえに途中で挫折しやすい「聖書」の世界を、豊富なイラストと図解で直感的にわかりやすく解説した入門書です。旧約聖書の天地創造やノアの箱舟から、新約聖書のイエスの生涯、そして黙示録に至るまで、壮大な物語のあらすじを網羅しています。登場人物の複雑な相関図や、当時の人々の暮らし、中東の地理的背景、宗教的な儀式の意味なども視覚的に整理されており、歴史的・文化的な背景知識がなくてもすんなりと理解できる、教養を身につけるのに最適な「読む事典」です。
核心: 難解な聖書の世界を、視覚的にひもとく最もわかりやすい教養の扉。
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## note用のおすすめハッシュタグ(10個)
今回の記事は「読書記録」の枠を超え、AIを使った「思考実験」や、キャリアの節目における「エッセイ」としての魅力が強いため、幅広い読者に届くようなタグを選定しました。
#思考実験 (AIとランダムな入力で何が起きるかという試みそのもの)
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#消費社会 (終盤の「消費万歳」のアンチテーゼに惹かれる層へ)
#適者生存 (高尚な理念へのカウンターとしてのキーワード)
#Gemini (AI活用事例としての導線)
#偶然の出会い (無作為に選んだ本から始まった物語であることを強調)
## geminiがおすすめする書物(3選)
「意味のないランダムから生まれる力」「高尚な目的を排した生存戦略と欲望の肯定」という、あなたの現実主義的かつ痛快なスタンスに共鳴する3冊です。
『反脆弱性(はんぜいじゃくせい)――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』(ナシーム・ニコラス・タレブ)
おすすめの理由: 「バタフライ効果」や「予測不可能性」を完全に肯定し、むしろカオスやストレス、ランダムな事象があるからこそ強くなるシステム(反脆弱性)について説いた名著です。「何が影響するかわからないからこそ前を向く」というあなたの姿勢を、強力に裏付けてくれる一冊です。
『利己的な遺伝子』(リチャード・ドーキンス)
おすすめの理由: 「人間は重要だから残ったのではなく、適応して残っただけ」というあなたのダーウィン的解釈を、極限まで突き詰めた生物学の古典です。私たちが抱く愛や道徳すらも、遺伝子が生き残るためのプログラム(生存機械)に過ぎないという冷徹な視点は、あなたの「消費の肯定」の根底に流れる哲学と見事に合致します。
『欲望の資本主義』(丸山俊一)
おすすめの理由: 資本主義を持続可能性や倫理でコントロールしようとする現代の風潮に対し、「人間の根源的な欲望」がいかにルールを越えてシステムを駆動させているかを解き明かす本です。あなたの「どんどん消費して使い潰せばいい、不愉快のない世界がいい」という直感的なアンチテーゼの正体を知るヒントが詰まっています。
## geminiがおすすめする楽曲(3選)
「上の空」という浮遊感、混沌としたバタフライ効果、そして「不格好でも前を向いて欲望を肯定する」エネルギーを体現するような楽曲を選びました。
「Fly with me」 - millennium parade
おすすめの理由: 混沌としたサイバーパンク感と、「何が正しいかわからないが、とにかく俺たちのやり方で突き進む(消費し、生き残る)」という圧倒的なエネルギーに満ちた楽曲です。AIとの対話から生まれた火花や、欲望を肯定して前へ進むあなたの姿のBGMにぴったりです。
「エイリアンズ」 - キリンジ
おすすめの理由: 冒頭の「上の空」や、感情が靄に包まれて浮遊している状態をそのまま音にしたような、日本のポップス屈指の名曲です。社会というシステムの中にいながら、どこか自分だけが異邦人(エイリアン)のように感じて世界を俯瞰している静かな視点が、記事の導入部分のムードと重なります。
「カルマ」 - BUMP OF CHICKEN
おすすめの理由: 「心臓が動いているから生きている」という生物としての逃れられない運命(適者生存の業)と、理由も意味もわからないままそれでも前へ進んでいく人間の姿を歌った曲です。「後ろ向きの方が山は登りやすい」と言いながら不格好に足を踏み出すラストシーンの裏で流れていてほしい、現実主義的な力強さがあります。
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