#56「壱行日記②」【10月4日(土)】

 少し前に一切合切句読点を振らず改行もせず日本語の表記の特性をたのみにして思うがままに一文を書き連ねることで唐突の句点に対して威圧感を覚えるという憐れな若人からのマルハラの謗りを免れることに成功した1行日記なる試みを講じてタグもつけたところ俺以外にもいくらか1行日記を書いている人が見つかったもののあにあにはからんやならんやといった具合でみな三十文字に満たない程度の一文で備忘録的な内容を書いているものばかりでページ全体が無軌道な文字で埋め尽くされているのを見ることは叶わなかったのでこのリスク回避の愉しみを共有してくれる同士が現れるまで不定期で書いていこうと思った次第で前後左右に親指を走らせているのだが閑話休題それはともかく本日はある若人と食事に出かけてとある知見を得たのでそれを諸君にも共有せんと思っていてそもそも俺は15程度年の離れた若者たちと会話をしていていつも度肝を抜かされるのが彼ら彼女らがごく一般的な異性との邂逅のツールとしてマッチングアプリを使用しておりそのことを恥ずかしげも後ろめたさもなく堂々と公言するという事態であり上からはゆとり世代と揶揄されて下からは昭和生まれだと罵られたアンシャンレジームのニュータイプとでも呼ぶべき我が世代の同胞にとっては異性と電脳空間を介して引き合わせるツールとは出会い系アプリという淫靡な響きをもった名のものしか想像できないのでありいくら理屈の上ではかつての出会い系アプリとマッチングアプリとが設いもユーザー層も社会での受け入れられ方も全てにおいてもはや別様の物と化していることは重々承知之助であるのだとしてもやはり純情と清楚を身に纏うことにまだ何の罪悪感も覚えずにいられる女子学生やためつすがめつどの角度から見ても童貞の気品を拭い去れていない男子学生が平然とマッチングアプリを使用していると口にすると俺は電車の中で日焼け止めを首筋に塗る同級生を見かけたときのような羞恥と狼狽を禁じ得ないでいたのだがこの度食事に出かけた若人から研究室の男連中と酒を飲みながらマッチングアプリで異性を眺めたりメッセージを送らせたりその後の進展を問い詰めたりするときが無上の喜びなのであるとの解説を賜った瞬間かかる情景が霹靂一閃とばかりに俺の脳内に鮮明な解像度をもって映し出され完全理解の四字の表情を湛えてははーんつまり友達の家で高校の卒業アルバムを引っ張ってきてやれどの娘がタイプであるかなどとやんややんやと大騒ぎするあの楽しみに近しいものがあるのだなと彼に同意を求めてみればあぁまぁそういう感じなんすかねははと乾いた笑声で愛想を打ってくれたのであった。

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