踏切オーディション
踏切になるのが僕の夢だった。
物心ついたときには、すでに踏切になりたがっていた。小学校の卒業文集にも、将来の夢は踏切と書いた。みんなは、先生も含めてギャグだと思ったらしい。そう思ったなら笑ってくれればよかったのに。
踏切になる夢を抱いたまま高校を卒業した僕は、踏切になるなら東京に限るという考えのもと、単身上京した。東京の踏切は、一度下りるとなかなか上がらない。そこに魅力を感じた。
安アパートで一人暮らしをしながら、いつか踏切になる日を夢見てバイトに励んだ。休みの日には、踏切の前で何時間も佇んでいた。僕もいつかあんな風になりたい。警察に声をかけられても、駅員に注意されても、踏切になりきっていた。
そんな僕に、ある日チャンスが訪れた。「踏切オーディション」。毎日踏切の前に佇む僕をずっと見ていたという紳士が、「やってみないか?」と差し出したチラシにそう書いてあった。「はい」僕は躊躇うことなくうなずいた。紳士は、ちょび髭を撫でて満足そうに笑うと、白ブリーフ姿のまま警察と一緒にどこかへ消えていった。
オーディション当日。会場には、1万人を超える人たちが集まっていた。全員、踏切に満ちた目をしている。僕も負けてはいられない。今日この日から、僕の人生は始まるのだ。
「それじゃ、スタート! はい! 電車来た!」
「で、電車、えっと」
「音! 音鳴らして!」
「お、音。ピ、ピーポーピーポー」
「そうじゃない! 踏切の警報音!」
「け、警報。あ、カ、カンカンカンカン」
「目! 交互に閉じて! 左、右、左、右……、両目つむらない! 口開きっぱなしにしない! 音も鳴らしたまま!」
「カ、カンカンカン」
「遮断機! 急いで」
「遮断、ガラガラガラ」
「シャッターじゃない! ほら車来た!」
「と、止まれーっ!」
「しゃべってどうする!? 遮断機下して! 目も交互に! 音も忘れないでって、君全然駄目だな!」
こうして、僕の夢は潰えた。
