旅日記その8:飛行機と空港で
2007/09/06
最後の日、友人に空港まで送ってもらい、アモイを後にした。国内線で上海の虹橋空港に戻り、そこから浦東空港へ移動して国際線に乗り継ぐ。
国内線で、またも機内食が出た。日本では国内線のエコノミークラスで機内食がでることはなくなっているので、私はすっかりその調子でいた。眠っていたのだった。
なんとなくざわついてきた気がして目を上げたら、客室乗務員がそこまで来ていた。すぐに私の順番が来て、「吃肉吃魚」と聞かれたのだが、寝起きなのと、言葉がほとんどわかならいのと、機内食が出ると思っていなかったのとで、何を聞かれているのか見当もつかない。
そこで英語で、わからない、と言ったのだが、その後の客室乗務員の反応は到底、信じがたいものだった。
「吃肉吃魚」と、繰り返す。
しかも、わかるまで、だんだん声が大きくなっていく。耳が悪いのではないのだから、声を大きくすることには何の意味もない。「meat or fish」くらいに言い換えはできてもよさそうなものだ。だが、それをしない。国内線だから?
いや、それは違った。
上海から乗った国際線でも、同じことが起こった。ただし、今度は私ではなく、中国人のおばさんに。日本行きの便だったためか、客室乗務員は機内食を配るとき、「魚かえび」と日本語で言ってまわっていた。
私が座っていた座席は通路側で、中国人のおばさんは窓側だった。中国人の客室乗務員が、中国人のおばさんに日本語で「魚かえび」を繰り返すさまは、変としかいいようがなかった。要するに、相手が何人でも、その便での対応はひとつに決まっており、例外はないのだろう。機転のきかない話である。
すぐ横で「吃肉吃魚」を繰り返され、やっと何の話かわかってきた私は、とりあえず「吃肉」と答え、機内食をもらった。渡し方もものすごく乱暴で、感じが悪い。おなかはあまり空いていなかったが、今食べておけば、上海に着いてから食事の心配をしなくてよいので、食べることにした。
味はよかった。でも一緒にでてきたみかんが、すっぱくてまずかった。まだ青かったのか、ああいうものなのか。
上海に着くと、スーツケースを受け取って、浦東へ向かう。荷物が出てくるターンテーブルの近くに、Transferと書いたカウンターがあり、どうやら乗り継ぎの手続きができるようだったが、なんとなく、ここでも言葉で難儀しそうな気がして利用する気にはなれなかった。
スーツケースを引きずって、外へ。空港間直通バスがあるはずなのでバス停を探すが、これが、わかりにくい!!なんという表示のあるバス停に行けば目指すものに乗れるのかは、空港ロビーでもわかったのだが、バス停の配置図というか、地図のようなものがどこにも表示されていない。
実際に停留所まで行って、一箇所ずつ確認するしかない。暑いのに勘弁してくれー、と思っていたら、目指すバスが、今まさに発車するのが見えた。それも、停まっているバスとバスの間から、ちょっとだけ。
あんなところだったのか、と、今バスが出た辺りを目指す。バス停に着いたところで、またすぐに、次のバスが来た。国内線から国際線へ乗り継ぐための時間は、なんと6時間もとってあるので、このバスでも十分早い。乗り込んで発車を待つ。
車内は冷房が効いていたが、あまり涼しくない。カーテンは閉まっていたが、日が当たって暑いのだ。退屈だなぁ、と思いつつ、20分ほど待っただろうか、やっと発車時刻になったようだった。
虹橋空港から浦東空港までは、40分あまりかかった。
ガイドブックには、もっと所要時間は短いようなことが書いてあったようだったが、見間違いか?とにかく、乗り継ぎに多めに時間をとっておいてよかったと思った。
が、それもつかの間だった。
浦東空港について、チェックインしようとしたが、まず、カウンターが見つからない。ロビーの案内画面では、Lのカウンターだと出ているが、Lに行っても、別の便の表示しか出ていない。
通路を挟んだ反対側に、JALのカウンターがあって、日本語のできるスタッフがいたので、たずねてみると搭乗時刻の2時間半前にならないと受付しないという。つまり、あと2時間半近く待たないと、私は空港の中に入ることもできないということだ。最悪だ。
仕方がないので、家に電話でもするか、と思い公衆電話に向かうが、かの、恐ろしい高値を要求するというクレジットカードコールしか使えないようだった。KDDIとか、日本テレコムの安いクレジットカードコールを使おうと思ってわざわざ50元のICテレカまで買ったのに、全然通じない。いやだけど、選択肢がないなら、とそばの案内表示にしたがって高値のクレジットカードコールを試みたが、番号を押し間違えたのか、こちらもうまく通じない。
すぐ向こうの喫茶コーナーでお茶しているお姉さんが、「高いからやめたほうがいいよ」と言っているのがかすかに聞こえる。うん、やめとくよ。なんか拒否されてるみたいだし。
中には入れないし、電話もかけられないし、今日は生理も2日目できついし、こんなに気分悪いことも珍しい、というくらい不機嫌になりつつ、階下に喫茶店を見つけ、そこへ落ち着くことにした。私が1人だったにもかかわらず、4人がけのソファ席に案内してくれ、居心地がよかった。
だが、この2時間が一番つらかった。痛み止めは飲んでいたが、いつものことで、効かない。お腹が痛くて倒れそうだ。何も考えられないし、何もしたくない。頭を抱える感じでソファに埋もれていると、知らないおばさんが突然、向かいの席に座った。
中国語で、おそらく、ここ空いてるよね、座ってもいい?と聞いていたのだろう。
あまりの図々しさにあっけにとられていると、店員がやってきて、勝手なことをされては困る、と言っているようだったが、おばさんは引かない。私に向かって、いいでしょ、気にしないよね、みたいなことを言っているらしいので、ああ、もういいよ、好きにして、と投げやりな気分になり、店員にうなずいてみせると、すまなさそうにしながら行ってしまった。
おばさんはちょっとだけ日本語ができた。
はじめ、私のことを中国人だと思っていたらしいが、途中で気がつき、「日本?」と日本語で聞いてきた。そうです、と答えると、さっきまでの強気がすこし萎えたようで、態度が控えめになった。
そうこうするうち、時間になったのでチェックインカウンターへ向かった。まだ受付は開始したばかりのはずだが、もう何組かの人たちが並んでいた。このチェックインがまた、手際が悪いとしか思えない。遅い。空港に来てから、いらいらし通しである。
待っていると、なにやらポスター大の紙を持ったお兄さんが現れ、カウンター内の柱に貼り始めた。なんと、飛行機の出発が30分以上遅れると書いてあるではないか。それも、中国語のみ。
せめて英語は入れるべきなのではないか??
やっと順番が来て、チェックインを済ますと、ふんだりけったりだなぁ、と思いつつ、まあ、これで中に入れるのだから、とちょっとだけ気分が軽くなった。あとは、出発が遅れる分、長くなった待ち時間を適当につぶせば、日本に帰れる。
海外旅行に出て、日本に帰れることにこれほど安堵感を覚えたことは初めてだった。そんなにきつかったか、この旅は。次に中国に来るときは、多少いらないものがセットになっていても、ツアーを使おうと心に決めた。
現地に住んでいる友人からすれば、この程度の経験でこれほどへこんだり、イラついたりしていては、到底中国ではやっていけない、と思われるだろう。そのとおりだ。
私には中国は向いていなかった。
そのわりに、帰国後、初出勤した朝には、今一緒に仕事をしている同僚から、「すっきりした顔してー!!」と笑われた。旅をすれば、その旅が快適であろうが、つらかろうが、命の洗濯ができてすっきりする。それが私である。
次はどこへ行こうか。
