【短編小説】 人違い
「信じてくれ! 私は神の子なのだ。神は私に全ての人の救済を託したのだ。私こそが、神のたった一人の子なのだ」
どれだけ叫んでも、彼らは私に石を投げつけた。
杭に縛り付けられた私は、痛みに耐えながら力いっぱいに叫んだ。
「私の言葉が正しいと分かる時が、いつか来るだろう。私の言葉は、神から授かった御言なのだ。これを人々に託すことこそ、私の使命なのだ」
やがて私の処刑を見届けるために、暴君セロがやってきた。
「クライトフよ! なにか、言い残したことはあるかな?」
セロの冷酷な目を見つめ、最後の力を振り絞った。
「セロ! 私はお前を許そう! お前が私を殺すことも、私の言葉を否定することも、全てを許そう。なぜなら私を殺したとしても、私が神の子である真実は変わらないからだ。そして、お前も気づく時がくるはずだ。私の言葉こそが、神の御言だったということを」
やがて、セロが手を振り下ろし、いくつもの刃が私の身体を貫いた。
薄れゆく意識の中、私は幸福を感じていた。
私は最後まで自分の言葉を曲げなかった。
神の言葉を信じ抜き、私が神の子であると叫び続けた。それが私の人生であったのなら、それを受け入れよう。
途端、目の前が眩い光に包まれた。
「クライトフよ」
低く全てを包み込むような声。私は白い光の中で、巨大な影を見つけた。
「神よ! 私はあなたの言葉を信じて、最後の時まで叫び続けました! 神よ!」
巨大な影は、なにかを言おうとして口ごもった。私は神が私になにを言うのか、じっと待ち続けた。やがて、神は静かに口を開いた。
「ありがとね…」
神が私に感謝をしている。そんな感傷に浸る間もなく、神の脇から小さな白い衣を纏った男が現れた。
「主よ。彼に真実を伝えるべきでは…?」
その男に促され、巨大な影は頭を抱えた。
「クライトフよ。あの、ちょっと。言いにくいんだけど…。その…」
私は神を前にして、溢れ出る言葉を止められなかった。
「神よ! 私はあなたの御言を人々に伝えるために、命を捧げました! 私のやったことは、正しかったのですよね?」
私の言葉に、巨大な影はたじろぐように揺れた。
「あの、だからね…。その」
私はじれったい気持ちで、次の言葉を待っていた。
「人違いなんだって!」
白い衣を纏った男は、巨大な影の代わりにそう言った。
「おい、言うなよ」
「しょうがないでしょ。主が言わないんだから! 元はと言えば、これもあなたが」
「仕方ないだろ。ミスっちゃったんだから」
「そんなことをミスるようで、神が務まりますか?」
巨大な影と、白い衣の男が言い争っている。
信じがたい光景が広がっていた。
「ちょ、ちょっと待ってください。人違いというのは?」
「だから、人違いで君に予言を言っちゃって。ほんとは、君は私の子ではなかったんだよ。だから、私の言葉を信じてくれたところ悪いんだけど、君は間違ってたみたい…」
愕然として、立っていられずにその場に崩れ落ちた。
人違い? 人違いで私は死んだのか。
「ても、あれだよ? これは私がミスったせいというか、座標を間違えちゃったっていうか。なんというか、その…。ごめんね?」
「じゃ、じゃあ私は。人違いを真に受けて、必死になっていたということでしょうか?」
巨大な影はゆっくりと、そしてはっきりと言った。
「ドンマイ」
