最終話 人生はあとから意味がうまれる
数年後…
夕暮れの浜辺を、あかりと雨音はゆっくり歩いていた。
波は何度も寄せては返し、そのたびに足跡を優しく消していく。
雨音は裸足になって波打ち際を走り、小さな貝殻を見つけるたびに嬉しそうに笑っていた。
「ママ! 見て!」
そう言って駆け寄る雨音の笑顔は、あの日、私がもう二度と見ることはないと思っていた笑顔だった。
私は思う。
人生は、その瞬間だけを切り取ると、失敗に見えることがある。
私もずっとそう思っていた。
大学を辞めたこと。
雨音を産んだこと。
雨音を手放したこと。
あの頃の私は、「あの選択さえしなければ」と、何度も何度も過去を責め続けた。
でも、もしあの出来事が一つでも欠けていたら。
私は雨音に出会えなかったかもしれない。
春さんやすみれさんと出会うこともなかったかもしれない。
たくさんの人の優しさに支えられ、人は一人では生きていけないことを知ることもなかったかもしれない。
そう考えると、人生は本当に不思議だ。
その時は「間違い」だと思っていた出来事が、何年も経ってから「あれで良かった」と思える日が来る。
あの日の涙も。
眠れなかった夜も。
胸が張り裂けそうだった別れも。
何ひとつ無駄ではなかった。
人生に無駄な出来事なんて、一つもないのかもしれない。
大切なのは、その瞬間に答えを出そうとしないこと。
人生の答えは、その出来事が起きた日ではなく、その先の未来が教えてくれる。
「ママ。」
雨音が私の手を握る。
その小さな温もりを感じながら、私は夕日に染まる水平線を見つめた。
あの頃、「終わった」と思っていた私の人生は、終わってなんていなかった。
ただ、新しい物語が始まろうとしていただけだった。
波は今日も静かに寄せては返す。
そして明日もまた、新しい朝がやってくる。
人生も、きっと同じなんだ。
だから、今もし苦しみの中にいる人がいたら、どうか「これで終わり」と決めないでほしい。
私がそうだったように、今はまだ見えていないだけで、この先には思いもよらない愛ある出来事が待っているのかもしれない。
人生は、あとから意味が生まれる。
だから、あなたの人生にも、これからもっともっと素敵な事が待っているんじゃないかな。
私は、そう信じている。

