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第56話 いつもあった愛のかけら

誕生日の夜は、本当に楽しかった。

2年という歳月が濃縮された1日だった。

小さなケーキ。

灯るろうそく。

「おめでとう」の声。

雨音は何度も笑い、そのたびに“自分という存在”を確かめているようだった。

「生まれてきてくれて、ありがとう」

その言葉に、あかりの目は自然と潤んだ。

嬉しさと、遅れてやってきた時間の重み。

それでも、それは痛みではなく温かさに変わっていた。


パーティーが終わると、雨音はすぐに眠りについた。

小さな寝息が、部屋の空気をやわらかく揺らす。


あかりはその寝顔を見つめる。

まるで“答え”がそこにあるみたいに。


そのとき、スマホが震えた。


涼からだった。

メッセージを読み、雨音を見つめる。

涼が雨音会いに来る。

「時間はかかるかもしれない。でも、やり直したい」

「3人で、ちゃんと向き合いたい」

そう書いてあった。

あかりはその事については答えなかった。


今はまだ、決める時ではないと感じていた。


その夜。

眠る雨音の横で、あかりは長い時間を思い返す。


2年間。

どん底だと思っていた時間。

失ったものばかりに見えた日々。

けれど、その奥に確かにあったもの。

両親の不器用な愛。

涼の迷いながらの想い。

そして、自分が自分を見捨てなかったこと。

全く見えなかった愛の破片。


あの頃からずっと、何も欠けていなかったのかもしれない。

形が違っていただけで、愛はずっと流れていた。


あかりは小さく息を吐く。

そして微笑む。

雨音の寝息が、静かに夜を満たす。

あかりはそっとその寝顔を見つめる。

そして、小さく微笑んだ。

雨音の小さな寝息が、静かに揺れる。

そのリズムの中で、あかりはもう一度気づく。

失ったと思っていた時間にも。

壊れたと思っていた日々にも。

確かに、愛のかけらはずっとあった。


そしてそれは、今この瞬間にひとつに戻っている。


あかりはそっと呟く。

「……全部、あったんやな」


窓の外は静かで、夜はやさしく続いていく。


雨音の寝息が、静かに夜を満たす。


第56話(終)


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