いきとめネイズ
「あれっ、いきとめネイズの話しましたっけ?」
初めて会った、華奢で若い男性にそう聞かれた。
病院の予約日の今日。CT検査を受ける。
CT検査ってどんなんだ? よく知らないまま、病院の受付を済ませた。名を呼ばれて待合室にいる間に、少しずつ緊張していく。
太くて長い針が腕に刺さる。
看護師さんが針と管を繋ぐ。
その管の先の注射器状のものを自分で持って、ひとり待機する。椅子が一つしか置けないような、あり得ない狭さの小部屋。
へぇ。造影剤って、口から飲むんじゃないのか。
それは胃カメラとかか。
CT検査の造影剤は、この注射器から入れられる。OK。
再び名を呼ばれて案内された先に、大きな機械があった。
あら。CTってこういうやつ。
わたしのイメージのMRI検査だ。
ドーム状の大きな機械に、ベッドごと吸い込まれていくんだ。
自動洗車機システム。
靴を脱がずにこちらを頭にして寝転がるのですね。OK。
言われるがまま。
どうぞ、なんでもおっしゃって。
ところで、あなたは検査技師さんですね。
若くて華奢な男性。
なんだか、少しだけ変わった雰囲気を放ってらっしゃいます。
「んー、大丈夫かな? これ」
なんのことですか? あ、ボタン!
そうですね。このシャツのボタン、ちょっと金属があるみたいですね!? すみません。
ダメですね、これ。金属類はダメって説明書に書いてありましたもの。
「ま、大丈夫か。これくらいなら。一度撮ってみて……」
え? ほんとうですか。一度撮ってダメだったらどうなるんです?
二度目があるんですか? ……大丈夫とは?
若くて華奢な男性技師さん、準備や設定があるのか
わたしの不安を残したままCT部屋を出たり入ったりしています。
戻った技師さん、おっしゃいました。
「えーっと、下に何か着てらっしゃいますか。ボタンがやっぱり……」
そうでしょ? そうですよね!
「着てます! 着てます! 捲り上げましょうかっ!」
患者のわたしは、前のめりでシャツをたくしあげました。
あぁ、よかった。これで二度目のCT検査を回避したと思われます。
「あれ、いきとめネイズの話ってしましたっけ?」
今度はなんですか、技師さん。
あなたとわたしが?
いきとめネイズの話、ですか?
わたしたち、さっき知り合ったばかりです。
あなたは技師さん。
わたしは患者。
こういうとき、
いきとめネイズの話、するんですか。
いえ、まだ。
わたしはいきとめネイズしておりません。
技師さんの方からしてくださいますか。
やはりそこは、技師さんの方からお願いします。
わたしがモゴモゴしていると、
華奢な男性技師さんは、そんなことは意に介さないように淡々と言う。
「始まりましたら、『息を止めて』という指示がありますんで、それに従ってください」
あ。
いきとめネイズとは「息止めの合図」ですね!
息止めの合図! いきとめネイズ!
はい、合図があったら息を止めますね。
その後、自動洗車機の自動車側になったわたしは
CTの内部で聞こえた「いきとめネイズ」に5回ほど従って、洗車は終了した。
部屋の外からやってきた技師さんが、わたしの横で
「終了でーす。どうぞ起き上がってください」
とおっしゃる。
はい了解ですと、起きあがろうとするも力が入らず、上体を起こせない。
もたつくわたしを見た技師さん、
「手ぇ、引っ張っちゃおうっかなぁ」
これは、独り言ではなさそうだ。
「あ、お願いします」
と右手を技師さんに差し出すと
ガシッとバディのようにわたしの手を掴んで
引き寄せてくれた。
うん、いいCT検査だった。
ありがとう、バディ。
いいなと思ったら応援しよう!
◇お読みいただきありがとうございます◇心の糧です◇記事の購入に使わせていただきます◇部屋を彩る花になるかもしれません◇犬のおいしいごはんやおもちゃになるかもしれません◇いただいたお気持ちを大切にいたします◇