「あと造影剤入れて撮るだけでーす」
気絶を覚悟して受けるMRI検査なんて、あるはずない、か。
今になって考えれば、がんばるところじゃなかったとわかる。だけどわたしは、融通の利かないクソがつくほどの真面目なところも、ある。
一昨日受けたCT検査と同じような手順を踏んでいた。名を呼ばれ、部屋へ入っていくと腕に強くゴムを巻かれ、血管に針を刺される。その先につけられた管と注射器みたいなものを手に持って、待機。15分ほど待っただろうか、いよいよMRI装置の前へ促される。
明々後日には、この検査結果をもって主治医から説明を受ける予定だ。痛みや苦しさが強くなった気がして、先日電話し、日程を早めてもらった。本来なら主治医の診察のない曜日にしてもらえた。親切な医師で感謝している。
さて、CT検査のときよりも、しっかりベッドに固定される。頭・肩の位置をしっかり合わせて、お腹に何か乗せられた。確か「これで固定しますね」とかなんとか言われた気がするが、わたしにとっては圧迫と痛みを乗せられたようにしか思えなかった。思わず聞いた。
「検査にどれくらいかかりますか?」
「20分くらいですねぇ」
うげっ……耐えられるか?
耐えるしかあるまい。ずっと前から決まっていた検査だ。医師の診察の前にしておかなければならない。それは、明々後日に決まっている。
ウィーンと装置が動き出す。狭い空間や大きな音は大丈夫だ。ソウ マチさんが「ペイペイペイ!」としか聞こえない音がするとコメントで教えてくれたので、「うふふ、どの音だろう」と耳をすましていた。大きな音がするからとヘッドホンみたいなものを被されている。
20分かぁ、長いなぁ。気を紛らわせてあそぼうか。この電子音みたいなの何種類くらいある? ウィンウィン、ゴンゴン、すごいなぁ。やさしい宇宙人に拐われた設定にでもしようかしら? わたし、検体。あ、それとも、わたしに特殊能力を授けるための儀式、とか。
あぁ、あとどれくらいだろう? 時計でも置いてくれればいいのだけど。どれくらい? あと、どれくらい?
だんだんと痛みが強くなってきた。お腹が突っ張るように痛いし、腰にもきてる。そもそも仰向けになんてなってられないのよ。ここのところはずっと、寝返りも打てずに横向きに寝ていたんだもの。
苦しい……。あ、そういえば、検査中は深呼吸してはいけないと言われた。仕方ない、小刻みに呼吸をして逃すか。
そう思っていると、技師さんがやってきた。
「あ、あとどれくらいですか?」
「あと造影剤入れて、撮るだけでーす」
ここまできたらがんばりましょう、とかなんとか言われたかな。そして、行ってしまった。
あとどれだけ我慢すればいいのか、わからない。造影剤入れてからどれくらいの時間、撮るのだろう。体感はあと10分……いや、もっとかな。
やばい、苦しいお腹痛い。腰も。右の手の中にある「なんかあったとき」に握りつぶせと言われたやつ、いったろうかな。でも、「ここまできたらがんばりましょう」って言ってたな。明々後日に予約した、医師の結果説明のことが頭をよぎる。この検査がうまくいかないと、お話にならないかもしれない。手術やなんかが先延ばしになるのは、避けたい。
脂汗……身体がヘンに暑い。苦しい、痛い。どうする? 右手のこいつ、握りつぶすか?
浅く早い呼吸、これでちゃんと撮影できるだろうか? 耐えられず足の指先や手首が動く。声も漏れている。これでちゃんと撮影されるだろうか。
ヘッドホンから声が聞こえた。
「あと少し、2分半くらい、頑張れますか?」
と言われた気がする。
頑張っている。今からだって頑張るつもりはある。ただ、大丈夫かどうかは
「わかりません……!」
なにがどうなら、大丈夫なの? 今のわたしは大丈夫なの?
それでもわたし、我慢しなさいと言われれば、気絶するまで頑張ります。
はは。そういうヘンなとこ、ある。バカなのかな? だね。
しかし、情けない。自分のことを「わからない」なんて。そのうえ、もう限界を超えてしまったようで、泣いているんだ、わたしは。情けない。
技師さんたちが、部屋に入ってきた。
やはり、わたしの様子はおかしかったらしい。
検査は強制終了になった。
脂汗。涙が止まらず、手と上唇の上のあたりが突っ張る。うまく動けない。
「ゆっくりで大丈夫ですよ」
と言われながら車椅子に乗せられ、医師のところへ運ばれた。
その頃にはもう、随分と楽になっていた。辛かったのは、仰向けの状態と、腹の上に物が乗って圧迫されていたこと。その二つが解消されたときから、どんどん痛みは消えていった。
はぁ……。ご迷惑をおかけしてしまった。
今日は、検査だけで医師の診察はなかったはずなのに。その時間にいた医師がいろいろと手筈を整えてくれた。ふくよかで、いかにも優しそうな、こちらに気を遣わせない配慮を感じる元気な医師。ありがたい。明々後日の主治医の診察で決めていく予定だった手術日程を、無理矢理に捩じ込んでくれた。今はまだ仮決定だろうけど8月中に済ませることになりそうだ。
「MRI画像も、必要なところはちゃんときれいに撮れてますよ」「大丈夫ですよ」「なるべく最短でできるようにしていきましょう」
そうして、痛み止めを出しましょう、とおっしゃる。この期に及んでもわたし、
「あ、痛み止め、大丈夫ですよ」
とか言っちゃう。だって、横向いて寝るし、物なんか腹に乗せないから。
「いいえ、出しましょう。痛み管理も今からしっかりやっていきましょう」
「痛くなくても飲むんですか?」
「毎食後1日3回飲んでいきましょう」
そうなのか。
大丈夫だけど、その方がいいならそうします。
今日の検査の直前まで仕事していたし、今から戻って仕事するとは言い難いな。
でも、今日が終わればしばらくは夏休み。
少しゆっくりできます。
──これは、ぎりっぎりまで追い込まれないと病院に行かないわたしが、病院ではぎりっぎりまで自分を追い込んだという話……。
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