つまらない話。
つまらない話をしよう。
カレーは飲み物というのも今さらだし、人が腹いっぱいになったことなどを聞いてよろこぶ者などあるまい。
確かに「ラーメンを食べに行こう」と言われたのだからそのつもりでいた。
いつもどおりの朝食を摂り、絶好の鬱蒼とした林へ犬を連れ出した。車を停めて広場を横切り先へ進むと、人の手の入らない林、のはずであったが、この冬に大変な計画が実行されたらしい。木々の多くが伐採されていた。光が入るようになったその場には黄色い菜の花と紫の大根草が咲き乱れていた。昨年までは木々だけであった。毎年、草花の種はここにも飛んできていたのだろうな、と勝手な空想をした。
分かれ道を左に進み、右カーブに沿っていくと、去年まで見ていた手つかずの林になった。犬は昨年も今年も変わらずにはしゃいでいる。遠くに、溜まりへ網をざぶざぶと突き刺している爺さんがいた。捕っているのは何かしら、と思いながら過ぎた。奥の奥まで進むとくの字に折れて、もと来た方へ戻るようになっている。くの字の先はもとの道と完全に合わさり、一つになる。なったところで網ざぶざぶ爺さんに遇った。両の腕からバケツをぶら下げている。「なにが捕れたのですか」とうちの人が声をかけると、爺さんはバケツを下ろした。傍にいたうちの犬がバケツを覗き込む。「めだかだね。」わたしも駆け寄ると数にして六十匹ほどが見えた。小さな黒がすいすいとかわいらしかった。それでは、と爺さんと別れて車へ向かった。そのすぐ手前の開けた場所で、小さな子どもを入れて五人の家族らしき人たちと出合った。以前ブルドッグを飼っていて、十一才で亡くしたあとは他の犬をかわいがっているのだという身綺麗なその女性は、しゃがみこんだ。うちの犬は「そうだよね」と言わんばかりに駆け寄って、親交を深めた。ほかの人たちも「わあ、かわいい」とひとしきりうちの犬を愛でた。うちのはこういう犬だから、彼らと別れるときは皆が笑顔であった。
つまらない話は、もうおしまい。
このあと、十二時少し前にラーメン屋へ行ってラーメンを頼むが、注文を受けいま厨房へ戻ろうとする五十代の男性定員の背に向かって「ひとつはSセット、ひとつはBセット」と突然にうちの人が声を投げた。わたしはラーメンの他にカレーを食べなければならなかった。そのカレーで初めて「カレーは飲み物である」と感じた。このあと夕飯時にもまだ満腹であった。
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