【DC版】「インベンションマン」ACT.1
Are You Inventor?(あなたは発明家ですか?)
ビジネスライトノベル作家の黒珈(くろこ)です。
これまでに、ビジネススキルやマネジメントを手軽に学ぶことができる、ショートストーリー仕立てのKindle書籍「営業課長の心得帖」シリーズを出版しています。
また、ライトノベル作品として【新感覚学園小説】シリーズおよびライティングに関する書籍を出版しています。
毎週日曜日の朝に連載している新感覚学園HERO小説『インベンションマン』は、現在第2部に入っております。
そこで、序章〜第1部終了まで「全20話」を再構成、一挙に読み通すことが出来る仕様に編集しました。
「ジャ●プはコミックス派」という方、大変お待たせいたしました。
本記事は、各話にて連載の都合上やむなくカットした部分を追記、再編集した『DC(ディレクターズカット)版』です。
挿絵も全て刷新しましたので、併せてお楽しみください😊
※冒頭部分は無料で試し読みいただけます。
🔹記事 約19,900文字
🔹価格 500円
尚、記事を購入いただいた方に2つの特典を準備いたしました。
🔹特典1
・「インベンションマン」主な登場人物紹介(イラスト付き)
🔹特典2
・「インベンションマン」ストーリー・キャラクター設定のウラ側を大公開
インベンションマン 零

少女は、絶句していた。
目の前に、大きな血溜まりがザラリと広がっている。
その縁が段々と近付いて来て、爪先に届くようになっても、彼女は一歩も動くことが出来なかった。
紅い海の中に倒れている物体。
それは、紛れもなく彼女自身だったからだ。
「嘘……」
彼女はようやく、掠れる様な声で呟いた。
(あれは私、どういう事!?)
(ここは、特進コースの教室よね?)
(編入試験に受かって、私が通う所よね?)
(なのに……何よこれぇ!?)
「……失敗、か」
不意に後ろから聞こえた声に、少女は飛び上がった。
恐る恐る振り返ると、くたびれた軍用ジャケットを着た40〜50位の男が、開け放たれたドアの柱にもたれ掛かっている。
「どうにも、ままならないものだな」
咄嗟に、彼女は男の方に駆け寄っていった。
そのまま早口でまくし立てる。
「違うの、わたし何も知らない。それにあれはわたしじゃぁ……」
男は無表情なまま、怯えている彼女の肩にそっと手を掛けた。
誰とはなしに呟く。
「まあ、いいか」
「え?」
それが自分に向けられた言葉だと思った少女は、思わず顔をあげる。
男は、口元だけを歪めた不自然な笑みを浮かべながら言った。
「今回から、『本物』を使うことにしよう」
インベンションマン 壱
私立たまみらい学園女子寮、通称『銀閣』の朝は早い。
しかし、起床を告げるチャイムで起き出すのは、入学間もない新入生か三年の受験組位だろう。
ましてや、今日は日曜日。
しかし、2年生棟の中で朝早くから賑やかな部屋があった。
「今日はタカサゴ君とお出かけだあ~ん♪」
嬉しそうに飛び跳ねているポニーテールを見て、短髪に軽い寝癖をつけた少女が、椅子に座ったまま溜め息を吐いていた。
普段はくりっとした瞳を、眠たげに瞬かせている彼女の表情には、中学生のようなあどけなさが残っていた。
「そんなに結婚式屋の息子がいいのかなあ」
「だって、結婚式の手間が省けるもーん。何なら秋希(あき)も頼んであげようか?」
「結構です」
秋希と呼ばれた少女は、手にした紙袋を前に差し出した。
「ハイ、これが貸してあげると約束していた服。私は帰って寝るから、もう呼び出さないでよ」
「乙女は見えないトコロにも気を使うのだぁ」
秋希の忠告を耳に留めず、彼女はベランダへと駆けだして行った。
ようやく訪れた静寂にほっとした秋希は、自分の部屋に戻るべくソファから腰を浮かした。
その瞬間、空気を切り裂く様な絶叫が鳴り響いた。
飛び上がった秋希は、慌てて発生源であるベランダへと向かう。
最新鋭の防音設備を誇る銀閣の壁だが、窓際での絶叫は流石に吸収出来なかったらしい。
両隣からドンドンと『抗議のノック』が聞こえる。
悲鳴の主は、ベランダの隅にペタンと腰を落としていた。
「どうしたの、柚香?」
「やられた……あたしの」
柚香が指差す方向には、夕べ彼女が洗濯した衣服等がぶら下がっている。
が、その一角だけが不自然に空いていた。
「下着泥棒、か」
秋希は、窓から下を覗き込んだ。
「でも、ここは4階よ」
「お気に入りの勝負下着だったのにぃ!」
さめざめと泣いていた柚香は、やがてスッと立ち上がった。
そのまま机に駆け寄り、何かを書き始める。
彼女の思い詰めた表情に、秋希は慌てた。
「ちょ、ちょっと柚香。まさか下着を盗られたぐらいで遺書なんて……」
一気に書き終えた紙を三つ折りにした柚香は、そのまま秋希に突き出した。
勢いのまま受け取った秋希は、表に書かれている宛先を読んでいく。
「『たまみらい相談室長様』……何、これ?」
「決まってるじゃない、この事件を調査してもらうのよ!」
パジャマの袖口をガジガジと噛みながら、口惜しげな表情を浮かべて言う彼女に、秋希はおずおずと言った。
「それなら、階段脇にあるポストに投函して貰えれば、郵便部が届けて……」
「速達よ、そ・く・た・つ!」
「は、はい」
柚香の剣幕に押され、彼女はコクコクと頷いた。

私立たまみらい学園は、トウキョウ都の西部、タマ丘陵の南西部に位置している。
中・高・大学まで一貫しており、男子寮・女子寮も備えている。
その高等部には、創設当時より生徒の学業や受験の相談を行う、学園直属の『相談室』があった。
当初は教師が持ち回りで運営していたのだが、数年前から実際の運営は生徒自身に任せられている。
今では、勉強は勿論、学内での様々な事件や問題を引き受けているため、生徒からは『何でも屋』と呼ばれているのだ。
「ふええ、こんなに来ているの!?」
相談室のポストを開けた途端、廊下に溢れ出した手紙の山を見て、秋希は驚いた。
「これは大変だ」
ひとまとめにして『未処理』の箱に放り込んだ彼女は、手に持っていた柚香の手紙を一番上に載せる。
その時、ガラッとドアが開くと、一人の女生徒が入って来た。
スラっとした細身の長身に腰まで届いているロングヘアが似合う、なかなかの美人だ。
「おー、繁盛してるじゃん」
「かすみちゃん、ちいーっす」
成田夏純(なりたかすみ)は、アクセサリーよろしく首にかけた真紅のヘッドホンをワンアクションで外しながら言った。
「で、どんな依頼が来てるの?篠原副室長さま」
「ふーん……結構な問題だわ、これ」
改めて椅子に座り直した夏純は、依頼書にひと通り目を通したあと、ボソッと言った。
「ただ、内容自体はショボイのよねぇ。これだけじゃあインスピレーションが湧かないなぁ」
「そう言うと思って、珈琲を頼んだよ」
雑多な依頼用件を整理し終わった秋希が、タイミング良く声を掛ける。
「生協の100円自販機?」
「ノン、本格直火焙煎」
「さすがアキ、分かってる」
夏純はパチンと指を鳴らした。
ちょうどその時、出前箱を手にした学生服+エプロン姿の男子生徒が、ドアを開けて入って来た。
どこか西洋的な雰囲気を表情に漂わせた、いかにも女性受けしそうな優男だ。
「へいお待ちっ」
彼の姿を見た途端、夏純の顔が紅潮した。
「左、てめぇ何やってんだ?」
左尾冬流(ひだりおとおる)は、ドスを効かせた夏純の声を無視して、テーブルに置いたカップにコーヒーを注ぎ始めた。
「はい秋希ちゃん、スペシャルブレンドね」
「あ、ありがと……」
「質問に答えろぉーっ!」
夏純が勢い良くテーブルを叩きつけるより一瞬早く、秋希はカップを掴み上げた。
まだ注いでいなかったもう一つのカップが、派手な音を立てながらひっくり返る。
「見ての通り、駅前喫茶『おべんちゃら』のバイト君さ」
涼しい顔でカップを起こした冬流は、それに中身を入れて彼女に差し出す。
「安心しな、毒は入れてねぇよ」
「毒のほうがマシ」
憮然とした表情で、夏純はカップを受け取った。一口飲んで、うえぇと唸る。
「まじぃ」
「かすんだアタマには、丁度いいだろ?」
「ひだりまきよかマシね」
「何だとこの!」
「あん、やるか?」
戦闘モードに入った二人から、秋希はそそくさと距離を置いた。
こうなったら、誰にも止められない。
秋希が初めて2人に出会った時から、夏純と冬流は何かにつけて言い争っていた。
何でも、幼稚園の時からの腐れ縁らしい。
本人達は気が付いていないが、小学校低学年レベルのケンカだ。
犬猿の仲である『男子新聞部』『女子新聞部』の部長をお互いやっている事も、争いに拍車を掛けていた。
(でも、仲が良い時もあるのだよねぇ)
お互いの口を両手で引っ掴んでいる様子を見ながら、秋希は溜息をついた。
「あーあ、室長(リーダー)早く来ないかなぁ」

秋希達が居る相談室の向かい側に当たる校舎には、高等部の学園長室がある。
室内では、デスクに座った初老の男性を前に、一人の男子生徒が直立不動でレポートを読み上げていた。
やや短めの髪を無造作に纏めているが、精悍な印象のある好青年だ。
本人は少し気にしているやや切れ長の瞳は、端正な顔立ちと合わせて、どこか歌舞伎役者のような雰囲気を醸し出している。
「……以上、先週の報告を終わります」
「うむ」
満足そうな笑みを口元に浮かべ、たまみらい学園高等部の学園長が言った。
「源無(みない)君、やはり相談室を君達にまかせて正解だったよ」
その言葉を受けて、恐縮しつつも頭を下げた彼は、無駄の無い動きで踵を返した。
「それでは、これから本日の案件に関して室員とミーティングがあるため、これにて失礼いたします」
「うむ、よろしく頼むよ」
隣の校舎に続いている渡り廊下を歩いていた彼は、右手首から微かに聞こえてきた発信音に気が付いた。
立ち止まって辺りを確認した後、右手をそっと口元に当てる。
「……『GOKANモード』に切換え」
『けびんっ!』
いきなり脳髄に響き渡る様なマックス値の思念を受けた彼は、苦痛に思わず顔をゆがめた。
(おいっ、興奮し過ぎだ!頭にガンガン響いたぞ!)
『アッ、ゴメン』
声のボリュームは幾分弱められたが、機械的な言葉遣いに変化は無い。
(緊急連絡とは、何かあったのか?)
『エエ』
その機械音声は、当初の目的を思い出したかのように言った。
『スグ本部ニモドッテ!緊急ノ打合セヨ!』

たまみらい学園は、国内最大級の敷地面積を誇る事から、構内も細かく番地区分がされている。
東南東の外れにある『学園多摩13番地』には、新設校には相応しくない、かなり寂れたエリアが存在していた。
予算の都合なのか、噂では建築事務所の建物をそのまま残したと言われている、鉄筋3階建の専門棟。
その一階に『技術準備室』と書かれた部屋があった。
アルミ製の扉の前に立った源無は、無言でドアノブを握り込む。
程なく、脳内に先程の電子音声が聞こえてきた。
『指紋とIDヲニンショウ。源内春都(ミナイハルト)げーといん』
一拍置いて、ロックの外れる音がした。
室内に春都が入っていく。
6畳程のスペースを囲むようにして、実験器具や工具を入れた棚がひしめき合っている。
部屋の中程にあるスチール机には、数世代前のデスクトップパソコンが、まるで家主のように鎮座していた。
そして、スチール机の向こう側には、恰幅のいい西郷隆盛似の男子生徒が、スナック菓子をボリボリ食べながらゴシップ誌を眺めている。
「遅いぞ、ケビン」
グラビアアイドルの水着写真から目を離さずに、彼は口を開いた。
「悪いな旭納(あさひな)ちょっと学園長に呼び付けられてさ」
手近な椅子を引き寄せながら応える春都を、彼はジロッと睨み付けた。
「本部において、本名は御法度だぞ」
「ああ……えーっと、お前何て名前だっけ?」
「マイネーム、イズ、エルビス」
そう言って、エルビスこと旭納蔵敷(あさひなくらしき)は、大きく胸を張った。
冷めた目でその様子を見ていた春都は、机上のパソコンに向き直った。
「で、こいつに呼び出されたんだが……」
『コイツトハナニヨッ!』
途端、機械の中から抗議の声があがった。
オフになっていた画面に、制服を着た小学生位の金髪少女の画像が浮かび上がる。
ふくれっ面をした彼女は、春都に言った。
『ワタシハ、なたりーデス』
「趣味に走っているなぁ……」
素知らぬ顔をして雑誌を読んでいる彼女の名付け親を見ながら、春都はため息を吐いた。
ナタリーは、人工知能(AI)である。
彼女の思考レベルは相当高く、キチンとした自我を持ち、自ら考え、行動する事が出来る。
そんなプログラムが、何故か世代遅れのパソコンの容量内に収まっている。
(不思議なものだな……)
改めて、春都は思った。
思えば、彼女との出会いも相当奇妙な出来事だったのだ。

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