見出し画像

『四つの名前』 「わかば」#2

【わかば #2
朝、目が覚めると、全裸の女性が横に寝ていた。
わたしには、よくある光景だが、
昨日は、飲み過ぎたせいか、途中から記憶が飛んでいる。
初対面だった「わかば」と、
吉祥寺の居酒屋で大酒を飲んだところまでは覚えている。
珍しく、酒のせいもあって、わたしも多弁だった。
彼女も、よく、しゃべっていた。
けっきょくのところ、どんな「合意」があって、
「カラダ」の関係にまでなったのか…
自分の貞操観念が分からない…。
相手を「手籠め」にするような「強引」なタイプでは、
自分は、決してないので、おそらく、口車に乗せて、
いつものように、雰囲気を作って、
相手を篭絡(ろうらく)させたのだろうが、
なぜ、彼女は、初対面の「わたし」を、
自分の部屋に泊めたりしたのだろうか?

となりに寝ている「大切」な相手を起こさぬように、
そっと立ち上がって、シャワーも浴びずに、
早々に着替えを済ませ、冷静に部屋を観察してみた。

この部屋には「男」の痕跡がない。
女性の「1人暮らし」といった風情の、
頻繁に特定の「恋人」が同姓している気配がない。
ということは、わたしは「一人目」なのか?
だとすれば、それは、ゆゆしき事態だと、
いやな予感が走る。
わたしには他に愛人もいるし、
赤坂には、懇意にしている
ガールズバーのキャストもある。
婚約者もある。
この上に、もう1人、女性を、
それも20代前半の「生娘」を抱え込むなど、
正気の沙汰ではない。
『正直に話そう』
ひとりごとのように、そう呟(つぶや)いた。

しばらくすると、わかばが、全裸のまま、
部屋をウロウロとし始めた。
そして、わたしの顔を見るなり、
とても驚いた様子で、

『わたし、あんたと寝たんだね。』

と、目を丸くして、しばらく、こちらを凝視していた。
コンタクトレンズを入れないと、よく見えないらしい。

そのあとは、何事もなかったかのように、
シャワーを浴びに行き、
一通り、身支度が済むまでは、無言のまま、
まるで「一人きり」であるかのように、
彼女だけの時間が過ぎてゆき、
わたしは、ひたすら待ち続けていた。

だいぶ時間が過ぎて、彼女が、
2人分のトーストを焼いて持ってきたかと思ったら、
『おはよう、プレイボーイさん!』
そう挨拶ともに、朝食を手渡された。

『いただきます!』
わかばと、わたしは、黙って、定時の朝食にありついた。
気が付けば、朝7時を過ぎていた。

『昨晩は、すてきな夜を、ありがとう』
こちらから、まずは、社交辞令で、切り出してみた。
『いいえ、こっちが誘ったんだもの、上手だったわよ、とっても』

ここから、いきなり本題に切り込んでみることにした。

『わかば、あのさ、こういう関係って、けっこう、頻繁に、あることなの?』

『それって、どういう意味かしら?』

『つまり、男性との関係がフランクというか、なんて言うかな、その…』

『男遊びは、たくさんするわ。特定の「彼氏」は作らない主義なの。』

『そうなんだ…でも、君の部屋には、男性の痕跡がないような気が…』

『なんでも「お見通し」なのね。たしかに、わたしの部屋で関係を持った男は、あなたが初めてよ。これからは、もっと自分を「オープン」にしていこうっていう傾向の、前向きな、今日が、一歩前進かな…わたしなりの。自分を変えたいの。』

『じゃ、他にも、男はいるの?』

『ええ、今のところ、あなたを含まれば、5人になるわね。』

『それを聞いて安心したよ、わたしは喜んで、君の愛人の1人になるよ!』

『変わった男もいるものね、ふつうは独占したがるものなのに…』

『人には、それぞれ事情がある…ってことでね。わたしは愛人志望なんだよ。』

『いいわ、じゃ、今日から、お互い、愛人同志ってことで、決まりね。』

『特定のパートナーじゃないってところが気楽で何よりさ、恩に着るよ。』

『ますます、変わった男ね、あなたって。』

こうして、わかばとの「愛人関係」が始まった。
朝食を取りながら、彼女は、何故に、
自分が、吉祥寺に流れてきたのかを、
訥々(とつとつ)と語り始めた。

聖心女子学院を初等科から通い、
聖心女子大学にて大学1年で中退。
親に「好きなことをやっていい」と云われ、
昔から美術に興味があったため、
ムサビの通信教育課程を選ぶ。
ずっと男性潔癖症であった自分を変えたくて、
一念発起して「出会い系」なにがしを利用して、
若い、好みの外見の「男」とだけ肉体関係を持つ、
自称「男遊び」を現在の「趣味」にしており、
その「夜遊び」のために、
親の「仕送り」だけでは不足するため、
美術モデル(裸婦)の仕事をしているという。
高校時代に恋愛経験があったが、
「片思い」で、一方的に「フラれた」という。
初体験は「男遊び」によるもの。
以降、暇さえあれば、
夜には、吉祥寺のバーで、男と待ち合わせ、
ラブホテルで体をかさねるを繰り返している、
という体たらく振りである。
彼女の「現在」は、
「お嬢様学校」時代に作られた…と、
良くも悪くも、その反動形成であると、
私は、聞いていて、感じていた。
彼女みたいなキャラの女性を「お嬢様学校」で、
「型」に押し込もうとした「親」が、
そもそも「毒親」だな…と、正直、他人事ながら、
そう思った。
いっそのこと「自由学園」あたりの一貫教育で、
そのあと海外の大学にでも留学させて、
「日本人ばなれ」した個性的な人格を伸ばしたほうが、
わかばには、どれだけ、よかったことだろう。
すくなくとも「男遊び」と称して、
ヘンテコな「自分探し」に時間を費やさずに済んだだろうに…
「若気の至り」と言ってしまえば、それまでだが、
何か、大人の「教育ミス」が絡んでいるのを思うと、
気が滅入る、そんな思いに駆られるのである。

#創作大賞2026
#恋愛小説部門

いいなと思ったら応援しよう!

そろいゆるり(揃寛) サポートして頂いた金額は、その全額を「障がい者」支援の活動に充当させて頂きます。ありがとうございました!!