第九章|勝ちたかったんじゃない。証明したかったんだ
当日の朝。
寝れたのか寝れなかったのかわからない。 色々なことに想いを巡らせていたら、いつの間にか朝になっていた。
まずは身体のチェック。 うん。確かに昨日よりパキッとしている。 全身のカットの溝が深くなったような感じ。
中村さんにも部屋に来ていただきチェックしてもらう。
「ゆっくり寝れた?」 「しっかり水が抜けてるわね」
コンディションについては、いいも悪いも言われなかった。
その後、ホテルで朝食を食べて会場に向かう。 朝食はビュッフェ形式で、和食中心にしっかり食べた。 水分は口を潤す程度。
ホテルを後にして、キャリーケースを引きながら会場に向かっていると なんだか急にドキドキしてきた。
この緊張感は、大会に出場することへの緊張じゃなかった。 自分の存在を証明できるかどうか──その不安と期待だった。
筋トレと出会って、自分の居場所を見つけられた気がした。 そこから、人生が少しずついい方向に向かっていると感じられた。
だけど、まだ親や友達や周りに胸を張って言えなかった。
それが、何より悔しかった。 偏見があるのはわかってる。それも全部わかってる。 でも、それでも言いたかった。
「俺、ボディビルやってるんだ」って。
そうなるには、優勝しかない。 高校生日本一になるしかない。 あの日の僕には、人生がかかっていた。
会場に到着。 受付に並んでいると、続々と選手が集まってきた。 これからこいつらと戦うのかと思うと、なんだか燃えてきた。
控室に移動する前に、中村さんから一言。
「自信もってね!」
言葉よりも、中村さんの表情に 「よくここまで頑張ったね」と言われた気がした。
あとはやるだけ。
控室に入ると、まさに高校生らしいガンの飛ばし合い。笑 ものすごい緊張感が漂っていた。 和気あいあいどころか、誰も一言も喋っていなかったと思う。
そして、ステージ裏に移動。 ここからパンプアップが始まる。 腕立て伏せや、チューブを使って筋肉を張らせていく。
さっきまでいた周りの選手は視界から消えていた。 完全に、自分だけの世界。
このステージで、自分を証明する。
司会:
「エントリーナンバー15番」 「宮城県 私立東北高等学校 國井裕平選手!」
ステージ上では、比較審査とフリーポーズが行われる。 正直、ステージ上の記憶はほとんど思い出せない。 記憶がうっすら残っているのは、最後のポーズダウン(結果発表)だけ。
下位の選手から呼ばれていき、呼ばれた選手は順に後ろに下がる。 ステージ上の選手が一人ずつ少なくなっていく。
自分の番号を確認しながら、夢中でポーズをとる。 頭の中では、自分の番号が呼ばれないことだけを願う。
……あれ、最後の二人じゃん。 俺、ここまで残れたんだ。 これで呼ばれなかったら──優勝?
司会:
「それでは第二位の選手を発表します」 「エントリーナンバー……12番!」
……まじ?
司会:
「優勝はエントリーナンバー15番!」 「國井裕平選手!」
震えた。
やった!とか、嬉しい!とか、そんな感情じゃなかった。
膝カックンされたみたいに、力が抜けそうになった。
賞状とトロフィーを受け取って、表彰台の真ん中に立った。 初めて見る光景だった。
子どもの頃から、何をやっても続かなかった。 自分の居場所を見つけられず、劣等感だらけだった僕が、一番になれた。
筋トレに自分の居場所を見つけてから、がむしゃらにやってきて。 自分の可能性を見つけてもらって、ここまでこれた。
途中で何度も心が折れそうになったけど、 自分で決めたこの道を信じたかった。 ただの自己満足で終わらせたくなかった。
大袈裟に聞こえるかもしれないけど、当時の僕にとっては人生の全てだった。
やっと、これで親にも友達にも隠さなくていい。 自信を持って言える。
「俺、ボディビルやってるんだ」って。
──筋トレが、人生を変えたんじゃない。 人生を変えるって、自分を信じることだったんだ。
そんなことを、静かに実感できた日だった。 そしてこの物語は、 きっと誰かが「自分にとっての“ボディビル”」を探すきっかけになると信じている。
2006年9月24日、東京都江戸川区のタワーホール船堀にて、 「第1回 全国高等学校ボディビル選手権大会」が開催されました。
この大会は、日本ボディビル・フィットネス連盟(JBBF)が主催し、 高校生を対象とした初の全国規模のボディビル競技会として注目を集めました。
大会には全国から多くの高校生が参加し、規定ポーズやフリーポーズによる審査が行われました。 この大会の開催は、当時の高校生ボディビル界にとって大きな一歩となり、 若い世代の競技者たちにとって、自身の努力と成果を発表する貴重な機会となりました。
また、ボディビルという競技が若年層にも広がりを見せるきっかけともなりました。
現在も「全国高等学校ボディビル選手権大会」は継続して開催されており、 若いアスリートたちが日々のトレーニングの成果を競い合う場として定着しています。
※本記事の内容は、日本ボディビル・フィットネス連盟(JBBF)が公開している 大会資料・アーカイブ(2006年度大会記録・出場選手一覧・進行表など)をもとに構成しています。 出典:JBBF公式ウェブサイトhttps://www.jbbf.jp
ここまでが、僕の“始まりの物語”。
読んでいただいた方には、本当に感謝です。
実はこの日、**日本ジュニアボディビル選手権(21歳以下の大会)**にも出場できることになっていた。 結果は──3位。
そして、僕の中に新しい感情が芽生えた。
「悔しい……。」
この感情が、僕を次の挑戦へと向かわせた。
続きは──また、いつか。

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